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(過去2)リーマスの物語21

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

それからも僕は、大半の時をグレイパックが率いる人狼集落での情報収集に費やした。たまにヴォルデモートやデスイーターが集落を訪れると、スパイだと知られるのではないかと恐怖にかられるけど、そんなときこそ重要な情報を得られるチャンスでもある。ほんの数回だけど、囚われた人の鎖をこっそりと解いて逃がすこともできた。ダンブルドアからは、決戦が迫った時に人狼たちの動きをつかめるように、僕が疑いを持たれず出来るだけ長く潜入していられることを最優先するよう指示されていた。とはいえ潜入先ではいちいち指示を仰げるわけじゃないから、自分の判断で行動することも多い。判断を誤ればどんな窮地に陥るかわからないと覚悟して、気を引き締めている。

集落で人狼たちの荒廃した暮らしぶりを日々目の当たりにするのには気が滅入った。グレイパックが酒や食事をふるまってくれる満月前夜こそ皆和気あいあいとしていたけれど、他の時は、金がない、寝場所をとられた、腹が減ったと、些細なことで諍いが起こる。もちろん腹が減って食べ物がないというのは生き物として些細なこととはかたつけられないわけだけど、食いぶち寝場所で殴り合うというのは、なんだか人間の域に達していない感じがして情けなく感られた。

潜入の期間が長くなってくると、薄汚れて髪も無精ひげも伸びた僕は、彼らと一緒にいてもまったく違和感がなくなっていた。たまに彼らと酒場に出掛けたりすれば、周囲から浮き上がった無法者集団の一人に見えると思う。初めの頃こそスパイの正体がばれたらたいへんなことになると常に気を張り詰めていたけれど、しばらくするとそれにも慣れた。考えてみれば、僕はホグワーツでずっと人狼である自分の正体を隠すことばかり考えていたんだから、周囲の思惑を察知し疑われないよう周りになじむのは身についた習性みたいなもので、スパイに向いているのかもしれないと思ったりする。

彼らの世界にどっぷりつかっていると、人狼になって以来拭えなかった引け目や孤独、正体が知られないよう常に身をすくめる緊張感からは解放された。だけど、僕はやっぱり、そこに留まっていたくはなかった。そこには、勇気や信頼や愛情や生き甲斐といった、僕がなんとなくだいじだと思ってきたものを見出すことができなかったから。

そういうものを感じられるのが、グリフィンドールの仲間たちと会うひと時だ。僕たちは任務の合間を縫って時々会っていた。知らせは守護霊の伝令で、時と場所だけ伝えあうことが多い。だから以前のようにいつも4人、あるいはリリーを含めた5人で集まれるわけじゃなくて、都合のあう者だけが敵方の目に触れないように用心しながら集まっている。

仲間と会うと、無事な顔を見るだけで嬉しくなって、話はつきなかった。任務上、僕はどこで何をし、どんな情報を得たかという具体的なことを言うのは控えたけれど、闇陣営との闘いの状況や、騎士団の方向性についての考えなど、心おきなく語り合った。ジェームス、シリウス、リリーの3人は、実際に杖を交えて闘うのが主な任務だ。ヴォルデモートとも何回か対戦したそうで、武勇伝を交えた話は頼もしいけれど、日々命がけであることもひしひしと伝わってきた。魔法省が、闇陣営との闘いで禁じられた呪文の使用を許してから、戦闘はさらに激しいものになり、騎士団員が重傷を負うこともあるらしい。

シリウスの弟、レギュラス・ブラックの失踪事件も話題になった。もっとも、この事件は人狼の集落でさえ大騒ぎになっていたわけで、それだけ魔法界でブラック家が注目されているということだ。シリウスの話によれば、ブラック家は大混乱に陥って、家族との縁を切ったシリウスのところまで消息を尋ねてきたそうだ。もちろんシリウスは弟の消息を知らなかった。失踪の報道からほどなく、レギュラス・ブラックは若くしてデスイーターに加わったものの、怖れをなして逃げ出して殺されたのだと噂が広まっていた。

普段豪快なシリウスが沈んだ表情で、バカなヤツだと苦々しく言い捨てるのを見ると、何と言えばいいのかわからない。取り乱した母親の様子を面白可笑しく話すのも、なんだか痛々しく感じられた。人狼の集落では幹部たちが、裏切り者は命で償うのがデスイーターの掟だと重々しく説いていたけれど、人狼たちの反応といえば、甘ったれて育ったお坊っちゃんが臆病風におそわれて殺られちまった、ブラック家もお気の毒なもんだ、みたいな野次馬気分が勝っていた。レギュラス・ブラックは、めぐまれた家に生まれ育ち、闇陣営に加わったなら加わったでいるだけで純血の象徴として重用されただろうし、シリウスのような兄がいるのだから兄と同じ道を選ぶことだってできたんじゃないか。それなのに中途半端な生き方をして、家族やシリウスに悲しみだけを残して消え去ったのが、僕には哀れにも、腹立たしくも思えた。

そのうちジェームスが、リリーの妊娠とういう明るい知らせを持ちこんでくれた。ジェームスが親父になるのかとシリウスが久しぶりに晴れやかな顔を見せ、僕もピーターも笑って祝福した。先が見えず、不安ばかりがつのる世情の中で、命が芽生えるなんて、なんかピンとこないけど、さすがジェームスとリリーのカップルだって感じもした。

頻繁に闇陣営の襲撃に対戦するジェームスとリリーは敵に身もとを知られてしまっている可能性が高いから、狙われる危険を避けるため転々と住居を移すようになり、会える機会は減ってしまった。シリウスから話を聞くと、それでも襲撃となればジェームスはひるむことなく闘いに挑んでいたらしい。厳しい状況の中で体内の命を守るリリーの心労も大きかっただろうと思う。

そんな苦労の末に、やがて月満ちてリリーが出産したと知らせが届き、ジェームスたちの隠れ家で仲間たちが顔を合わせた。久しぶりの全員集合だ。リリーが幸せそうに、腕に抱いた赤ちゃんを僕たちに見せてくれた。

僕は生まれて間もない赤ん坊を見るのは初めてで、見ていると自然に笑みが浮かび、まるで吸い込まれるように目が離せなかった。僕だけじゃなくて、みんなそんな感じだ。触れたら壊れてしまいそうな小さな生き物なのに、赤ん坊には周囲の皆を惹きつけて放さない輝きがある。光に包まれ、光を放ち、、、人は皆、こんな光の源を持って生まれてくるんだろうかと見入っていると、リリーが声をかけた。

「とっても元気な赤ちゃんなの。かわいいでしょ?」

隣でジェームスが誇らしげに言った。

ハリーって名付けた。ハリー・ポッターっていうんだ。」

父親になったジェームスはいっそう頼もしく見えた。それからシリウスに向かって。

「シリウス、後見人は君に頼みたい。」

「喜んで引き受ける。まかとけ。」

シリウスは誇らしげに答え、しっかりとジェームスと肩を抱き合った後、赤ん坊を渡されてはしゃぎ出した。

「見てくれよ、このぷくぷくのほっぺ。足の蹴りも強いし、わんぱく坊主に育つぞ。な、こんな可愛い赤ん坊、見たことないだろ?さすが俺の子、おっと違うか。」

「まあシリウスったら。そんなに可愛いなら、あなたも結婚して子供を持ちなさいよ。」

「俺は当面ハリーで十分。ハリー、シリウスおじちゃんだよ~。鍛えてやっからな。」

ピーターもにこにこしながら赤ん坊を見ていた。誰が味方で誰が敵かわからない魔法省で諜報を任務とするピーターは、ある意味僕以上に神経をとがらす日々なんだろう。浮かない表情が多かったけれど、久しぶりの笑顔で言った。

「ジェームス似かな?顔立ちも黒い巻き毛も、ジェームスによく似てるよね?」

「ジェームス2世、誕生!」

ジェームスとリリーが答える前にシリウスが叫び、みんな大笑いになった。ハリーは驚いたように目を見開いて、一瞬泣きだすんじゃないかと皆が鎮まった瞬間、キャッキャッと声を出して笑い出した。物おじしない子のようだ。たしかに、ジェームスみたいな大物に育ちそうだけど。

「でも、目はリリーに似てる。緑色の、きれいな瞳だね。」

「さすがリーマス。よく気づいてくれたわね。目はママの目でちゅよね~。ね、ハリー。」

リリーが幸せそうな顔で僕に答え、それから赤ん坊の頬にキスをした。

その姿を見て、、、僕はふと、スネイプを思い出した。仲のよかったリリーのこんな幸せそうな笑顔を見たらスネイプも嬉しいんじゃないかと思い、でもその笑顔はジェームスとの間に生まれた赤ん坊に向けられてるのだからさぞかしむっとするだろうとも思い、喜ぶべきかむかつくべきか複雑な思いを漂わせた気難しげな顔を思い描いて噴き出してしまった。みんな笑ってたから、別に噴き出したってどうってことないわけで。

そして、ああ、スネイプのことを思い出すのも、ずいぶん久しぶりだと思った。闘いに明けくれるうちに、ホグワーツの日々はいつしか遠くなっていた。スネイプに抱いた密かな思慕も、仲間たちとの板挟みに葛藤した胸の痛みも、暴れ柳事件の一件さえも、どこか現実味を欠いた、遠い出来事に感じられて・・・。

ぼんやりしたままなんとなくハリーの顔を眺めていると、幼いスネイプの笑顔が浮かんできた。入学間もない1年生の秋に、スネイプを禁じられた森の近くまで連れていき、魔法生物のことを教えてあげた時の姿だ。スネイプがその時ほんとに笑顔を見せたのかどうか、正確なことはもう思い出せなかった。あのときはたしかに、2人の間に何か通じ合うものがあったように思えたんだけど。それからの様々な出来事や時の経過とともに、スネイプとの間には埋めようのない距離ができてしまった。あのとき、もし心のままに思いきってスネイプの手を握っていたら、それからどんなことがあってもその手を放さない勇気を振い起すことができたなら、僕とスネイプは友達になれたんだろうか?

僕が物思いにふける間に、ハリーはジェームスの手に移り、シリウスが身を乗り出してあやしていた。「いない、いない、ばー」を繰り返してはしゃいぐシリウス、応じて愛くるしい笑い声をあげるハリー、それを見守る誇らしげなジェームス。まぶしいほどの輝きに満ちていて・・・。

彼らは光だと思う。自ら強い輝きを放ち、周囲を照らす、光そのもの。僕はそうじゃない。僕も、たぶんスネイプも、限りない光源をもつ赤ん坊として生まれてきたのかもしれないけど、幼少時の不運な境遇により、それは失われてしまった。僕はそのまま闇の中の影のように幼少期を過ごし、幼いスネイプは、おそらくはリリーとの友情により、小さな灯りを自らにともしたんだと思う。それは闇にのまれた僕だから見えた、かすかで頼りないものだったけれど、まぶしく輝く強い光と同じくらい、いや、闇から灯りを生み出すまでになされた辛さを思えばそれ以上に貴いものに思えたものだ。

スネイプの小さな灯りを守りたいと願ったこと。もう戻れない幼い頃の、小さな夢。スネイプとなら互いを理解し、時に正面から向かい合い、反発したり支え合ったりしながら、ともに歩んでいける気がしたものだ。不運な身の上の傷をなめ合うということじゃなくて、、、それも少しはあるんだけど、、、世間知らずでぶっきらぼうだけど、まっすぐで優しいとこもあるスネイプを僕は認め、ともにその灯りを守り、そうするうちに僕自身もささやかな光を放てるようになるんじゃないかと、そうなりたいと幼い僕は夢みていたんだと思う。

手を伸ばすことさえできずに消えた儚い夢を思ううち、寄る辺ない孤独と絶望にもがいた子供の頃の記憶が噴き出した。それは辛い思い出の記憶というより、何が起きたかなんてもう思い出せないのに、その時々に感じ、蓄積されていた感情そのものが、瞬時に噴き上がるような感覚だった。いつの間にか時が過ぎて、思い出すことがなくなっても、たとえ忘れてしまっても、起きたことが消えるわけじゃない。それはずっと僕の中にあるんだと突然確信して、、、こんなことを考えるのも、赤ちゃんにはそんな、人の心の奥底に眠るものまで揺り起すエネルギーがあるんだとか感心していると。

リーマスも抱いてみる?」

ハリーはピーターに渡っていて、ピーターからそっと僕の腕に渡された。

その小さな、やわらかい感触、温かくて甘ったるい匂いは、なんともいえない感動を呼び起こした。腕の中に、小さな未来を抱いているような感じがする。過去の記憶を揺すぶり、人を未来の希望へと導く小さな命。守りたい。この輝きが陰ることなく未来へと続くように。

僕は突然、大人になった気がした。両親やダンブルドア、そして仲間たちにかばわれて、ようやく生き伸びたような少年期が終わり、僕はこの小さな赤ん坊を守ってゆくべき大人になった。その役割を担える立場になったこと、そのために闘っていることが心から誇らしく思えた。そして僕が今こうしていられるのは、すべてここにいる仲間たちのおかげだと感謝の気持ちが湧き上がる。振り返ればいろいろあったけど、けして僕を見捨てることなく、ずっと支えてくれた仲間たち。大人になった今、この気持をきちんと言葉にして伝えておきたいと思う。

「リリー、ジェームス、おめでとう。ハリーはほんとに可愛いね。抱かせてもらえて嬉しいよ。すごく感動した。赤ちゃんってすごいね、なんだか心が揺さぶられて、ちょっとの間なのに、子供の頃のことを思い出して、これからのことも考えて、それも全部、みんなのおかげだって思った。それで、この機会に、みんなに言っておきたいと思うんだ。今までもずっと思ってたことだけど、僕と友達でいてくれて、ありがとう。君たちがいなければ、今の僕はなかった。ずっと君たちに助けられてばかりだったけど、これからは僕も一緒にハリーを守っていきたい。ハリーが幸せに生きられるような社会を、君たちと一緒に守っていきたいと思う。」

周りのみんながきょとんと僕を見ているのに気づいて、気恥ずかしくなった。僕がこんなふうに雄弁になることなかったから、驚いたんだと思う。

「照れくさいんだけど、なんか、ちゃんと言っておきたくなって。」

リーマス、照れるなって。俺は感動したぞ。」

感激しがちなシリウスが僕の肩に抱いてきて、ジェームスとピーターも加わった。

リーマス、僕たちだって君に助けられてきた。ハリーのこと、一緒に守ってくれると言ってくれて頼もしいよ。ありがとう。」

「俺も守るぜ。俺たちみんな、いつも一緒さ。心は一つ!」

「僕も。」

みんな感動して、一気に盛り上がった。

「まあ、頼もしいわね。ハリー、みんながあなたを守ってくれって。嬉しいわね。」

そう言うリリーにハリーを返して、僕はグラスを掲げた。

「ハリーに。」

皆で乾杯だ。

「ハリーを産んでくれたリリーに。」

続いてジェームスが言うのにあわせ、男4人、おどけて膝まづき、リリーに向かってグラスを掲げた。リリーはハリーを抱いたまま、すっと背筋を伸ばし、騎士たちに恩恵を施す女王みたいな礼を返して笑い転げた。僕も笑いながら瞬きした一瞬、最後に見たスネイプの姿が、まぶたをよぎった。それはマルフォイ家の結婚を伝える新聞記事の写真で見た礼服姿のスネイプだった。僕がここに居場所を見つけたように、スネイプにも居場所があるんだとほっとして、同時に、それがマルフォイの横であるのが寂しく思えて胸がチクリとしたけれど、再び目を開けた時、その姿はもう消えていた。

リリーとハリーが寝室に去った後は、仲間4人で飲み明かした。学生の頃のこと、闇陣営との闘いのこと、ハリーのこと、未来への夢、話はつきない。世相が暗くても、戦況が厳しくても、信じあい、ともに歩める仲間たちがいれば、恐れることなど何もないと、勇気が湧く。

「ハリーに!」

「仲間たちに!」

「僕たちの勝利に!」

「シリウスの結婚に!」

「なんだよ、それ?」

酔っ払い、意気高揚し、口々に何か叫んでは乾杯を繰り返し、楽しい夜が更けていった。

「みんなは一人のために、一人はみんなのために!」

誰が叫んだのかわからない言葉を、繰り返して叫びながらグラスを掲げたのが、その夜の最後の記憶だ。

翌朝、二日酔いの気だるさに目を覚まし、心に残る幸せな仲間との一体感を胸に、友情と勝利を誓いあって、それぞれの闘いの場へと散っていった。

その後、仲間たちが心を一つにしたあの幸せなひと時を、僕は何度思い出したかわからない。それは、孤独な闘いに身を投じる中で、闇に輝く道しるべのように、僕を導いてくれた。恐怖に身をすくめるたびに、人狼の荒んだ境遇に目をそらしたくなるたびに、未来への希望が揺るぎそうになるたびに、あの日のことを思い出して自分を励ました。

頼もしいジェームス、陽気なシリウス、やさしいピーター、守るべきハリーとリリーの笑顔。語り合い、笑い転げる仲間たちの姿、共に歩んでいく未来。思い描くと僕の心に、小さいけど力強い光が灯る気がした。この幸せを守り抜くと誓い、いつまでも続くのだと信じていた。

だけど・・・

あの幸せが、1年も過ぎないうちに無残に砕け散るなんて、思ってもみなかった。幾度となく思い返したあの日の景色の中に、裏切りの芽が潜んでいたなんて、僕にはどうしても信じらない。

(過去2、リーマスの物語はこれで終わり、過去3へと続きます)

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tag : ハリーポッター リーマス スネイプ リリー ハリー

(過去2)リーマスの物語20

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

「あの者たちは、人さらいの手伝いをしたようじゃ。3人でこっそり話しておった。いい稼ぎになったと喜んでおったわ。皆の前では、スリだ盗みだと言っていたから、さすがに悪事だとは思っとるんじゃろうが。スリや物取り程度なら見逃されても、誘拐となれば追及も厳しくなる。人狼が関わっておったとなれば、集落にまで災厄が及ぶかもしれん。」

老人はため息をついて、困ったものだというように眉をしかめた。僕はうなづき返しながら、それは闇陣営に関わっているのではないかと考えていた。突然人が消え、行方不明になる事件の大半は、闇陣営の仕業だ。もし人狼の若者たちが闇陣営につながりを持つなら、なんとか情報を得たいと思う。それに、若者たちが闇陣営にたぶらかされて皆を誘えば、集落全体が闇陣営につく恐れもないとは言えない。集落の長老が今の社会情勢にどんな考えを持っているのか、一歩踏み込んで探ってみるにもよい機会かもしれない。

「誘拐とはたいへんなことですが、いったい誰から頼まれたんでしょう?何かご存知ですか?誘拐事件の多くは闇陣営が関わっていると新聞で読んだことがあります。」

「そういうことはわしも新聞で読んでおるが、彼らが闇陣営とやらに頼まれて手伝ったかまでは知らん。」

「あなたは彼らが闇陣営と関わりを持っても気にならないんですか?私には闇陣営が人狼にとってよいものとは思えないんですが。純血を尊び、マグル出身の魔法使いすら蔑んでいるというのですから、今は人狼を利用したとしても、権力を握ればどんな扱いをするか、、、」

「ジョン、まあ待て。わしは権力の行方なんぞに興味はない。一人が好きな変わり者なのじゃぞ。人が集まって勢力争いに講じる政治なんちゅうもんは、わしには理解できん。わしが気にかけとるのはこの集落の人狼たちだけじゃ。ここの若者たちに悪事を働かせるなら闇陣営は悪いやつらかもしれんがな、今の政権だって人狼によいことなぞ何もしておらん。そもそもあの若者たちがかどわかしに手を染めたのも金につられてのこと。まっとうに働いて金を稼ぐ道が閉ざされておるうえに、なんの援助もないからじゃ。そう思わんか?あんただって優秀な若者なのに、人狼だっちゅうだけで辛い目にあってきたと言ったではないか。魔法省が何かしてくれたかね?」

そう言われて、言葉に詰まった。闇陣営云々の前に、今の魔法省が人狼を見捨てているのは事実だから。ダンブルドアの言う、純血もマグルも魔法生物も、皆が共生していける社会なんて、ここの現実を見れば夢物語のように思われる。あまり踏み込んだことを言えば、長老に警戒されることになりかねないし。どんなふうに会話をもってゆけば任務に役立つのかと考えあぐねた。

僕が黙っているのをどう解釈したのか、老人はうなづきながら話を続ける。

「今の魔法省であろうと闇陣営であろうと、誰が権力を握ったにせよ、人狼の暮らしにかわりはあるまい。あんたは今まで魔法使いの中で生きて来たようじゃから、この集落の様子を見て酷いと思ったじゃろう?だがこれでもマシなほうなのじゃ。他から流れて来た者の話では、集落の中で少ない食べ物を奪い合って争ったり、他の者のわずかな持ち物まで盗むような所もあるらしい。この集落では少なくとも人狼どうしの争いはない。なぜかと言うとな、ほんとに切羽詰まった者には、わしが食べ物を分け与えておるからじゃ。わずかなもんじゃぞ。ほんの2、3日分の飢えをしのぐ程度のな。なぜ魔法省がそれだけのことをしてやらんのじゃ?」

長老は話すうちに、溜まっていた人狼の境遇への不満が噴出してきたようだ。同じ境遇に陥って魔法省の人狼への冷淡な対応に気づき、腹に据えかねていたらしい。闇陣営の悪を説くつもりが、魔法省への非難を拝聴することになってしまった。言われればその通りと思うからしかない。

「魔法省には他にだっていくらでもできることはある。ほれ、あんたの記憶の中の少年が言っておっただろう、人狼は変身時には凶暴になるが、普段は普通の人間なんだと。そう言われて嬉しかったじゃろ?だがその通りの当たり前のことじゃ。魔法省が人々に、人狼は満月の夜以外は普通の人間だと広報して、言われない人狼差別を和らげようとしたことがあるかね?魔法省が満月の夜の人狼の居場所をつくって周囲の安全を確保すれば、他の日は他の者と同じように職につき、希望を持って暮らすこともできるんじゃ。ん?」

それでは僕の記憶の中で老人はスネイプを見たんだと思って、のぞかれた記憶がちょっと恥ずかしくなった。それが表情に出たらしい。老人が言葉を止めて僕の顔を見た。そして微笑んで声音までやさしくなった。

「よほど嬉しかったんじゃな、ジョン。あの少年はあんたが人狼だと知りながら、怪我の手当てをしてくれたんじゃろう?」

うなづきながら、あの時のことが思い出されて、じわじわと幸せな気持ちが蘇る。任務上言ってよいのかわからないけど、スネイプがぶっきらぼうな口調で僕に言ったことが、どんなに僕を幸せにしてくれたか、老人に話したくなった。思えば、誰にも話すことなく今日まで来たんだから。

「あの記憶は、満月明けの朝だったんです。その前の満月の夜に、彼は僕の変身に出くわして僕の正体を知ってしまったのに。あんなふうに言ってもらえるとは思ってもみなかったから、ほんとに嬉しかった。」

「変身を見ておったのにか。そんな少年がおるとは驚きじゃ。たいていの魔法使いの子供は人狼の話に脅されて育つからな。人狼のあんたがホグワーツにおったことも驚いたが。」

「え?なぜそれを?」

「わしが見たもう一つの記憶は、寮の寝室で、幼いあんたが2、3人の少年に肩を抱かれとるとこだったのでな。あれはホグワーツのグリフィンドール寮じゃろ?わしも大昔にはホグワーツの生徒じゃった。レイブンクローじゃよ。」

「では大先輩なんですね?」

「わしの場合は、人狼でもなかったのに、ろくな思い出もないがな。社交性のない子供に、全寮制の学校の集団生活は酷というもんじゃよ。ちょっと変わっておるというだけで、悪ガキグループが何かとちょっかい出してくる。わしは静かに勉強したかっただけなのに。」

社交性のない勉強好きといえば、スネイプだ。スネイプみたいな少年時代を送ったのかと思うと、老人への親しみが増した。目の前の老人の子供時代を描こうとして、描けなくてちょっと噴き出すと老人も笑った。

「あんたにはよいことじゃったな。人狼なのに、学びの機会も友達も得られて。」

「はい、ほんとうに。だから、、、だから僕は、夢物語かもしれないけど、普通の魔法使いと人狼が、憎みあわずに一緒に暮らせるような社会がいつかできるという希望を持っていたいんです。あなたが言うとおり、今の魔法省は人狼に冷たいし、現実は厳しいとわかってはいますが。」

「希望を持てるなら持っていればよい。わしにはもう、夢を見るだけの時間が残されておらんだけじゃよ。」

それからも、僕は時々老人と話をした。対闇陣営ということでは、彼の中立的というか、誰が権力を握ろうが関係ないという立場は変わらないようだったけど、人狼社会学ともいうべき興味深い話を、いろいろときくことができた。たとえば、僕が想像していた通り、杖を持たない人狼が多いらしい。変身した時とか、何かで急いで逃げ出したような時に杖をなくしてしまい、いったんなくすと人狼の身で新しい杖を買うことができないからそれきりになる。老人は杖を持っているけど、万一盗まれたりなくしたりすると困るから、隠してあるそうだ。

僕は老人と親しくする一方で、おそらく闇陣営につながる誘拐に手を貸したという若者たちにも近づいた。同じ集落に住む人狼どうしだし、年も近いから、親しくなるのは容易だった。頃あいを見て、何か金になる仕事がないかときいてみると、3人顔を見合わせた後、声を潜めて、でもむしろ得意げに、いい儲け話があるとこたえた。

彼らの話によれば、満月と満月の間の時期に、街のパブで知り合った人狼から誘われたらしい。人狼としては羽振りのよいその男と一緒に、誰だか知らない人物を、ある場所に連れて行っただけだという。4人の男に囲まれて、その人物は震え上がっていたから、たいした抵抗もなくラクなものだったそうだ。報償として、その人の物を勝手に持って行ってよいといわれ、取り上げた懐中時計を闇で捌いたらいい金になった。さらわれた人物が何者か、その後どうなったかということは知らないし、興味もないようだった。

僕はダンブルドアに報告して指示を仰ぎ、若者たちと一緒にその羽振りのよい人狼の青年に接触し、親しくなって拉致にも加わった。脅しや暴力で人を連れ去るのは嫌なものだけど、次の誘拐の対象がわかれば救えるのだと我慢していたけれど、いつもそういうわけにはいかなかった。情報が漏れているとわかれば疑われて任務が果たせなくなるから。闇陣営と人狼のつながりや、どの程度の人狼が闇陣営に加担しているのか探れというのがダンブルドアの指示だった。

そのうち、誘拐を率いる青年に誘われて、、、僕がそうなるように誘導した面もあるけれど、彼が住む人狼の集落に行った。そこは初めに行った集落と同じような作りだったけど、規模はずっと大きくて、数十人の人狼が住んでいた。そしてそこで僕は、僕を意図的に噛んで人狼にした、フェンリール・グレイバックという男に会った。縮れた灰色の髪と髭に埋もれるように顔がある大男だ。彼こそがこの集落を率いるリーダーだった。

満月が近付くと人狼たちが集まってくるのは前の集落と同じだ。前夜には酒といくらかの食事が振る舞われて、皆で酒を酌み交わした。盛り上がる座の中心にはグレイバックがいて、皆をあおるように言いたてる。

「俺たち人狼はただの魔法使いよりずっと強い。体も強いし、目も耳も鼻もはるかに利く。身体的に優れた俺たちが魔法使いに見下されているのは何故だ?数が少ねえからよ。俺たちゃ繁殖できねえからな。数を増やすには魔法使いの血を流すこと。噛んでヤツらの血が流れるたびに、仲間が増える。仲間が増えれば俺たちの天下だ。」

グレイバックの熱論に拍手が上がる。それを抑えて。

「ところが魔法省はそれを禁じてきた。俺たちの、魔法使いの血を流す権利を封じてジャマをしやがる。人を噛んだらアズガバン行きなどととんでもねえことを言って俺たちの力を封じてきた。だがそれもまもなく終わる。闇陣営を率いるダークロードは、俺たちに人狼の子となる魔法使いの子供を与えてくれると約束した。やがて俺たちの数が増えれば、人狼が魔法使いを支配する世が必ず実現する。」

グレイパックが闇陣営に通じていることも、なぜ味方するのか理由もわかったけれど、まともな考えじゃない。危険な思想という前に、荒唐無稽と言える。こんな考えにくみする者がいるのかと拍手を送る周囲を見ると、納得したようにうなづいている者は一部で、大半はまあ、グレイパックの話の内容より、振る舞い酒への感謝として拍手を送っているようだった。それはそれで人狼たちの哀れな境遇を思わせて侘しさを感じるけれど、裏を返せば、この程度のエサをやれば、闇陣営に従う人狼がたくさんいるということだ。

僕はあえてグレイパックの話に共鳴した態度を示して幹部の青年たちに近づき、闇陣営の戦力となりそうな人数や、次に狙われる人の情報を探ってはダンブルドアに報告した。情報を得るために集落になじみ、幹部たちに近づくほどに、彼らの実情が見えてくる。人狼の多くは、ものの善し悪しとかあるべき社会とか考える前に、飢えを満たし酒を飲むことだけ考えているのが実情だった。それを潔しとせず、現状に怒り改善を願う者も一部いて、彼らはグレイパックが説く野望に共鳴する。それが唯一、はじめて彼らに提示された希望だから。

こうしてスパイとして彼らに近づくにつれ、時々自分の立ち位置がわからなくなることがある。『僕たち』とか『仲間』という言葉を使う時、それが見捨てられた境遇を受け入れるしかない多数の人狼たちのことなのか、あるいは境遇に怒りを覚え自らの誇りを取り戻したいと願う人狼幹部の青年たちのことなのか、そしてもちろん、忠誠を誓った不死鳥の騎士団員たちのことなのか。そのどれをも理解でき、共感できる気がして、目まいのような揺らぎを感じてしまう。

そんな危うさを感じると、僕はいつもジェームスやシリウスを思い出そうとした。彼らが差し伸べてくれた手、熱い友情。あるいはダンブルドアの確信に満ちた行くべき道を説く姿。そしてスネイプの、人狼は満月の夜以外は恐れるに足りぬただの魔法使いだという冷静な視点。その先に未来はあるのだと信じたい。

自分を試されるようなスパイ任務にも慣れたと思った頃、身のすくむような出来事が起こった。ある満月の日の夕刻、僕は幹部の青年に声をかけられて、他の何人かの人狼とともに洞窟の奥に入った。そこには、得意げに肩をいかせて歩くグレイパックに並んで、ヴォルデモートがいた。その奥には、傷を負った魔法使いが鎖につながれている。ヴォルデモートは僕たちにちらりと目を向けた後、魔法使いに声をかけた。

「さあ、いつまでもつまらぬ強情をはらずに余の質問に答えよ。最近闇祓いとともに我らに抗っておる者たちは何者だ?影でダンブルドアが糸を引いていることはわかっている。おまえもその一員なのであろう?どのような者たちか、言え。」

魔法使いは磔の術を受けたのか、傷だらけの顔をきっと上げ、ヴォルデモートを一睨みして横を向いた。一瞬浮かんだいら立ちの表情をうすら笑いにかえて、ヴォルデモートが言い募った。

「おまえはこの状況がわかっておるか?」

囚われた魔法使いが不安げな顔になって周囲を見回す。

「ここにいるのは人狼だ。今宵は満月。口を割らぬならそれでもよいが、それならこのまま月が上がるのを待つことになる。満月の夜を10数人の人狼と明かすのは楽しいであろう。夜明けを迎えられるかは知らぬが。」

魔法使いの顔が恐怖に歪んだ。それを見てヴォルデモートは高笑いし、グレイパックを振り返る。

「これグレイパック、舌舐めずりするでない。行儀が悪いぞ。あと1、2時間が待てぬのか?余はこれで帰るが、この者は残りたいようだ。あとは好きにするがよい。」

グレイパックが黄色い歯を見せて笑うのと一緒に、魔法使いがかすかに声を上げた。

「わ、わかった、、ちょっと待って、、」

「気が変わったか?言いたいことがあるなら早く申せ。」

「、、知らない。私は、、、団員じゃない、、、」

「ふん、残りたいようだ。」

「いや、団員ではないから内情は知らない、、、ただ、不死鳥の騎士団という組織があると、、、」

「誘われているわけだな?団員の名を言え。」

僕は内心に震えあがりながら、なんとか気づかれないように魔法使いの顔を盗み見た。知らない人だと確認する。騎士団のメンバーじゃない。僕のことだって知らないはずだ、、、祈るような気持ちで身を固くしていると、ふとヴォルデモートが僕たちの一群を見回した。ヴォルデモートは開心術に長け、嘘をついている者を見抜くとダンブルドアが言っていた、、、。ひたすら目を伏せて耐える。僕はわけがわからず、ただ呼ばれてここにいるだけの人狼だ、、。

魔法使いが小さな声で、2、3の名をあげ、ぐったりと崩れ落ちた。

「どうせ言うことになるのに、つまらぬ意地をはったものよ。フェンリール、今夜のごちそうはお預けだ。鎖を解け。この者にはもうひと働きしてもらうことにする。」

意思を失ったように茫然とし、よろめく魔法使いを従えて、ヴォルデモートは集落を立ち去った。僕はひどい疲れを感じ、大きく息を吐いた。まもなく月が上がり、僕の意識も消えた。
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(過去2)リーマスの物語19

これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です。

ジェームスたちの結婚式でもたらされた和やかな気配は、まもなく次の襲撃が起こるとともに消えていった。そして僕も、他の騎士団員たちも、それぞれの闘いの日々に戻ることになった。

僕はダンブルドアの指示を受けて、人狼たちの動向を探るために遠出することが多くなった。人々に恐れられる巨人や人狼といった魔法生物が闇陣営についたとなれば、実際に脅威が増す上に社会不安もつのる。それは多くの魔法生物にとっても不幸なことだとダンブルドアは言い、僕自身もそう思う。人狼だからこの任務を遂行するのだと思うと気が滅入るところもあるけれど、同時に使命感も感じている。

僕はこの任務を通じて、はじめて他の人狼たちの生活を垣間見ることになった。考えてみれば、それまで他の人狼に接することはなかったから。

まずは人狼に接触して諜報の足がかりを得ようと、魔法省に登録された住居を訪ねてみると、登録された家にその人狼が住んでいなかったり、家族自体行方がわからないケースも多かった。家族がいても所在は知らないと言われるのがほとんどで、そればかりか、その者とは一切関わりがないと追い払われる有様だ。もちろん僕も正体を明かして訪問したわけじゃないから用心されたのであって、内心は家族を心配している人だっているだろう。僕の家族だって知らない男が僕を探して訪ねてきたら同じように応じるだろうと思ったものの、人狼やその家族の境遇を一つ一つ確認してゆくような体験は、気が滅入るものだった。

それでもようやく、ある森の奥に人狼の集落があるという手掛かりを得た。行ってみると、川沿いの崖に開く大きな洞窟の周りに、掘立小屋のような家が数軒建つ集落があった。人影がないのでとまどっていると、男が一人僕に気づいてやってきた。人狼かと聞かれてうなづくと、こっちに来いと言われ、警戒しながら洞窟の中に入る。

奥行きのある暗い洞窟には、何箇所か石を並べて囲んだ場所があった。囲みの中には木の枝を並べた棚らしきものや、ブランケットが丸めて置いてあったりする。空の酒ビンや新聞紙が乱雑に散らばる所もあった。

「物が置いてある場所は誰かが使っている。その辺を使え。」

男はあごで空いた場所を示して、自分は石に囲まれた一角にすわり、酒を飲み始めた。それきり何も言わないから、僕から話しかけてみた。

「他にも人はいるんですか?」

「今は少ないが、満月が近づけば皆戻ってくる。」

男はそれだけ言うとまた黙ってしまい、しかたないから僕も周りにならって石で囲いをつくり、底冷えのする地面にマントを敷いて寝転がった。情報を探るといっても、こんな無口な男ではどんなふうに探ればよいかと途方に暮れる。この先、闇陣営に関わる者と接することもあるかもしれないから、うかつなことも言えないし。作戦の立てようもなく、とにかくしばらくはおとなしく様子を見て、この集落の人狼たちになじむことだと決めた。

やることもないまま薄暗い洞窟の天井を眺めていると、ここが人狼の居場所なんだと切なさがこみあげてきた。僕は教科書や図書館の本で人狼に関わる記述を探し求め読みあさってきたけれど、人狼がこんなふうに暮らしているなんて書いてある本はなかった。人狼の生態や、どのように危険でどのように防衛すればよいかということばかりで。あるいは人狼が起こした恐ろしい事件とか。魔法使いの視点で書かれたものしかないから仕方ないと思うけど、あらためて人狼の見捨てられた立場を思い知る。

僕だって、ホグワーツに行けなかったらここにいたかもしれない。ホグワーツで友達に会えなかったら、そしてホグワーツから追い出されていれば、ずっとこんなふうに洞窟の天井を眺めて生きてくるしかなかったんだと思えてくる。そしてこれからも、こんなふうに生きていくしかないのかもしれないと思う。ダンブルドアが招いてくれなければ、ジェームスたちが僕を受け入れてくれなければ、スネイプが僕の正体を明かしていれば、ここが僕の居場所だった。夢も希望もなく、友情も恋も知らず、一人酒に気を紛らせて時をやり過ごす。

そんなことを考えていると暗い気分になり、気がつけば外も暗くなってきたのに、男は灯りをつけもしない。ルーモスの呪文を唱えようと、杖をとりだす寸前でやめた。男は杖を持っていないのかもしれないと思いついたから。もしかすると、人狼は杖を持たないのかもしれない。任務を隠してこの集落になじむには、杖は使わないほうがいい。遠出用の準備を詰め込んで魔法で縮めた荷物袋から、ろうそくを取り出して火をつけた。灯りに気づいたのか、酔いつぶれて寝ていた男が体を起こして顔を向けた。薄闇の中、うつろな表情にわずかに笑みが浮かんだように見えた。無口なだけで、悪い人ではないのかもしれない。

男が言っていた通り、満月が近づくにつれ人が戻り、おかしな言い方だけど、集落に活気が出てきた。1人戻る者、2、3人の若者グループ、老人や、一組だけながら男女のカップルもいる。皆一様にみすぼらしかったけれど、普段は町や村に出かけて日々の糧を稼いでいるようだ。スリとか盗みとか、よからぬことをしている者もいるようだけど。隠しだてもせず得意げに言っているから、珍しいことでもないらしい。

無人だった掘立小屋も、それぞれに持ち主が戻り、夜には隙間からロウソクの灯りがもれる。全部で10数名の集落で、長年定住している者もいるようだ。空いたままの洞窟の石の囲みもあったから、一時的にここに寝泊まりして、他に流れていく者もいるんだろう。僕がミドルネームのジョンを名乗って挨拶すると、立ち入ったことを聞くでもなく、素っ気ないうなづきが返された。

そして満月の夜が来た。その夜に自分を含め誰が何をしていたのか、記憶がないからわからないけれど、満月が明けると新入りの僕にも打ち解けてくれるようになった。狼の姿で仲良く一緒に駆け巡りでもしたのか知らないけど、変身後の関節の痛みや疲労を嘆き合えば、仲間意識が芽生えるのも不思議じゃない。

「あんた、新入りじゃったな。ジョンといったか?」

そう言って老人が近づいてきた。何度か彼の掘立て小屋に招かれて話すうちに、この集落の人狼たちのことがいろいろとわかってきた。老人はもう10年近くここにいるということで、暇つぶしに人を招いてあれこれ話しているそうだ。人狼たちの身の上にも詳しかった。

僕が最初に出会った男は、妻と子供と幸せに暮らしていたのだけれど、人狼に咬まれ、周囲の迫害から妻子を守るために家を離れてここに来たそうだ。当初は寂しがり、怒ったり嘆いたり、酒を飲んで暴れたりもしたらしい。やがてあきらめて、時々密かに家族の様子を見に行くのを慰めにしていたのだけれど、妻が再婚して引っ越してしまうと、めっきり無口になった。

若者たちも悲惨だった。若者らしい無知と無謀で度胸を示すといきがって、あえて皆が怖がる森の奥にキャンプを貼った挙句、人狼に出くわした。友達に避けられ、恋人に捨てられ、職を失い、家族にも疎まれて、ここに流れ着いた。先に続くと信じていた将来への希望を断たれた傷は深い。手にすることなく失われた人生をあきらめるには、若過ぎるのだ。それまでは嫌悪し蔑んでいた人狼に、自分がなってしまった現実を受け入れる厳しさに耐えかねて、絶望は恨みに変わる。陽気に盗みの成果を自慢する心の奥底には、恨みと怒りを抱えたままだという。

「皆それぞれに事情は違うが、結局は現実を受け入れるしかない。どうあがこうが、元には戻れんからな。わしから見れば愚かなだけの可哀そうな若者も、他から見ればひとくくりに嫌われ者の人狼ちゅうことじゃ。あんたにも事情はあるじゃろうが、、、若いのに落ち着いておるな。身なりもこぎれいじゃ。」

僕がこぎれいだなんてどんなレベルだと思うけど、たしかに集落の人たちと比べればマシなわけで。つき放したようでいて、人狼の境遇への共感に満ちた老と戸の会話は心地よく、人狼としての思いのたけを打ち明けたい気もしたけど、任務があるからそういうわけにもいかない。訝しがられないよう、差しさわりのない話に留め、早々に矛先をかえたいところだ。話好きな老人の口から、誰に何が伝わるかわからないから。

「僕は人狼になって長いので。あれこれと思い悩んだ頃もありますが、まあ、今はもうあきらめたというか。両親が支えてくれましたし、援助してくれる人もいましたが、いつまでも頼っていられないと思っています。」

「ほう、あんたもしっかりしておるが、よい親御さんに恵まれたな。」

「苦労をかけました。ところで集落の人たちのことですが、カップルもいるようですね?」

「ははは。落ち着いておっても、若者じゃな。カップルが気になるか。あれはな、悲惨じゃが美しい話があるんじゃ。あの2人はもともと恋人どうしで、結婚を間近に控えたある日、女のほうが村外れで運悪く人狼に襲われた。女は噛まれるとたいてい死んでしまうんで人狼の女は少ないが、彼女はかろうじて命を取り留めた。じゃが人狼になったことを嘆いてな、死にたい死にたいという女を、男のほうが励まして付き添い、ついに満月の夜もそばを離れず自ら人狼になったそうじゃ。これをきいては、血気盛んな若者でも、彼女を襲う気にはならんじゃろ?あんたもいい相手に出会えるといいな。ん?もう誰かおるのか?」

一瞬スネイプの顔が浮かび、思わず表情に出てしまったみたいだ。こういう時に出てこられるとほんとに困る。

「僕なんて。そんな人いません。それより、あなたにも事情があるんですよね?落ち着いているのは年齢のせいにしても、それこそ、僕なんかよりずっときちんとした身なりをしていらっしゃいますが。」

「わしか?わしの話は悲惨でも美しくもないわ。わしはもともと変わり者と言われておってな、独り身で人づきあいもなかった。幸い暮らしには困らんだけの資産があったから、歴史やら薬草やら動物やら、興味の向くままに気ままな研究生活を送っておったのだが、年をとって重い病気になってな。病院で不治の病と言われた上にあれこれと強制されるのにうんざりして、自分で薬を煎じようと薬草を探しに森に入ったら道に迷ってしまった。うろうろするうち月が上がって人狼に噛まれたんじゃよ。」

そう言って声高に笑う老人に目を丸くしていると。

「人狼になったと言って笑うのがおかしいかね?わしはもういつお迎えが来てもいい年寄りだったのでな。それが人狼に噛まれて倒れておったのをこの集落の人が見つけて、というよりここにおった誰かが噛んだんじゃろうが、手当てをされておるうちに、怪我はもとより、病気まで回復したわけじゃ。おかげでそれからもう10年も経つのに、この通りなんとか生きておる。もとの家はそのままじゃし、人つきあいがなかったから周囲に人狼と知られることもなく、まあ、あっちとこっちを行き来して、気ままな生活を続けておる。」

なんか、あっけにとられて言葉が出ない。

「人づきあいの悪いわしが、なんでこうしてあんたと長々話しているかと言いたいかね?実はそれが、人狼になって唯一の問題じゃ。狼的な特徴というやつじゃな。人狼に噛まれてレアな肉が好きになるという者が多いが、わしの場合は、狼の群れたがる特徴が現れた。狼は群れで生きる動物じゃろ?一匹でいるのが珍しいから、一匹オオカミという言葉がある。以前は周りに人なぞおらんほうがいい、おればぎくしゃくとして煩いばかりだったのが、噛まれてからは時々無性に人恋しくなってな。ここに来て群れに入り、気に入ったもんをつかまえては話しておるのじゃが、話をきけば気になるもんで、わずらわしくてかなわん。バカな若者のことなんぞ気に掛けたくもないのじゃが。」

老人はいったん言葉を切って眉をしかめ、僕の目をじっとのぞきこんだ。瞬間、かすかにざわめく感覚。目の奥に入り込み、頭をのぞかれるような・・・。これは、開心術だ。この人は開心術を使っている。一気に気持ちが引き締まり、とっさに、目を伏せるかわりに、僕も老人の目を覗き込んだ。今までだって僕が口に出さない言葉を読み取るように会話が進んできた。もうのぞかれてしまっているなら、僕も開心術を使い、彼の思考を探ることを選ぶ。

老人がふっと表情を緩め、視線を外した。僕に読み取れたのは、彼の、群れを守るという意志だけだった。老人は僕の何を見たんだろう。騎士団員として闇陣営と闘うために、スパイとして集落に入り込んだのだと知られてしまっただろうか?

「開心術を心得ているようじゃな。」

「あなたはこの『群れ』のリーダーなんですね?こんなふうに新入りを招いてくれるのも、私があなたの群れにとって危険な者でないか調べるためですか?」

僕の挑むような問いかけに対し、老人は場の緊迫感を緩めるような穏やかな口調で応じた。

「リーダーかどうかはともかく、長老ではある。100歳を超えとるものなぞ他におらんからな。わしはたしかに開心術を使ったが、こう容易に悟られるとはがっかりじゃ。ふん、素養はあったが磨かんかったからな。子供の頃から周りの者たちの言葉と裏腹な内心を感じて人付き合いを避けたから、開心術の必要もなかった。この集落に来てから必要に応じて時々使うようになったが。それにしても、人狼の心に、損なわれず残っておる幸せな記憶を見ることがあろうとは思わなんだ。」

老人は言葉をきって、目を細めて僕を見た。まずいことを知られたわけじゃないようだけど、なんか照れくさい。

「何が見えたっていうんです?」

「ほんの2、3の記憶の欠片じゃよ。拙いわしの開心術で見えたのだから、よほど印象的な出来事だったんじゃろう。あんたの宝じゃな。大事にするがよい。幸せな記憶は、辛い環境にあって支えになるものじゃ。激しい怒りと絶望に打ちのめされた者は後先考えずバカな真似をしかねんが、あんたの人間性は信じてよいと思う。この集落に害を及ぼしはせんじゃろう。」

とりあえず信頼は得られたようでほっとした。油断してはいけないけれど、僕にはほんとに集落の人狼たちに害を及ぼすつもりなどないんだから、老人の敵じゃない。彼が闇陣営についてどんな考えを持っているか探り、闇陣営につくことが集落の人たちにとって不幸につながると納得してもらうためには、この信頼に値する者だと思れなければならない。

「私は幼ない頃に人狼に噛まれてしまい、ずっと辛い思いをしていました。人に受け入れられたくて、人の顔色をうかがってばかりいるうちに、少し開心術ができるようになったんです。幸い、いくつかよい思い出もありますが、人狼の苦労はわかっていますから、この集落に害を及ぼすつもりなどありません。信用してもらえたら、さっきの話に戻りましょうか?」

「そうじゃな、あの若者の話じゃった。あの3人のバカ者たちじゃが、盗みやスリはまあ、暮らしのためだからやむを得んと思っておったが、最近まずいことに手を出しておる気配がある。あんたも若いから、気があってあの者たちと一緒に悪さをせんよう釘を刺しておこうと思っておったのじゃ。」

「もし彼らと親しくなっても、一緒になって悪事などはたらきません。それよりも、彼らを止められたらと思うのですが。いったい彼らは何に手を出したというんですか?」

老人は顔を曇らせて、身を乗り出すように僕に近づき、小声で話し始めた。

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tag : ハリーポッター,人狼

(過去2)リーマスの物語18

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)


そして僕たちはホグワーツを卒業した。

7年前、僕は重すぎる秘密を抱え、一人心を閉ざしてホグワーツ特急に乗った。同じ列車に仲間とともに乗りこんで、未来を語りあいながら旅立つ日を迎えられるなんて思ってもみなかった。振り返れば楽しいことばかりじゃなくて、スネイプのことを想えば胸の痛みさえ感じるけど、僕にはこの仲間たちがいる。僕の正体を知ってなお、支えてくれる真の友達。僕が手にすることができた、ただ一つの宝。

いったん家に戻り、卒業の報告をした後は、シリウスの家に寄せてもらえることになっている。シリウスはブラック家と絶縁したあと、同じように純血重視の一門を飛び出した叔父さんから援助を受けて一人暮らしをすることになり、行くあてがないならうちに来いよと言ってくれた。

仲間たちと別れて家に帰ると、父さんと母さんが卒業を祝ってくれた。少し大きくなった妹も交えて、久しぶりに家族4人のなごやかな夕食をとる。僕はこの先しばらくは友達の家に住みながら、不死鳥の騎士団に入って闇陣営と闘うつもりだと報告した。

夕食が終わると父さんが僕に話があると言って、2人でダイニングルームに残った。

「リーマス、人狼という重荷を背負いながら立派にホグワーツを卒業し、闘いにいどむ勇敢な息子を父さんは誇りに思っているよ。これはおまえが大人になったら話そうと思っていたことだが、闇陣営と闘ってゆく道を選ぶなら、なおさら知っておいてほしい。」

そう言って始めた父さんの話は、衝撃的なものだった。僕が幼い頃人狼に噛まれてしまったのは、密かに活動を始めた頃の闇陣営への協力を拒んだ父さんへの報復だったというのだ。現存する人狼のなかで最も凶暴といわれるフェンリール・グレイパックという男が、ヴォルデモートの意を受けて、満月の夜に幼い僕を狙ったのだった。

僕は人狼であることを理解して以来、人としての意識を失った状態で人間を噛んでしまうことを最も恐れて生きてきた。運の悪さを嘆きつつ、獣の衝動を抑えきれず僕を噛んでしまった誰とも知らぬ人狼に対しては同情すら感じたこともあったのに。僕が咬まれたのは単なる事故ではなく、親の言いつけを守らず外に出てしまった幼児の愚かさ故でもなく、悪意に満ちた企てだったのだ。

僕は地下室や叫びの屋敷で自らを苛むことに耐えた幾度もの夜を思い、人狼ゆえにあきらめた夢や孤独を思った。そして壊された父さんと母さんの生活、奪われた家族のささやかな幸せを思うと、、、許されることではないと怒りがわき上がる。それはなじみのない感情だった。僕の人生には理不尽なことがたくさんあったけど、いつもあきらめて目を背け、身を縮めてやり過ごしてきたから。だけど時には、怒り、立ち向かうべき出来事もある。

「リーマス、私は父親として、おまえを守ることができなかった。心からすまないと思っている。」

「父さんが悪いんじゃない。悪いのは闇陣営だ。僕は不死鳥の騎士団として、父さんの分まで彼らと戦うよ。」

父さんは目を細めて僕を見た。

「お前は頼もしい大人になった。もう私から言うことなどないが、最後に伝える父さんの願いだ。重荷を背負う人生だが、希望を捨てず、信じる道を進んでほしい。おまえならきっと、自分の道を切り開いていけると信じているよ。」

それ以降、闇陣営との闘いの決意は、ダンブルドアへの感謝や、仲間たちの意思に沿うためだけではなく、僕自身のものになった。僕のような不幸な者を生みださない社会、家族の幸せが守られる社会をつくるために僕は闘ってゆく。

まもなく始まった不死鳥の騎士団としての活動は、予想以上に厳しいものだった。騎士団は、敵方の情報を集めて闇勢力の台頭を防ぎ、闇陣営による襲撃があれば駆け付けて、魔法省の闇祓いとともに闘う。襲撃現場の悲惨さに打ちのめされたり、嘲るように闇の印を打ち上げて姿を消すデスイーターに悔しい思いをすることも多い。

それでも、そんな苦戦ばかりの闘いの中で、僕は自分が闘士としてなかなか優秀だと気がついた。疎ましいと思ってきた人狼としての身体的特徴が、こんな場では役に立つ。すぐれた動体視力で敵のわずかな動きを素早く察知して防戦できたし、鋭い嗅覚ですっぽりと頭からフードを被ったデスイーターの正体をつかむこともできた。もちろん、人狼の嗅覚が敵の逮捕につながる証拠になるわけじゃないけど、正体不明な敵の身もとを推測できれば、情報収集の足がかりになる。街中やパブでさりげなく彼らに近づいて会話を盗み聞きし、次の襲撃や彼らの計画を知ることもできるからだ。そこでも僕の並みはずれた聴力が武器となった。

こうして徐々に、僕の活動の中心は諜報、つまりスパイとして敵を探ることになり、やがてダンブルドアの指示により、この闘いに関する人狼たちの動向を探る任務も加わった。

魔法省に勤めるピーターは、初めから情報収集を期待されている。魔法省は闇陣営との主戦場の一つで、省内の誰がどのように暗躍しているか、どんな企てがなされているか、それを察知し対処するには情報がカギとなる。闇祓い局のように明らかに闇陣営と対立する者は警戒されてしまうけど、一般職員のピーターは、目立たないように省内の情勢を探るのに適している。立場を知られては任務に差し障るから、ピーターは襲撃への救援にはあまり加わらない。

ジェームスとシリウス、そしてリリーは、強い魔力を生かして、闇陣営の襲撃に駆け付け対戦することが多くなった。密やかな諜報活動には目立ちすぎるし性格的にも向いているとは思えないけど、敵との対戦になれば、華々しく活躍する姿は味方を勇気づけ、騎士団への支援者を増やすことにつながった。リリーは身を潜めるマグル出身者を助けたり、ジェームスは騎士団の財政面の支援もしているらしい。

こうして僕たちも、他の騎士団のメンバーも、ダンブルドアの指示のもと、それぞれの特性を活かして、全力で闇陣営に挑んでいた。だけど、圧倒的に数で勝り、手段を選ばない闇陣営との闘いは苦戦続きだ。闇祓い以外の抵抗者が現れたことに気づいた闇陣営は、何箇所か同時に襲撃を行うことで僕たちの力を分散させる策に出た。頑張っても後手に回るばかりで、むしろ敵に囲まれて負傷する者も続出し、味方の焦燥感はつのってゆく。

こんな状況に業を煮やした魔法省上層部では、闇勢力に対する強硬派が勢いを増し、強硬派の支持を得たバーティ・クラウチが魔法法執行局長に就任すると、闇勢力との闘いにおいては禁じられた呪文の使用が許されることになった。けれどそれで事態が好転するものでもない。今までどこか余裕を感じさせる、いわばお遊び感覚で術を使っていたようなデスイーターたちも、禁じられた呪文の反撃を受けるとなれば必死になる。憎しみをぶつけあうような激しい闘いに騎士団員は傷つき、世相の暗さに人々は身をすくめ、魔法界は闇に包まれていた。

だけどこんな時代でも、人は恋をし、未来を夢見る。むしろこんな時代だからこそ、身を寄せ合い、先を急ぐのかもしれない。

ジェームスとリリーは、卒業後1年も過ぎないうちに結婚を決めた。卒業してからは学生時代みたいにいつも一緒にいるわけじゃないけど、仲間4人の先頭を切っての結婚に、、、といっても僕はもちろんシリウスやピーターも後に続くあてはなかったけど、、、皆で集まり2人の結婚準備を手伝った。厳しい闘いの合間の、心なごみ、笑いさえ出るひと時だ。

そして迎えた結婚式は、派手なものではなかったけれど、華のあるカップルを祝って多くの人が参列し、温かく和やかな雰囲気の中で行われた。いつになくきちんと整えた髪に礼服を着て照れくさそうに笑うジェームスと、純白のウェディングドレスを身にまとい、白いユリの花を交えた手造りのブーケを持つリリー。幸せそうな新郎新婦の姿は輝きに満ち、光に包まれているように見える。ベストマンを務めるシリウスは珍しく身なりを整えてジェームスの脇に立ち、そうするともとからの美形がきわだって、華を添えた。

僕は親友の幸せを心から祝福し、感動に涙ぐむほどだった。闘いに明けくれる中で、こんな幸福感は久しぶりだ。僕にはこんな日は訪れないだろうけど、こんなふうに親友の晴れやかな門出を祝えるのはなんて幸せなんだろうと思う。

幸せそうに微笑む花嫁の姿を見るうちに、ふとスネイプを思い出した。リリーのこんな笑顔を一番見たいのはスネイプなんじゃないかと思いついたから。まあ、隣に立つ新郎の姿は絶対見たくないだろうけど。

久しぶりに思い出してみると、スネイプへの思慕と仲間への友情に悩んでいたことが、ずいぶん遠い昔にも、昨日のことのようにも感じられた。騎士団員となった頃は、襲撃現場に行くたびに目を凝らし鼻を利かせてスネイプがいないか確認したものだ。いつのまにか闘うだけで精いっぱいになっていたけれど、スネイプがいれば必ず気配は感じたと思うから、襲撃にはいなかったと思う。スネイプはほんとにデスイーターになったんだろうか、どうしているんだろう。

そんなことを考えたせいか、ジェームスの結婚式からまもなく、僕は久しぶりにスネイプの姿を目にした。それは予言者新聞の記事に添えられた写真の中だった。

その記事は、同じ頃に催されたマルフォイ家の結婚式を報じたものだった。マルフォイとブラックという魔法界きっての名門を結ぶ婚姻は大きく取り上げられていて、写真もけっこう大きなもので、その中でスネイプが仏頂面とたぶん僕にしかそう見えないんじゃないかと思える笑顔を繰り返しながら立っていた。スネイプの隣には、ゴージャスな衣装に身を包んだルシウス・マルフォイと美しい花嫁が笑っている。スネイプも学生時代とは見違えるような立派な服を着て、ベストマンをつとめているようだ。

そんなスネイプを見て、僕は複雑な気持ちになった。一言では言い表せないけど、まとめてしまえばいろんな意味で感慨深いってことだろうか。瞬時に圧倒されるほどの懐かしさにおそわれて、それからホグワーツでの様々な出来事が頭をよぎり、切なさや苦しさがこみ上げて、スネイプを従わせるマルフォイへの嫉妬めいた感情が湧きあがったり、それでもスネイプにしっかりと居場所があったんだとほっとしたりして。

ようやく気持ちが落ち着き、スネイプとの間の遠い距離が感じられて少し欝な気分になったとき、シリウスがやってきた。僕は任務で離れる時以外シリウスの家に世話になっているから、積み重ねられた予言者新聞をぱらぱらと見ていたのもシリウスの家のダイニングルームなわけで。記事に気づいたシリウスも、しばらく写真を眺めていた。また前のようにスネイプの悪口が始まるかと身構えていたんだけど。

「新婦は俺の従姉、ナルシッサ。こっちは弟のレギュラスだ。」

写真を指差しながら言ったシリウスの声には苦さが滲んでいた。純血主義の実家と縁を切ったとはいえ、一緒に育った弟と従姉に対して複雑な思いはあるんだろう。血のつながりも子供の頃の思い出も、消えるわけじゃない。

シリウスが、弟は親の言うことを間に受けて育ち、まだ卒業もしていないのにデスイーターになったらしい、馬鹿なヤツだとため息をついた。写真の中のレギュラス・ブラックはまだ幼さの残るおとなしげな顔立ちで、襲撃時に見るデスイーターのフードを重ねてみたけどピンとこない。怪しげなデスイーターのフードの向こうに、こんなあどけない素顔が隠れているんだろうか。そして、こうして一緒に写真に写っているということは、やっぱりスネイプもデスイーターになったんだろうかと思い、僕もため息をついた。

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tag : ハリーポッター,ジェームス,リリー,スネイプ

(過去2)リーマスの物語17

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

7年生の終わりが近づいてくれば、気になるのは卒業後の進路やホグワーツの外の社会情勢だ。大人として社会の一員となり、どんな社会でどう生きていくか、何をしたくて、何ができるのか、考えるのが当然だろう。仲間たちとの話もそんな話題が多くなった。

残念ながら、僕たちが歩みだす今の魔法界は、闇の影に覆われている。ヴォルデモート卿と名乗る強力な闇の魔法使いが、デスイーターを率いて、禁じられた呪文を含む闇の魔術を駆使し、手段を選ばず権力を掌握しようとしている。魔法界内部では純血魔法族による支配をすすめ、さらには長年マグルから隠れた存在であった魔法族の存在を知らしめて、マグル世界をも支配するという、壮大というか、荒唐無稽で排他的な方針の勢力らしい。

彼らは、マグル界はともかく、魔法界内部ではかなりの力を得ていて、魔法省内で手をまわして純血主義的な政策を進めたり、マグル出自の魔法使いや反抗者を誘拐したり傷めつけたり殺したりしているという。老獪なのは、その実態を表さないやり方だ。禁じられた呪文である服従の術や脅迫により、誰がいつどこで彼らに操られ、協力しているかわからない。身近な者さえ信じきれない不安の中で、人々は身をすくめて怯えるしかない状況らしい。

根っから闇の魔術を嫌うジェームスや、純血主義の家族との諍いを続けてきたシリウスは、こういう事情に詳しくて、この話になると憤りを隠さない。

「卒業すれば、僕らはそんな社会に直面することになる。今まではホグワーツの中にいて、社会に蔓延する危険から守られていた。校長先生は、マグルや他の魔法生物との平和的な共生を目指すべきだという意見で、闇勢力に真っ向から反対しているからね。でも社会に出たら、僕たち自身が闇勢力と闘い、社会を守っていかなければいけないと思う。」

「純血主義なんて、まじバカげてる。狭量で排他的で高慢ちきなヤツらだ。そもそも純血家系なんてもうほとんど存在しない。マグルと結婚した者や、俺みたいなマグル好きを家系からはずして、純血だって言ってるだけさ。ブラック家に生まれた俺が言うんだから間違いないぜ。まあ、純血主義といってもみんながみんな闇勢力に賛同してるってわけじゃないけどな。純血主義には賛成でも、闇勢力の非道なやり方は感心しないってやつもいる。だけど反対の声をあげて酷い目にあうくらいなら、当たり障りなくやりすごすってのが大半だが。けどそれは間違いだ。今は純血も混血もマグルも、出自に関係なく勇気を持って立ち向かわなければ、ヤツらをのさばらせるばかりだ。」

力強く語るジェームスは頼もしいし、シリウスもこの話になると真顔になる。ホグワーツ創設後に、マグルを締め出そうと主張したサラザール・スリザリンを放逐したゴドリック・グリフィンドールの意を受け継ぐ僕たちグリフィンドール寮生は、率先して純血主義の闇勢力にいどむべきだというのが2人の考えだ。2人とも卒業後は旅をしたりして見分を深めながら、闇勢力を抑えよりよい社会を築くのに貢献するつもりだという。

この話の流れで、たまにはスネイプを含むスリザリン生の一部への非難が続くこともあるけれど、もうそれがスネイプ個人への嫌がらせの計画なんかに進むことはなく、2人の視線は闇勢力という社会の敵に向いていた。だから僕はもう仲間とスネイプの板挟みみたいな状態に悩むことはなくなった。

それに加えてスネイプも学年初以来明るさを漂わせて幸せそうにしているのだから、もうどちらも相手のことはかまわなくていいじゃないかと思うんだけど、そういうわけにはいかないものらしく、互いに顔を合わせれば杖を向け合っているらしい。それでもジェームスたちは、以前のように闇の魔術や純血主義への嫌悪を、スネイプという気に食わない個人に集結させる幼稚な思考からは卒業したようだ。

彼らの言い分によれば、スネイプこそ2人に、特に自分が苦手な箒の天才で、クイディッチヒーローの人気者で、さらにはリリーと親しくなったジェームスに嫉妬しているんだそうだ。まあ、それはあるだろうと僕も思う。だけど、スネイプにしてみたら無理ないとも思う。運動神経に恵まれて、さらに裕福な生まれのおかげで幼い頃から箒の才能を伸ばす機会に恵まれたジェームスはみんなに称賛され、一方スネイプは運動は苦手で、箒だってたぶんホグワーツに来て初めて手にし、自分が得意な闇の魔術は禁じられ悪し様に言われる。その上おそらくただ一つの宝物だったであろうリリーまで、最後は自分が墓穴を掘ったにしろ、ジェームスに奪われてしまったんだから。恵まれた者に自分の幸運に感謝する謙虚さがあれば、不運な者を敵に押しやることもないんじゃないかと思うけど、本人たちは気づかないものなのかもしれない。彼らだって生まれ育ちを選んだわけではないんだし。

それでも、少なくとも、ジェームスの彼女としてリリーが仲間たちの集まりに加わることがあるようになって、ジェームスとシリウスが声高にスネイプへの悪口を言い募ることはなくなった。そしてスネイプのことさえ絡まなければ、ジェームスもシリウスも、明るくて勇敢で優秀で、友情に厚い最高の仲間だった。

ピーターは魔法省に就職するつもりだそうだ。何事にも恵まれて理想主義に傾きがちなジェームスや、長年純血主義をめぐり家族に反発してきたためか感情に流れがちなシリウスと比べ、ピーターは堅実だと思う。ジェームスやシリウスと一緒にいても、彼らが特別に恵まれた存在であって、自分はそうじゃないんだと、いつの間にか気づいたのか。現実を見据え、地に足のついた選択をし、その歩みを進めていた。

僕はそんな、力強く自分のゆくべき道を語る仲間3人を、少し眩しい思いで眺めていた。僕には未来を、、、といってももう間近に迫った卒業のすぐ先のことなんだけど、、、思い描くことができなかったから。僕にだって何かできないかと考えはした。たとえば、人狼としては特別にきちんとした教育を受けられたのだから、見捨てられたままの人狼たちの待遇を改善するようなことができないかとか。あるいはジェームスやシリウスの話をきいて、僕も彼らと共にダンブルドア先生が目指す共生社会への道に貢献できないかとか。

でも具体的に何ができるかと考えると、貧しい人狼の身で、できることは思いつけなかった。その前にまず、どうやって生活していけばいいんだろうと途方に暮れてしまう。家に戻って、せっかく幸せに暮らしている両親や妹を、また僕の人生に巻き込むことはできないし、そうなるとホグワーツを出た先の居場所さえ思いあたらない。

卒業後のことを考えると、むしろ今の、僕がともかくも一人の学生として受け入れられ、学び、仲間と語り合える、残りわずかな日々が、この上なく貴重なものに思えた。温かくて、心強くて、離れる前からすでに懐かしい気持ちさえする。

もう1人、先を考えあぐねている人がいた。意外なことだけど、リリー・エバンスだ。最近時々彼女も、仲間として一緒に話に加わっている。きいてみれば、彼女の悩みももっともだった。まず家族のいるマグル界に戻るか、魔法界に留まるかという迷いがある。これはまあジェームスが躍起になって引きとめているし、彼女自身、すぐれた魔女としての誇りを持ち、マグル界で魔力を隠して生きていくのは納得がいかないらしい。

では魔法界に残るとなれば、家族から離れ自分の生活を確立しなければならない。魔法界で暮らすとなれば、今の社会情勢によりマグル出身者が被る危険や、悪化する制度的な不利を、リリーは覚悟しなければならないのだった。だから実は、理念的に闇勢力を嫌悪するジェームスたち以上に、実際に不利益を被る立場として、リリーは闇の勢力に激しい怒りを感じている。主観的にはともかく、客観的に選択の余地があるジェームスたちと違い、マグル出自のリリーは否応なく闇勢力の被害をこうむる立場なのだから。このことを、スネイプがなぜ理解できないのかと思うんだけど。

こんなふうに日が過ぎてゆくうち、ある日僕はマクゴナガル先生に言われて、ダンブルドア先生と面談することになった。立派な校長室に入るのは初めてだ。そして、せっかくダンブルドア先生が特別な配慮で与えてくれた学びの機会を得ながら、先のあてもなく卒業を迎える身が、ふがいなく思えてならない。

「リーマス、そこに掛けなさい。もうすぐ卒業じゃが、どうじゃ、ホグワーツは楽しかったかの?」

「はい。先生のおかげで、多くを学び、思いがけず友達もできました。ありがとうございます。」

先生の顔を見ると、、、僕も多少開心術が使えるから感じるのかもしれないけど、、、僕の先のあてがない不安や忸怩たる思いなどは、すべてお見通しのようだ。もっとも、別に開心術なんか使わなくても、僕のような者のこの時期の状況など、誰にでも想像がつくのかもしれないけど。

「人狼に対する理解は一向に深まらぬし、むしろ事態は悪化しておるからの。卒業後の進路が定まらんのは君のせいではない。君はよく頑張り、よい成績をおさめたものじゃ。特に闇の魔術に対する防衛術なんかはの。」

「はい。全部の科目というわけにはいきませんが、できるだけ頑張りました。ただそれをどう活かしていくか、先生のご恩にどう報いたらいいのかと思うと、、、。」

先生は半月型の眼鏡の奥の目を細め、少し僕を見ていた。僕の全てを見通すように。そしてその目がふっと優しくなり、それから少し身を乗り出した。

「リーマス、君はわしの期待通り、立派な若者に育ったようじゃ。これからわしが言うことは、強制ではない。よく考えて、君自身が選ぶことじゃ。じゃが、君がどんな選択をするにせよ、今日の話の内容は決して口外してはならん。よいかの?」

「はい。誰にも言いません。」

「世の中の動き、ヴォルデモート卿が純血魔法族至上主義を掲げて勢力を伸ばしておることは知っておるの?これは憂うべきことじゃ。魔法族もマグルも魔法生物も、みなが平和的に共生できる世こそ、みなが幸せに生きられる社会なのじゃ。じゃが現実には闇勢力が隆盛し、抑えるべき魔法省の中にすら彼らの手が伸び、スパイがはびこっておる。しかもその実像が明らかに見えんようにじゃ。」

「そのようにきいています。魔法省から先生に協力を求めたという話もきいたことがあります。」

「その通りじゃ。じゃが今の魔法省は信用できる状況にない。魔法省の動きは闇勢力に筒抜けと思わねばならんし、この期に及んで権力闘争にうつつを抜かす輩までおるのじゃ。」

いったん言葉を切って、ダンブルドア先生は眉を寄せ、首を振った。

「そこでわしは、魔法省とは別の立場で、闇の勢力に対抗する組織を立ち上げようと思っておる。いわば秘密結社じゃ。魔法省と協力して闇勢力と闘うこともあるじゃろうが、主な活動は、闇勢力の情報を探り、勢力の拡大を食い止めることになる。加えて、被害者を助けたり、ともに立ち向かう仲間を集めてゆくことも重要じゃ。」

「・・・」

「どうじゃ、リーマス、この組織に加わるつもりはないかの?むろん、命の危険すら伴うことじゃから、無理にとは言わぬ。じゃが、勇気ある者が力を結集して立ち向かわねば、闇勢力が権力を掌握する日も遠くない。そうなれば多くの者の幸せが踏みにじられるのじゃ。リーマス、わしに協力できるか、じっくりと考えてみてくれんかの?」

「先生、考えるまでもありません。先生のお考えに従いたいです。でも僕なんかにできるでしょうか?」

「君が自信を持てんのは、人狼であるゆえの引け目からじゃろう。じゃがこの勝ち目の薄い闘いでは、そのことさえも活かせるかもしれぬ。ヴォルデモート卿は純血主義を掲げるかげで、人狼をはじめとする魔法生物を味方に引き入れようとしている気配もあるのじゃ。つまり、君にしかできんこともある。君は優秀な魔法使いで、正しき心も勇気も持っておる。そう思うからこそ、声をかけたのじゃ。」

「僕に勇気があるのかどうか、、、勇敢でありたいと思ってはいます。先生、僕は将来を考えあぐねていたのですが、お話をきいてゆくべき道が見えた気がします。どうか僕をその結社に加えてください。」

闇勢力と戦い、ダンブルドア先生の恩に報いる、これ以上の機会があるだろうか?僕にも、魔法使いとして、社会に役立つ道が開けるんだと思うと、心がはやった。

「リーマス、よう言ってくれた。わしの期待どおりじゃ。君の選択を歓迎する。卒業式のあとに正式に結社を創設するつもりじゃ。不死鳥の騎士団と名付けての。」

「僕のほかにも加わる人は決まっているのですか?」

「今何人かに声をかけておる。皆一様に賛同してくれておるがの。すでに立ち上がっておる卒業生たちや、今年の卒業生ではジェームスとシリウスにもさっき話したところじゃ。2人ともやる気満々じゃの。」

「ではジェームスたちにはこの話をしてもいいですか?」

「それはよいが、他には知られぬように気をつけるのじゃぞ。話が漏れれば危険が増す。わかるの?」

「はい、わかりました、先生。」

僕はダンブルドア先生に認められたことも将来の道が見えたことも嬉しくて、やや浮足立ってジェームスとシリウスを探した。ちょうど2人で何か話していて、たぶんこのことじゃないかと思ってかけつけた。

「ジェームス、シリウス、今ダンブルドア先生から話をきいたんだ。不死鳥の騎士団のこと。」

周囲に人がいないか確認し、ちょっと声を潜めて話しかけると、2人もまったく同じことをして。

「ほらな、ジェームス、ダンブルドアだって考えは同じさ。リーマスも騎士団に相応しいってな。」

「そうなんだ、リーマス。今2人で話してたとこ。リーマスとピーターも一緒に加われないかなって。」

「ピーターは戦闘力としては俺たちほどじゃないが、頭はいいし努力家だ。あれこれと気がつくしな。」

「うん。僕もそう思う。ダンブルドア先生は、僕が人狼であることも活かせるって言ってた。たぶん人狼たちの情報を探れるってことだと思う。ピーターは、、」

「そうだ、魔法省!ピーターなら俺たちみたいに無駄に目立つことなく、魔法省で情報を探れるってもんだ。」

そうなれば、僕たちいたずら仕掛け人はそのまま騎士団4人組になって、闇勢力を打ちのめすんだと話が盛り上がり、ピーターからやってくるのを待てずに、ジェームスはダンブルドア先生に直訴に行った。こういう、相手が校長先生でも臆さず行動できるのがジェームスのすごいところだ。

数日後には校長先生と話したピーターが僕たちに加わって、不死鳥の騎士団、花の78年卒業組の団結を誓うことになった。

「でも僕、闇勢力が暗躍する魔法省で、1人で情報を探るなんてできるかな?スパイってことでしょ?」

ピーターがやや心細げに言うと、ジェームスは励まし、シリウスは豪快に笑い飛ばした。

「ワームテール、心配いらないよ。君ならなんだってできる。アニメガスだってやり遂げただろ?」

「魔法界のジェームス・ボンドってやつさ。かっこいいぞ、ワーミー。」

「なに、それ?」

「え、知らねーの?マグル界の人気映画。ジェームス・ボンドってスパイが美女を両手に悪者やっつけるスゲー話さ。名前はジェームスだけどな。」

ピーターはわかったのかわからないのか、首をかしげて笑っていた。

それからさらに数日後、僕たち4人が集まっている所に、リリーが走ってきた。ジェームスの肩をポンポンと叩き、久しぶりに晴れやかな顔で。

「私も君たちの仲間よ!」

それから周りを見回して声をひそめて。

「不死鳥の騎士団。私も加わりたいってダンブルドア先生にお願いしたの。先生も認めてくださったわ。」

これには4人ともびっくりして顔を見合わせた。ジェームスが珍しくあわてた様子で言い訳がましく言う。

「リリーに隠し事はしたくないから言っちゃったんだけど。」

そしてリリーに向きなおり。

「リリー、なんてことを。遊びじゃないんだぞ。命がけの危険な闘いなんだ。」

これをきいてリリーの目がみるみるつり上がっていった。

「ジェームス、あなたたちは危険な闘いに挑み、私のは遊びだというの?私には闘う力も勇気もないと言いたいのかしら?」

前からそうだったけど、リリーは怒るとこわい。言う内容がまた正しいことばかりだから、ジェームスはたじろぎ、僕はうなだれ、、、。こんなとき、空気を読まない発言ができるのはただ一人。

「でもさ、リリー、君だって一応女の子なんだから、、、」

ある意味勇敢と言えるけど、もちろんシリウスも撃破される。

「それならブラック、差しで勝負よ。私とあなた、どちらが闘いに相応しいか、杖で決着をつけましょう。」

ジェームスがあわてて、シリウスも自分も、リリーの身を心配しただけだとなだめ、シリウスもその通りなんだ、君が勇敢なのはよくわかってると頭をかいて謝った。もちろん僕に口出しする勇気はなかったけど、それでも僕も心配だった。リリーは僕と違って、他に選べる道がないわけじゃないんだから、あえて危険な道に進むことはないんじゃないか。

数日後、ジェームスたちがクィディッチの最後の試合に向けての練習に行っていた時、リリーと2人で話すことができた。

「リリー、ほんとうに不死鳥の騎士団で活動するつもりなの?もちろん、君が優秀な魔女で、僕なんかよりよっぽど勇敢だってわかってるよ。だけど、ただでさえ危険な活動なのに、魔女は目立つし、マグル出身とわかれば、よけいに狙われると思う。ジェームスもシリウスも、僕だって、心配なんだ。君は成績もいいから、他にいくらだってやりがいのあることを見つけられるんじゃないかと思うんだけど。」

「あなたたちが心配してくれているのはわかってるわ。でも私だって、ジェームスやあなたたちがするから私もなんて、安易な考えで決めたわけじゃないのよ。マグル出身だから狙われるなんて、そんな社会は間違ってる。狙われる当事者だからこそ、自ら立ち向かうべきよ、魔女であってもね。命がけの闘いになるとしても、狙われて怯えて、逃げ隠れするなんて、そんな臆病者にはなりたくない。よく考えて決めたことなの、リーマス。」

「君は勇敢な人だ。いつだって、たとえ一人でも、立ち向かう勇気がある。君がよく考えて決めたことなら、僕が口出しすることなんてないんだけど、ただ、、、君をたいせつに思う人がいることを忘れないでほしい。君に万一のことがあれば、ジェームスもスネイプもどんなに、、、」

リリーがはっとしたように顔を上げ、僕も自分が言ったことに気がついた。

「あ、ごめん、、、スネイプのことなんて言うつもりなかったんだ。気になってたからつい、、、。」

「いいのよ、リーマス。私も実を言うと、セブのことも考えてた。あなたはおかしいと思っていたのでしょう?セブとあんな経緯があったジェームスと、私が付きあい始めて。」

「いや、その、スネイプのことは気になってたけど、ジェームスは素晴らしいヤツだから、君が付き合っておかしいなんて思ってないよ。」

「いろんなことがあって、私もジェームスのこと、傲慢でイヤなヤツだと思ってたんだけど、でも彼は反省してあやまってくれた。人の言葉に耳を傾け、自分を見つめ直して過ちを正すのは、なかなかできないことよ。それを素直に伝えるのも、勇気のいることだと思うわ。だから、半ばジェームスを試すつもりでデートに応じたんだけど。彼、とても誠実だった。いつも自信満々の憎たらしいジェームスが、一生懸命なのを見てたら、なんか、かわいいなって思っちゃって。」

リリーが照れくさそうに笑い、その笑顔には、恋する女の子の輝きがあった。

「似合いのカップルだよ。ジェームスはほんとにいいヤツだし。」

「でもね、リーマス。ジェームスたちには内緒だけど、、、。セブはやっぱり特別なの。恋愛とかそんなんじゃないのよ。もしかしたら、そうなっていたかもしれないけど、そんな感情を自覚するほど大人になる前に道が分かれてしまった。」

リリーが遠くを見るような、寂しげな表情になる。

「私にはセブを見捨てることなんてできないわ。セブはマグルの町で初めて会った、たった一人の魔法使いの友達だったの。それまでわけもわからずに、なんか自分は人とは違うって、妹や友達から気持ち悪いおかしな子って言われながら、こんな素晴らしいことがなぜいけないのってずっと思ってた。そうしたらある日セブが現れて、魔法の世界を開いてくれたの。それは素晴らしいことなんだって言ってくれた。2人で話すすべてのことが、夢みたいに思えたわ。」

話をききながら、黒髪と赤毛をくっつけて笑う、幼い2人の姿が浮かぶ。

「ホグワーツに来る年になって、楽しみではあったけど、慣れ親しんだマグルの町や家族のもとを離れるのは寂しいし心細くもあった。セブは家のことでつらい思いをしてたから、マグルの町なんかさっさと離れたいって大人ぶって言ってたけどね。心細くて手をつないだらギュッと握ってきたから、セブだって不安はあったと思う。そうやって、手に手をとって、まだ知らない自分たちの世界に勇気を持って踏み出したの。セブがいなければ、私、来なかったと思う。1人では進めない道を、セブがいたから踏み出せた。その手を放す日が来るなんて、、、思ってもみなかったわ。」

「君にとってもスネイプはたいせつな友達だったんだね。」

「うん。友達以上。魔法使いの家族みたいに思ってる。だから、あきらめられない。セブはマグル界でつらい思いをしてたから魔法族の血を尊ぶし、寂しい子供時代を送ったから人づきあいが苦手で、いいか悪いか考えもしないまま闇の魔術にはまっちゃったりしてるけど、根は寂しがりやで、まじめで律義でやさしいのよ。バカげた純血至上主義の闇勢力の台頭なんてことがなければ、ただちょっと人あたりが悪い変わり者ですんだのよ。だからね、リーマス、私は決めたの。闇勢力なんて打ち負かして、セブを取り返す。セブが自分で戻れないなら、私が連れ戻す。」

「・・・。スネイプは幸せだな、君にそんなふうに思ってもらえて。君ならほんとにできそうに思えるよ。」

「そうでしょ、リーマス。でもほんとは、、、ちょっと怖い。やっぱり、命がけの活動だもの。でもやり遂げてみせる。マグル出自の意地とセブのためにね、そしてよりよい社会のために。ジェームスやあなたたちとも一緒なんだもの、勇気を持って闘うわ。そして成し遂げた暁には、、、セブにはしっかり反省してもらうわよ。手がかかるんだから。ジェームスだって心を入れ替えたんだから、お互いにあやまって、過去を水に流さなかったら、私が許さないわ。それにリーマス、あなたもよ。その時は今度こそ、あなたも私と一緒に2人を説得してちょうだい。」

わ、僕にも来た。あわてて力いっぱいうなづいて。

「もちろんだ。僕もそうすべきだよ。うん、今度こそ、僕も勇気を持って言うべきことを言うべきだ。」

何言ってんだかわかんないけど。それにしても。

「リリー、君はほんとに、、素晴らしい魔女だね。ジェームスにもスネイプにも、慕われるのがよくわかったよ。聡明でやさしくて、そして誰より勇敢だ。君と一緒に騎士団で闘えるのが誇らしく思える。だけど、、、ほんとに気をつけてね。君はたいせつな人なんだから。」

リリーは嬉しそうに笑ってうなづいた。

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