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セブルス・スネイプと死の秘宝(エピローグ)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


~ホグワーツ特急のコンパートメントで~

「こんにちは。僕、スコーピウス・マルフォイ。よろしく。君たちも1年生?」

「ええ。あたし、ローズ・ウィーズリーよ。さっき、パパがあなたのこと言ってた。あなたに成績負けちゃダメだって。あたしはママに似て頭がいいから大丈夫だろうけどってね。パパのこと知ってるの?」

「さあ?、、、あ、もしかして、君の母上って、グレンジャーっていう?」

「そうよ!ハーマイオニー・グレンジャー。今はウィーズリーだけど。」

「君の母上のことならきいてるよ。その方の娘なら頭がいいはずだから、見習って勉強しろって、父上もセヴィおじさまも言ってた。お祖父さまは、、なんでかわからないけど、親切にしなさいって。」

「ママとあなたのおとうさんって、お友達だったのかしら。とにかくよろしくね、スコーピウス。ほら、アルも。」

「僕、アルバス・セブルス。僕も1年生だよ。ローズとは従弟同士なんだ。」

「え、セブルスって言うの?セヴィおじさまと同じ名前だ!」

「セブルスっていう人のことも知ってるの?スリザリン出身の校長先生だったんだって。僕の名前、その人からもらったんだって。」

「それ、セヴィおじさまのことだ。セブルスっていう名前で、スリザリン出身の校長先生だった方だよ。僕もスリザリンに入るんだ。」

「父さんが、その人は、父さんが知っている中で、一番勇敢な人だって言ってた。」

「君の父上って、セヴィおじさまの知り合いなの?」

「アルのお父さんはね、有名なハリー・ポッターなのよ!」

「すごいね!うちでもハリー・ポッターの話をしたことがあるよ。セヴィおじさまが、ハリー・ポッターは誰よりも勇敢なんだって言ってた。そうしたらお祖父さまが、セヴィおじさまはハリー・ポッターの母親のようなものなのだって言ってたよ。だから君の名前につけたのかな?」

「じゃあ、その方は僕のおばあちゃんみたいな人ってこと?おじさまがおばあちゃんって、よくわからないけど、父さんの育ての親みたいなのかな?なんだか、、僕もスリザリンに入りたくなっちゃったよ。」

「え、アルもスリザリンがいいの?あたし、グリフィンドールじゃなかったら、パパやおじいちゃんに怒られちゃう、、。寮が違っても、仲良くしてくれる?」

「もちろんさ!」

「もちろんだよ!」


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セブルス・スネイプと死の秘宝(33)終章

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


~19年後~

「リーマス、おはよう。もう起きる時間だ。」

軽く頬に触れて起こしたが、ルーピンはベッドの中で毛布を抱え込んでぐずぐずとしてる。私は先に起きて自分のためにコーヒーを入れた。いつの間にか甘党のルーピンにつられて砂糖もミルクもたっぷり入れるようになってしまったが、今朝は久しぶりにブラックにした。すっきりと気分を引き締めたいのだ。今日は、特別な日なのだから。早めに出たいのに、ルーピンは一向に起きてこない。

ルーピン、起きろ、もう時間だ。起きないなら、一人で行く。」

もう一度声をかけると、ようやくルーピンも起きてきた。髪はすっかり白くなり、わずかにライトブラウンが混ざる程度になっている。ルーピンを急きたてて外に出ると、カラッと晴れた、日差しの明るい、冷んやりとした朝だった。今年の秋は突然やってきたようだ。

「急に寒くなったね。君が突然ホグワーツ特急の見送りに行くなんて言い出すから、天気もびっくりしたんだ。」

「突然言ったわけではない。数日前から言っておいたではないか。」

ルーピンと話しながらキングスクロス駅に着くと、9番線と10番線の間のホームにはもう人が溢れていた。

「だから早く出たかったのだ。スコーピウスの見送りもしたいし、それに、、」

「あ、セブルス、あそこにハリーたちがいるよ!」

ホームの柱の手前に、たしかにポッターがいた。瞬時に記憶が蘇る。ホグワーツの大ホールで私の目に飛び込んできた憎らしげな少年がそこに、、。いや、そんなはずはない。その少年の前を、もう少し背の高い少年が飛び跳ねるように歩いている。そして2人の後ろに、ポッターはまだ小さな女の子の手をつなぎ、ウィーズリーの末娘と歩いていた。

「次男のアルがホグワーツに入学するんだ。早いもんだね。アルバス・セブルスが1年生だよ。」

「私の名を子供につけるなど、ポッターは気が触れたとしか思えぬ。しかも、その後にポッターが続くのだ。アルバス・セブルス・ポッターなどと、ポッターは私に嫌がらせしたのだな。」

「そんなはずないじゃないか。わかってるくせに。君は相変わらず素直じゃないな。」

兄らしい背の高いほうの少年が、弟に何か話しかけた。弟が怯えた顔で何か言い返しているのに、兄はそのままホームの柱の中にかけこんで消えた。

「ルーピン、ジェームス・シリウスがアルバス・セブルスをいじめているようだ。まったくひどい名付けのセンスだが、、ポッターはなぜ止めぬのだ!」

「ジェームス・シリウスがアルバス・セブルスをからかっただけさ。そんなに気になるなら、ハリーの家に行って、ハリー似でリリーの目を継ぐアルバス・セブルスを可愛がってやればよかったじゃないか。妹のリリー・ポッターだっているんだし。」

「正確には、リリー・ルーナ・ポッターだ。母親のウィーズリーにそっくりな娘だな。」

ポッター親子も柱の中に消え、少し間を置いてから、私たちも柱を通って9と3/4番線のホームに入った。ホグワーツ特急が蒸気を吐いて止まっている。柱の陰から見ていると、煙る蒸気の切れ目から、ポッター一家がロナルド・ウィーズリーとグレンジャーの夫婦に歩み寄るのが見えた。この2人も、女の子と少し小さな男の子を連れている。ローズとヒューゴというらしい。それにしても、皆大きくなったものだ。

「おや、あれはおまえの息子のテッドではないか?」

ポッターたちよりさらに遠く、ピンク色の髪をした少年が、美しい少女の肩を抱いていた。

「ああ、テディだ。もう卒業したのに、何をしに来ているのかな?」

「見たとおり女の子の尻を追っかけているのだろう。母親譲りの美貌は、フラーの娘のヴィクトワール・ウィーズリーだな。」

「君は会ったこともない子供たちの名前まで、やけに詳しいね。」

「聞きたくもないのに、おまえが毎晩話すからだ。」

ルーピンが手を振ったが、テッドは父親に気づきもしなかった。ルーピンはがっかりした顔をしたが、子供など恋をすればそんなものなのだ。もっとも、アンドロメダの懇願に負けて息子との同居をあきらめ、ポッター家での顔合わせで満足したルーピンの、いい加減な父親ぶりにもよる。それに比べて。

「セヴィ、来てくれたんですね。スコーピウスの見送りに。おはようございます、ミスター・ルーピン」

私に気づいたドラコが、息子の手を引いて妻とともに挨拶に来た。育ちの良さはこのようなところに現れるものなのだ。

「ドラコ、アストリア、それにスコーピウス。今日から立派なホグワーツ生だ。しっかり勉強するのだぞ。」

スコーピウスは私にまとわりついてきた。ルシウスの真似をして私をセヴィと呼ぶようになり、それにつられてドラコもまたセヴィと呼ぶようになってしまった。

「お祖父さまが、今日はセヴィおじさまと一緒に、僕に箒を買ってくれるって言ってた。」

「そうだ、スコーピウス。お祖父様はよい箒をご存じだろう。さあ、遅れないように汽車に乗りなさい。」

ドラコたちも前に向かって歩いていった。あの小さかったスコーピウスがもうホグワーツに入学とは、時の流れは早いものだ。

ドラコにそっくりなスコーピウスが生まれた時、マルフォイ家は喜びに溢れ、私も入り浸りになった。マルフォイ家に泊まり込んで、数日ぶりに農場の家に帰ったら、ルーピンが目の下に隈をつくって待ち構えていた。そして私に、正式にパートナーとして暮らしてほしいと言った。私は少し考えて了承し、私もルーピンと家庭のようなものを築いてみたいとルシウスに言ってみた。ルシウスは怒りというよりひどく傷ついた表情をして、それを見た私は胸が痛んで一度は撤回したのだが、しばらくして、ドラコ親子を眺めている私に、ルシウスのほうから、したいようにしてよいと言ってくれた。

そのようにして、結局のところ、マルフォイ一家と私、私とルーピン、ルーピンとテッドの親子という3つの円が部分を重ね合わせ、緩やかに家族めいた絆を保ちながら時を重ねることになった。形がどうであれ、気持ちの繋がりそのままに暮らしてもよいのではないかと、3人とも思ったのだった。

その後も私はルシウスから仕事の協力を得ていたし、週に3、4日はマルフォイ家で食事を共にし、ルーピンも同じくらいテッドを交えたポッター家の食事に加わっていたから、たいした変化はなかったとも言える。テッドがホグワーツに入学してからも、その習慣は変わらず続いた。

スコーピウスに初めてじーじと呼ばれた時、ルシウスは絶句していたものだが、今では孫可愛さからお祖父さまと呼ばれて目を細めている。私もセヴィおじさまと呼ばれながら、幼い頃のドラコの世話をしたように、スコーピウスの世話をしたり勉強を教えてやったりした。今日はルシウスも誘ったのだが、来なかった。ウィーズリー家の大家族ぶりを目にするのが嫌なのだ。

昔を思い出しているうちに、発車時間が近付いたようだ。子供たちが汽車に駆け込み始めた。ポッターは入学する次男と2人で何か話してから、汽車にのせていた。動き出した汽車の窓から子供たちが顔を出し、親や弟妹たちと手を振り合っている。ポッターも動き出した汽車を追って歩きながら、手を振っている。

リリーはこんな景色を夢見ていたのだろうか?命をかけて守った赤子が立派に成長し、妻を得て子を為し、その子供たちをホグワーツに見送る。自分たちで勝ち取った平和な世で、子供たちを慈しみ、守り育てて。

それはもう、リリーが夢見たことなのか、私が見た夢なのか、判然としない。リリーに語りかけることをしなくなって久しいが、私の思いの中にはいつもリリーの思いがあるように思う。たとえば新しい魔法薬をつくり、それがどこかで誰かの喜びにつながることを祈る時。それは私の中に生きるリリーの祈りのようにも感じられるのだ。こうして死者は、愛した人の中に生き続けていくものかもしれない。

「私たちがこの特急に乗ってホグワーツに行ってから、もう半世紀が過ぎたんだよ。」

汽車を見送っていたルーピンがしみじみと言う。そうだ。私もリリーとともに、惨めで寂しかった両親との暮らしに別れを告げて、夢と希望に胸をふくらませながら旅立った。夢見ていた通りになったとは言えないのだが。

「ああ、もうそんなになるのだな。」

「私はあの時、不安でいっぱいだったよ。守っていてくれた親と離れて心細かった。寄宿生活の中で人狼の正体がバレたらどうなるんだろうって。私を入学させてくれたダンブルドアにも迷惑をかけるのではないかと、不安でたまらなかった。」

ルーピンはそんな気持ちで特急に乗ったのだ。苦しい運命を背負いながら、よくもここまで善良さを失わずに生きてきたものだ。それにしても半世紀も前に、人狼の子供をホグワーツに迎え入れるとは、ダンブルドアもよく考えついたものだ。今ではルーピンは魔法省に勤め、人狼や魔法生物の権利と生活向上のために働いている。私も協力して脱狼薬が多くの人狼の手に届けられるようになり、世に受け入れられる人狼の数も少しずつ増えてきた。ダンブルドアが半世紀も前に蒔いた小さな種が、大きな実をつけ、落とした種からまた新しい芽が育っているのだ。

「だけど、思いがけず友達もできて、君にも会えた。あの時は、こんな人生を送れるなんて、想像もできなかったよ。セブルス、私は初恋が実ったんだからね。」

ルーピンが私のほうに顔を向けて、白髪頭に似合わぬことを言う。私の黒髪にもずいぶん白髪が目立ってきたから人のことは言えぬが。ルシウスの美しいプラチナブロンドも薄くなってしまった。


特急は蒸気をあげながら角を曲がって小さくなり、ホームの先では、息子たちの見送りを終えたポッターが、振っていた手を下げてふと額に触れていた。そこにまだあの傷はあるのだろうか?私も左の前腕をふと押さえた。闇の印はすでに形のわからぬあざのようになり、あれ以来焼け焦げることもない。

ポッターはこちらに向きを変え、私に気づいたように一瞬立ち止まった。と思う間もなく、私の前に立っていた。相変わらずの瞬発力だ。

「先生!」

「ポッター。」

言葉が続かず、しばらく向かい立つ。19年前に至る、長い年月の様々な出来事に思いが巡り。あれから、数年はポッターに会うまいと思っていた。ポッターを見て記憶に圧倒されては、自分の道を見つけることができぬから。だが、魔法薬の仕事が進みだし、生活が落ち着いた頃には、ポッターに会う理由もないと思うようになっていた。ルーピンには何度も誘われたが、ポッターはすでに、私の助けなど必要ない自立した大人になったのだし、親しくもなかった教師と生徒に今さら会う理由もないのではないかと思ったのだ。

だが、ホグワーツに入学する年齢になったスコーピウスを見ているうちに、幼かった少年のポッターを思い出し、会ってみたくなった。ホグワーツの大ホールで初めてポッターを見た時には、父親そっくりの姿に失望し、怒りと憎しみを抑えられなかったものだが、その姿を思い浮かべても、もうそんな感情が強く湧きおこることはなかった。

時が過ぎたのだ。

凍りついた時の中で変わることのなかった激しい感情も、穏やかに流れる時に溶け込み、霧に浮かぶ小さな影のように定かでなくなった。ただかすかな痛みと懐かしさが胸を満たし、すべてが始まったこのキングスクロスの駅で、再びポッターに会おうと決めたのだった。

リリーの死から戦いの終わりまで、私の愛と憎しみと悔いのすべてを投影していた少年が、今幸せそうな父親になって、私の前に立っている。変わることのない緑の瞳を見開いて。

「ポッター、大人になったものだ。」

「お久しぶりです、先生。19年ぶりです。僕も、あの頃の先生と同じくらいの年になりました。」

「もうそんなに経ったのだな。」

「はい。あの後お会いできませんでしたが、先生のことをよく考えていました。結婚したり、子供ができたり、幸せなことがあるたびに、先生はこんな時期を犠牲にして、ずっと僕を守っていてくれたんだと。僕は何も気づかず、偏見にとらわれて反抗してばかりいたのに。」

「ポッター、私はあの時期を、犠牲にしたなどと思ったことはない。君の母親に死をもたらしてしまった過ちは悔いたが、その後の戦いの日々に悔いはない。戦いの後君が幸せに過ごしたなら喜ばしいことだ。それが君の母親の願いだった。私はそのために戦ったのだから。」

「母さんのことを思うとき、僕はいつも先生の守護霊を思い出すんです。ディーンの森で、行き詰っていた僕を、やさしく、厳しく、包むように導いてくれた。とても懐かしい気持ちがして、疑いもなく着いていった。なぜあの時気づかなかったのかと、何度も思ったものです。」

リリーは息子に与えたかったものを、幼い頃の私に与えてくれていたのだ。どうやら私はそれを伝えることができたようだ。リリーの思いが胸を満たす。

「立派に育ったものだ、ポッター。母親もきっと喜んでいることだろう。」

「先生、僕たちの家に遊びに来てください。ロンもハーマイオニーも、今では家族になっています。子供たちにも会ってもらいたいし。」

「それではそのうち、機会があればうかがわせてもらおう。」

私たちに遠慮するように、少し離れた所で、ルーピンとウィーズリー、グレンジャーたちが待っていた。ポッターも含め、皆ダンブルドアが蒔いた種を、たいせつにその中で育てている。ポッターは闇祓い局の局長となり、ディーンの森で予想外の勇気と友情を示したウィーズリーも闇祓いになったときいた。グレンジャーは屋敷しもべ妖精やマグルの擁護のために働いているそうだ。償う術のない過ちを悔み、闇の台頭を抑え、マグルや魔法生物と共生する寛容な社会を目指すと決めたダンブルドアの志が、彼らの中に受け継がれ息づいている。ダンブルドアに伝えてやりたいものだ。全てお見通しだったのかもしれないが。

私はホグワーツの闘いの最中、たぶん理由もわからぬままに私の命を助けてくれたグレンジャーに目で感謝の気持ちを送り、ルーピンとともにキングスクロス駅をあとにした。

「ハリーとの再会はどうだった?」

ルーピンが話しかけてきたが、私は他のことを考えていた。

「リーマス、私はホグワーツに戻ろうかと思っている。」

「え?今まで何度ミネルバに招かれても断っていたのに?」

「スラグホーン教授が、できれば私に引き継ぎたいと頑張っていたのだが、もう限界だそうだ。今年のクリスマスは引退してのんびり迎えたいと言っている。あの方ももうお歳だからな。仕事に区切りをつけて、学年途中だが後を継ごうと思う。」

ルーピンが少し心配そうな顔をした。

「いいと思うけど、まさか前みたいにホグワーツに住むつもりじゃないよね?」

「もちろん通いだ、リーマス。おまえがいるのだから。」

ルーピンが嬉しそうな顔になる。頼りないが、いつも私の傍にいて、想いを隠さぬルーピンに、どんなに癒されたことか。

「でもさ、ホグワーツで名前の由来の君に会ったら、アルは驚くだろうね、スネイプ先生。」



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tag : ハリーポッター セブルススネイプ ポッター ルーピン ルシウス

セブルス・スネイプと死の秘宝(32)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)

マルフォイ邸でこれからのことを思いあぐねていたある日、私は名も知らぬ法律事務所から連絡を受けた。ダンブルドアの遺書を預かっていると言う。ヴォルデモート卿の死が確認され、私が生きていれば渡すよう託されていたものだったが、私の所在がようやくわかったとのことだった。部屋に戻り、急いで封筒を開くと、農場の所有権を記した書類と、長い手紙が入っていた。


セブルス、愛しき子よ、

おまえさんがこの手紙を読んでいるということは、わしが予定通りの死を遂げ、ヴォルデモート卿は消滅し、おまえさんは生き延びられたと言うことじゃ。めでたいことじゃのう。ハリーはどうなったかの?わしはきっと無事だと信じておるが。

おまえさんは、わしがハリーに対するほどの信頼をおまえさんに持っておらんのではないかとずいぶん気にしておったの?わしは、おまえさんのことも、ハリーのことも、100%信頼しておったが、少し違うところもあった。おまえさんについては忠誠心と有能さを、ハリーについては愛を知る純粋で勇敢な心を信じたのじゃ。

ハリーは、まこと、純粋で無垢な少年としてホグワーツにやって来た。親の顔も知らず、親戚の家で邪魔者扱いされて育ったのに、世を恨むわけでもなく闇に囚われるわけでもなく、ただ記憶もない両親を慕う心に満ちておった。おまえさんも、みぞの鏡は知っておるの?自分の心の願いが映る鏡じゃ。ハリーは鏡の前で、亡き両親の姿をいつまでも眺めておったものじゃ。ハリーの心にあるのは純粋な愛だけじゃった。

わしも鏡の前に立つと、亡き家族を見たものじゃ。じゃが、わしの心は後悔に満ちておった。わしはおまえさんと逆で、自分の悪いところを見せたくなくての、誰にも言わんかったがおまえさんには言ってもよいじゃろう。もしかしたらもう暴かれておるかも知れんがの、若い頃の過ちで、妹を亡くしてしまった。わしがひどく傲慢で自分勝手だったからじゃ。わしは家族を愛していたのじゃが、自分の夢を優先して妹のことをきちんと考えなんだ。妹にも、妹を大事にしていた両親にも謝りたくての、その姿が映る鏡に囚われたものじゃった。同じものを見ておるのに、ハリーとは何と違うことかと思ったものじゃ。

もうわかっておるじゃろうが、おまえさんは、若い頃のわしと同じような姿でわしの前に現れた。愛を知っておるくせに、自分勝手な思いから、愛する人に死をもたらすほどの過ちを犯した。リリー・エバンスの死を嘆くおまえさんに、憐れみは感じたが同情はせなんだ。わしと同じと思ったからじゃ。しかも、同じほどの過ちを犯しながら、おまえさんにはハリーが遺された。わしはおまえさんを妬んだのじゃ。死んでしまった愛する人の遺志を継ぐ、直接的な贖罪の道が遺されておったのじゃからの。

じゃが、それはわしの計画にも都合のよいものじゃったから、わしは手元に置くことにした。懸命にハリーを守るおまえさんの姿を見るのは、複雑なものじゃった。その健気さに胸を打たれることもあれば、わしもアリアナや父母のためにできることがあればどんなによかったろうと、妬ましくも思えた。わしには家族に償う術もなく、ただわしに誤った夢を植え付けた闇の魔術を憎み、その台頭を抑えることに力を注ぐことしかなかったのじゃから。

わしの信頼に応え、優秀に任務を果たすおまえさんを身近に見ているうちに、いつしか、わしと同じ志で過ちを犯させた闇を憎み、ヴォルデモート卿と戦う同志と思うようになっておったのじゃがの、長い年月を経てなお、リリー・ポッターと同じ守護霊を出すおまえさんを見て、涙を抑えられんかった。おまえさんは、変わることなく愛する人への贖罪のために戦っておったのじゃの。わしが当初思ったよりも、おまえさんはずっと純な魂を持っておった。わしのように自分勝手だったわけではなく、ただ世間知らずで愚かだっただけなのじゃ。

さて、セブルス。おまえさんは今、贖罪を果たせたわけじゃ。ハリーが生き延びられたかはわからんが、リリー・ポッターの遺志を継いで、遺された赤子を守り抜き、ヴォルデモート卿に立ち向かう勇敢な青年に育てあげたのじゃからの。羨ましいことじゃ。

じゃが、あまりに一途に贖罪に身を捧げてきたからの、この先どう生きるべきかと途方に暮れておることじゃろう。愛も悲しみも憎しみも、豊かな感情を持ちながら、長年任務のために心を閉じて暮らしてきたからの、溶けて流れ出す様々な感情に戸惑いもするじゃろう。

溶け出でる思いを味わいながら、ゆっくりと考えることじゃ。おまえさんは人を愛する強さも優しさも持っておる。自分の過ちから目をそらさずに、命をかけて償う勇気も力もあった。おまえさんの行為は実に勇敢じゃった。贖罪への強い思いがそれを育てたのかもしれんの。

償いにかけた長い年月、おまえさんがそのついでのようにやり過ごした日々の出来事の中に、様々な種が蒔かれていたはずじゃ。そのまま眠らせるべきものもあろうが、中には勝手に芽を出して育っているものもあるじゃろう。わしが知る限りでもいくつか思いつくがの。その種や芽を顧みて大事に育ててやるのもよいかもしれん。

おお、そういえばおまえさんにはブロンドもおったの。隠しても無駄じゃ。神秘部の闘いの後で、安全なアズカバンに放りこんでやったのに、礼も言わんとはあきれたもんじゃ。わしが過ちを犯すきっかけとなったブロンドなどはひどいもんじゃった。妹の死とともにわしを放り出して逃亡したのじゃ。結局は決闘して終身刑務所に送りこむことになった。向こうであれと会う日も近いじゃろうが。ともかくおまえさんには、小物じゃが情の深いブロンドがおって幸いなことじゃ。

わしは、戦いの終わりまでに、ある物のためにおまえさんの命が危険に曝されるかもしれんことを知っておる。それが何であるか、なぜそのことを話してやれんかったか、すでもわかっておることじゃろう。おまえさんが今生きているのは、それを乗り越えられたということじゃからの。今あるおまえさんの命は、マーリンの意思であり、おまえさんの意思であり、蒔かれた種や芽の願いなのじゃ。わしの願いでもある。

これから進む道に必要なものはすべて持っておるじゃろうが、一人じっくり考えたいと思うなら、この家を使うがよい。わしが妹を失ったあとの数か月を、悔いと涙にまみれ、途方に暮れて過ごした場所じゃ。いくつかの決意を胸に、再び歩みを始めた場所でもある。100年以上放置したままじゃから、どうなっておるかは知らんがの。

悔いを乗り越えられたらまた訪れようと思ったこともあったのじゃが、果たすことなく死に誘われて逝くことになった。おまえさんの手で安らかに逝かせてもらえるのは、ありがたいことじゃ。このことで心を痛めるでないぞ、セブルス。至らぬ人生じゃったが、わしはもう十分に生きたと思っておる。少しは世のためになることもできたと思うのじゃが、やさしいおまえさんはそう言ってくれるじゃろう?

贖罪を果たした後にはどんな景色が見えるのか、どんな実りが訪れるのか、おまえさんには、それを十分に味わってほしいと願っておる。

愛をこめて

アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア


手紙を読み終え、ダンブルドアを想った。最も偉大な魔法使いと言われたダンブルドアも、深い悔いを抱えて長い時間を懸命に生きたのだ。ダンブルドアはいつこの手紙を書いたのだろう?ポッターに告げるべき最後の真実を私に話して、しばらく経った頃だろうか?手紙の中には、すでに死の直前に、私に話してくれていたこともあった。言わぬつもりが、直前に心を変えたこともあったのだろう。

信頼を得たいと思い、また父親のような情を期待したこともあったが、ダンブルドアが私に対して、複雑な思いも持っていたのだと知った。ダンブルドアの当初の意図がなんであってにせよ、ダンブルドアはリリーの遺志を、私にかかる守りに変えてくれた。その導きが私に贖罪の道を与え、生かしてくれたのだった。そしてこれからは、与えられた道を歩むのでなく、自身で道を考えよと言い残した。

ダンブルドアが遺してくれた農場を訪れてみると、、、そこは農場だったと言うのもはばかられる荒れ地で、あばら家と言うのも躊躇われる崩れた家屋が残っていた。しばらくそこに住みたいという私に、付いてきたルシウスは呆れ果てていたが、それでも元の家を踏襲した小奇麗な家に直してくれた。

ダンブルドアが涙し新たな歩みを始めたというその家で、来し方を振り返り、心を開いてみようと思う。長年閉じることに慣れた心は、一人であっても開くのを躊躇う。少しずつ、一つずつ、時間をかけてほぐしてゆくしかない。その中に私が蒔いたという種や芽を見つけることができるだろうか?ダンブルドアのように、新しい決意を胸に旅立ってゆけるだろうか?

だが、漠然と過去を振り返っていると、いつの間にか思うのはリリーとポッターと戦いのことになっていた。長年そればかりを考えてきたのだから当然といえば当然なのだが。贖罪を果たしたとして、私がこの先自分の道を見つけるためには、一度この思いから離れなければいけないのかもしれない。

リリー、私はしばらく、君の息子を忘れていいだろうか?君の遺志である君の息子は、この長い年月、君が私に遺してくれた守りのようなものだった。そのおかげで私は生きてこられたのだ。だが、君が息子にかけた愛の守りが解け、その息子が戦いで皆に守りをかけるほどの勇敢な青年に育った今、私もその守りを解きたいと思う。

この守りがある限り、私は前に進んでゆけないのだ。私にとって、守りは呪縛でもある。君の息子のことを考えると、私は様々な強い感情に圧倒されて、他が見えなくなってしまう。君への想い、悔い、悲しみ、そして、ポッターの父親への憎しみと嫌悪。あまりにも強く根付いてしまったそれらの思いを、解き放つには時間が必要なのだと思う。

リリーは少し寂しげに、でも笑ってうなづいてくれたと思う。

ともにヴォルデモートを埋葬したとき、ポッターと私の間には、たしかに何か、通い合うものがあった。命をかけてヴォルデモートに立ち向かった互いに対する敬意のようなものだろうか。私はポッターの中にリリーの魂を感じ、ポッターも私の中に母親への深い愛と償いの気持ちを感じたかもしれない。しかしそれはリリーを通じた何かであって、ひとたび父親のことを交えれば、あの時通じたものが壊れてしまうように思えた。あの時のポッターを、私の中にしまっておきたいと思う。いつか、1人の人間としてポッターを見られるようになる日まで。

だからリリー、しばらく君に話しかけないけれど、心配しないでほしい。私の中に、君はもういるのだと思うけれど。

それから、リリーやポッターに関わらないことをなんとか思い浮かべようとした。最初に思いついたのは、私の命をつなげてくれた魔法薬のことだった。焦燥感を堪えるために開発した気休め程度の薬だったけれど、死んだかと思った私の命をつなげてくれた。改良すれば緊急時に役立つはずだ。もしもその薬で誰かの命が救われたり、家族との最後の対面がかなうようなことがあれば、嬉しいことだと思う。

そんなふうに、過ぎた日に思い巡らせて種や芽を探したり、戦いで亡くなった知人たちの墓参りをしたりして過ごした。私はしばらくは一人で静かに考えるべきだと思ったから、居場所は明かさなかったのだが、そのうち、ルーピンが訪ねてきた。

息子のテッドと暮らそうとしたが、アンドロメダから、差別され生活が安定しないばかりか、幼い子には危険極まりない人狼よりも、自分の元で育てたいと懇願されてあきらめたという。後見人のポッターの家で頻繁に会えるように取り計らって納得したと言うから、いい加減な父親だ。ルーピンとしては、息子にとって何が一番よいかを考えた末のことだと言うのだが。行くあても目的もなくなり、ルシウスに私の居場所を聞いてやってきたのだった。

ルーピンはそのまま家に居つき、それを知ったルシウスは激怒してアヴァダを掛けそうになったのだが、私が長年の友人で命を助けてくれた1人でもあるととりなすと、農場の手入れをする下男としてなら居てもよいと認めてくれた。実際、放置されていた農場には100年の間に得体の知れぬ魔法生物があちこちに住みついていて、その対処はルーピンの得意分野だった。

ルーピンは、なぜ私と住むのにルシウスの認可がいるのかと文句を言ったが、いやなら出ていけと言っても出て行かなかった。ルーピンの働きで、荒れ地は徐々に農場らしくなり、その一角に良質な薬材のための薬草園を作ることができた。努力を認めて、脱狼薬にも手を入れて少し甘味をつけてやったら、ルーピンはすごく喜んでいた。

ルシウスといると、憧れてすべてを任せていた少年の頃のような頼りない気持ちなってしまうのだが、ルーピンとなら互いに助け合って成長していけるような気がした。要するにルシウスに対しては恋心があって、ルーピンは気楽だということなのだが。

短い夏に秋の気配が忍び込んできた。日差しも雲も空の色も、少しずつ変わってゆく。蒔いた薬草の種は、芽を出し、葉が開き、見るたびに姿を変えてゆく。荒れた農地の木々の葉も、色を変えやがて少しずつ落ちていった。時間はこのように過ぎ、このように続いてゆくものなのだ。懸命に贖罪に捧げていた頃も、私の周りで時はこのように流れていたのだろうか?

贖罪を終えた後の景色には、日々小さな変化や発見があり、それが毎日積み重なって続いていった。



tag : ハリーポッター セブルス ダンブルドア ルシウス ルーピン

セブルス・スネイプと死の秘宝(31)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


そんなある日、ダイアゴン横町に出かけたドラコが、グレンジャーを伴って帰って来た。ルシウスもナルシッサも驚いたのだが、横町でドラコを見つけたグレンジャーが、私の居場所を問い詰めて強引に着いて来たらしい。ドラコとしても、闇陣営が戦いに負けたことや何かで、遠慮めいた気持を持っていたようだ。私をみとめるとグレンジャーはまっすぐに近づいて来た。

「先生、生きていたのに、なぜ身を潜めていたのですか?」

グレンジャーの声に詰問とすら思える響きを感じてたじろいだ。ここしばらくの自分の行動を振り返ればなおさらだった。もちろん、命を助けてくれたグレンジャーに、もっと早くに礼を言うべきだった。だが、なぜグレンジャーは怒っているのだろう?

「グレンジャー、感謝、、」

グレンジャーの目に涙が溢れだす。驚いて言葉に詰まると、そのまま抱きつかれて茫然とした。泣いたり抱きついたりする女子生徒は目にしたことがあるが、そのようなことを私にするなど、いったいどうしたことか?ルシウスもナルシッサもドラコも、あっけにとられて見ている。

「リーマスからご無事とはきいていましたが、あんなひどい傷を負ったまま姿を消してしまって、、ハリーから聞くまで、みんなどんなに、、」

グレンジャーは、、、もしかすると、死にかけた私のことを心配していたのだ。心配したとなじっているのだ。成績は優秀だが、ポッターの援軍程度にしか考えていなかった生徒が、私を心配したと泣いている・・・。私は長年教師だったのに、生徒のことなど何もわかっていなかった。見る気もなかったのだ。特にポッターが入学してからは、ポッターを守ることしか考えていなかったから。

「グレンジャー、助けてくれて感謝している。おかげでこの通り、元気になった。」

気を取り直してようやくそれだけ言い、抱きつき癖のある生徒の肩を軽くたたいてやった。興奮が収まったのか、グレンジャーも涙を拭いて、笑顔になった。私も笑ってみせたが、グレンジャーは引かなかったから、笑顔に見えたようだ。

見ていたドラコが一歩前に踏み出し、思いきったように言い始めた。

「グレンジャー、僕もまだお礼を言ってなかった。戦いのときに、おまえたちが僕とゴイルを助けてくれた、、ありがとう。」

最後は消え入りそうな声になっていたが。グレンジャーが戸惑ったように答えた。

「クラッブは、、残念だったわね。」

ナルシッサも会話を聞いて、ドラコの肩に手を掛けながら頭を下げた。

「あなたたちがドラコを助けてくれたの?ありがとう。」

「ミス・グレンジャー」

ルシウスが言いかけると。

「ミスター・マルフォイ、あなたからはもうお礼は言われました、叫びの屋敷で。私、お礼を言ってもらおうと思って来たわけじゃありません。」

「だがドラコを助けてくれた礼はまだ言っていない。感謝する。」

「私、、叫びの屋敷に戻ってあなたを見た時驚きました。先生はもう死んじゃったと思って、私たち何もできずに立ち去ってしまった。だけど、、戻ったらあなたが必死に助けようとしていて・・。先生が元気になってくれて、よかったです、ほんとうに。」

グレンジャーはまたわずかに涙ぐんだが、皆に頭を下げて出ていった。その後をドラコが飛ぶように追いかけていった。

贖罪に心を傾けて、私は心の中の死者とばかり話していたが、そのような日々にも生者との関わりはあったのだと、グレンジャーに会って思い至った。それならば、、私には他にも会わねばならぬ者がいることを思い出した。

翌日私はウィーズリー家を訪ねた。一家はやや遠巻きな雰囲気ながら、私の無事を喜こぶ言葉をくれた。私はフレッド・ウィーズリーのお悔みを言い、ジョージ・ウィーズリーに会いたいと言ったのだが、彼は家にいなかった。今は『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』の店に寝泊まりしているという。店のほうに訪ねて、ポッターの脱出作戦の折に、誤って耳を切り落としてしまったことを詫びた。

「先生はさ、呪文は上手いけど、箒は苦手なんだな。」

「残念ながらその通りなのだ。すまないことをした。すぐに手当てしてやれればよかったのだが、あの時は任務のためにそれもできず、、」

「いいんだ。片耳にはもう慣れたから。ちょっとバランスが変わっただけさ。だけど、、双子の相棒がいなくなったのには慣れなくて、、。母さんが辛そうな顔をするんだ、僕の顔を見ると。」

「それでここに住んでいるのか?」

ジョージ・ウィーズリーはうなづき、顔を上げて言った。

「だけど先生、生きててよかったな。裏切り者だと思って悪口言っちゃってたんだけどさ、なんか悪い気がするよ。」

それぞれが傷を負い、悲しみに耐え、乗り越えようと努めている。フレッド・ウィーズリーは、きっとこの双子の弟の中に生き続けるのだろうと思う。だが、それはまだ口にできることではなかった。

「ありがとう。君も元気を出すのだ。君なら大丈夫だろうが。」


それから私はホグワーツに向かった。ミネルバが新しい校長になり、秋の新学年に向けて準備をしているはずだった。

セブルス!」

私を見るなり、ミネルバは立ち上がって駆け寄り、私の手を握った。

「よく来てくれました、セブルス。あのようにあなたを追ってしまい、、許してください。あなたとダンブルドアにすっかり騙されてしまっていたのです。」

ミネルバが後ろの肖像画を恨めしそうに振り返ると、ダンブルドアの肖像画も声をかけてきた。

「おう、セブルス、久しぶりじゃ。元気そうじゃの?ミネルバに責められて、参っておったのじゃ。」

「ミネルバ、あれは私の任務でしたし、あなたには戦い後のホグワーツを立て直してもらわなければならなかったのです。アルバス、お久しぶりです。」

ダンブルドアへの言葉は続かない。私たちはいつも話しあっていたのだが、それは戦いとポッターのことばかりだったから。

「今日は伝えることがあって来たのです、ミネルバ。もしかしたらもうご存知かもしれませんが、、マグル学のバーベッジ教授のことです。1年前に行方不明になりそのままだと思うのですが。」

「チャリティの行方を知っているのですか、セブルス?」

「はい、、残念ですが、ヴォルデモートに、殺されました。私は、助けることができませんでした。」

ミネルバが悲しみに顔をゆがめながらうなづいた。

「仕方のないことです、セブルス。できなかったのであれば、、。それで亡骸がどこにあるかは?」

バーベッジの最期を思い出す。哀れにも宙に吊られて、赤い閃光を受け、それからナギニに・・。だがそれは言う必要のないことだった。ミネルバにも、遺族にも。あのような悪夢を見る必要はない。

「亡骸は、ヴォルデモートがかたつけてしまいました。どこかに埋葬されているのでしょうが、見つけることはできないと思います。」

ミネルバは言葉の裏を推測したのかしないのか、、おそらく経験した者でなければあのような、哀しくおぞましい出来事を推測することはできないだろうが、、何度も深くうなづいていた。

「それで、セブルス、もしよければホグワーツに戻りますか?闇の魔術に対する防衛術の教授を探しているのですが、あなたが戻ってくれるのなら。」

「世の中も騒がしいですし、私が教師に向いていたとは思えません。」

突然、話題の人になった名残はまだ残っている。しばらくは公的な場所に出る覚悟はなかった。

「ではいつでもあなたの気が変わったら言ってください。私は待っていますよ。」

「ミネルバ、前のヴォルデモート消滅時もそうでしたが、スリザリン生は複雑な立場です。家に問題を抱える子も、敵視される子もいるでしょう。どうか校長として、温かい目で気を配ってやっていただきたい。」

「わかりました。留意しましょう。、、、でも、クィディッチでは容赦しませんわよ。」

ミネルバが笑って付け加え、私も笑い返した。

「では私はこれで。スラグホーン教授によろしくお伝えください。」

校長室をあとにして、私は城内を眺めながらゆっくりと歩いていった。ところどころ戦いの傷跡が残るホグワーツ。私が初めて見つけた家。リリーとともに過ごした生徒の頃。ルシウスに会い、友達ができて、、後には敵となって欺いてしまったけれど。それからダンブルドアに従い、教師として、スパイとして、人生の大半を過ごした場所。様々な思いが詰まった私の家。

校庭を横切り、湖のほとりに出た。大理石の墓に向かい、言葉を探す。ダンブルドアには、いつだって語ることがあったものだが。指示を仰ぎ、報告し、時には思いをぶつけ、傷ついた体をいたわり合い、、。

「すべて、終わりました、アルバス。」

それだけを言った。校門を出て振り返る。全てが終わり、私にもホグワーツを去る時が来たのだが、どこに向かえばよいものか?私は長年教師であったというのに、これでは進路も決まらず卒業を迎えた生徒と同じだと苦笑いした。しばらく考えたが、差し当たってルシウスの家に帰ることしか思いつかなかった。




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セブルス・スネイプと死の秘宝(30)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


ポッターとともにダークロードの埋葬をしたことで、戦いが終わり贖罪を遂げた晴れやかな気持ちになるかと思ったのだが、むしろぽっかりと心に穴が開いたような寂寥感を感じていた。長い間、私の心はリリーの遺志で占められていたから、成し遂げたと思ったら心がカラになってしまったように感じられたのだ。

長年の目的を果たし、かろうじて生き延びられたと言うのに、バカげたことだ。だが、そう思ったところで空しさは変わらなかった。いつもリリーとダンブルドアがともにいて支えてくれたのに、死者たちは戦いが終わり、いるべき場所に帰っていってしまったのだった。

浮かない顔をしていたのは私だけではなかった。ナルシッサはぼんやりと物思いにふけりながら時折涙を拭いていたし、ドラコも寂しげな顔で窓の外を眺めていたりする。ナルシッサはベラトリックスの、ドラコはクラッブの死を思っているに違いなかった。マルフォイ邸には鬱々とした雰囲気が漂っていた。


「セヴィ、おまえまで、物うげな顔をしているのか。」

ルシウスが部屋に入って来て、ぼんやりとソファに座っていた私に話しかけた。

ルシウス。」

「やっと戦いが終わったというのに気が晴れないようだな。ポッターの世話を終えて寂しいとでも?」

「そんなわけではない。」

もしかしたらその通りなのかもしれないが、、言われると認めたくない。

「ポッターの母親が死んでから、ずっとダンブルドアのもとでポッターを守っていたのだろう?母親のために。」

私はうなづいた。

「すまない、ルシウス。あなたのことも、欺いていた。」

「そんなことは気にしていない。そうかもしれないとは思っていたのだ。」

ルシウスは私の隣に座り、顔に手を触れた。

「ナルシッサもドラコも落ち込んでいる。姉や友を失い悲しいのは当然だが、沈んでいたところで何ができるわけでもない。おまえはポッターの母親のために命がけで戦い、ベラトリックスはダークロードの寵愛を求めて戦っていた。皆それぞれの理由をもって戦い、ある者は命を落とし、ある者は生き延びたのだ。」

ルシウスの手が、私の首に巻かれていたスカーフを取り去った。ナギニに噛まれた傷跡が、醜いケロイド状に残っている。

「ひどい傷跡だ。」

私の傷跡を優しく手でなでながら、ルシウスは言葉を続けた。

「だが、おまえが生きていて、私は嬉しい。」

忘れていた喜びの感覚が、わずかに湧きあがる。

「叫びの屋敷でおまえの姿を見て、、、おまえが死んでしまったのかと思った時には、我を忘れていた。」

「あなたが、助けてくれた。」

「そうだ、私が助けたのだ、私自身のために。私はおまえのことを、、愛していたようだ。」

ルシウスの顔がゆっくりと近づいてきて、唇が傷跡を這う。

「もう体はいいのか?」

私がうなづくと、ルシウスは私の目を覗き込みながら、シャツのボタンを一つずつはずしていった。思い起こせば、ルシウスにこんなふうに愛撫されるのは、ずいぶん久しぶりだ。もう2年以上前に、ルシウスへの制裁として脱獄したデスイーターたちの暴行を受けてから、何度かぎこちない抱擁を受けただけだった。それからルシウスはアズカバンに収監されてしまったし、この1年はそれどころではなかったのだ。

私もルシウスの衣類を脱がせると、滑らかだった肌に傷跡が残っている。問いかけるように見つめると、ルシウスが答えた。

「アズカバンでやられたのだ。その後もダークロードに事あるたびに。おまえがいなかったから、きれいに治せなかったのだ。」

関わった者たちは、皆それぞれの立場で傷を負い、、ある者は命を落とし、ある者は生き延びた。私は自分の闘いに必死だったけれど、ルシウスはルシウスで懸命に戦っていたのだ。自分と家族を守るために。

傷ついた体に腕をまわして抱き寄せた。懐かしい温もり。たくましい心臓の鼓動。耳をくすぐる吐息。たしかな、生の証。私たちは、生き延びた。私たちは、生きている。戦いが終わり、死者は去ってしまったけれど、私は生者の世界に帰って来たのだ。

まったく現金なものだが、しばらくの間私たちは、互いの命を確かめるように、何度も抱き合った。偽りも計算もなく、ただ温もりと欲望に身を任せて。

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セブルス・スネイプと死の秘宝(29)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


ポッターに会ったのは、ホグワーツの闘いからひと月が過ぎようとしている時だった。

予言者新聞に、ヴォルデモート卿ことトム・リドルの遺体を、魔法省の責任において無縁墓地に葬る予定との告知が出たのだった。1か月の保存期間が過ぎようとしているが、引き取りの申し出もなく、近親者も見つからないための措置と報じられていた。近親者といっても、母親は出産とともに死に、生まれる前に捨てたという父親の一家は自ら惨殺したと言っていた。崇拝していたベラトリックスでも生きていれば別だが、魔法界に引き取る者がいるはずもない。死を回避することに取りつかれていたヴォルデモートは、自分の死後の処理など考えもしなかったことだろう。

自ら分けて壊した魂がどこに召されるものなのか想像もつかないが、忌まわしい魂の抜けた体くらいは、人として葬ってやりたい気がしたのだった。

私の消息が知られることは好ましくないが、いつまでも生死不明のまま身を潜めているわけにもいかない。魔法省の関係局に遺体の引き取りを申し出ると、同じ告知を見て申し出た者がもう1人いるということだった。どちらも親族ではないから2人に引き渡すと言われ、申請の手続きのために魔法省に出向いた。街中はアパレートしたからよかったが、魔法省の中で、人々の好奇心の目に曝されるのは耐え難いものだった。

魔法省の一室に通されて待っていると、指定の時間に遅れること数分、ポッターが掛け込んできたのだった。習慣とは実に恐ろしいものだ。ポッターの顔を見て飛び上るほど驚いたのに、私は反射的に叫んでいた。

「ポッター、遅刻だ!」

我に帰り、グリフィンドールから減点!と叫ぶのは、かろうじて飲み込んだ。ポッターも、驚きのあまり声もなかったようだが、そのまま一歩、ニ歩と近付いてきて、延ばせば手が届くほどの距離に来て立ち止まった。互いに言葉もなく、ただ向かい合う。

ポッターの目に敵意が見えないのは、落ち着かぬものだった。父親そっくりの容貌に、ただそこだけリリーの面影が宿る緑の瞳に憎しみが映るのを、どんなに複雑な思いで見てきたことだろう。湧きあがる怒りや憎しみと悔いを承知しながら、目を逸らすことができず、むしろ追い求めずにはいられなかったものだ。記憶を渡し心の秘め事を明かした後で、このように突然現れて、私にどうしろと言うのだ?

「すみません、遅れました、、」

私の中に、憎しみと嫌悪以外のものが秘められていたことを知り、思いがけない再会に、ポッターも私以上に戸惑っているに違いない。だが、口惜しいことに、目をそらしたのは私で、グリフィンドールらしい勇気を示して口を開いたのはポッターだった。

「僕、ヴォルデモートを倒しました、先生。」

見慣れたその緑の瞳は、困惑して見開かれ、声には、、期待さえ滲んでいるように思われる。このように複雑な感情と人間関係を、どう処理しろというのか?

「、、よく、やった、ポッター。」

私はようやく言って、褒め言葉にふさわしい、笑みを浮かべたつもりだ。だがポッターが一歩引いたのを見ると、そうは見えなかったようだ。

ポッターを見て湧きあがる様々な思い。ただこの少年の命を守ることが生きる理由と思い決め、ポッターに重なる父親への怒りと憎しみ以外は、すべて閉ざした心の奥深くに封じ込めてきた。今、心の秘密を明かし、私がもたらしたともいえる過酷な使命を果たした青年に対峙し、溶けることを許された心からどのような感情が流れ出すのかと思うと怯えすら感じる。受け入れる準備ができていないのだ。

私とポッターの間では珍しいことだが、お互い冷静になり、処理しかねる複雑な感情は置いておいて、今ここにいる理由に戻ることにした。

「なぜここに来たのだ?ヴォルデモートの遺体を引き取ろうと言うのかね?」

「はい。引き取り手はないだろうから、倒した僕がするべきだと思ったんです。先生こそ、なぜですか?ヴォルデモートは先生を殺そうとしたのに。」

「ポッター、ヴォルデモートは私を殺そうとしたわけではない。邪魔物を退けようとしただけなのだ。」

私を、他者を、それぞれの命を懸命に生きる人として見ることができたなら、あのような怪物は生まれなかった。ポッターは納得したのかしないのか、それ以上の議論をするつもりはなかったらしく、書類に記入を始めた。

「埋葬場所は、、、リトル・ハングルトンのリドル家の墓でしょうか?」

ヴォルデモート復活の時を思い出したのか、ポッターがわずかに顔をしかめて言った。

「いや、生まれる前に捨てられて、自らの手で殺したマグルの父親の元では、互いに眠れぬことだろう。母親の墓か母親に由来する場所がわかれば、そのほうが救われると思うのだが。」

「救われると、、思いますか?」

「救われることのなかった魂がすでに去った亡骸だ。体くらいは、、といっても、父親の骨とペティグリューの肉と、、おまえの血でできた体だったな。まったく、、救いがたき者だが、救われてほしいとは思う。」

「リドルの母親は、マグルの孤児院で出産した直後に死にました。僕たち孤児院の場所に行ったんだけど、もうなくなっていた。母親がどこに埋葬されたのか、調べようがないと思います。由来の場所と言えば、、ゴーント家の墓くらいかな。でも母親の兄もリドルが殺したんだけど。」

「ひどいものだ、、、。だが、そこしかないだろう。ヴォルデモートの過去に詳しいようだが?」

「ダンブルドアが、個人授業のときに、関わる記憶を見せてくれました。ホークラックスを探すのに必要だと言って。孤児院に行ってリドルをホグワーツに招いたのはダンブルドアだったんです。ゴーントの家のことも調べていた。先生もよくご存じですね。ダンブルドアは他に知る者もないと言っていたけど。」

「詳しくは知らぬ。私が知っているのは本人が話したことだけだ。」

「リドル自身が、父親はマグルで自分は孤児だと話したんですか?純血主義のデスイーターたちに。」

「皆に話したかは知らぬ。私には話したのだ。」

「では先生にだけ?どうしてでしょうか?」

「同じ根を持つと言っていた。折り合いの悪いマグルの父親がいると知っていたからだろう。どちらも恵まれた子供時代を過ごしたとは言えぬからな、、おまえもそうだが。」

ポッターは何事か考えに沈んでいたが、しばらくの沈黙の後、堰を切ったように話し出した。

「僕も同じようなことを考えました。先生の記憶を見て禁じられた森に向かいながら、ヴォルデモートも先生も僕も、親の愛を知らず見捨てられて育ち、このホグワーツで初めて家庭を見つけたんだって。ヴォルデモートはここを手に入れようとしている、先生は裏切り者の汚名を着ながら命がけでホグワーツと、、僕を守っていた、僕は、ホグワーツのみんなを守るために身を投げ出すべきなんだって。母さんが赤ん坊の僕を守るためにしてくれたように。

母さんが死んだあとは、先生が長い間僕を守ってくれました。ヴォルデモートを倒すために僕を守ってくれた人はたくさんいたけれど、先生は、僕を守るために戦ってくれた。一人でヴォルデモートの元に行って・・それがどんなに勇気がいることか、僕にはわかる。仲間たちに背を向けて、ただ一人で敵の中に・・・僕は、何も知らず・・」

ポッターは涙ぐみ、言葉に詰まった。私も何か言わねばならないが、、何と言えばよいのだろう。私とポッターの関係は『守ってくれてありがとう』『どうしたしまして』と言ってすむ単純なものではない。たしかに私はポッターを守って戦ったが、それは私が死をもたらしてしまったリリーへの償いだった。私の行いがなければ、ポッターは守られる必要もなく両親の愛に包まれて育てたのだ。それはポッターもわかっている。だから、感謝の言葉を口にしたわけではなく、守った事実を言っただけだ。

おそらくポッターは私が払った代償の過酷さと孤独を思い、言葉が詰まったのだ。ポッターもそれ以上の過酷で孤独な使命を成し遂げて。

「ポッター、私は、一人ではなかったのだ。」

一人では進めぬ道を、いつもリリーの思い出が支えてくれた。私が父親と重なるポッターに怒りと憎しみを感じ、ポッターも私を憎み嫌っていたとしても、ポッターはリリーの遺志そのものであり、私は魂に宿るリリーとともにそれを守ったのだった。

ポッターは物問いたげに私の顔を見ていたが、私たちはそれ以上言葉を交わすことはなかった。


手続きを終え、数日後、ゴーント家の粗末な墓の脇に、ヴォルデモートの遺体を埋葬した。すでに恐れや憎しみは失せて、憐れみを感じるだけだった。少しでも記憶に残る程度に母親が生き延びてやれば、違う道を歩めたのだろうか?

同じ根を持つと言われたが、そうではなかったと思う。私自身、過ちや悔いを抱く人生を歩み、年を重ねて振り返ってみれば、ホグワーツ特急に向かう日、私は母に手を引かれていた。生活に打ちのめされて、息子に愛情を注ぐ余裕はなかったのだろうが、その日まで私を育ててはくれたのだ。自分とは違う魔法使いの子供を愛すことはできなくとも、父も私を捨てることはなかったのだった。そして、私はリリーに会うことができた。もしその1つでも幼いリドルに与えられたなら、誤りを悟ることができたのだろうか?

隣に佇むポッターが、ヴォルデモートの墓を前に何を考えていたのかはわからない。ポッターも親の記憶さえないまま育ったのだ。それでも世を恨んで闇に堕ちる過ちは犯さず、自分を殺そうと狙い続けたヴォルデモートを倒し、自らの手で埋葬することを選んだ。リリーの血を継ぐ素質なのか、ダンブルドアの導き故か。


私はポッターを誇らしく思った。父親に重なる憎しみや怒りが消えないとしても、ポッターは確かに、リリーの勇敢で温かい魂を宿している。

贖罪に捧げた年月は長く苦しいものだったが、私は愛するに値する人を愛し、守るに値する者を守ることができたのだ。


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セブルス・スネイプと死の秘宝(28)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


大人げないセブルスに少し腹をたてて、説得する言葉を考えながら家に戻ると、セブルスが書斎の床に倒れていた。テーブルには調合鍋と薬の材料が置かれていて、私の留守中に、なくなりそうな造血薬を作ろうとしたんだとすぐわかった。

セブルス!」

かけよって抱き起すと、腕に擦り傷があり、血が流れていた。そのせいかわからないけれど、首の包帯にも血が滲んで見えた。立ち歩いているうちに、貧血を起こして倒れたようで、ぐったりと意識がない。

あわてて地下室に掛け込んで造血薬を探したけれど、見つからなかった。どうしたらいいんだろう?私には魔法薬は作れないし、セブルスは人目にさらされるのをひどく嫌がっていた。聖マンゴやホグワーツの医務室で目覚めようものなら、またどんな無茶をするかわからない。

じわじわと包帯に血が滲んでゆくのを見ながら、一人だけ、セブルスを匿い、必要な処置を与えられる者のことを考えた。そこならセブルスも素直に治療を受けるはずだ。その男の元に戻すのは嫌だけれど、、、。口惜しいけれど私にはそれしかできない。

セブルスを毛布に包んで抱きあげると、数日間ほとんど食事もしなかった体は、驚くほど軽くて悲しくなるほどだった。念のためそこにあった薬材をまとめ、複雑な思いを振り切って、意識のないセブルスを抱え、マルフォイ邸を訪ねた。

バカバカしいほど大きな鉄の門だった。気後れする自分に挑むように名乗ると、人狼などが来るところではないとあっさり追い払われそうになった。けれど、セブルスの名を出した途端にマルフォイたちの態度は一変した。すぐに門が開き、内側の、庭と言うのが躊躇われるほどの広大な敷地を歩く間もなく、一家3人が駆けつけた。

「セブルスは無事なのか?生きているのか?」

たたみかけるようなルシウス・マルフォイの問いにうなづくと、私ごと抱え込むように屋敷の中に移動して、3人で手早くセブルスをベッドに横たえた。私が事情を説明するのを聞きながら、屋敷に置いてあったらしい造血剤を与え、いつの間にか支度を整えたルシウス・マルフォイが出かけてしばらくすると、癒者らしい魔法使いを連れて戻ってきた。

「聖マンゴ病院から内密に来てもらった。こんな時のためにたっぷりと寄付をしてあるのだ。」

展開の早さに目を白黒させていた私に、ルシウス・マルフォイが説明してくれた。ベッドの脇に4人で立って治療を見守りながら、情けない気持ちがこみあげる。私がセブルスにしてあげられたのは、穴倉のような地下室にともに潜み、作ってあった造血剤を飲ませることだけだった。ここならば必要な手当てを十分に受けられる。セブルスは何年もマルフォイたちを裏切り、欺いていたはずなのに、マルフォイたちがセブルスの快癒を心から願っていることは明らかだった。

治癒を終えた癒者が、数日の間、治癒呪文と薬剤を続ければ心配ないと言って帰ると、マルフォイ家の3人に囲まれて、私はますます身の置き所のなさを感じた。だけど、帰れと言われても帰らない、私にはセブルスに付き沿い、治癒したら連れて帰るだけの愛情も親交もあるんだと、一人心の中でルシウス・マルフォイに挑んでいた。けれど、帰れというどころか、丁重に礼を言われた。

「セブルスの世話をしてくれて感謝している。心配なら君もしばらく居るとよい。部屋を準備させよう。捜索を受けた後で、片付いていないのだが。」

続いてナルシッサ・マルフォイも優雅に礼を言い、ドラコまで小さく頭を下げて見せた。予想していた人狼への蔑みの言葉もいっさいなく・・・。

私は打ちのめされていた。自分の貧しさやマルフォイ家の財力にではなく、彼らが見せたセブルスへの理屈を超えた愛情に。それは紛れもなく長い時間をかけて培われた家族の情であり、私の入り込む余地などなかったのだと思い知らされた。

「いえ、お手間をおかけすることはありません。セブルスの意識が戻ったら帰ります。」

口惜しいけれど、ここがセブルスの居場所なんだ。戦いの混乱の中で、一時的に離れてはいたけれど、戦いを終え、傷ついた体でここに戻った。私も自分の場所に戻るべきなのだと思う。それはもちろん、テディのもとだ。アンドロメダに受け入れてもらえるかはわからないけれど。戦いに翻弄されていた私たちは、戦いが終わった今、それぞれに新しい生活を築いていかなければならない。

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ゆっくりと目を開けると、私をのぞきこむルシウスの顔が見えた。腫れていた顔もずいぶんよくなった。ルーピン。心配そうな顔をして。それからナルシッサにドラコ。やつれたが、悲壮感はなくなった・・・

目を閉じて、今見たことを考えてみた。何か、おかしい。ルシウスルーピンとナルシッサとドラコ。そしてこの部屋は。

もう一度目を開けると、ルシウスたちが口々に私の無事を喜んでくれて、ルーピンもほっとした笑顔をみせた。造血剤がなくなり、倒れた私をルーピンがここに連れて来てくれたのだった。

「間に合ってよかったよ。家に帰って倒れている君を見た時は、どうなることかと思ったけれど。でも、ここならば十分な治療が受けられるよ。もう、安心だ。私は、、、家に帰るけど、君のことを心配している人たちに、無事だと伝えていいね?」

ポッターやグレンジャーたちのことだ。私がうなづくと、ルーピンはルシウスたちに頭を下げて、帰っていった。

その夜はルシウスが付き沿ってくれた。2人になった寝室で、ルシウスがじっと私を見つめ、そっと上体を抱きしめてくれた。

「セヴィ・・無事でよかった。心配していたのだ。」

そうだ。この声と、この温もりが、叫びの屋敷で、リリーの元に、、死に向かう私を、抱きしめて引き戻してくれた。ルシウス。ルシウスに抱き寄せられるといつも、リリーに去られて茫然と立ち尽くしていた少年の頃に、少しだけ戻る気がする。あの時も、一人孤独に沈んでゆきそうな私を、この腕が抱きあげてくれたのだった。


それから数日の間、朝と夕に聖マンゴ病院の癒者が来て、治療と投薬を受けた。ルシウスたちは交代で付き沿ってくれて、戦いの事や、戦い後の社会改革やデスイーター仲間たちの消息などを話してくれた。

1週間ほどたつと食事もとれるようになり、造血剤を飲みながら、ベッドの上で半身を起して、新聞や本を読んで過ごせるようになった。予言者新聞では相変わらず、私は話題の人扱いだったが、新しいネタもないのか、既に知れた話を書き換えたり、私の行方を様々に推測するものになっていった。私の居所を知っている人たちは口を閉ざしているようだし、私の過去を知る者の多くはデスイーターの元仲間たちで、逃亡中かアズカバンに収監されているのだから、ネタの掘り出しようがないのも当然のことだ。

体が回復するにつれて、私の生活は、ヴォルデモートの復活前にこの屋敷に滞在していた頃のようになっていった。闇陣営の本部にされ、その後魔法省の捜索で荒れていたマルフォイ邸には以前の落ち着きが戻り、私が居る部屋も、ルシウスやナルシッサがあれこれと買い揃えてくれて、以前暮らしていた頃の趣を醸し出している。

そのような部屋に身を潜めていると、時には、ここ数年の身を削るような日々が嘘のように思われ、ホグワーツを卒業した頃の、深い考えもなくルシウスに身を寄せた私から少しも変わっていないように思えることがある。もちろん、ひとたび思いを馳せれば、贖罪に捧げた日々の記憶は鮮明だった。リリーの死から17年、ただひたすらリリーの遺志を継ぐ思いに駆られ、ダンブルドアの指示を受けて懸命に任務を果たすのが私の人生だった。過ちは悔いているが、贖罪の日々に悔いはない。

だが、終わってみると・・・

贖罪は果たせたと思う。もとより失われた命に取り返しはつかぬが、リリーの遺志は叶えられた。リリーが命を捨てて守った息子は無事成人し、見事にヴォルデモートを倒し、生き延びてくれた。もう命を脅かされることもなく、守りも助けも必要としない。たくましく自分の道を切り開いてゆけるだろう。

私はこの先、何のために生き、何をやってゆけばよいのだろうかと考えると、途方に暮れた。贖罪に生きた日々にも、さまざまな日常の営みはあった。人生のほぼ大半を費やしたホグワーツでの教師の務め、ルシウスとの絆やドラコの成長、ルーピンとの、、なんといえばよいのかわからぬが、言ってみればもたれ合いのような関わり。

喜びや支え、怒りや悲しみを織りなしたそれらのすべては、振り返ればひた走る列車の窓を流れて行く景色のように、私の人生の傍らに存在していただけのように思える。

神経を張り詰め、魔法を駆使し、懸命に生きていたつもりだったが、私の実体は、リリーの遺志とダンブルドアの指示で成り立っていたようなものなのだ。私は贖罪以外の何にも心を傾けることがなく、自ら育もうともしてこなかった。私自身の時間は、あの時から止まっていたようなものだ。それを悔いはしないが、今、再び、時が動き出す。新しい歩みを始めるべきだと思うのだが、この部屋にいる私は、やはりホグワーツ卒業当時の、ルシウスに寄り添うだけの寄る辺ない少年のようだった。

ダンブルドアは、戦いを生き延びて自分の人生を歩めと言っていたが、それは容易に見つからない。


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セブルス・スネイプと死の秘宝(27)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


私は隠れ穴のウィーズリー家に行ってみた。当然のことだけれど、隠れ穴は、フレッドを失った悲しみに沈んでいた。戦争はいつだって、勝った側にもこんな悲しみを生みだす。

それでも、ウィーズリー一家のみんなも、いっしょにいたハリーとハーマイオニーも、死んだと思っていた私が生きて現れたことに驚き、喜んでくれた。戦いの夜が明けた日に、それぞれの家族が亡骸を引き取っていったけれど、アンドロメダは私の遺体を引き取ることを拒否してドーラの亡骸だけを連れ帰った。アーサーやハリーは私の両親に連絡を取ろうとしてくれたけれど見つけられず、翌日になったらウィーズリー家に引き取ろうと話してくれていたそうだった。

私が、変身したら生き返ったみたいなんだと言うと、皆口をそろえて、人狼でよかったねと言い、ほんとにそうだと心から言えた自分が、照れくさかったけど少し嬉しかった。

何か言ったり、ジョージの顔を見たりするたびに涙ぐむモリーが痛ましく、それを見てフレッドそっくりのジョージが辛そうな顔をするのもやり切れない思いだった。ハリーとハーマイオニーも同じように感じていたらしく、3人で、一家の邪魔にならないように、別の部屋に移った。いつの間にかロンも加わっていた。

ハリー、悲しいことも多いけれど、よくやったね。新聞で読んだけれど、勇敢に戦った。君はほんとに素晴らしいよ。ロンも、ハーマイオニーも、最後までハリーを助けて、立派だった。」

3人はドーラの死を悼み、お悔みを言ってくれた。それから、私が知らなかったいろんなことを話してくれた。『蘇りの石』で私たちを呼び出した後の闘いのことや、ヴォルデモートが倒れてからのホグワーツのお祭り騒ぎ。ハリーは勝利を喜ぶ人たちにもみくちゃにされたらしかった。

ヴォルデモートが倒されて、世の中も新しく動き出したようだ。キングスリーが臨時の魔法大臣に任命されて、様々な戦後処理を始めた。闇陣営に牛耳られていた魔法省を立て直し、デスイーターたちの追跡も始まった。ホグワーツではミネルバが中心になって、新学期の開校を目指して準備を始めたらしい。私が状況を概ね飲み込んだ頃、ハリーとハーマイオニーが口をそろえて言い出した。

スネイプ先生の行方がわからないんだ。」

「私、叫びの屋敷に倒れてたスネイプ先生の手当てをしていたのに、いなくなっちゃったの。ひどい傷を負っていたのに、どこに行っちゃったのかしら・・・」

私は心の中で、大人げなく拗ねたセブルスを呪った。2人ともこんなに心配しているのに、無事を伝えてあげられないなんて。

セブルスはきっと大丈夫だよ。治療法も知っているし、魔法薬学の先生だ。」

「大ホールの祝賀会でハリーがもみくちゃになっている間に、ミスター・マルフォイにも聞いてみたけど、わからないって。戦いが終わってから行ってみたら姿がなくて心配してるって言ってた。」

私はセブルスから話をそらせたいこともあって聞いてみた。

「マルフォイはその後どうなったのか知っているかい?デスイーターの追跡や逮捕も始まったと言っていたね?」

「マルフォイ一家は取り調べられたけど、おとがめなしさ。僕たちを捕まえて、ハーマイオニーを痛めつけたのに。信じられないよ、ハリーが証言してやるなんて。」

ロンが憤懣やるかたないように口をはさんだ。

「ロン、マルフォイの屋敷で私にクルーシオをかけたのはベラトリックスよ。ルシウス・マルフォイはスネイプ先生の命を助けたわ。私が行った時、必死に手当てしてた・・・。」

「ナルシッサ・マルフォイは、僕が禁じられた森でヴォルデモートに対峙してアヴァダケダブラを受けた後、僕が死んでるってヴォルデモートに嘘をついたんだ。ドラコを探すために早くホグワーツに入りたくて言ったことだけど、そのおかげで僕は死んだふりが続けられて助かった。

ドラコ・マルフォイは、天文塔の上で、ダンブルドアを殺せなかった。ダンブルドアを武装解除して、杖を向けていたのに、殺せなかったんだ。しかもその後僕がドラコに打ち勝って杖を奪ったから、『ニワトコの杖』が僕を持ち主と認識して、ヴォルデモートを倒せたんだ。ヴォルデモートはダンブルドアを殺したスネイプを殺したことで自分が杖の持ち主になったと勘違いしていたけどね。」

「マルフォイは不思議な一家だね。まるでこちらの陣営のために活躍していたみたいだ。」

私が言うと、みんな笑った。

「だから僕、そう証言したんだ。結局のところ、マルフォイ達にはヴォルデモートに対する忠誠心なんてなかった。魔法省の取り調べが終わって、もう家に帰っている頃だと思うよ。」

「あの人たちは、最後には家族と友達のことしか考えてなかったのね。もしかしたら、最初から、、。ルシウス・マルフォイはスネイプが闇陣営を裏切っているかもしれないと思ってたみたいよ。」

「ていうかさ、最初から自分たちのことしか考えてないのさ。」

ロンが言って、またみんなで笑った。そして話はセブルスのことに戻った。

「私、マルフォイに聞いたあと、先生たちとも一緒に探したんだけど、見つからなかったの。マクゴガナル先生もフリットウィック先生も、ダンブルドア先生を殺したと思いこんでスネイプ先生にひどいことをしてしまったってとても落ち込んでた。」

「スネイプ先生は、僕の母さんを子供の頃から愛していて、だから母さんが狙われたと知ってからずっと僕たちの味方だったんだ。」

ハリーが私に説明するように言って、うなづく私に怪訝そうに聞いた。

「リーマスは、知ってた?」

「ああ、私はセブルスとは同学年だったからね。低学年の頃、リリーとセブルスはよく一緒に居たよ。」

「ずっと僕たちの味方だったっていうことも?」

私はうなづいた。ハーマイオニーが続けて聞いてきた。

「ダンブルドアを殺した後もわかってたの?みんな裏切り者だって言ってたのに、どうしてわかったの?」

「私はセブルスのことを、みんなより少し知っていたからね。セブルスを信じてみれば、すべてはつじつまがあったんだよ。」

「僕は、、信じなかった、、裏切り者だと信じて、疑いもしなかった、、、」

ハリーがうつむいて、唇を噛んでいた。ロンがハリーを励ます様に、でも半ば本気そうに言った。

「僕、今でも信じられないよ。スネイプがハリーを守ってたなんて。だって、いつだってハリーを目の敵にしてたみたいだったよ。」

「セブルスはジェームスと仲が悪かったからね。それに、ハリー、君に知られないことが一番大事だったんだ。セブルスが君のために動いていることを君が知ったら、意識の繋がりを通じてヴォルデモートにも知られてしまうかもしれない。それではセブルスは任務を果たせなかった。だから君に知られないように、みんなを欺いたんだ。私も誰にも言わなかった。」

「先生はどこにいるのかしら?」

ハーマイオニーがしんみり言って、私はまたため息をついた。セブルスの意固地も困ったものだ。こんなに心配しているハリーたちにセブルスの無事を伝えて上げられないなんて。私はセブルスを説得しようと、急いで帰ることにした。


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セブルス・スネイプと死の秘宝(26)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


「こ、、、これは、何だ?なぜこのようなことになるのだ!」

私はセブルスの家に戻り、さっそく朗報を伝えた。2人でハリーの無事と、ヴォルデモートを倒したことを喜んだ。セブルスはハリーが生きていることを知って、心底ほっとした顔をしていたんだけれど・・・。

渡した予言者新聞を開いたセブルスは、驚愕して叫んだ。無理もない。

新聞には、『闘いぬいた影の英雄、セブルス・スネイプの真実』とか、『セブルス・スネイプの秘められた愛』とか、私がセブルスでも死にたいと思うような見出しとともに、どこで手に入れたのかわからないセブルスの写真が、笑ったり怒ったりを繰り返している。

ハリーは、ヴォルデモートとの一騎討ちの中で、ダンブルドアを嘲るヴォルデモートに対して、その死の真実を明かした。つまり、セブルスがダンブルドアを殺したのは、2人の計画だったと。セブルスはずっと、ヴォルデモートの配下ではなく、ダンブルドアのものだった。それはセブルスがハリーの母親を、ほとんど全生涯かけて愛していたからで、ヴォルデモートは愛を知らないからそれに気がつかなかったんだと言い放った。

それは、一騎打ちを見守っていた大ホールの群衆に衝撃を与え、新聞により、魔法界全体に知れ渡った・・・。しかも、あることないこと憶測をまじえて、美談にしたり悲劇にしたり、あるいは、セブルスのデスイーター当時の過去をほじくり返したりと、とにかく、ハリーと並ぶ話題の人になっていた。『ダンブルドアの人生と嘘』の著者リータ・スキータ―が、セブルスについて執筆すると述べたとまで書かれている。

セブルスは、見るも気の毒なほど情けない顔をして、すがるように私を見ていた。そして。

「ポッターのせいだ。ポッターは私を憎んでいるのだ。嫌がらせだ!」

なぜそうなる?

「セブルス、わかっているだろう?ハリーはヴォルデモートに誤りを悟らせたかったし、味方から裏切り者と思われて耐えた君の、名誉を回復したかったんだよ。その時は、君が死んだと思っていたんだし・・・」

「死んでいればよかった・・・」

「何を言い出すんだ、セブルス。せっかく生き延びてこの日を迎えられたのに。ハリーも無事で、贖罪が果たせて、ダンブルドアの願いもかなったんだよ。」

セブルスはベッドの上で、壁のほうを向いてしまって、声をかけても返事もしなかった。私は気の毒だとは思ったけれど、これでセブルスの汚名が晴れたのは嬉しかった。この数カ月、セブルスを裏切り者と罵る仲間たちに、何度真実を告げたい思いを堪えたかわからなかった。まあ、セブルスの気持ちもわからないじゃないけど、ダンブルドアを殺したなどと思われているよりいいじゃないかと思う。

しばらくそっとしておけば、セブルスも落ち着くだろう。なんといっても、私たちは勝利をおさめ、生き延びることができたんだ。そういえば、皆私を死んだものと思っている。消えた遺体を探そうとしてくれる人もいるかもしれない。

「私が生きていることを伝えたほうがいいと思うから、騎士団の仲間に会ってくるよ。君を探しているだろうし。新聞に出ていない正確な事情もきけると思う。」

私はわりと気軽に言ったんだけど。

「私が生きてここにいることは、誰にも言うな。」

「セブルス、ハリーはきっと君に会いたがっていると思うよ。ハーマイオニーだって君が消えてしまって、、」

「私はポッターなんかに会いたくない!」

「他の仲間たちだって心配して、、、」

「私に仲間などいなかった。ダンブルドアをいやいや殺した時だって、『まさか』と思ってくれたのはスラグホーン教授だけだった。あとは皆『やっぱり』だ。皆私を仲間だなどと思っていなかったのだ。」

「だって、、、それは君が真実を隠していたから。それに任務をそれだけうまくやったということだろう?」

「おまえは、一度でも仲間だと思ったことのある者に、ためらいもなくダガ―ナイフを投げつけられるか?」

「・・・」

「何の攻撃もせず防戦一方の者を、疑いもなく断罪して、勇敢に攻撃するのがグリフィンドールだ。防ぎきれずに逃れれば、臆病者と決めつける。そんな者の集まりに二度と顔を出す気はない。」

「セブルス」

「おまえは仲間たちの所に帰ればよい。グリフィンドールの英雄の生還に、皆大喜びすることだろう。」

セブルスは興奮して怒りだした。新聞の記事にショックを受けたあまりのことだと思う。こうなってはなだめても耳を貸すセブルスではないから、私は他の方法で説得してみることにした。それに、ほんとに気がかりなこともあった。

「セブルス、人に会うのが嫌だとしても、治療は受けなければいけないよ。もうダンブルドアを殺した云々言われることもないんだ。外に出て聖マンゴ病院できちんとした治療を受けるんだ。造血剤だって、残り少ないじゃないか。騎士団の仲間に言えば、うまく手配してくれるよ。」

「薬剤など、自分でなんとかする。」

「セブルス、、」

「おまえの顔など見たくない。早く行け。」

意固地になったセブルスは手のつけようがない。任務とは言え裏切り者と言われていろいろと傷つくこともあったのだろうし、、。しばらく一人にしておくのがよいかもしれない。落ち着けばきっと、勝利やハリーの無事を喜ぶ余裕ができると思う。

「セブルス、じゃあ少しだけ行ってくるよ。すぐ戻るからね。」

「私のことは、何も言うな。」

私はため息をついた。

「わかったよ。」



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セブルス・スネイプと死の秘宝(25)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


その夜を、セブルスが何を感じ、何を考えて過ごしたのか、私にはわからない。薬は自分で飲むからおまえは寝ろと言われて、寝てしまったから。一人で思うことも、リリーに話したいこともたくさんあっただろうから、ほんとうは一人になりたかったのだと思う。

その夜の夢には、狼が出てきた。遺体置き場でポツンと、心細そうにうずくまっていた。理由のわからない体の苦痛に、物問いたげな目を、私に向けて。やあ、狼、おまえのおかげで助かったんだと言うと、クゥーンと鼻を鳴らして、前脚に顔を埋めていた。つまり、私の腕の中に。私はこの狼と共に生きていることを、受け入れられた気がした。なんといっても、この狼のおかげで今生きていられるのだから。そして、人狼だってかまわないと、心から言ってくれたドーラを思い、少し泣いた。

翌朝になると、セブルスも、頼りないながら、助けてあげれば上体を起こして、枕に寄りかかれる程度になっていた。その姿勢で、私にドロホフの呪いを癒す治癒呪文を掛けてくれたから、私はずいぶんと体が楽になった。

私もセブルスに、包帯の上から治癒呪文を掛けてあげたけれど、ナギニの毒に効く特殊な呪文は知らないから、一般的なことしかできなかった。アーサーがナギニに襲われて聖マンゴに入院していた時には、治癒者たちがあれこれ研究して治療していた。もっとも、マグルの縫合術とかいうのを試みて、いたずらに回復を遅らせていたけれど。セブルスもきちんとした治療を受けなければいけないんじゃないかと思う。

「すまないね、セブルス。アーサーの時に私も治癒法を聞いておけばよかったよ。君は特殊な治癒呪文も、魔法薬も、ほんとに細かく調べてあるね。」

1つ1つ丁寧に、、字は読みにくいけど、、ラベルを貼った薬剤を眺めて言うと。

「私は父親に殴られ、ポッターたちに攻撃され、ダークロードとデスイーターに囲まれて生きてきたのだ。防衛と治癒の呪文、魔法薬なくして生き延びられるものか。」

「それはたいへんな人生だ。ところで君はナギニに噛まれて、ずいぶんひどい傷のようだけど、よく生き延びられたね。」

「死んだと思った。ダークロードが殺す気でナギニに噛ませたのだからな、頸動脈を。」

「それじゃ致命傷じゃないか!ずいぶん血が出たんじゃないか?」

「ルーピン、血が出たなどという生易しいものではなかったのだ。」

セブルスは思い出したのか、思い切りしかめ面をした。

「それで、、、どうして?」

「開発した魔法薬を飲んでいたのだ。といっても、たいしたものではない。死ぬ寸前の仮死状態を、少し長引かせる程度のものだ。だがそのわずかな間に、ルシウスとグレンジャーが手当てをしてくれたようだ。記憶があいまいなのだが、、、。」

「グレンジャーって、、ハーマイオニー?」

「他に誰かいるのか?」

「上げ足をとらないでくれよ。マルフォイはともかく、どうしてハーマイオニーがタイミングよく君の手当てができたのかと思ったんだよ。」

「そのへんは私にもよくわからないのだが、、。死んだと思った時には、ポッターとウィーズリーとグレンジャーが居た。手も出さなかったから、おそらく見捨てて去ったのであろう。だが、なにかしらの理由で、グレンジャーが戻ったのだ。」

「なんかトゲのある言い方だな。根に持つなよ。大蛇に噛まれて頸動脈から血が噴き出すのを見て、冷静に手当ができる人なんかいないよ、、、君くらいしか。」

「別に根に持っているわけではない。グレンジャーには感謝している。おかげでここまで戻れたのだ。」

それからセブルスは、戦いの夜の経緯を話してくれた。ナギニに噛まれてからしばらくのことは、ぼんやりとしたものだったけれど。


お互いの事情がわかったところで、体がかなり回復した私が、外の様子を調べに行くことにした。こんなふうに、穴倉に潜むように隠れて、生き延びられればいいというわけではない。戦いやハリーの様子、ホグワーツや仲間たちの様子など、知りたいことばかりだった。私はもちろんテディにも会いたかった。

最初にアンドロメダの家に行ったけれど、返事も人の気配もなかった。それで、用心しながらホグズミードの村にアパレートしてみると、、、

「ありがとう!ハリー・ポッター!」店先に張られた幕の字が目に飛び込んできた。

勝ったんだ!ハリーがヴォルデモートを倒した!

セブルスと私が地下室に籠っている間に、世の中は一変したようだった。行き交う人たちの顔も、憂いが晴れたように、明るく見えた。嬉しくて、騎士団の仲間たちに会いたい気持ちもあったけれど、セブルスが首を長くして待っているはずだから、私は数日分の予言者新聞を買い込んだ。

戦いの翌日の号外には、「ハリー・ポッター、ヴォルデモートを倒す!」そんな見出しの記事に、戦いの夜の様子が記されていた。目撃者の証言を集めたというその記事では、「ハリー・ポッターは死んだ。その証に亡骸を持ってきた」と言ってヴォルデモートが禁じられた森から出てきた後、防衛軍と闇陣営がぶつかり、戦闘が始まったようだった。そして、死んだと思われていたハリーが突如現れ、大ホールで群衆が見守る中、ヴォルデモートと一騎打ちの末、ハリーが勝ったのだった。ヴォルデモートは、自分が放ったアヴァダケダブラが跳ね返ったのを受けて死んだ。

ハリーの活躍を目に描きながら心を弾ませて読んだのだけれど、その下段には小さく、名誉の戦死者の名が連ねられていた。一つ一つ、名を追う。どの死も痛ましいものではあるけれど、知った人であればなおさら・・。

フレッド・ウィーズリー!陽気な双子のフレッドが、命を落とした。ウィーズリー一家は、もちろんハリーやハーマイオニーも、どんなに悲しんでいることだろう。そして、そこに並ぶ、他の一つ一つの名前の周りにも、フレッドの場合と同じように、家族や友を失い嘆き悲しむ多くの人がいるはずだった。勝利の喜びと、その影の悲しみ。

ドーラと私の名もあった。倒れる姿を見、アンドロメダからも娘は死んだと言われたけれど、こうして戦死者の名の中に、ニンファドーラ・トンクス・ルーピンと書かれているのを見ると、それが確かな事実として心に刻まれた。

気を取り直して、より詳細や後日談が綴られた記事を見ていくと、、、なんだか、たいへんなことになっていた。


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セブルス・スネイプと死の秘宝(24)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


私が指示された薬剤を探して飲んでいる間に、セブルスが話し出した。

ルーピン、私はさっき話に出た死の秘宝の一つ、『ニワトコの杖』のせいでダークロードに殺されかけたのだ。ダンブルドアがその杖を持っていた。ダークロードはその杖を墓から盗んだのだが、ダンブルドアを殺した私が生きている限り、真の所有者になれぬから杖が機能を果たさないと言って、私を殺そうとした。ナギニに首を噛ませたのだ。」

「ひどいことをする。」

「もともとひどいヤツなのだ。ダークロードは、最強の杖だとしか言わなかったのだが、その死の秘宝の話をおしえてくれぬか?」

「ヴォルデモートは死の秘宝だと言わなかったの?」

「運命の杖とか死の杖とは言っていたが、死の秘宝とは言わなかった。知らなかったのだろう。ダークロードも、おとぎ話をきいて育ったとは思えない。」

セブルスの声に、ほんのわずか、苦々しさと憐憫の情が感じられた。同じように、見捨てられて育った子供たち・・。

「いいよ。『吟遊詩人ビードルの物語』の中にある、三人兄弟の話に出てくる3つの秘宝なんだ。昔3人の兄弟が旅をしていたら、川があった。泳いで渡ろうとすればおぼれ死ぬ川なんだけど、3人は魔法で橋を架けて渡ろうとした。本来溺れて死ぬ川なのに、魔法で欺いたと怒った『死』は、橋の上で3人に話しかけ、自分を逃れたら褒美を与えるともちかけた。

好戦的な長男は、この世で最強の杖を選んだ。これが秘宝の1つ『ニワトコの杖』だ。傲慢な次男は、『死』から他の死者を呼び戻す力を選んだ。『蘇りの石』だ。謙虚で賢い三男は、『死』が自分を追えない物を望んだ。『透明マント』だ。それらを与えて、『死』は3人に道を譲り橋を渡らせた。

長男はかつて自分が争った相手を探し出して決闘し、『ニワトコの杖』があるから当然勝った。それを宿で自慢したら、他の魔法使いが寝ている長男を殺して杖を奪った。こうして『死』は長男を自分のものにした。

次男はかつて愛し今は死んでしまった女を呼び戻した。しかし女は本来そこにある者ではないから苦しんだ。それを見て正気を失った次男は、女と一緒になるために自殺した。こうして『死』は次男を自分のものにした。

三男は『透明マント』を使ったから『死』に見つけられることなく生きた。高齢になって息子にマントを譲り、『死』を古くからの友として、喜んで『死』とともに人生から旅立っていったという話さ。」

セブルスはじっと聞き入り、考え込んでいた。そして思い詰めたように言った。

ルーピン、ポッターはまだ『蘇りの石』を持っているだろうか?」

「え?急に、どうしたんだ?」

「『蘇りの石』があれば、死者を呼び戻せるのだろう?」

「そうだけど・・・。」

セブルスの顔には、切実な切なさが浮かんでいた。

「・・・リリーだね?ダメだよ、セブルス。死者を呼び戻しても、死者は喜ばない。君が死に連れて行かれるだけだ。おとぎ話はそう言っている。それは、してはいけないことなんだ。」

「だがポッターは、、」

セブルス、ハリーは一人、ヴォルデモートの元に向かうところだった。死に向かうところだったんだ。呼び戻したわけじゃない。自分が来るところだった。私は死者としてハリーを迎えにいったから、わかるんだ。君は、いけない。」

セブルスは宙の一点を見つめ、何か考えていた。しばらくの沈黙の後、セブルスはため息をついて話し出した。

「ダンブルドアは、ダークロードが杖のために私を殺そうとすると予想していた。ある物のために殺される恐れがあると言いながら、それが何かは教えられないと言ったのだ。私が惑わされるから、計画にとっても、私にとっても、危険だからと。」

「君が杖に惑わされると思ったのかな?」

「ダンブルドアは、私に死の秘宝である『ニワトコの杖』の持ち主になることを話し、死の秘宝が現実に存在すると私が知れば、私が『蘇りの石』に取りつかれるとわかっていたのだ。実際、知った今、それを手にしたくてしかたがない。」

「それは、いけないことなんだよ。」

「わかっている。だが、『蘇りの石』で死なせてしまった人を呼び戻し、謝りたい。どんなにすまなく思っているか、どんなに悔いているかを伝えたい。そう思うと、今にも石を探しに行きたくなる。

ダンブルドアは正しかったのだ。死の秘宝について知り、それが現実にあるとわかれば、私は必ず魅了され、贖罪すらも投げ出して追い求め、手に入れば惑わされて、、、ダンブルドア同様に呪いを受けるか、物語の二男の道を辿っただろう。」

「ダンブルドア同様に?」

「ああ、もう偽る必要もないから言うが、ダンブルドアは私が殺すずっと前に、死の呪いを受けていた。体を蝕み広がって命を奪う恐ろしい呪いだ。なぜダンブルドアほどの人がと思ったのだが、、『蘇りの石』に魅了されてしまったのだな。かつて死なせてしまった妹や家族に、謝りたい気持ちを抑えられなかったのだ。あの時はホークラックスの呪いだと思っていたのだが、『蘇りの石』だったのだ。いや、ホークラックスでもあったのかもしれぬが。」

「ホークラックス?なんだい、それは。」

「それは今重要なことではないし、狼がいるおまえには必要ないものだ。死んでも生き返ったのだから。」

「なんだよ、それ・・」

だけど、それより、私には話すべきことがあった。

「セブルス、君はもう、『蘇りの石』を求める必要はないよ。」

怪訝そうにセブルスが私を見た。

「さっき、君に伝えることがあると言っただろう?」

セブルスは、なんだ?と言うように、目だけこちらに向けて、私の話を待っていた。

リリーに会った。」

黒い瞳が大きく開き、切なげな色を帯びた。私は、ジェームスとシリウスにも会ったことは言わないことにした。セブルスも当然わかるだろうけど、聞きたくはないだろうから。

「『蘇りの石』でハリーに呼び出された時のことなんだ。ハリーが呼び出した死者だからね、もちろんリリーも来た。ハリーに寄り添って禁じられた森の入口まで行き、ハリーを見送った後、リリーに耳打ちされたんだ。セブに守られて、ハリーは勇敢なよい子に育ったって。君がよく守ってくれたと言っていたよ。」

黒い瞳に涙が浮かんだ。

リリー、、が?」

「ああ、リリーがそう言ったんだ。それから、君を見たって。呼ばれて行ったら、君がすぐ近くまで来て、だけど向こう側に戻ってくれてよかったと言っていた。」

「リリーが、、あの時、、あの瞳は、リリーだった、、」

セブルスは涙が溢れるのを抑えようともしなかった。

「リリーは、、許してくれたのか、、私を、、」

その返事はきっと、リリーが直接する。あるいは、セブルスの心が決める。死者はいつも生者の想いの中に居て、悲しみを乗り越えた時、勇敢に立ち向かう時、その人の一部になる。私は黙ってセブルスの髪を撫でてやった。

凍りついた心が溶けて流れ出すように、セブルスは長いこと、ただ泣いていた。


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セブルス・スネイプと死の秘宝(23)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


地下室の薄暗がりに目が慣れて、ベッドに横たわるセブルスをよく見ると、ローブの詰襟に見えたのは血に染まった包帯だった。肩まで包帯を巻き、生気のない青ざめた顔。

「これは、、。セブルス、どうしたんだ?ひどい出血だよ。」

「ナギニに、噛まれたのだ。話は、あとで。、とにかく、薬を飲ませて、くれ。」

セブルスは身動きもせず、話すのさえ苦しそうだった。急いで頭を抱え起こして、ベッドの脇にあった造血剤を飲ませてやった。少しは楽になったようだ。

「包帯も代えようか?」

「ありがたい。だが、それより、ホグワーツは?ポッターは?ダークロードを倒せたのか?」

「戦いの様子はわからないんだ。ハリーは、ヴォルデモートの元に行ったけれど、その後はわからない。君は知らないのかい?」

「知らぬ。だが、、ポッターは、行ったのだな?」

私はうなづいた。

「おまえはどうしたのだ、ルーピン?助けてくれと言っていたようだが。」

ありがたい。私のことも忘れていなかったようだ。

「それが、よくわからないんだ。ホグワーツの闘いが始まって、校庭で戦っているうちに死んだかと思ったんだけどね。それが今朝、目が覚めた。体中の関節が痛んで、重くて、裸だった。周りに服が破れて落ちていたから、たぶん変身していたんだ。昨日は満月だったのかな。」

「変身明けか。死ぬほどの術の影響はわからぬが、とりあえずそこの袋に鎮痛剤と強壮剤がある。飲んで少し寝ろ?悪いが今は診てやれぬ。」

「それで君は大丈夫なのかい?包帯のほかに、やることは?」

「造血剤を飲めば大丈夫だ。心配しないで休め。」

私は言われた薬剤を飲み、セブルスの包帯を代え、ありがたく寝かせてもらうことにして、セブルスの隣に潜り込んだ。柔らかいベッドにセブルスの匂い。隣で何か言っているようだったけれど、もう聞こえなかった。


目が覚めると、痛みが和らぎ少しはましになっていた。けれど、いつもの変身明けより、自傷はないけど、ひどく体が重くてだるかった。少し頭痛も吐き気もした。セブルスに言われて、棚にあった缶詰のスープを温めて飲んだ。ベッドのセブルスにもスプーンで飲ませてあげたら、少しだけ飲んでいた。寝ている間に数時間が過ぎていて、セブルスも少しはましな顔色になっていた。

「それで?ポッターやホグワーツのことは全然わからないのか?」

セブルスが待ちかねたようにきいてきた。お互い傷んだ体で何もできず、やることもなかったので、詳しく話すことにした。

「ハリーがヴォルデモートの元に向かったあとのことは、残念ながらわからない。君に伝えたいこともあるから、初めから話すよ。どうせ、暇だろう?」

セブルスは微妙に肩をすくめたようだったが、反対はしなかった。

「あの夜、フレッドから知らせが来てホグワーツに行ったんだ。ウィーズリー一家やキングスリーたちも駆け付けていた。秘密の部屋に人が集まっていて、そこでハリーに会ったよ。ホグワーツなら君がいるかと思って見回したたけれど、もういないみたいだった。」

「私が追い出された後に来たのだろう。」

セブルスが少し苦い顔をした。嫌な思いでもしたのだろうか?まあ、セブルスの立場では、嫌な思いばかりだっただろうけど。追求せずに話を進めた。

「闇陣営が来て真夜中に戦いが始まった時、私はキングスリーとアーサーと3人で、校庭の闘いの指揮を執ることになった。それで、校庭でドロホフと一騎打ちになって戦っていたら、なぜか、、ドーラが来たんだ。子供が生まれたばかりで、、、男の子でテッドと名付けたんだけど。」

「それはよかった。元気に生まれて何よりだ。」

「ああ、それはよかったんだけどね、、。ドーラはテッドと一緒に母親の元にいるはずだったのに、なぜか、おそらくは私が心配で、ホグワーツに来てしまったんだ。私のほうに駆けよろうとして、ベラトリックスに攻撃された。私はドロホフを防ぎながら、ドーラを助けに向かったんだけれど、間に合わなくて、、、ドーラが、倒れた、、」

私はその時を思い出して、顔を伏せた。呪文を胸に受け、倒れていくドーラ。必死に、私を求めるように見開いた眼、リーマスと呼ぶ口の動き、その表情が凍りついたまま、倒れていった。私のような者を、心から愛してくれた人・・・。涙が滲む。

「トンクスは、、亡くなったのか?赤ん坊を残して、、可哀そうに。」

私はうなづき、涙を拭った。

「それでドーラに駆け寄ろうとしたら、紫色の閃光が走ったんだ。ドロホフの呪いがあたって、、死んだ。」

「ずいぶんと早くに死んだものだな。それでは私より先だろう。だが、ポッターがヴォルデモートの元に向かったのを知っていると言ったが?」

「呼びだされたんだよ、『蘇りの石』で。」

「なんだ、それは?『蘇りの石』?」

「知らないのかい?おとぎ話にある、死の秘宝の一つさ。ほんとうにあったんだ。」

「死の秘宝?」

「ああ。死に打ち勝つと言われる3つの秘宝。最強のニワトコの杖、死者を呼びだす蘇りの石、それから透明マント。『ビードルの物語』の中の、三人兄弟の話にあっただろ?魔法使いの子供ならみんな知ってるおとぎ話だよ。」

「私は知らない。いや、知らなかった。」

セブルスの家は、子供におとぎ話をしてやるような温かい家ではなかった・・。

「知らない子もいる。みんなというわけじゃないけど、わりと有名な話なんだよ。」

私は無神経な言い回しを後悔して、あわてて言い繕ったけれど、セブルスはなおも、眉を寄せて考え込んでいた。

ルーピン、私はどうやら、その秘宝のせいで殺されかけたのだ。だが、、今はいいから話を続けてくれ。その『蘇りの石』でポッターは死者を呼びだした。おまえはその時ほんとうに死んでいたわけだ。」

「そのようだね。この時の話はまたあとでする。話を先に進めるよ。それで死んでいたはずなんだけど、なぜか今朝目が覚めたんだ。体じゅう痛くて、着ていたものがちぎれて落ちていたから、変身していたんだとわかった。

ホグワーツの大ホールの隅の、魔法で区切られた遺体置き場だった。きれいに飾られて、5、6人の遺体が並べてあった。狼が荒らした跡はなかったから、変身中も、弱ってうずくまっていただけみたいだ。見て回ったけど、知った顔はなかった。君の顔がなかったのは安心したけど、ドーラもいなくて困惑した。

とにかく様子がわからないから、おそるおそる辺りを探してみたんだけど。ホグワーツは人気もなくて、あちこち壊れて荒れ果てていたよ。夜明けだったからみんな寝ていたのかもしれないけどね。もしかしてドーラは生きていて家に戻ったかもしれないと期待して、アンドロメダの家に行ったら、、、入れてもらえなかった。おまえのせいで娘は死んだと泣き叫ぶように言われて、返す言葉も気力もなかった。引き取り手のない遺体だけが、遺体置き場に置いてあったんだ。

それで君の家に来て、悪いけど、防衛を破って入らせてもらったんだ。とにかくもう、苦しくて動けなかったんだよ。そして君の声に従って、、階段から落ちたわけさ。」

最後の一言にセブルスは一瞬顔をしかめたけれど、皮肉は無視することにしたらしい。

「人狼の生態は十分に把握されているとは言えないが、、人体が死んでも狼は生き延びて、変身をきっかけに人間も生き返ったと思うほかないな。死んだのが満月の直前で、すでに狼が活性し始めていたのかもしれない。とにかく、生き返れてよかったではないか。狼のおかげだな、ルーピン?人狼にもよいことがあるものだ。」

セブルスが私に笑顔を向けてくれた。私も嬉しくなった。

「君にそう言ってもらえると、生き返った甲斐があるよ。」

「そういう次第なら、ドロホフの術を癒す治癒呪文をかけたほうがよいのだが、、私がこんな状態だから治癒呪文をかけてやることはできぬ。回復薬を飲んでおけ。」


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tag : ハリーポッター セブルス ルーピン

セブルス・スネイプと死の秘宝(22)

(これは『ハリーポッター』の本と映画鑑賞後の、妄想です)


アパレートして、スピナーズエンドの自宅の居間に転がり込んだ。床に投げ出されるように現れて、体中が痛んだ。だが、あと少し。書斎の壁にめぐらした防衛の術を解き、力を振り絞って隠れ部屋へ。今度は注意深くベッドの上に着地できるようにアパレートした。壁に防衛の術をかけ直して一安心する。

だが、噛まれた傷の辺りが耐え難く痛かった。首の傷からドクドクと血が流れ出るのが感じられ、その血脈の動きさえ、響いて痛む。鎮痛剤を飲ませ忘れたのだ。治癒の基本ではないか。心の中でグレンジャーを呪いながら、鎮痛剤と造血剤を飲みほして、今度こそほんとうに、一息ついた。

筋肉を動かすのには大量な血流を必要とする。だから体を動かすと血が大量に流れ出る。グレンジャーが多めに造血剤を飲ませておいてくれたから、ここまで来ることができたのだ。今はもう、身動きすら難しかった。飲んだ造血剤の作用が現れるまで、しばらくは安静にしているほかない。

ベッドに横たわっていると、ホグワーツの情勢が気になったが、次々に浮かぶ疑問に、答えはなかった。ここにいれば狙われることはないだろうが、何もできぬというのは歯がゆいことだ。スパイの任務も、ホグワーツ校長としての板挟みの日々も、辛くはあっても常に贖罪に務める充足感はあった。それこそが私にとって生きる意味だったのだから。

ポッターは、私の記憶を見ただろうか?そして自身の身にダークロードの魂の欠片が宿ること、その欠片がある限りダークロードが死ねないこと、つまり終わらせるためには、死ぬためにダークロードの前に身を投げ出さねばならないという真実を知っただろうか?そして皆を守るために、一人、身を投げ出したのだろうか?そして最後の決着は?ダークロードは倒されたのか?ポッターは生き延びることができただろうか?

何度繰り返したかわからぬ疑問。答えを得るには生き延び、体力を回復してここから出てゆくしかないのだと、何度も自分に言い聞かせた。

時計を見ると夜明け間近になっていた。長い夜だった。しかし、眠ってしまってはいけない。1時間もあけぬように、造血剤を飲まなければならない。安静にして治癒を待ちながら、薬剤を飲める程度に体を動かせるうちに次の薬を飲む。それをどのくらい繰り返せばよいのかわからないが、とにかくそうして、失血を抑えながら完全に毒が抜け、傷が治るのを待つほかないのだった。うっかり眠って時間を逃せば、だらだらと流れ出る血に、服薬に必要な力さえ失われてしまう。

幸い薬剤は揃っているから、鎮痛も滋養も薬剤で処理できる。だが、自分の身だから、呪文での治癒ができないのはもどかしかった。

地下室の小さな吹き抜け孔から、光が差し、やがて影って夜になった。夜が深まる頃には、服薬以外やることもなく、ひたすら眠気と戦っていた。日頃、眠りたくても眠れなくて薬に頼っていたのに、今は眠くてたまらない。眠ってはいけない、眠ってはたいへんなことになる、そう思い続けていたのだが・・・。



書斎に続く壁の向こうの物音に気付き、目が覚めた。吹き抜け孔からはまだ早い朝の陽ざしが差しこんでいた。あわてて杖を握ろうとしたのだが、腕に力が入らなかった。眠ってしまい何時間か造血剤を飲まなかったから、腕を動かすほどの力が失われてしまったのだ。指先を動かし、杖を探ったが見つからない。杖を使わぬ無言呪文で造血剤を顔まで持ってきたものの、頭を傾けて液体を飲むだけのことが、できなかった。体内の血量が足りないのだ。血を含んだ包帯の重みさえ息苦しく感じるほどに体が萎えていた。

壁の向こうでは、誰が何をしているのか、ガタガタと何者かが動き回る音がしていた。闇陣営か、ホグワーツ側の誰かが捜索に来たのだろうか?殺すためか、捕えるために。あるいは、あてもないのに助けが来たのかなどと思ったのは、体が弱って心細くなっていたためだ。

耳をすまして気配をうかがっていると、バタンと倒れる音がして、、

セブルスセブルス、、いないのか?」

ルーピン!なぜルーピンがここに?しかし今の状況では天の助けだった。だが。

「助けてくれ、、苦しい、、セブルス、、」

助けてなどと、私の状態を見てから言えと内心毒づいたが、壁の向こうはそれきり静かになってしまった。

ルーピン?」

呼んでみたが、かすかな声では聞こえるはずもない。拡声術で家じゅうに声を響かせた。

ルーピン!」

「わっ、セ、セブルス、どこにいるんだ?」

「書斎の、本棚を、動かせ」

這いずるような音がして、声が壁のすぐ向こうまで近づいた。

「下段、左から、3冊目の、本を抜き、右に3回、左に5回、右に1回転」

「なんだよ、これは。ややこしいな。」

ルーピンががちゃがちゃとやっている間に、こちら側の壁の防衛を解き、隠れ部屋の入口を開いておいた。

「開いたよ。あっ!」

「階段がある」

数段の階段を転がり落ちる音がした。床からうめき声が聞こえ、ルーピンが恨めしげに言った。

「先に言ってくれよ、セブルス。痛いな。私は死にそうなんだよ。体中痛くて苦しくて、やっとの思いでここまでたどり着いたのに、ひどいじゃないか。君はベッドで寝ているのか。いい身分だな。私は起きたら、遺体置き場にいたんだよ。それなのに君は、、」

「ルーピン、おまえがそうやってしゃべり続けていれば、ほどなくここも、遺体置き場になるだろう。」

「え?セブルス?」

ルーピンは床から体を起こし、まじまじと私を見た。

「セブルス、どうして寝てるの?何をしているんだい?」

「死にかけているのだ。」

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tag : ハリーポッター ルーピン セブルス

セブルス・スネイプと死の秘宝(21)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


手をつないだ私に気がついて、ロンがこちらを見た。泣いた後の目がまだ赤かった。

「ハーマイオニー、なあ、フレッドは勇敢だったよな?」

「うん。とても勇敢だった。勇敢で、楽しくて、やさしくて。」

ロンは何度もうなづいて、それから周囲を見回して言った。

「ハリーはどこだろう?」

ヴォルデモートが告げた1時間の停戦が終わる時間も近い。私にはもうわかっていた。ハリーは一人、禁じられた森に向かったと。ハリーのお母さんがハリーを守るために身を投げ出したように、スネイプがハリーを守るためにスバイとして命がけで闇陣営に戻ったように、ハリーは私たちみんなを守るためにヴォルデモートの元に向かった・・・

「君も、ハリーは禁じられた森に向かったと思うか?」

「うん。ハリーなら、そうすると思う。」

「でも僕、それでもハリーを探してみるよ。ナギニはあの人のそばにいて今は手が出せないし。」

私もうなづいた。何もしないではいられないもの。スネイプのことをロンに話そうかと考えて、やめた。自分だって半信半疑のことを、うまく説明できない。スネイプの体を抱きあげてむせび泣くマルフォイの姿を見ていなければ、私だって信じられなかった。家族の死に直面したばかりのロンを、混乱させたくない。

それから手分けしてハリーを探すために、ロンと分かれた。

私は時間を見て叫びの屋敷に行き、スネイプの手当をした。マルフォイはヴォルデモートの傍に居て、来られないんじゃないかと思う。私も次にまた来られるとは限らないから、血の滲んだ首元には上からまた包帯を巻きつけて、薬も多めに飲ませておいた。スネイプは目を開けて、不思議そうに私を見ていた。わずかに口を開いて、また『ポッター』と言っているようだったけど、死の淵をさまようスえネイプに、ハリーは一人、ヴォルデモートの元に行ったと思うとは言えなかった。目をそらし、黙々と手当を終えて、マルフォイがしていたように頬に手を置くと、スネイプは静かに黒い目を閉じた。

そして次に行った時、、、スネイプの姿は消えていた。叫びの屋敷の中を探しても、痕跡も見つからなかった。スネイプが倒れていた場所に、少し血の跡があるだけで。どこに行ったんだろう?わけがわからない。マルフォイが来て、どこかに隠したんだろうか?一瞬、遺体の見つからなかったマッドアイの死を思い出し、悪い思い付きを振り払うようにその場を去った。

大ホールに戻ると、ロンも戻っていた。2人で顔をあわせ、互いに静かに首を横に振る。ハリーは大丈夫かしら?思うのはそればかりだけど、答えがこわくて口に出せなかった。でもハリーは今までだって、何度も危機を乗り越えてきた。今度もきっと打ち勝ってくれる。そう自分に言い聞かせていた。ロンも、大ホールに集まる他の人たちもきっと同じだったと思う。不安と、わずかな希望。「生きのびた子」「選ばれし者」そんな言葉が、周りからときどき聞こえてきた。


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頭の辺りでごそごそと何かが動いていた。肩から首にかけて、鈍い痛みがあった。ズキズキと痛みが増してくる。目を開けてみると、驚くほど近くに黒いローブの肩が見えた。華奢な腕が私の頭を抱え上げて、首になにやら巻きつけているようだった。突然、肩に巻きつき締め付ける大蛇の感触が蘇り、恐怖に目を閉じた。もがこうとするのだが体が動かない。牙が、あの牙が、首を貫くのだ。想像を絶する激しい痛み、、体中の力が萎えてゆく嫌な感触、、ほとばしる血、、抑えても、指の間から噴き出して、、

だが、ほどなく、静かに頭が床に置かれるのを感じた。床に下ろした頭がわずかに持ち上げられて、口元に冷たい小瓶の感触。少しずつ流し込まれる液体。顔に触れる、やわらかい、小さな手。リリー?。痛いよ、リリー。痛いけど、大丈夫だ。君の手の温もりが広がるように、痛みが和らいでいく・・・

目を開けると、少女の顔が見えた。のぞきこむ、、茶色の瞳。リリーじゃない。これは、、

グレンジャー?なぜここにグレンジャーがいるのだ?

グレンジャーの向こうに、薄暗い部屋の天井が見えた。ここは、、、叫びの屋敷。少しずつ、起こったことが思い出された。ナギニに噛まれて、、もうだめかと思った時にポッターが現れて、、、そうだ、記憶を渡し、ダンブルドアに言われていたように、ポッターに使命を伝えることができた。それからリリーの緑の瞳に誘われるように、、。リリー。なぜリリーがいないのだ?やっとリリーに会えたと思ったのに。

私は死んではいなかったのか、、。もう一度目を開けて、部屋を見渡した。ここは確かに、叫びの屋敷だった。助かったのか?そういえばかすかに、ルシウスを見たような気がする。私の名を呼ぶルシウスの声。ルシウスグレンジャーが並んでいた。夢をみていたのだろうか?いや、夢のはずがない。ルシウスグレンジャーが、並んで私を覗き込む夢などありえない。では、あれは現実だったのか?現実・・・

ポッターポッターはどうなったのだ?そうだ、ホグワーツで、闇陣営とポッターたちの、最後の闘いの最中だったのだ。ポッターは?戦いは?ダークロードは倒されたのか?こんなところで寝ている場合ではない。

グレンジャー、ポッターはどこだ?ポッターは無事なのか?ポッターを助けねば!」

尋ねるのに、グレンジャーは目をそらし、そっと私の頬に手を当てて、去って行った。なぜ答えない?なぜ目をそらす?それでは、、それではポッターは死んでしまったのか?リリーの息子が。ダークロードに殺されて。それに、ルシウス!さっきはグレンジャーと一緒にいたのに、なぜルシウスがいないのだ?まさか、ルシウスの身にも何か・・

起き上がろうとしたが、まったく力が入らなかった。あれだけの血が流れたのだから当然だ。頸動脈から血が噴き出して、噛まれた瞬間に致命傷だとわかるほどだった・・。ルシウスに飲まされた、あの気休めの魔法薬が効いたのだろうか?首から肩にかけ、包帯で止血されていた。グレンジャーが、あるいはルシウスとグレンジャーが、死にかけた私の手当てをしてくれたのだ。

目に入る範囲に人影はなく、耳をすましても何も聴こえない。あれからどれくらい時間が過ぎたのか、戦いがどうなっているのか、全くわからなかった。わかったところで、この状態では何もできないが・・。

グレンジャーはなぜ1人だったのだろう?ルシウスはどうしたのだろう?ダークロードに詰問されて、私を助けたことが知れてしまったのだろうか?もしそうなら、、ダークロードが戻ってくる!私を殺しに。そう思いつくと、あの時の恐怖が蘇った。私を見据えた赤い目、空を切る杖、締め付けるナギニの強い筋肉、鋭い牙・・

隠れなければ。この場に居ても何もできぬ。ダークロードだけでなく、今や闇陣営も、ダークロードが死を与えた私が生きているのを知れば殺しにかかる。騎士団側も、ダンブルドアを殺した私を許しはしない。誰もが私を殺そうとしているのに、私はこんなに弱く、抵抗する術もない。絶望感が広がった。

ポッターに真実を伝えるという最後の役割を終えたのだから、もう死んでもよいのだろうか?ポッターもダークロードに殺されたのかもしれない。それなら私にはもう、生きる意味がない。不安と絶望の中、そんな思いもよぎった。リリーの瞳の中に、私の魂が帰ってゆく。死はむしろ甘美な誘いに思えた。

静かに目を閉じかけた時。

「セブルス」

ダンブルドアの声が。

「約束したじゃろう?生き延びる努力をすると。贖罪を果たし、戦いが終わった世で、自分の人生を歩んでほしいと言ったはずじゃ。生きる努力を放棄してはならん。年寄りの最後の願いを忘れたのかの?」

「アルバス」

自分はあっさり死んだくせに。私に死の呪文を放たせて。苦しむのは嫌だの、楽に逝きたいだのと私をかき口説き。

私はため息をついた。考えてみれば、ポッターもダークロードも戦いも、何がどうなっているのか、さっぱりわからない状態だった。これではあちらでリリーにもダンブルドアにも報告のしようがない。

とにかく生き延びて、状況を把握せねば。今の私に何ができるか考えてみた。グレンジャーが飲ませてくれた造血剤の作用が残るうちに、身を隠さねばならぬ。薬が効いて血量が増えたのか、少しはまともに考えられるようになった。体もなんとか、少しは動く。指先で手元を探り、杖を確認した。スピナーズエンドの自宅にある隠れ部屋。そこならば誰にも見つかることはないし、当面の薬剤も食料もある。この体でアパレートできるだろうか?

アパレートの失敗でバラケてしまっては目も当てられない。あとで誰かが来て、私の足だけ残っていたりしたら・・。ホグワーツの教授を務めた者として、そんな屈辱は受け入れがたい。足の指をわずかに動かし、床に触れる背面を感じ、脳に体の全体像を認識させた。そして杖を握り締め、意識すべてを集中する。スピナーズエンドの自宅へ!


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