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セブルスとルシウスの物語(14)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


マルフォイ邸に招かれて弾んでいた気持ちは、うちに着くとともに消え去った。寂れたマグルの街の片隅にあるこの家を、破格に立派なウィルトシャーのマルフォイ邸と比べれば、あまりの落差に目をそむけるしかない。だけどそういうことだけじゃなくて、仲間が集まって楽しむ家や、マルシベールやエイブリ―の、貧しくても肩を寄せ合うような家族の話を身近に感じた後では、この家にないもの、僕に与えられなかったものが、いっそう露わに見えるのだった。

僕が大きくなったせいか、父さんから殴られることは前より少し減った気がする。避けるのがうまくなったのかもしれない。だけどその分母さんが殴られることが多くなって、それにもっと嫌なのは、酒に酔った父さんが母さんを暴力で犯すのを、隠そうとしなくなったことだ。

僕だってそういう行為について少しは知る年になったから、意味がわかってなおさら嫌だった。体が大きくなった僕に腕力の効き目が落ちたと思い、嫌がらせして追い出そうとしているのかもしれない。それとも見たくもない僕のことなんか、ほんとに見えないんだと示したいのか。強いられた行為の後の、母さんの虚ろな目を見るのもいたたまれなかった。

『汚らわしいマグル』『穢れた血』

父さんを見るとスリザリン寮で覚えたそんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。先輩たちが話していた、マグルを排除し純血魔法族が支配する世の中になるのが待ち遠しい。

現実的な日々の問題として、僕はお腹がすいてしょうがなかった。食べざかりと言われる年頃なのに、食べるものがない。粗末な食事のためのわずかなお金さえ酒代に消えているのか、母さんが父さんに隠れて食べ物をくれることもなくなった。母さんも、貧しさと暴力に壊れてしまったのかもしれない。食事のことも忘れるくらいだから、僕のローブのことなんか、頭に浮かぶこともないだろうと、すでに丈の足りない古びたローブを思ってため息が出る。

家で食べ物を探そうとすると父さんと出くわす機会が増えるから、僕はホグワーツから持ってきたお菓子や飴で凌ぎながら、救いを求めるように公園に出かけた。リリーに会えるかもしれないから。リリーは家族旅行やグリフィンドールの友達の家に行くことが多くなって、前より回数は減ったけど、時々僕に会いに公園に来てくれる。お菓子を持ってきてくれたり、たまにはリリーの家に一緒に行ってごちそうになることもあった。

そんなリリーの思いやりはすごく嬉しかったけど、最近は、時々自分がたまらなく惨めに感じられることがある。強い力でリリーを守ってあげられるようになりたい。大人になりかけた男の子なら、そんな気持ちは自然なんじゃないかと思う。でも僕はいつまでたっても、リリーにかばってもらう無力な子供のようだった。

それでもリリーに会えることだけが僕の夏休みの楽しみだから、昼過ぎには毎日公園に出かけた。リリーが来れば嬉しいし、来なければ夕刻に家に戻る。夕食の時間が近付けば、リリーはもう来ないとわかるから。

家に帰ると、地下室の物置をかたつけた自分の部屋に籠り、勉強したり本を読んで過ごした。父さんとひと悶着あった後は、その部屋で父さんをやっつける呪文を考えた。ホグワーツの授業では教わらないような闇の魔術の呪文も唱えてみる。もちろん実際に杖を振るわけにはいかないから、頭の中で術をかけてやっつけるのを想像しているだけだけど。

そのうち新しい呪文を考え始めた。たいていは、父さんにこんな呪文をかけて反撃してやりたいという腹立ち紛れの空想から始まる。怒鳴れないようにしてやりたいとか、切り裂いてやりたいとか、逆さに吊るしてやる、とか、そんな反撃のアイデアを具体的な呪いの形にして、本を調べたりしながら効果のある呪文につくりあげていく。その作業は繊細なアートのようで、考えているうちに父さんへの怒りも忘れて夢中になった。家では試せないし、調べたいのに本も足りない。早くホグワーツに戻りたいと、最後はそういう思いになった。

試作した呪文に得意になってリリーに話したら、セブ、それは呪われた闇の魔術よと眉をひそめられた。それから、研究熱心なのはいいけど最近は闇の魔術に偏り過ぎだとか、闇の魔術は人を苦しめるものだとか、それはスリザリン寮の影響じゃないかとか言われた。

僕は、闇の魔術は弱い者が身を守るための強い力になると思う。それに緻密に織りなされる美しいアートだ。リリーは闇の魔術に神経質すぎると思うし、それはグリフィンドール寮の影響じゃないかと思ったけど、言うとケンカになりそうなので、口をつぐんで話を変えた。最近少しだけ、リリーと考えがあわないことがあるような気がして不安になることがある。それはリリーがグリフィンドールの偏見の影響を受けているせいだと思う。


やっと新学期が始まって、ホグワーツに帰れてほっとした。もう父さんから殴られたり、獣のような唸り声や母さんの悲鳴に耳をふさぐこともない。食堂に行けばおいしい料理が並び、図書館には選びきれないほどたくさんの本がある。そして、スリザリンの仲間たち。

僕の顔を見るなり、マルシベールが駆け寄ってきた。マルフォイ先輩が手配してくれて、妹がセントマンゴ病院に入院して手厚い治療が受けられたそうだ。まだ入院しているけど、退院する頃には、走ったり無理はできなくても、普通の暮らしができるようになりそうだと言う。希望が見えて、お母さんも気を取り直して仕事を始めたから、マルシベールは卒業までホグワーツにいられそうだと喜んでいた。

僕が先輩に話してくれたおかげだとお礼を言われて、僕も嬉しかったけど、仲のよさそうな家族の話が少し羨ましくもあった。妙に黙りこくった僕の顔をマルシベールがのぞきこむ。その青い瞳に心をのぞかれるような気がして、とっさに思いを隠した。本で読んだ開心術のことが頭に浮かんだから。

本で読んだ時も、すぐマルシベールのことが浮かんだ。かわした会話の中で思い当たることがあった。マルシベールのように魔術に長けた家に育てば、学校でやっていない術ができても不思議はない。だから僕も、人に知られたくない様ざまな惨めな記憶を隠せるように、閉心術を勉強した。といっても、学ぶまでもなくやっていたことだと気がついただけなのだけど。

「おまえもさ、スネイプ、困ってることがあればマルフォイ先輩に話してみろよ。おまえのことなら、きっとすぐ助けてくれるぜ。」

「僕は大丈夫だよ。ローブの丈が足りないだけさ。」

そう言って笑ってみせると、マルシベールも笑って答えた。

「俺は幅も足りないけどな。」

マルシベールに言われるまでもなく、優しくしてくれるマルフォイ先輩なら僕を助けてくれるかもしれないと思ったことはある。だけど。

グリフィンドールのヤツらにいじめられて困ってるんです、うちに食べ物がなくてお腹がすいてつらいんです、父さんに殴られて家に帰るのが嫌なんです、父さんはいつも酒に酔って暴れるんです、父さんはマグルで魔法使いの僕を化け物と嫌うんです、、、

どれ一つとっても、惨め過ぎると思う。僕にだってプライドがある。僕を知るリリーの友情と得意な魔術だけを支えに、そのプライドを保とうと頑張っているけど、言葉にしたら崩れてしまいそうだ。まるで僕がそんな扱いに相応しい、価値のない人間に思えてしまいそうで。

薄汚い穢れたマグルの酒飲みを父親に持つことも、虐待される惨めさも、グリフィンドールにいじめられる弱さも、知られたくなかった。僕の魔力を評価してくれるマルフォイ先輩や、友達として接してくれるマルシベールたちには、なおさらだ。軽蔑されて見捨てられたくないし、同情されて憐れまれるのもイヤだった。

惨めな僕の本当の姿を知っているのはリリーだけだ。幼い頃から事情を知っていて、ずっと励ましてくれた。マグルに囲まれた街で、互いにただ一人の魔法使いの友達として、無条件に僕の存在を認めてくれたリリーならいいけれど、他の人に知られれば、惨め過ぎて僕は壊れてしまうと思う。



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tag : ハリーポッター リリー スネイプ

セブルスとルシウスの物語(13)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


4学年度が終わり、ホグワーツ特急でキングスクロスの駅に着いた。駅にはマルフォイ先輩が配してくれた、マグルには見えないように魔法で隠された馬車が停まっていた。僕のほかにもう1人、僕より1年下のスリザリン生が乗って来た。レギュラス・ブラック。グリフィンドールの憎たらしいブラックの弟だ。

「おまえも招かれているのか?」

警戒しながら尋ねると、レギュラスはうなづいたきり、下を向いて大人しく座っている。黒い巻き毛も顔立ちもブラックに似ているけど、性格は違うようだ。それきり話すこともなく、しばらくすると馬車は大きな門の前に着き、音もなく開いた門を過ぎて家の前に停まった。といっても、それは僕の『家』の概念を大きく超えていて唖然とするばかりだったけど。

屋敷妖精に連れられて大きな部屋に入ると、豪華な家具や凝った置物が並んでいて、スゴイという言葉が浮かぶばかりだった。僕の粗末なローブはおそろしく場違いだ。隣に立つレギュラスには驚いた気配はなく、ブラック家が名門であることを実感して少し悔しかった。

何人か見たことのあるスリザリンの先輩たちと話していたマルフォイ先輩が立ち上がり、僕たちを迎え入れてくれた。

変わらないきれいな顔立ち、それを縁取るプラチナブロンドの髪、優雅なしぐさ、そして懐かしい笑顔。高慢にも見えるその笑顔が自分に向けられると、僕はいつも晴れがましさと気遅れの混じる複雑な気持ちになる。

セブルスレギュラス、よく来たね。こちらに来て座りなさい。」

手招きされて、マルフォイ先輩の隣の席に座ると、ホグワーツの頃のように周りの先輩たちが僕を見てニヤニヤしていた。嬉しいけど居心地が悪い、またも複雑な気持ちで座っているうち、いったん家に帰ってから出向いたらしい今年の卒業生たちが何人か到着した。

それで全員揃ったらしい。マルフォイ先輩が軽く手を上げると、皆静かになった。

「スリザリン寮はすばらしい仲間が集まっている。卒業後も友好を深め、ともに歩む仲間たちと楽しいひと時を過ごしたくて招いたのだ。さあ、飲み物を手に。」

皆で乾杯した後は、談笑が始まった。年上の先輩たちが今年の卒業生にホグワーツの様子を尋ねたりしていたけど、そのうち最近の社会情勢の話になっていった。ホグワーツの外の世界では、マグルを排除し純血を尊ぶヴォルデモート卿ことダークロードの勢力が増しているという話だ。

スリザリンは伝統的に純血主義だから、この流れは好ましいことだとみんな口をそろえて言う。ダークロードの勢力に加わり、純血主義の理想を実現しよう。闇勢力の完全制覇まであと一歩だ。穢れた血などやっつけろ。成人した先輩たちはビールの勢いも加わってか、口々に勇ましいことを言い始めた。僕もマグルは嫌いだし純血こそ尊いと思うけど、ハーフだから少し居心地が悪い。マルフォイ先輩が僕のほうをちらりと見てから言った。

「純血こそ尊ぶべきものだ。だが、ハーフであっても半分流れる魔法族の血を重んじ魔力を磨くなら、ダークロードは魔術の強さを評価なさる。ダークロード自身、実に魔力の強いお方だ。私も会ったのだが、実に見事な闇の魔術を披露してくれた。マグルを排し世を支配するには、真に強い力、闇の魔術が物を言うのだ。」

そしてマルフォイ先輩は立ち上がり、闇の魔術をやって見せた。みんな感心しておしえてほしいと言い、マルフォイ先輩は、それでは時々練習会を開いてやると応えた。未成年の生徒は学外での魔法は禁じられているから、僕は加われないと少しがっかりしながら聴いていた。

皆がそれぞれに談笑したり、ふざけて魔術の掛け合いを始めた頃、隣のマルフォイ先輩が顔を寄せて囁くように話しかけてきた。

「おまえなら先ほどの術など簡単にできるだろう、セヴィ?」

「やったことはあります、簡単じゃないけど。」

セヴィと呼ばれて、そう呼ばれて額にキスされたことを思い出して顔が赤らむのを感じ、あわてて答えた。

マルフォイ先輩は満足げにうなづいている。それから今年の成績を尋ねられ、呪文学や魔法薬学ではいい成績だったというと、期待通りだと褒めてくれた。

僕は少し心強くなって、思い切ってマルシベールの家の話をすることにした。父親が行方不明になり、病気の妹の治療費に困っていると。さすがに助けてやってほしいなどとは頼めなかったけど、マルフォイ先輩のほうから、何か出来るか考えてあげようと言ってくれた。

しばらくして、僕とレギュラスは遅くならないうちに帰るように言われた。僕には馬車を使っていいと言う。家の外に出てレギュラスに尋ねてみた。

「おまえは乗らないのか?」

「僕はうちから迎えが来るから。」

なんのことかと思う間もなく屋敷妖精が現れ、邸内では大人しいばかりだったレギュラスが、嬉しそうに声を上げて駆け寄っていった。

「クリーチャー!」

それからレギュラスは僕に手を振って、妖精と手をつないだと思ったら、あっという間に姿が消えた。

僕はマルフォイ邸が名残惜しく、家に帰るのも嫌だったけど、しかたなく馬車に乗って家に向かった。家のことを考えると気持ちが沈んでいく。自分を励ますように、1年ぶりで会えた先輩のことを思い出していた。先輩はあんな立派な家で育ったんだ。高貴な純血の家、美しい容姿、優れた知性、お金と力。全てを持っている人。そんな先輩が、僕の魔力を評価して、ほかに何も持たない僕に目をかけてくれる。

先輩は、ハーフでも半分流れる魔法族の血を大切にすればいいと言っていた。僕はハーフマグルのスネイプじゃなくて、半純血のプリンスだ。母さんのプリンス家の血を重んじ魔力を磨けば評価される世の中になるらしい。

僕の得意な闇の魔術。誰にも負けないようにもっと磨きをかけようと誓った。そうすればマルフォイ先輩にも、世の中からも認めてもらえると思う。

~~~~~

今日の集会は、概ね成功だった。私の配下になれそうな者たちを集めてみたが、皆純血主義で、闇の勢力に加わりたいと望んでいる。私が推薦してやるといえば、喜んでデスイーターになりたがるだろう。これから時々闇の魔術の練習会を開いておしえてやり、あわせて結束を強めてゆけばよい。

闇の魔術といえば、やはりセブルスが傑出している。相変わらず痩せっぽちで粗末ななりだったが、期待通り勉強を頑張っているようだ。セブルスなら単なる手駒ではなく、優れた魔力と賢さで必ず役に立つはずだ。

仲間を集めようと思い立ってから気づいたのだが、私には無条件に信頼できる近い血縁の者がいない。純血はどこも姻戚でつながっているという魔法界だが、父上の長い世代の間に縁が途絶えたのだろうか。私には兄弟も従弟もいない。娘を金で売ったような母上の実家とは、もとよりつきあいはないし。能力はあるのに社交性がなくて孤独なセブルスなら、誰より私だけに忠誠心を持つに違いない、血縁者とはいかなくとも、信頼のおける親しい者として、いずれはそばに置きたいとすら思ったこともあるのだが、、。

そのセブルスが、1年ぶりの再会だというのに、同級生のマルシベールを助けてやってほしいなどと言ってきた。私が卒業してからほんの1年の間に、親しい男ができるとは許し難い。腹が立って、レギュラスの迎えがくる時間にあわせて早々に帰してしまった。

まさか抱き合うような間柄になってはいないだろうが。しかし体も世慣れも子供じみたままだが、考えてみればセブルスも15歳になったはずだ。そろそろ性的なことに興味を持ったり、血迷って恋に落ちることもあるやもしれぬ。セックスなど遊びで流すこともできるが、時には支配し支配を許す、破壊的な力を持つこともある。

他に悪い虫になりそうな者がいないか、在学中に見たセブルスのことを思い起こしてみた。たいていは1人で本を読んでいて、親しそうな者はいなかった。何度かグリフィンドールの赤毛の女の子と歩いているのを見かけたが、宿敵グリフィンドールとの付き合いなど続くはずがない。

やはり問題はマルシベールだ。金髪巻き毛の体格のよい少年だった。容姿も悪くない。セブルスのような社交べたな様子はなく、むしろ如才なく、誰とでも親しめそうな快活なタイプだ。いったいどこに接点があったものか?マルシベール家ば今は落ちぶれたが旧い純血家系だ。セブルスが同情をよせるほど困窮しているとは。

少し調べると、確かに苦境にあるようだった。父親が失踪し、母親は病がち、妹は心臓病を患っている。ここはマルシベールに恩を売り、万が一にもセブルスに手を出さぬよう丸めこむのが得策だ。

マルシベールを屋敷に呼んで事情をきき、場合によっては妹をセントマンゴ病院に入院させてやることも可能だと言った。マルシベールは、助けてもらえたらこの恩は一生忘れない、恩に報いるためなんでもしますと拝まんばかりだ。私はゆっくりとうなづきながら釘を刺した。

「他ならぬセブルスの頼みだからきいてやるのだ。意味がわかるな?」

マルシベールは少し驚いたように青い目を瞬かせていたが、やがて大きくうなづいた。世に疎いセブルスと違って、世間をわかる程度には大人のようだった。

それとなく話をきくと、他にセブルスと親しくなった者はないようだ。そしてマルシベールも、セブルスほどではないにしても、闇の魔術に詳しいとわかった。家系の影響で服従の術が得意なのだと言う。まだ年は足らぬが、そのうち使える手駒となりそうだ。すぐに妹の入院を手配してやった。

その後、またセブルスを、今度はマルシベールと一緒に家に呼ぼうなどと考えていたのだが、忙しくなってそれきりになった。闇の勢力の優勢が明らかになり、私も予定より早くデスイーターに加わったからだ。

集合時にフードで顔を覆うデスイーターたちは、全員の正体がわかるわけではないが、皆私より年長で、それなりに闇の魔術に長けた者ばかりだと思われた。名家の出の者は、我こそはダークロードの側近との意識が強い。最大のスポンサーであるマルフォイ家の代表として最初から特別待遇を受けたが、先にいるメンバーたちに示しをつけるためにも、早く手勢を増やしたかった。

手駒たちに術を特訓したり、ダークロードに推薦したり、デスイーターとしての通常の活動も忙しかった。忙しいのは悪いことではない。誰より多くの仲間を引き込む敏腕は、マルフォイ家の若造と舐めていた者からさえも敬意を得たし、マグルや抵抗勢力をいたぶる破壊行為には血が騒いだ。

いまや闇の勢力は加速的に勢いを増し、もはや魔法省の主要な部門すべてに影響を及ぼす。抵抗する闇祓いとの戦いも熾烈になったが、私たちの優勢は圧倒的だった。破壊行為に出かけ、マグルをいたぶり、闇祓いを打ち負かす。戦いの後は、勝利の美酒と、男女入り混じっての乱交に高ぶった心身を委ねた。デスイーターの日々は、刺激的なパーティのように過ぎてゆく。


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tag : ハリーポッター セブルス ルシウス レギュラス

セブルスとルシウスの物語(12)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)



ホグワーツを卒業してしばらくは、めんどうな規則や起床時間に縛られない生活を楽しんだ。社交パーティに顔を出したり、クラブで夜を明かしたり、時には仲間たちと酒や怪しげな魔法薬に酔い痴れて快楽を尽くす。マルフォイの御曹司として、どこに行っても特別に遇され、何をしようが咎められることもない。しかしそのように遊び暮らし、秋が深まる頃になると・・・。

「退屈でならぬ。」

誰もいないが、声に出して言ってみた。飽食も快楽も、慣れてしまえば物足りない。

どうやら私は勤勉なのだと気づいた。幼い頃から決められたスケジュールの勉強をこなし、ホグワーツに入ってからはどの教科も優秀な成績をおさめてきた。さらには、スリザリン寮内に目を配り、マグルびいきの校長の方針により、ともすれば理不尽に貶められるスリザリンの地位を保つのにも尽力した。私の立場なら当然と目されていたことだろうが、それなりの努力もしていたのだ。

私には新たな目標が必要なのだ。成し遂げるための富も力も能力も備えているのだから。

しばらく考えた後、私は父上にマルフォイ家の運営に携わりたいと申し出た。父上を手伝いながら、後継者としての能力を養ってゆきたいと。値踏みするような目でしばらく私を見た後、父上は話し始めた。

ルシウス、おまえがそう言ってくるのを待っておった。それでこそ我が跡継ぎ。退廃に身をゆだねる貴族も多いが、それでは富と力を保つことはできぬもの。世の動きも時の流れも、それほど甘くはないのだ。数年のうちにおまえは全てを受け継ぐことになるが、得たものを保つことは容易ではないと心得よ。今あるものにあぐらをかけば、その全ては崩れ去る砂の城に変わる。常に今以上を目指す野心を持たねば、現状を維持することは叶わぬのだ。」

年とともに大げさな言い回しを好むようになった父上の訓示を神妙な顔をして聞き終えると、まずは会計士からマルフォイ家の事業や農場など、資産の全容を学ぶよう指示された。細かいものも数あるが、そこから生まれる収益こそが富と力の源であり、まさかの時の命綱になるのだと言う。当主自身が個別の業務に手を染めることはないが、時の情勢を見極めて、それらを守り、さらなる富や力を得てゆくかじ取りが跡継ぎの役目だとおしえられた。

資産について一通り必要な知識を得ると、会計士から報告があったらしく、父上から呼び出された。

「さてルシウス、おまえは今の世の動きをどの程度知っている?」

ヴォルデモート卿が勢力を延ばしているときいています。マグル出自の増大を抑え、純血による支配を強めるべく、闇の魔術を使い、人々を支配しつつあると。父上も関わっているのでしょう?」

「概ね理解しているようだな。では我が家門との関わりを話すこととしよう。数年前、ヴォルデモート卿と名乗る魔法使いが訪ねてきた。マグル出自の魔法使いを排除し、純血魔法族による支配を強め、ひいてはマグルの世界も支配すべきだとという信念を語り、自分にはそれを為す魔力があるから援助してほしいと申し出てきたのだ。」

「父上も賛同されたのですね?」

「あの者の思想は好ましく、強い魔力と野心も魅力的であった。しかし当時はまだどれだけのことを成しうるか測りかねた。思想が好ましいからといって負け馬に乗るのは馬鹿げているからな。金銭的な支援をして様子を見ていたわけだ。」

「今のところ順調に勢力を延ばしているようですね。貴族の大半も賛同しているのでしょう?」

「そのようだ。だが未だどちらに転ぶかは定かではない。全面的に支援してあの者が失敗したとなれば、我らは失うものが多すぎる。ヴォルデモート卿か既存の勢力か、どちらが勝った場合でも、得るものは最大に、失うものは最小におさめるよう事を運ばねばならぬ。権力の所在が動くときには、細心の注意を払わねば、いつかは没落の憂き目を見ることになるのだ。」

「では失敗に備えてあくまで表に出ぬように、しかしヴォルデモート卿が魔法界を掌握する時が来たら、勢力内で絶対的な影響力を持っているようにするのですね?」

「その通りだ、ルシウス。おまえは十分に思慮深いようだ。それではまず魔法大臣など、各分野の有力者におまえを後継者として紹介しよう。そして近いうちにヴォルデモート卿にも引き合わせることにする。それから彼らの幹部たち、デスイーターと称しているが、その会にまずはオブザーバーとして参加し、内々にマルフォイ家の力を示しておくのだ。彼らの動向を見ながら、おまえの手駒となりそうな者の人選を進めておくがよい。」

「しかし父上、純血は数が少ないわけですが、今以上にヴォルデモート卿に賛同する者を集められるのでしょうか?」

「賛同するのは純血だけではない。純血でなくとも、今ある以上に力を得たい野心家は新たに台頭する権力に擦り寄りたいだろうし、今の世に不満のある者、今の世に希望の持てぬ者は、新たな力に期待を寄せるだろう。一方、ヴォルデモート卿の勢力が増大すれば、警戒し反発する動きも強まるはずだ。その動きも把握しておかねばならぬ。すでに魔法省で闇祓いを増強しているし、外部にも警戒を募らせている者がある。」

「ダンブルドアですね?」

「頼もしいことだ、ルシウス。」

父上は目を細めてボクを招き、肩を抱いた。

「我が息子よ。わしも年をとったが、安心して託せる跡継ぎがいて心強いぞ。マルフォイ家は、古くから繋がる家系図とグリンゴッツの地下金庫に眠る金銀を愛でるだけの旧い貴族ではない。田舎貴族と陰口をきかれながら、わしが長い年月、心血を注いでここまでにしたのだ。おまえは我が血と野心を継ぐただ一人の家族。必ずやマルフォイ家の繁栄を守るのだ。」

それから父上のはからいで各界の有力者たちに顔見せをし、ほどなくヴォルデモート卿との対面も果たした。ヴォルデモート卿は、力強い言葉も語る内容も、知性が溢れ、人を魅了する力を持つ魔法使いだった。そしてよいタイミングで闇の魔術を披露する。表情を変えぬまま放つ魔術の強い威力。その瞬間に目だけが邪悪な光を放つ。

ヴォルデモート卿に、巷で起こっているマグルの虐待やマグルに好意的な魔法族の失踪事件などについての関与を尋ねると、明確な返答は避け、全てが明らかにならぬほうがよいのだと言う。誰が事を起こし、誰が味方で誰が敵かわからぬ状況こそ、人々を恐怖と疑心暗鬼に陥れ、反撃の意欲を失わせる。そのようにして、人々が気づいた時には全てが我らの手中におさまっているのだと。

これならば邪魔者を闇に沈め、近いうちに魔法界を掌握するだけの力を持つだろうと思われた。その時には穢れたマグルを排除し、純血魔法族が支配する世が訪れるのだ。私たちは互いに敬意を表し、握手を交わした。父上は資金援助をしただけだと言っていたが、マルフォイ家が最大のスポンサーのようだ。

ヴォルデモート卿の権力掌握を助け、成し遂げた世で我が家門がいっそうの力を示す。やりがいを感じる事業の始まりに、興奮を抑えられなかった。穢れたマグルを叩きのめし、闇の勢力に対抗する者たちを抑え込む。そして闇の勢力内部では、ヴォルデモート卿に対しても十分な影響力を持てるような力を握るのだ。

そのためには、手駒となる者を集める必要がある。当然、思いつくのはスリザリン寮の仲間や後輩たちだった。

敵方のダンブルドアも、ホグワーツで同じように生徒らの見極めを始めているに違いない。教育者の面をかぶり、とぼけた好々爺を装いながら、反撃の企みを成しているはずだ。実際、ヴォルデモート卿の台頭を恐れる者たちの間では、優れた魔力を持つダンブルドアを次期魔法大臣にとの声も上がっている。マグルや他の魔法生物との共存を説くダンブルドアなどの思うようにさせるわけにはいかない。

私はスリザリン時代の仲間たちと今年の卒業する生徒数人を屋敷に招き、デスイーターとなる資質を見極めることにした。そしてまだ年はいかないが、上級生以上に闇の魔術に長けいてたセブルスも。しばらく考えた後、まだ3年を終えるばかりのレギュラス・ブラックも加えることにした。

ブラック家は魔法界の名門中の名門。その古い歴史と有力純血家系に張り巡らされた姻戚関係で、魔法界の王族とも言われている。長男は何を血迷ったかグリフィンドールに入ったが、次男のレギュラスはブラック家の伝統を継いでスリザリンにいた。新しい権力闘争の運び次第では、ブラック家の者を私の配下に置き、我がマルフォイ家が名実ともにブラック家に勝る地位を得られるチャンスでもある。早いうちにどんな子なのか見極めておきたい。

私はさっそく彼らに招待のふくろう便を送るよう執事に命たが、セブルスへの便りは自分で書くことにした。優れた能力を持ちながら人となじめず孤独をまとい、私の呼び声に戸惑いと喜びを浮かべる野良猫の子のような姿。1年ぶりに思い出すと懐かしい。粗末な身なりや、魔術には優れていても世間の知恵には疎そうなセブルスを思い、キングスクロスの駅に迎えに魔法の馬車を配してやることにした。


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tag : ハリーポッター ルシウス セブルス ヴォルデモート

セブルスとルシウスの物語(11)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


ポッターたちの嫌がらせに悩まされていたけれど、クリスマスで家に戻ると相変わらず父さんに殴られて、休暇があけてホッとした。食べ物に困らず、リリーやスリザリンの仲間のいるホグワーツのほうがずっといい。ここには僕の居場所がある。ポッターたちさえいなければ、どんなにいいだろう。しつこい嫌がらせが口惜しくて、一人寮の談話室の片隅に座りこんでいると、誰かが近付いて来た。

「よう、スネイプ、たそがれてんな。」

顔を上げると、同級生のマルシベールだった。体格がよくて大人びているけど、同級生の中では僕に次ぐみすぼらしい服を着たヤツだ。

「たそがれてなんていない。自分がそうだからそう思うんだろ?僕は考え事をしてただけだ。」

「そう言うなよ。ま、オレがたそがれてるのは事実だけどな。」

マルシベールは嫌がる僕の隣に座り込んだ。

「何か用?」

「貧乏を嘆きたいんだ。」

「嘆きたいなら仲良しに言え。エイブリ―とか、いつもつるんでるヤツがいるだろ。」

エイブリ―とは遠縁で昔から友達だから。まあ、純血はどこも遠縁みたいなもんだけど、あいつんとこと僕の家は親しくてね。だけど今日は、、」

「だけど今日は純血の金持ちの坊ちゃんじゃなくて、たそがれて貧乏な僕に愚痴をこぼしたいというわけか?」

「おまえ、ひねくれてるな。だがまあ、そんなとこだ。でもその前に言っとくけど、エイブリ―んちは金持ちじゃないぜ。おばさんが切り詰めて貯めた金でエイブリ―に新しい服を買ってやるっていうくらいの家で、自分たちは貧乏だと思ってる。エイブリ―はそんなおばさんに小遣いをせびって、少しずつためた金で買ったお菓子をオレにも分けてくれるような気のいいやつなんだ。」

僕は一人でいたかったのだけど、マルシベールの口調に滲むほろ苦さを感じて口を閉じた。

「だけどさ、あいつにわかる貧乏ってその程度なんだ。貧乏だけど家族3人寄り添えば温かいってやつさ。おまえんちは違うよな。切りつめてもおまえに服買ってやる余裕はない、か、そもそもおまえの服のことなんか頭にない。」

マルシベールが、僕の、体のわりに小さすぎるローブを見た。母さんが去年自分の昔のローブを手直ししてくれたもので、今の僕にはあきらかに小さすぎる。

「君のだってずいぶん古いじゃないか。」

僕はむっとして言ったのだけど。

「おまえ、ガリガリでいいよな。ローブの丈が足りなくなるだけだろ?オレなんか筋肉ついちゃって困ってんだ。」

僕はがっちりとたくましいマルシベールの体を羨ましく眺めたけれど、よく見ると確かに、胸や腕はローブの生地が引き延ばされて透けて見えるほどだ。僕は少し驚いて話をきく気になった。みすぼらしい恰好はしてるけど、マルシベールの家は何代も続く純血の旧家だときいている。

「君の家ってそんなに貧乏なのか?純血の旧家なのに?」

「ああ、おまえ混血だっけ。魔法界の外で育ったんなら知らないだろうけど、純血でも貧乏はいるさ。うちは何代もさかのぼれば名門だったんだ。有名な学者の家門で、禁じられた呪文の服従の術の開発にも関わってたんだぜ。だけどそれで逮捕者が出たり、名門の体面を保つために無理したり、なんだかんだで親父の代にはすっかり落ちぶれてたってわけさ。それでも親父は体面を保とうとに必死に頑張ってたようだけど。」

「いい父親じゃないか。」

「うん。だけどここからは、おまえにはわかると思うから話すんだけど、ほんとの貧乏ってのは、金がないだけじゃないんだよな。家族や人を壊すんだ。」

「僕は貧乏で壊れていると言いたいのか?」

「そうじゃない。そんな環境がわかるように見えるのさ。そしてそれと戦っているようにね。もっともオレにはそう見えるけど、ほかのみんなには、ただの貧乏で偏屈な変わり者と思われてるだろう。」

「ふん、わかったようなことを言う。それで君の家はどう壊れたんだ?」

「オレには年の離れた妹がいてね、その妹が生まれつき心臓が弱くて、治療費に困窮した。貧乏ながらかろうじて保っていた名門の誇りも崩れ去ったんだ。親父は体面に拘って避けていた日雇い作業まで引き受けて、昼も夜もなく必死で働いて治療費を稼いでいたよ。だけど体を壊して働けなくなった。それから酒浸りになって、いつの間にか行方知らずさ。」

予想以上に深刻な話で、人ごとながら心配になった。同じ酒浸りでも、家で暴れているよりはずっとマシな父親だと思う。

「それって、事故か何かじゃないのか?」

「この間おふくろから連絡が来てうちに行ってきた。あちこち聞いたけど親父の行方はわからない。おふくろはうつ状態で寝込むし、妹の薬もなくなってな。エイブリ―のおばさんに頼んだら、なけなしの金貸してくれてさ、ようやく2週間分の薬は買えたけど。オレ、これからどうしたらいいんだろう。学校辞めて働くべきかな・・・おふくろと妹、養っていけるんだろうか。」

言ううちにマルシベールは金髪の頭を抱え込んでいた。大柄で大人びたマルシベールが、頼りない子供に見える。14、5歳の学生には重すぎる荷だ。だけど。

「だけど、話す相手を間違ってる。僕に言ったって、どうにもならない。お金なんてないし。」

マルシベールは顔を伏せたまま何度もうなづいている。そんなことはわかっていただろう。ただ、誰かに吐き出したかっただけなのだ。惨めさをわかってくれる、同じように惨めな相手に。

「世の中って不公平だね。お金なんて有り余っているような人だっているのに。・・・マルフォイ先輩がいたら助けてくれるかもしれないけど。」

何気なく口にすると、それまで顔を伏せていたマルシベールが突然顔を上げた。

「そういえばスネイプマルフォイ先輩と仲良かったよな?先輩の、、」

すがりつくようなマルシベールの目。僕もこんな目をしているんだろうか。

「先輩の、ペット?」

「ああ。言葉は悪いけど、気に入られてるってことだろ?おまえが困ってたら、きっと助けてくれるよな。」

どうだろう?マルフォイ先輩は僕を気にかけて励ましてくれたけど、僕の貧しさに同情するような気配はなかった。むしろ僕は、貧しい僕でも勉強や魔力で評価してくれたのが嬉しいと思ってた。

「あの人には、貧乏で困るなんてこと、想像もつかないと思う。」

「ハハ、そうだな。」

僕たちは互いに、自嘲的に笑うしかなかった。

マルフォイ家ってさ、ブラック家みたいな古い名門じゃなくて一代で勢力を強めたから、純血の間では成り上がりだとかスノッブだとか陰口もあるんだ。だけど先輩はいい人だったんだな。おまえみたいに見るからに貧乏なヤツでも可愛がってくれたんだから。きっとおまえが頼めばなんとかしてくれるさ。」

「ペットから飼い主に何か頼めるものか。それに、卒業してしまって、きっともう忘れてる。」

マルフォイ先輩がいた頃はよかった。今よりずっと楽しかったと思う。僕は気にかけてもらえたのがすごく嬉しかったけど、先輩にとってはほんのペットか、おもちゃで、、、飽きて捨てて、忘れてしまったのかもしれない。

僕たちはそのまま、しばらく惨めに座っていた。


そんなことがあってから、僕は時々マルシベールと話すようになった。話してみると、服従の術の開発に関わった旧家の子供だけに、闇の魔術にも詳しくて、なかなか面白かった。服従の術は禁じられた呪文だから使えばすぐにアズカバン行きだけど、重罪にならない軽いバリエーションもあるらしい。たとえば小動物にかけたりとか、短時間の幻覚で意思に反することをさせるとか、家に伝わる秘伝のようなことも教えてくれた。やり過ぎると、マルシベールのおじいさんやそのまたおじいさんみたいに、逮捕されてしまうらしいけど。

そのうちマルシベールと仲のいいエイブリ―とも親しくなった。エイブリ―は特別に優れたとこはなくて、むしろ暢気なおっちょこちょいだったけど、マルシベールの言うとおり、気のいいヤツだった。同い年なのにしっかり者のマルシベールを慕っていて、弟みたいだ。大好きな兄さんの苦境に、力になりたいと思っているのだった。

マルシベールの家の問題は、エイブリ―が母親に泣きついて結婚指輪を質に入れてもらい、当面の薬代を工面したそうだ。2人で夏休みにアルバイトをしてお金を返す計画らしい。

マルシベールとエイブリ―は、リリーを除いて初めてできた、友達らしい仲間だった。くだらないと思うことも多いけど、授業以外の時間をたわいなく一緒に過ごす友達がいるのは、気が休まることだ。僕に対して弱みを曝した彼らには、僕も安心して接することができた。ただ、父さんからの虐待やポッターたちからの嫌がらせのことを話すことはできなかったけど。口にすると惨め過ぎて、自分が壊れてしまいそうだから。

彼らからは、ほとんどがどうでもいいことだけど、いろいろな情報が伝わってきた。彼らとの交わりの中で、僕は本で学べる以外のことを、ほとんど何も知らなかったことに気がついた。魔法界の常識とか世の中のしくみとか、それにまつわる人の思いや葛藤とか。家族や友達と交わる中で、人は自然と様々な体験や知識を共有し積み重ねていく。それは何かを判断する際の基準となるものだと思う。家族とも友達とも交わりの少なかった僕には著しく欠けているものだった。欠けているとわかっても、埋める術はないけれど。


こうして4年も終わる頃、ふくろう便が届いた。みんなに届くのが羨ましくて、目をそらしていたふくろう便。いったい誰が?でもほんとは開ける前からわかってた。あきらめようと思いつつ、心の奥では待ちに待っていたのだから。


親愛なるセヴィ、

夏休みの初めに、何人か友人を屋敷に招き会を催す。ホグワーツ特急の到着時に、キングスクロスの駅に迎えの馬車を配しておくからそれに乗ってウィルトシャーに来るがよい。学校の話を楽しみにしている。

ルシウス・マルフォイ


短い便りを何度も読み返した。先輩は僕のことを忘れてなかった!約束通り屋敷に招いてくれた!

嬉しくてさっそくリリーに話そうと思ったけど、ふと立ち止まる。リリーは最近スリザリンの仲間のことをよく言わないから。気を変えてマルシベールたちに話すことにした。マルフォイ邸に招かれたと言ったら、エイブリ―は目を丸くして「スゲーじゃん」と連発した。

「先輩と話せたら、君の家のことも頼んでみる。」

マルシベールに言うと、ありがとう、頼むよと手を握られた。マルフォイ先輩が助けてくれれば、マルシベールの妹も、薬で命をつなぐだけでなく、病院できちんとした治療を受けられるかもしれない。友達って不思議だ。特別なリリーは別として、誰か人のために、何かしてやろうという気になるなんて、なんだか自分が照れくさかった。

それから、ウィルトシャーのマルフォイ邸を想像してみた。エイブリ―の話によると、想像もつかないほど広くて豪華な所らしい。と言われても、エイブリ―だって行ったことがあるわけじゃないから参考にならないけど。こんな服で行っていいとこなのか?でも他に着替えはないし。

マルフォイ先輩の前に出るといつも感じた気遅れが湧きあがったけど、それよりもずっと、嬉しい気持ちが大きかった。


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セブルスとルシウスの物語(10)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


ホグワーツの3年目は穏やかな年だった。相変わらず、スリザリン内では仲間外れにされることはないものの親しくもなれず、ポッターやブラックの嫌がらせには腹が立ったけれど、リリーの友情とマルフォイ先輩の好意に支えられて、幸せに過ごせたと思う。

振り返ってそんなふうに思うのは、4年生になって孤独を感じることが多くなったからだ。まず、マルフォイ先輩が卒業してしまった。3年の終わりには、僕を部屋に呼んで、

「セヴィは優秀なのだから、これからもしっかり勉強して魔術を磨くのだぞ。そのうち屋敷に遊びに来るといい。」

と言ってくれた。先輩は卒業してしまうけど、うちに遊びに行けるんだと自分を励ましていた。だけどその後なんの音沙汰もないまま、新学年を迎えると当然ながらホグワーツにマルフォイ先輩の姿はない。勉強を頑張っても、術を磨いても、褒めてくれる人はもういないと思うと、張り合いも失せる気がする。呼ばれて先輩の隣に座る僕をからかっていた上級生たちさえ懐かしく思った。

同級生や他のスリザリン生たちの態度は変わりはしなかったけれど、マルフォイ先輩がいなくなると、彼らとの距離を感じずにはいられない。少しずつ大人になっていくこの時期に、悩みや些細な出来事をともにできる親しい友達がいるのは心強いことだろうと思うのだけど。何かにつけてくっついている数人ずつの仲良しグループに、僕は入っていくことができなかった。

リリーとの友情は変わらず続いていると信じているけど、ほんのわずか、違和感を感じることがあるようになった。たまにリリーが、純血を重んじるスリザリンを悪く言うのだ。それに、僕の大好きな闇の魔術のことも。

「セブ、純血主義を謳い、闇の魔術を駆使する、自称『闇の帝王』が勢力を増しているのよ。マグルを『穢れた血』と貶めて虐待しているの。あたしの友達の家族も襲われて入院したって。スリザリンは『闇の帝王』を支持しているそうよ。」

「君の血は穢れてなんていないよ、リリー。僕だって半分マグルの血が流れているけど、スリザリンで嫌がらせされるわけじゃない。グリフィンドールのポッターたちやマグルの父さんのほうこそ、僕を虐待してる。」

リリーはグリフィンドールの考えに毒されてスリザリンを悪く言うんだと思う。実際のところ、僕も半純血の出自に肩身の狭い思いをしないわけではないけど、魔法使いがその血を誇るのが悪いことだとは思わない。マグルの父さんを見れば、それに比べて魔法族がいかに優れているかよくわかる。父さんなんてむしろ、闇の帝王とやらに懲らしめてもらいたいくらいだ。

リリーは優しいから友達の家族を心配するけど、僕は家族を心配する気持ちなんて想像もつかないし、闇の勢力の隆盛とかいうホグワーツの外の状況に興味もない。どうせ僕にとってはひどいことばかりなんだから。ホグワーツとリリーに変わりがなければそれで十分だ。

「君は大丈夫だよ、リリー。心配いらない。それより温室の裏の林に行こうよ。きれいなユリがもう咲く頃だよ。」

リリーとの秘密の場所、林の岩陰のそばに、夏休みが明けてすぐにユリの球根を植えた。リリーの好きな白いユリ。僕は毎日、よく育つ呪文をかけた水をやって育てていた。リリーの喜ぶ顔が見たくて。そのユリの蕾が大きく膨らんでいたのだ。

それから僕たちは手をつないで林に向かった。リリーは小さくため息を漏らしていたけど、大輪のユリの花を見て喜んでくれた。リリーの笑顔が見られれば、他に何もいらない。

そのリリーとも、こそこそ隠れて会わなきゃならないようになった。リリーの言う闇の勢力の台頭のせいもあるかもしれないけど、スリザリンとグリフィンドールのいがみ合いが度を越してきて、グリフィンドールと仲良くするなんてと僕でさえ仲間から文句を言われるほどなのだ。

それというのも、ポッターたちのスリザリンへの嫌がらせがひどくなったからだ。睨みの効くマルフォイ先輩がいなくなったせいもあってか、この間など、ポッターとブラックが寮内に忍び込んで、爆竹を爆発させた。それも魔法で色のついた粘液が噴き出るものだった。談話室にいたスリザリン生たちはパニックを起こして、茶色や緑や赤のネバネバがついたパジャマ姿で外に逃げ出した。外に出るとポッター初め数人のグリフィンドールたちが『たまたま通りかかって』、その光景に大笑いしていた。

運悪く近くにいた数人が火傷を追う大事になったのだけど、先生たちは証拠がないと言って、ポッターたちはお咎めなしだった。寮内での目撃はなかったけど、スリザリンではみんなポッターたちの仕業だとわかっていた。あんなばかげて、しかもたちの悪い悪戯をするのは、彼らしかいないから。たまたま通りかかって逃げ惑うスリザリン生を偶然見かけたなんてことも、あり得ない。それなのに。校長先生も副校長先生も、グリフィンドール出身のグリフィンドールびいきだからヤツらを見逃すのだとスリザリンでは言っている。甘やかされて育った彼らは、学校でも甘やかされるいい身分だ。

一般のスリザリン生でさえ被害を被るほどなのだから、僕への嫌がらせはいっそう酷いものになってきた。ポッターとブラックは、ペティグリューとルーピンという手下を従えて、僕一人の時を狙って攻撃をしかけてくる。僕も術を磨いて反撃したけれど、2人に同時に仕掛けられると分が悪かった。ブラックに応戦しているとポッターに杖を飛ばされるし、ポッターを追い詰めるとブラックに後ろから攻撃されるという具合で。

ネバつきシャンプーを頭から掛けられた時など窒息しそうになったし、林の木に磔にされて毛虫や蜘蛛や、気味の悪い虫を体中に這いまわされたこともある。おかげで僕はいつも医療棟でマダム・ポンフリーのお世話になる羽目になったし、汚されて洗濯を繰り返す衣類はいっそう古びていく。

僕から話を聞いたリリーが怒って責めると、ポッターは闇の魔術を使う僕を懲らしめただけだとせせら笑っていたそうだ。ブラックは、ちょっとした悪戯に目くじら立てるなんて、ひょっとしてアレの日か?とリリーまでバカにしたらしい。カンカンになって最低なヤツと罵るリリーに慰められたけど、その後彼らはいっそう巧妙になった。

僕はいつも用心し、一人にならないように気をつけていたのだけれど、トイレに行ったときに捕まってしまった。いきなり現れたポッターとブラックは、僕の杖を奪って僕を個室に閉じ込めた。狭い個室で2人がかりで僕の頭を便器に押し込んで、得意のネバつきシャンプーを頭にかける。

「スニベリーが泣きべそかいてるぞ!」

「べったり髪で便器が汚れるぜ。」

「鼻水まで垂らしてら~」

やっとのことで顔を上げて息をつくと、ペティグリューのどこか暢気な声までが僕を辱めた。

「やめ、、ろ、、」

また頭が水に押し付けられて粘つくシャンプーの泡がまとわりつく。苦しくてもがいても、鼻からも口からも泡が入って息ができない。感じるのは口惜しさでも怒りでもなく、、、恐怖。ヤツらは本気で僕を殺す気かもしれない。頭の上からポッターの憎しみのこもる声が降ってきた。

「スニベルス、泣きべそかいてエバンスに言いつければいい。便器で汚い髪を洗ってもらいましたって。」

「ケツも洗ってほしいってか?パンツ下げてさ。やるか、ジェームス?」

嘲るブラックの声。恐怖と恥辱で息もできない。もう、ダメだ。涙がにじんで、がむしゃらにもがいて、、。その時、見張り役のルーピンの声が聞こえてきた。

「ジェームス、シリウス、誰か来るみたいだ。もう充分だろ?引き上げよう。」

ポッターとブラックの手が緩み、僕はようやく顔を上げた。ぜいぜいと息をするのが精いっぱいで、戦う気力もない。

「しばらくぬれ鼠でべそかいてろ。」

ポッターとブラックは捨て台詞を残し、個室の扉に閉じ込め呪文をかけて逃げていった。扉の下の隙間から、届きそうで届かない所に僕の杖を置いて。

彼らが去ってほっとしたけど、こんな惨めな姿を誰にも見られたくなくて、助けを呼ぶ気にならなかった。せめて身を整えようにも、杖がなくてはどうしようもない。僕は涙が滲むのをこらえながら、ペーパーで顔や髪の泡を拭い、ぬれたローブの水をしぼった。

そうして、どのぐらい個室に閉じ込められていただろう。密やかな足音と呪文の声がして扉が開いた。たぶん僕と同じくらい蒼ざめた顔のルーピンが立っていて、杖とタオルを差し出した。僕は物も言わずにそれを受け取り、ルーピンを突き飛ばした。壁に張り付いたルーピンは、目をそらして何も言わない。

「臆病者!」

僕は言い捨てて、寮に戻った。ポッターたちは悪賢い。僕が恥ずかしくてリリーに言えないように、嫌がらせに辱めを加えたのだ。そして狙い通り僕がリリーに話せないと確信したのか、似たような悪だくみを繰り返した。

思い詰めて僕から攻撃したこともある。人目のある場所で、一騎討ちに応えろと狙いを定めて。ポッターの頬を引き裂くことはできたけど、ブラックがすぐ駆け付けて、後ろからの攻撃に倒された。ある程度事情を知るリリーは「セブにかまわないで」と庇ってくれたけど、集まったみんなからはただのケンカ扱いされた。

こんな傲慢で陰湿なヤツらなのに、相変わらずポッターはクィディッチのヒーローの人気者で、見た目も血筋もよいブラックは魔女にもてはやされている。そして僕は闇魔術を操る不気味なヤツだと言われる。みんなポッターたちの外面に騙されているんだ。先生たちでさえ、ヤツらを『悪戯が過ぎる困った子たち』と甘やかす。ほんとに世の中はどこまでも不公平にできている。


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セブルスとルシウスの物語(9)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


秋になるとクィディッチの初戦がある。魔法界では人気のスポーツらしいけど、僕はホグワーツに入るまでまったく知らなかった。箒に乗った選手たちが、球を投げ合ったり羽を取るのを競うゲームで、箒に乗るのすら苦手な僕はクィディッチ自体にはあまり興味がなかった。だけど寮対抗の試合となれば話は別だ。初戦は僕たちのスリザリン対グリフィンドール。僕もスリザリンの仲間とともに応援席についた。宿敵との対決に、スリザリン生たちも一段と盛り上がっている。

僕も心からスリザリンの勝利を願っているけれど、グリフィンドールの応援席にいるリリーを見て複雑な気持ちになった。リリーがなぜあんな野蛮な寮に組分けられたのかと今でも不満に思う、のと同時に、純血を重んじるスリザリンにマグル出身のリリーが入れなかったのも当然かもしれないと、組分けの事情もわかってきた。僕だって半純血の出自に肩身の狭い思いをするのだから。そしてこんなふうに、リリーと宿敵同士の寮に引き裂かれたのは理不尽だと思う。もし同じ寮に入れたら、今だって僕の隣にはリリーがいてくれるはずなのに。

けれどそんな複雑な思いは、試合の開始とともに吹っ飛んだ。グリフィンドールチームの中に、憎らしいポッターの姿があったからだ。まだ2年生なのにヤツはシーカーとして試合に出場している。

ゆけゆけスリザリン!頭脳プレーでグリフィンドールをやっつけろ!

スリザリンの仲間たちとともに、僕は力の限り声援を送った。スリザリンが着々とゴールを決めていく。そして両チームのシーカーがスニッチを追い始めた。ここでスリザリンがスニッチを捕れば悠々の勝利だけど、グリフィンドールが捕ればグリフィンドールの逆転勝ちになる。

他の選手たちはまだゴールを狙い続けていたけれど、観客の目はシーカーの動きに集まっていた。2人のシーカーが、互いにスニッチを狙い、相手を蹴落とし出し抜こうとする息を飲むせめぎ合い。箒に乗った姿が空に消えたと思う間もなく、思いがけない場所に急降下してくる。スリザリンのシーカーに比べ、一回りも二回りも小柄な2年生のポッターの、引けを取らない箒さばきに、グリフィンドールだけでなくレイブンクローやハッフルパフからも声援が送られた。そして・・・

ポッターがスニッチを掴み、高々と右手を上げた。スリザリンを除く観客席からは大声援が上がる。試合を中継するアナウンサーはグリフィンドールの勝利を称え、小柄なシーカー、ポッターの名を連呼した。

「クィディッチの新しいヒーロー誕生!ジェームス・ポッター!ジェームス・ポッターに拍手を!」

スリザリン席からはブーイングが起こったけど、それ以外の観客席からは拍手が送られた。ポッターは箒に乗ったまま両手を高く上げて声援に応え、空中で大きな一回転をして見せた。その姿は夕陽を受けてキラキラと輝いている。

忌々しいヤツだ。僕は苦い思いでそれを見ていた。いつもきれいな服を着て、僕のように殴られることもなく、裕福な家庭で甘やかされて育ったと一目でわかる傲慢なヤツ。1年生の頃から、嫌がらせをされるたびに湧きあがっていたポッターへの嫌悪の言葉が頭に浮かんできた。

遊んでばかりいるように見えるのに成績もよくて、今度はクィディッチのヒーローときた。僕と違って運動神経にも恵まれているんだ。箒の授業で、僕は思うように従ってくれない箒に手こずって周りにいた女の子たちから笑い者にされたというのに、ポッターは幼い頃から箒を与えられ、きっと両親におしえてもらったりしてたに決まっている。

世の中は不公平だと思う。貧乏で、親に見捨てられて、純血でもなく、運動も苦手で、運命はいつも僕に厳しい。弱い者は虐げられるばかりだから、僕は弱さを見せず、出来る限りの努力をしていくしかない。だからきちんと規則を守り、勉強を頑張ってよい成績をとる。誰にも負けない闇の魔術を磨いて、皆に認められる強い魔法使いになるんだ。

こんな、たぶん少しばかり意固地な思いと、これまた運悪く人づきあいが苦手なせいか、2年生になっても、リリー以外に親しい友達はできなかった。同じ寮の仲間たちを見ても、いつも一緒にいる仲良しグループが出来上がっている。

今日も、クィディッチの試合で負けて寮に引き上げた後、談話室で何人かずつ集まってグリフィンドールの悪口で盛り上がっていたけれど、気がつくと僕は一人だった。試合中はみんなと一緒になって応援していたのに、いつの間にこうなってしまったんだろう?

談話室を見回すと、僕の他にも一人でいる2年生がいた。話しかけてみようかと考えているうちに、彼は数人のグループの所に行って、一人の肩に腕を回しながら「仲間に入れてくれよ」とか言ってすんなりと話の輪に入っていた。僕にはあんなことできないやとため息が出た。みんなが集っている時に一人でいるのは寂しいけど、それを見せるのはいやだから、僕は立ち上がって寝室に向かった。そのとき。

セブルス

大きな声で名前を呼ばれて驚くと、談話室のソファで上級生たちに囲まれたマルフォイ先輩が僕を手招きしていた。みんなの視線を感じながら近付いていくと、マルフォイ先輩は手の甲をひらひらと見せながら言った。

「試合のときに暴れ球がかすめてすり傷が出来た。医療棟に行くほどではないが、ひりひりするのだ。」

きれいな白い手の甲に、たしかに赤黒いすり傷があった。こんな傷なら手当は簡単だ。治癒呪文で血のにじむ傷口をふさぎ、ポケットから手製の魔法薬を取り出してつけようとした。

「少し席を空けてくれ。」

マルフォイ先輩は隣にいた魔女を追いやって僕を隣に座らせ、右手を僕の膝の上に置いた。僕はそういう、体に触れられることに慣れていないうえ、周りの視線も気になって、少し緊張しながら丁寧に薬をつけた。

薬を塗り終わっても、マルフォイ先輩は僕の膝の上に手を置いたままだった。立ち上がるきっかけもなくて、居心地は悪いけどそのままソファで上級生たちに囲まれて、彼らの話をきいていた。

セブルスは無口だな。」

マルフォイ先輩の向こうに座っていた上級生の魔法使いが、からかうような目を向けてきた。周りの視線が僕に集まり、気遅れを悟られないように顔を上げて見返すのが精いっぱいだ。

「グリフィンドールに負けたのが悔しいのだろう、セブルス?次は負けぬから心配するな。」

マルフォイ先輩が代わりに答えながら、僕の髪を撫でた。グリフィンドールのいやなヤツらだけでなく、スリザリンの仲間もべったり髪とたまに陰口をたたく僕の髪。僕は恥ずかしくて、うつむいてしまった。そんな僕を上級生たちは面白そうに見ていた。


それから何度かそんなことがあった、つまり、何かにつけてマルフォイ先輩に呼び招かれた。たいてい、マルフォイ先輩は上級生の魔法使い数人と一緒に、談話室のソファや校庭の林の木陰に座っていた。一緒にいる魔法使いたちも上品で、おかしな表現だけど、どこかなまめかしさの漂う大人びたグループだった。

呼び招かれて行っても、これといった用事があるわけでもない。そのまましばらく一緒に座っていたり、授業の様子をきかれたりするだけだ。だからたまに闇の魔術を見せるように言われると、僕は喜んで披露した。その辺にいる昆虫や小動物を相手にちょっとした術を掛け、すぐに解いてみせる。すると7年生より呪文がうまいと褒めてくれるのだった。

それからほんの数回だけど、一人歩いているところを呼びとめられて図書館に行くと答えたら、マルフォイ先輩が立ち上がって一緒に来たこともある。他の上級生たちはニヤニヤと笑って手を振っていた。

そんなことが繰り返されるうち、上級生たちは僕のことを『ルシウスのペット』『ルシウスのおもちゃ』と呼ぶようになった。面と向かってそう呼ばれるわけではないけど、上級生同士の話から漏れ聞こえてくる。そしてやがて同級生たちも。上級生たちはからかい混じりに、同級生たちは妬みと揶揄を込めて、僕のことをマルフォイ先輩のペットと言う。

ペットとかおもちゃとかいう言われ方が、よいものなのかどうか、僕にはよくわからない。下位の者への表現で、対等さや敬意が含まれていないことは明らかだ。だけどそこにはどこか特別な、お気に入りの意味も感じられた。可愛がられるペット、大切にされるおもちゃ、けれど飽きればいつでも捨てられるもの。

僕は初めて得た好意、それもマルフォイ先輩のような素晴らしい人からの好意に、初めは戸惑い、そして嬉しく思い、やがて失うことを恐れるようになった。

僕は人づきあいが苦手で、スリザリンの仲間たちにも、溶け込めていないとわかっていた。みすぼらしい身なりも、陰気な外貌も、無口なのに口を開けばぶっきらぼうな物言いも、人に好かれるものではない。真面目な勉強ぶりや得意な闇の魔法の腕前さえも、時にうとまれる。弱さを見せまいと心を開けない僕に、他人が近付いてこないのもしかたがないとなかばあきらめていた。僕にはリリーがいるからそれでいいとも思っていたし。

それでも寮内で除け者にされることなく、一緒に食事の席に着いたり話しかけたりしてもらえるのは、マルフォイ先輩のお気に入りだと思われているからだと思う。

ペットであろうがおもちゃであろうが、僕はマルフォイ先輩に認められ、気に入られていたかった。好意を失いたくない。だけど僕は他の子たちのように、慕って纏わりついていくような社交性は持ち合わせていないから、僕にできること、勉強してよい成績をとったり闇の魔法を磨くことにいっそう励んだ。マルフォイ先輩に認められるために。飽きて捨てられないために。

2年生の学年末、憎らしいポッターの活躍によるグリフィンドールのクィディッチ優勝を覆し、今年もスリザリンが寮杯を獲得した。バカなポッターたちが、バカげた悪戯を繰り返して大量の減点をくらったからだ。悔しがる彼らを見てますます気分が高揚した。その中にリリーがいるのはほんとに残念だけど。

祝賀会の翌日はホグワーツ特急で自宅に向かう日だ。わずかな荷物に、隠して貯めこんでいた食べ物を入れると、もう準備は終わりだ。手持無沙汰に、慌ただしく荷物をまとめながら夏休みの予定を楽しそうに話す仲間たちを眺めていた。これから向かうスピナーズエンドの寂れた家を思い気持ちが沈む。離れる前からもう、ホグワーツに戻る日が待ちきれないくらいだ。

ぼんやりしていると、いきなり背の高い人影が隣に立った。

「今年もよく頑張ったね。よい夏休みを、セヴィ。」

え、セヴィって誰?と思う間もなく、髪が分けられ、額に唇が寄せられた。思いがけないやさしいキスに硬直しているうちに、ゆらゆらとプラチナブロンドが揺れる背中が遠ざかっていった。額に手を触れると、そこだけじんわりと温かい。

気を取り直して駅に向かう道を歩いていると、「セブ!セブ!」とリリーが走って来た。

「パパとママがキングスクロス駅に迎えに来てくれるの。今年はセブも一緒に車に乗っていって。おやつを食べてからうちに帰るといいわ。早く行こう!」

リリーが僕の手をとって走り始める。遠くでポッターとブラックがこっちを見て中指を突き立てていた。いやなヤツらだけど、今は気にならない。リリーの手をぎゅっと握り返して、僕も走り始めた。

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