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セブルスとルシウスの物語(36)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


夜が明けてしまわないうちに行かなければと立ち上がると、ちょうどドアが開き、ナイトガウンを羽織ったルシウスが眠そうに目をこすりながら立っていた。

「セヴィ、ここにいたのか?何をしているのだ、こんな夜中に・・」

あくび混じりの声が途切れ、不思議そうに僕を見る。ローブ姿の僕と脇に置かれたバッグに視線を走らせ、ルシウスの眉間にしわがよった。

「何をしているのかときいたのだ。」

ルシウスは眉毛を吊りあげて問いただし、僕に詰め寄って来た。なんと間の悪いことだと思いながら、僕もルシウスの顔を見返した。

「屋敷を、出ようと思って。」

「なぜだ?」

ルシウスは机の上に置かれた僕の手紙、というほどの字数もない羊皮紙に目をやり、鼻さきでフンと笑って読み上げた。

「親愛なるルシウス、ありがとう、セブルス。なんだこれは?」

「僕は屋敷を出るから、その挨拶にと、、」

「だから、なぜだ?」

「あなたはナルシッサ・ブラックと、、」

「ナルシッサが気に入らないと言うのか?ナルシッサはおまえにも気持ちよく接していたではないか。ナルシッサの何が悪い?」

ルシウスはもはや不機嫌を通り越して、怒鳴りつけるように言う。ナルシッサ、ナルシッサ、ナルシッサばかりだ。こんな言葉をききたくなくて、夜のうちに家を出ようと思ったのに。僕もかっとなって声を荒らげた。

「ミス・ブラックがどうこうというんじゃない!あなたがミス・ブラックと結婚すると言うから僕は家を出ようと、、」

「おまえは私がナルシッサと結婚するのが気に入らないのか?ではセヴィ、おまえが私と結婚するとでも?」

僕が言葉も出せないうちに、ルシウスはいきり立ち、勝手に話を進めてごもっともな御託を並べたてた。

「おまえにこの名門貴族の女主人として社交をこなす度量があるとでも思っているのか?気難しいめんどうな客を迎えて、にこやかにもてなすことができると思うのか?おまえにこのマルフォイ家の跡継ぎを生むことができるとでもいうのか?」

そんなことを言うなら、あなただって僕の子を生めるのかと言い返せたらどんなにいいだろうとあらぬことが頭に浮かび、そんなことじゃない、そうじゃなくて、、なぜ僕の気持ちをわかってくれないんだと悲しくなって、かっとした頭も冷えた。

「もちろん、僕にそんなことはできないとわかっている。だから屋敷を出ると決めた。」

冷静になり、声も沈む。一瞬の怒りがおさまると心は悲しみに覆われて、声が震えないように努めながら、一語一語、言葉を続けた。

「あなたは僕を家族のようなものだと言ってくれた。僕はそれがとても嬉しかった。だけど今あなたは結婚して、ほんとうの家族をつくる。だから僕は、、」

「私はおまえを家族のように扱ってきたではないか。おまえによいと思うことは何でもしてやったし、必要なものはすべて与えた。おまえが好きな本も、その魔法薬の調合台も、この部屋も、全部おまえの物だ。おまえだって気に入ったと喜んでいたではないか。それをすべて、捨てるというのか?ここを出て他に行く所もないくせに。」

言ううちに怒りが増したのか、ルシウスの口調がまた、たたみ掛けるようにきつくなった。もちろん、与えてくれたすべての物に感謝している。僕には身に余るほどの物だ。だけどルシウスはわかってない。僕が今離れがたく思うのは・・・。

「捨てると言っても、もともと、僕のものじゃないんだ。」

僕は静かに答え、離れ難いその人に、身を切る思いで背を向けた。バッグとコートを抱え、鉛のように重い足をドアに向けて運ぶ。こんなふうに言い争って去ってゆくつもりではなかった。機嫌のよいルシウスの笑顔と、愛おしい寝顔を胸に、なんとか一人で歩み出そうと決めたのに。怒りとも悲しみともつかぬ苦い思いがにじむ。

「セヴィ、おまえはほんとうに、捨てるのか?」

背後からルシウスの声が追ってきた。だから、もともと僕の物でもない物を捨てるなんてできるものかと言い返そうとドア口で振り返ると、ルシウスは身じろぎもせずに立っていた。それがまるで心細いかに見えて。そんなルシウスは見たことがなかった。僕はあっけにとられて言い返すことも忘れ、痛々しくも見えるその姿をしばらく眺めていた。

「おまえは、私を、捨てるのか?」

ルシウスの口から、絞り出すような、とぎれとぎれの言葉が漏れた。そしてまるでその口にしたことが信じられないかのような愕然とした表情で、もう一度繰り返す。

「セヴィ、おまえが私を、、、捨てるのか?」

言葉の意味を理解する前に、痛ましさに胸が締め付けられた。ルシウスがそんなことを言うなんて。ルシウスが傷ついている。僕がルシウスを傷つけた。そんなことはできない、そんなことあってはならないと思った瞬間に、僕はルシウスに駆け寄っていた。

「ルシウス?」

ルシウスは目の前に立つ僕にはじめて気づいたように目を瞬かせ、ゆっくりと話し出した。いつもの自信に満ちた態度が嘘のような、胸に沁みる哀愁を帯びた声で。

「おまえは、あの夜を、覚えているか?私が初めておまえを抱こうとした夜のことだ。」

僕はうなづいたけど、ルシウスの目は、僕を通り越して遠くの何かを見ているように思えた。

「私の母は私が子供の頃から病に伏せていて、ほとんど思い出すらないのだが、一つだけ教えを残して逝った。大切に思う人がいたら、その人を失いたくないのなら、手を握り、その手を放してはならぬと。母がそのはかない生涯をもって示した、唯一つの教えだった。」

それから今度はたしかに僕を見た。僕の目を捕えた色の薄い瞳は、まるで傷ついた子供のように見えて、僕は身がすくむ。ルシウスにこんな目をさせてはいけない。ルシウスはこんな頼りなく傷ついた思いをしてはいけないのだと心が叫ぶ。

「私はあの夜、母の教えに従い、おまえの手を握った。そしてずっと放したつもりはないし、これからも放さぬ。それなのにおまえは私を捨てて出てゆくのか?」

僕はルシウスの手を握りしめていた。バッグもコートも床に落ちたけど、もちろんかまわない。あの夜感じた絆は、たしかにこの手の中にあったのだ。僕の冷えた手から温もりが伝えられるかわからないけど、あの時もらった温もりはここにあるのだと伝えたい。ルシウスは結ばれた手をじっと見て、握り返してきた。わずかに照れたような笑みが浮かび、僕もほっとする。いつもルシウスがしてくれるように、僕はルシウスの背を抱き寄せた。

「出ていくなどと言うな。」

耳元でささやくように言われ、僕はうなづいた。

「あなたの手を放したりしない。僕はずっと、あなたのもとにいる。」

僕の腕の中でルシウスの体の強張りが解けてゆき、しばらくすると今度はルシウスのほうが僕の体を抱きしめた。ルシウスの温かい手が、いつものように僕の背を撫で、指を髪に絡める。僕はこの温かい絆を絶対に守り抜くと心に誓う。何があっても、結んだ手を放せるものか。

目障りなローブなど脱げと言われてローブを脱ぐと、ナイトガウンの中に抱きいれられた。

「おまえは私のものだ。」

やっぱり、温かいルシウスの胸の中こそ、僕の居場所だと思う。ここ数日の思い詰めた気持ちが溶けてゆく気分を味わっていると。

「セヴィ、だが私たちにはナルシッサが必要なのだ。ナルシッサならマルフォイの女主人として体面を整え、後を継ぐ子を生んでくれるだろう。私たちに新しい家族ができるのだ、セヴィ。私には妻、おまえには姉のような人ができる。私と同じように、大切にしてやってくれ。」

「・・・」

ルシウスの母親はなぜ、大切に思う人の手を握ったら、他の手を握ってはいけないと教えてくれなかったのかと思う。ナルシッサ・ブラックは、ルシウスの妻になるつもりではいても、僕の姉になるつもりなんかないと思う。そしてルシウスはこれですべては解決したと安心しているのだろう。状況は何も変わっていないのに。

だけど、僕がこの屋敷を出ることはないと思う。僕には家族というものがよくわからなかったけど、たぶん、良いことばかりでなく、互いの欠点も嫌なことも受け入れて、それでも切れぬ情の温もりを守ってゆくのが家族というものかもしれない。今までの、ルシウスから与えられる一方の関係ではなくて、今日僕は自分の意思で、ルシウスとの繋がりを守ってゆくことを選ぶ。血縁も形の守りもないけれど、握り合った手が結ぶ絆が僕の家族だ。

ルシウスは僕をベッドに誘い、いつものように愛撫を始めた。僕はその手を止めて言った。

「今日は僕が、あなたを抱く。」

ルシウスは一瞬、なんだと?と言わんばかりに片眉を吊り上げたけど、すぐ破顔して力を抜くと、ベッドに横たわった。僕が与える刺激に白い体が波打ち、整った美しい顔が愉悦に歪む。慣れてないから上手くはできないけど、かまわない。僕たちは互いを与え、受け入れ、結びあう。この思いが伝わればいい。

ルシウスの協力もあって無事果てた後は、やっぱりルシウスに抱き寄せられた。

「セヴィ、寂しい思いをさせてすまぬが、私を信じてここにいてくれ。」

ルシウスはもう、僕の中で一点の曇りもない輝ける完璧な人ではなくて、傷ついたり、強がって虚勢を張ったり、自分勝手でずるかったり傲慢だったり、放蕩であったりさえするけれど、それでも前にも増して愛おしい。ルシウスのあんな、傷ついた子供のような顔は、二度と見たくない。ルシウスの笑顔や自信に満ちた態度を守るために、僕はなんだってやる。苦労するだろうけど、僕はルシウスのすべてを受け入れると決めたのだ。

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tag : ハリーポッター ルシウス セブルス

セブルスとルシウスの物語(35)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


その日ルシウスは、客人を連れて夕方に戻り、僕も一緒に3人で食事をするから、そのつもりで支度をして待っているようにと言いおいて出かけて行った。大切な人だから失礼のないようにと言われ、僕は落ち着かない気分で待っていた。

夕刻、人の気配に気づいて玄関ホールに行くと、ドアが開きルシウスが入って来た。その隣でブロンドの魔女がルシウスの腕に手を添えて話しかけている。最近見た顔だと思い、すぐに、開心術を練習したときレギュラスの記憶に現れた魔女だと気がついた。

「こうして貴方と一緒にこの屋敷に入るのは初めてね。子供の頃にお父様に連れて来てもらって・・・。」

弾んだ声が突然途切れ、魔女は僕を見て怪訝そうに立ち止まった。問いかけるようにルシウスの顔を見上げる。

「ナルシッサ、セブルス・スネイプだ。セヴィ、こちらはナルシッサ・ブラック。私のフィアンセだ。覚えているか?スリザリンで何年か一緒だっただろう?」

フィアンセ・・・?聞きなれた声がなんだか遠く聞こえる。ルシウスに並ぶ魔女を見た時から衝撃的な予感はあったけれど。

一瞬現実感を失った頭の隅で、シシーだ、レギュラスのシシー姉様というのがこの人なのだと意味のないことを考えながら、美しい魔女を眺めていた。現実に対峙することができなかったんだと思う。

気がつけば、ナルシッサ・ブラックも、穴のあくほどに僕を見つめている。その目の奥には何があるのだろう。こんな時こそ開心術ができればよいのにと思ったけれど、動揺してしまって、術に集中することすら難しい。ブラックを侮ってはいけないのだと思い出し、心を閉じるのが精いっぱいだった。睨み合うように立ちすくむ僕と彼女のわきで、ルシウスだけが快活に話し続ける。

「どうしたのだ、2人とも。懐かしいだろう?セヴィ、ナルシッサはレギュラスの従姉なのだ。ナルシッサ、セヴィとレギュラスは兄弟のように仲がよいのだぞ。」

気を取り直したのはナルシッサ・ブラックのほうが早かった。つと一歩前に踏み出すと、優雅に手を差し延べて笑顔を浮かべた。

「ナルシッサ・ブラックよ。ミスター・スネイプ、お久しぶりね。卒業以来ですもの。」

完璧すぎてどこか作り物めいた美しい笑顔を見ながら、僕はなお立ちつくしていた。なぜ?なぜこんな・・・。すがる思いでルシウスを見ると、目であいさつを促された。僕が従うのを信じて疑わないその眼差し。

「ミス・ブラック、お久しぶりです。」

僕の前に差し出された滑らかな白い手の甲にそっとあいさつの口づけをすると、触れたか触れぬかのうちに手は引き戻された。美しい笑顔の、そこだけが笑っていないブルーの瞳が僕を射る。なぜわたくしのフィアンセの家に、おまえのような者がいるのと尋ねられた気がした。あなたこそ、なぜここに来たのだと睨み返したくなるのを、失礼のないようにと言ったルシウスの言葉が止める。僕は目をそらし、曖昧な笑みを浮かべようとした。

「ナルシッサ、セヴィは内気であまり社交的ではないのだ。一向に世慣れなくてな、困ったものだ。」

ぎこちない僕の態度を取りなすようにルシウスが言っても、ナルシッサ・ブラックは僕に向けた視線をそらさない。

「ミスター・スネイプ、ところで、なぜあなたがここにいるのかしら?」

詰問されたように感じたのは僕が動揺しているからで、小首を傾げた美しい魔女は、ただ素直なだけなのかもしれないとも思う。彼女からすれば当然の疑問なのだから。何か言わなければと焦っても、こんなとき、僕の口は思うように動いてくれたことがない。でも僕が言い淀む暇もなく、ルシウスの声が響いた。

「セヴィは屋敷に住んでいる。ホグワーツを卒業してからずっとここに住んでいるのだ。他に行くところはない。」

僕を見据えたまま、ナルシッサ・ブラックの笑顔が凍りついたように見えた。一瞬立場を忘れて僕の胸までも凍えるように感じられたけど、それは突然に強いられた対面に動揺し傷ついた僕の心を投影した幻だったのかもしれない。次の瞬間には変わらぬ優雅な笑顔が見えたから。

ナルシッサ・ブラックと僕の間に漂う微妙な気配を知ってか知らずか、ルシウスが2人の肩を軽くたたいて促した。

「さあ、一緒に夕食だ。ダイニングに行こう。」

3人でダイニングルームのテーブルに着いた。ルシウスとナルシッサ・ブラックが並び、僕が向かいに座る。出される料理やスリザリン寮のことなど、当たり障りのない話をする2人の声をききながら、味も分からない食事が進んでゆく。学生の頃、僕は話す機会もなかったけれど、2、3年上のこの魔女は、ブラック家のプリンセスと呼ばれていたと思い出した。この人は僕がルシウスのペットと呼ばれていたことを知っていただろうか?

「夏休みの間レギュラスはよく家に来ていたようだな。セヴィ、2人で何をしていたのだ?」

ルシウスが会話に加わらない僕に話しかけ、僕が答える前にナルシッサ・ブラックがルシウスに向かって言った。

「まあ、レギュラスはこちらに来ていたのね。わたくしも出かけていたからちっとも気づかなかったわ。ではわたくしたちが一緒に居る間、ミスター・スネイプがレギュラスのお相手をしてくださっていたのね。」

「はい、そんなところです、ミス・ブラック。」

なんとか受け応えしながら、ルシウスが出かけてばかりいたのは、この人に会っていたのだと夏休みを振り返った。ナルシッサ・ブラックはそれを僕に知らせようと意図的に言ったのではないかと疑いがわく。そういえばレギュラスも、家には親しかいなくてつまらないと言っていた。シシー姉様が出かけてルシウスに会っていたからだったのだ。僕はそんなこと考えてもみなかった。

僕はナルシッサ・ブラックの言葉を深読みせずにはいられなかったけど、彼女は少なくとも表向きは僕にもにこやかに話しかけてくれた。そして時々顔を見合わせて笑いあうルシウスと彼女は、口惜しいけど、美しさも品の良さも似合いのカップルに見える。マルフォイの御曹司とブラックのプリンセスが似合わないわけがない。僕は惨めに沈んでゆく気持ちを表さないようにと、それだけを考えて夕食を終えた。

ルシウスと僕に見送られて魔法の馬車に乗る一瞬、ナルシッサ・ブラックの顔に陰りが見えた気がして、外面を取り繕う社交性はあっても、僕がこの家にいたのはやはり疎ましかったのだろうと思う。

ナルシッサ・ブラックが帰ると、ルシウスは今日は楽しかったか、どうだ、ナルシッサは上品で気のいい女だろうなどと軽口をたたき、その夜もいつものように僕を抱いた。体はいつもと同じに反応しても、心に満ちたりた解放は訪ずれない。わだかまりが内にこもり、心の中に繰り返し吐き出される。

出し抜けにフィアンセを紹介し、同じ夜に事もなげに僕と寝た。気が向けば戯れに気に入る者と体を交わし、僕が動揺すれば子供だと決めつける。こうして抱いてしまえば今までと何も変わらないと思っているのか?

最初のうちは心の中でルシウスに詰め寄る言葉を繰り返し投げていたけれど、口に出せない怒りは煮詰まって、やがて悲しみと不安だけが残った。

ルシウスはナルシッサ・ブラックと結婚し、家族になる。僕を家族のようなものだと言ってくれたルシウスが、家族を得る。ほんとうの家族ができるなら、家族のようなものなどもうこの家にいる意味がない。僕はどうすればいいのか。僕はルシウスにとって何だったのか?

セヴィはここに住んでいる。他に行くところはない。

僕がなぜこの家にいるのかと尋ねたナルシッサ・ブラックに、ルシウスが答えた言葉が頭に浮かんだ。あの時は彼女が衝撃を受けたように感じられて胸が痛んだのだけれど、僕はなんてバカだったんだろう。ルシウスは、僕が他に行くところがないから家に置いてくれていただけだったのだ。なぜルシウスと僕、2人だけの家族みたいなものだなどと脳天気に思いこんでいたんだろう。

そして、ルシウスとナルシッサ・ブラックは、どこの誰が見ても、僕が見てさえも、似合いのカップル、理想的な家族の姿を体現していた。ルシウスは自分の家族とするに相応しい人を選び、屋敷に連れてきたのだ。他に行くところのない僕は、ここにも居場所をなくしたのだった。もうここにはいられない。ここはルシウスがナルシッサ・ブラックと住む家なのだから、僕は出ていかなければいけないのだ。

寂しさと心細さで身の置き所もないほどに思えたけれど、考えてみれば、他に行くところがないからと家に置いてくれるなど、いくら屋敷が広いとはいえ、並はずれて親切なことだ。しかも温かく招き入れ、家族のようだと錯覚してしまうほどに居心地よく遇してくれた。けして親切な人とは思えないルシウスが僕だけにくれた親切に、感謝こそすれ責めることなどできるはずがない。たとえ今それを、失うことになったとしても。

僕はぼんやりと、ルシウスを失うことを考えてみた。与えられたすべてのものとともに、ただ一人の家族のように寄り添っていた人を失う。溶けて1つになるほどになじんだ体も、触れるのが好きだったきれいな髪も、飽くことなく眺めた愛しい寝顔も、もう手が届かない。

それは、身を裂くような痛みだった。ルシウスは僕にとって、失うには大きすぎる存在なのだ。この十数か月、すべてを任せて従ってきたのだから。身を切り裂かれて、果たして人は生きていけるものだろうか?

僕はしばらくあまりの痛みに途方に暮れていたけれど、やがて気がついた。とても辛くて寂しいけれど、5年生の終わりにリリーが去ってしまった時のような、どうしようもない孤独や絶望感に陥っているわけではないと。

あの頃の僕は、ほんとうに、何者でもない見捨てられた子供で、リリーがいてようやく自分の存在を感じられた。リリーは幼い僕の傷んだ魂を救ってくれて、その後僕はリリーの手にしがみついて生きていたのだった。そのリリーに見捨てられ、命のエネルギーが尽きたような絶望に沈んでいた時、最も救いを必要としていた時に、ルシウスは手を差し伸べてくれた。ルシウスは僕を抱きしめて、世話を焼き、社会の中で生きてゆく力をつけてくれたのだった。その庇護のもと、僕は何人か友達をつくり、自分の持つ魔力が認められる社会に属すことができた。大切に守られる経験は、自分がそれに値する人間なのだと自信を与えてくれる。自信のついた僕は、心の中にリリーの思い出を取り戻すこともできたのだ。

救いをくれた人の傍らにいることができなくなっても、与えられた救いは僕の中に残り、僕を支えてくれる。リリーとルシウスは、離れてもずっと僕の支えだ。リリーは魂のレベルで、ルシウスは俗世の社会を生きてゆく自信の源として。今の僕は、そう信じることができる。そしてデスイーターとしての活動の中で、遠くからルシウスの役に立つこともできると思う。

そう思って初めて僕は、ルシウスに恨み事が言えた。といっても心の中でだけど。ひどいよ。僕を捨てて他の人を家族に選ぶなんて。あんなふうに突然、心の準備もないままに、自分に相応しい人を連れて来て、僕に立場を悟らせるなんて。だけど僕はようやくあなたのもとを去る決心がついた。さんざん世話をかけたから、面倒をかけず静かに去っていく。子供扱いされてばかりだったけど、僕だってもう大人だ。今までの厚意に感謝して、あなたが選んだ家族との幸せを祝福できるよう努力する。

何日か思い悩んで屋敷を出る心を固めると、これからどうするかと具体的な計画を考えた。時々寂しさと悲しみにくじけそうになると、心の中でリリーに話しかける。リリーに励まされ、ルシウスがくれた社会的な知恵を頼りに、僕は屋敷を出て小さな貸家を探そうと決めた。お金は、デスイーターになった時のお祝いにルシウスからもらったものがほとんど手づかずに残っている。デスイーターには給料のようなものがあるわけではないけれど、暮らしの苦しい者には少しの補助が与えられているようだし、仕事をしながらデスイーターをしている仲間に方策を尋ねてみることもできる。魔法薬の技術が活かせるかもしれない。

貸家を見つけるまで身を寄せる先は難問だった。スピナーズエンドの家は思いついて直ちに却下し、次に友達の家を考えて真っ先に浮かんだのはレギュラスだった。夏休みの間にずいぶん親しくなったし、裕福な家だから頼めば受け入れてもらえそうに思えたけど、今レギュラスはホグワーツにいるし、、、それにそこはブラック家なのだと思い至った。ナルシッサ・ブラックのせいで屋敷を追われて彼女の家に身を寄せるなどありえない。だけどレギュラスを除くと、マルシベールにしてもエイブリ―にしても、家に泊めてもらえるほど余裕がありそうでも、親しいわけでもなかった。結局数日はホテル漏れ鍋の安い部屋にでも滞在するしかない。

こんなことを考えている間、僕はルシウスに何も言わなかった。最後になるであろう2人の時間に、ルシウスの機嫌を損ねるようなことはしたくなかった。ルシウスもなぜか外出が減って、僕と一緒にいてくれた。まるでナルシッサ・ブラックのことなど何もなかったような、穏やかで親密な時間。僕は一生忘れないように、僕に向けられるルシウスの笑顔を記憶に蓄えた。

きりのない未練を断ち切って、僕はその夜、安らかな寝息を立てるルシウスの腕の中から抜け出した。青白い月明かりが影をつくる美しい顔にキスをして、自分の部屋に戻る。まとめてあった本と鍋と薬剤と、細々とした日常の物を少し、それに数日分の着替えをバッグに詰め込んだ。全部ルシウスに揃えてもらったものだけど、僕が持っていっても何も言わないと思う。そしてパジャマを着替えてローブを纏う。これからの寒い季節に備えてコートを持って行こうかと少し迷ってバッグの脇に置いた。

準備を終えて机に向かい、ルシウスに残す手紙を書きはじめた。「親愛なるルシウス」、けれどその後何と書けばよいのだろう?ルシウスとの数々の思い出を振り返れば想いが溢れ、落ち着こうと顔を上げれば目に入る部屋のあれこれに、また思い出がよみがえる。

結局、「親愛なるルシウス、ありがとう。セブルス」と読みにくい字が並んだだけの羊皮紙にため息をつき、けれどルシウスへの思いはそれに尽きるのだとペンを置いた時には、窓の外が白み始めていた。

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tag : ハリーポッター ルシウス セブルス

ルシセブの素敵な俳優さん

ハリーポッターのルシセブ妄想に拍車をかけるのが、素敵な俳優さん、ルシウスのジェイソン・アイザックスとセブルスのアラン・リックマンです。お2人とも他の映画でも魅力的な悪役を演じてますね。悪役リストをつくってみました。古い映画では一部ネタバレしてますのでご注意を。


★まずはルシウス、ジェイソン・アイザックスさん

ルシウス
ルシウス・マルフォイ閣下@ハリーポッター

パトリオット
タビントン大佐@パトリオット(2000年制作アメリカ映画)

最近になって故ヒース・レジャー目当てでパトリオットを再視聴したところ、まあ、こんなところに閣下が!と気づいた次第です。

映画は、アメリカ独立戦争を背景としたアメリカ人家族の物語。初々しいヒース(家族の長男)に心を寄せて見ていたので、イギリス軍のタビントン大佐はまさに敵。残忍な冷血漢です。でも閣下なので、親の代で落ちぶれた故に貴族の上官から蔑まれ、異常に野心を持つとこなんか、ちょっと同情しました(←偏ってます)。閣下と違い、最後まで気骨ある悪役。

ブラックホークダウン
スティール大尉@ブラックホーク・ダウン(2001年制作アメリカ映画)

悪役というより、憎まれ役の上官。この映画、ユアン・マクレガー目当てで視聴しましたが、他にもオーランド・ブルームなど素敵な男優さんたちがいっぱい、同じような軍服着て、戦闘で汚れたりめまぐるしく動くので、それぞれに目を奪われつつユアンを探すのに精いっぱいで(^^; あとで登場人物チェックして閣下を発見しました。スキンヘッドの閣下を拝見できます。憎たらしいけどカッコイイ。

映画は、アメリカによるソマリア作戦失敗のお話で、ほとんどが戦闘場面。辛く苦しく、考えさせられる内容です。

peterpan
フック船長@ピーターパン(2003年米・英・豪合作)

映画は未視聴ですが、フック船長なら悪役と決まりですよね。閣下、ワニに食われてしまうんでしょうか(泣)

★続いてセブルス、アラン・リックマンさん

スネイプ先生
セブルス・スネイプ先生@ハリーポッター

ダイハード
テロリスト、ハンス・グルーバー@ダイハード(1988アメリカ制作アクション映画)

賢者の石で初めて先生を見た時に、むむ、この怪しいお方はどこかで見たと思いました。12年の時を経てなお記憶に残る印象深い悪役、テロリストのハンス。実はテロリストというのも仲間を欺く仮の姿な悪いヤツ。劇場で見たというと年がバレてしまう古い映画ですが、大画面でこの方が語るとこわくて素敵でドキドキしたのを覚えています。そう、声もとっても魅力的ですからね♪スーツ姿もキマリ過ぎ。

結末ネバタレしちゃいますが、シリーズ主演のブルース・ウィルスが後に、シリーズで後悔があるとすれば第一作でハンスを殺してしまったことだと言ったとか。私も、続編でまたハンスに登場してほしかったと思いますもの。アランのハリウッドデビュー作。

ロビンフッド
悪代官ジョージ@ロビンフッド(1991アメリカ制作映画)

黒髪に黒い瞳に黒衣装。中世版のスネイプ先生が活躍します(←違う)。先生がパーマかけてひげ伸ばすとこうなるのかなという。あまりにかっこいい悪代官なので、傍若無人な根っからの悪役にもかかわらず、つい応援したくなってしまいますヨ。

古い映画でお話も古いので最初はちょっと・・ですが、先生がさっそうと登場してからは目が離せなくなります^^

スウィニートッド
タービン判事@スウィーニー・トッド フリート街悪魔の理髪師(2007年)

ジョニー・デップ目当てで見た映画ですが、先生(アラン・リックマン)、ベラトリックス(ヘレナ・ボナム=カーター)、ピーター(ティモシー・スポール)と、デスイーターが勢ぞろい。

ミュージカル仕立てのスプラッター映画なので、グロいですがアランのお歌も聴けます。アラン演じるタービン判事は悪役ですが、主人公が凶悪なので、悪役なんだけどかわいそうです。

~~~~
俳優さん目当てで映画観るのも楽しいですね。
思い入れが強すぎてストーリーそっちのけになるのが欠点ですが・・。
それにしても、髪の印象って強いですね。
ジェイソン・アイザックスには閣下の鬘かぶせてみたくて困る。(ミーシャだけ?)

テーマ : 洋画 - ジャンル : 映画

tag : ハリーポッター ルシセブ ルシウス セブルス

セブルスとルシウスの物語(34)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


レギュラスが帰ると、僕は一人部屋のベッドに腰かけて考えに耽った。ルシウスは今頃あの先輩と体を重ねているのだろうか?怪しい香薬と酒の酔いに任せ、体を絡め愉悦をむさぼり・・・。それは表情やうめきまでが浮かぶ、苦しい想像だった。今夜はたまたま作戦の功労者としてあちこちで飲まされて僕を帰すのが遅れたけれど、今までだってそんなことは何回もあったのだと気づく。遅いからもうやすめと僕を追い帰した後。1人で出かけて帰ってこなかった夜。僕はバカみたいに2人だけの絆だと思いこんでいたけれど、ルシウスにとっては数多い戯れの一つだったのだ。

1年ほど前にルシウスの温もりに全てを委ねて以来、僕は初めて孤独を感じた。熱に浮かされたようにルシウスを想い、ルシウスと共に歩むことだけを夢みてきたけれど、あの先輩の言葉通りなら、ルシウスは僕をデスイーターにするのが念願で、そのために僕のことをあれこれとかまってくれていたのだ。僕にとって世界が変わったと思ったほどの大切な出来事は、ルシウスにとってほんの小さな計画の一部だったのだろうか?念願かなった今となれば、僕のことなどどうでもよくて・・・。言いたい放題言って僕を追い払い、背を向けたルシウスを思い出す。

だけど。周囲を見渡せば、すべてがルシウスに与えられた物だった。家具も調度も身に付けた衣類も、目に入る物すべて。物ばかりではない。温もり、愉悦、夢、自信。言ってみれば今ある僕のすべてはルシウスに与えられたようなものだ。ルシウスの物に満たされたこの部屋がルシウスで、中に座る僕はルシウスの小さな一部のようにさえ感じられる。

ルシウスは僕を家族のようなものだと言ってくれた。幼い頃から家族に見捨てられて育った僕の悲しみや孤独を丸ごと受けとめて、行き場のない僕に居場所を与えてくれたのだ。危険を伴う闇祓いとの闘いを禁じたのも、僕の身を案じてのことだとわかっている。これからは大人の時間だなどと言って追い返す子供扱いに傷ついたけれど、実際のところ、僕だってルシウスといると子供じみた甘えを抑えられない。目を掛けられたのを喜んだホグワーツの低学年の頃のような気分になる。そしてルシウスはあの頃もあの先輩たちと戯れていた。ルシウスは何も変わっていないのだ。

思いは巡り、夜が更けても気が昂ぶるばかりで眠れない。白んできた空を恨めしく眺め、誘眠の水薬をのんで目を閉じた。

差し込む日差しを感じて目覚めると、僕を抱えるようにして、隣にルシウスが寝ていた。ぼんやりと顔を眺め、初めて同じベッドで迎えた朝を思い出す。あの時は、木漏れ日が映る美しいルシウスの寝顔に見とれ、胸に湧く思慕にときめいたものだった。今、頬にはまばらに無精ひげがのびかけて、小さく口を開けて寝息をたてる、だらしないと言える寝顔さえも愛おしく思えてしまう。

わずかに身を動かして、ルシウスが目を開けた。顔に見入る僕と目があうと。

「セヴィ、おまえが泣きそうな目で睨んでいたときいて、眠らずに帰って来たのだ。皆酔い潰れて今日は何もない。もう少し寝かせてくれ。」

最後は寝言のようになり、ルシウスは僕を抱き寄せて、また寝息を立て始めた。襲撃の後そのままの、汗と酒と、、、おそらくは放蕩のにおいも混じる体に包まれて目を閉じる。何も変わってはいない。ルシウスの戯れも、それでも僕を慈しんでくれることも、何を思い悩もうと僕がこの人から離れられないことも。小さなため息をついて、あきらめと安らぎは同時に訪れるものだと知った。

翌日訪れたレギュラスは、しばらく僕の様子をうかがうように顔を見ていた。

「先輩、もう大丈夫?」

「なんのことだ?」

「この間の夜、元気がなかったから。」

答えながら、なおも僕の目をじっとのぞきこむ。はっと気付いて心を閉じた。

レギュラス、おまえ、開心術を使えるのか?」

レギュラスは仕方がないというように肩をすくめて答えた。

「うん。すぐバレる程度に未熟だけどね。それに断片のような物が見えるくらいで、意味づけできるほどの洞察力がある訳じゃないけど。ベラ姉様に、ボクは子供の頃から大人の顔色ばかりうかがうところがあるから、きっと素質があるって言われて、少しおしえてもらったんだ。でも、先輩の閉心術にはとてもかなわない。もう何も見えないよ。先輩は閉心術を使えるんだね。」

「今までは見ていたわけか?」

「少しだけね。先輩は兄さんと仲悪そうだったから、ボクのことも嫌ってないか気になって。それから今ちょっとだけ。先輩が嫌ならもう使わないよ。」

「じゃあ、わかってるんだな。」

「先輩とマルフォイ先輩のこと?」

仕方がないからうなづいた。坊ちゃん育ちの子供だとばかり思っていたのに、僕の心をのぞいて知らぬ顔をしていたのだ。ブラックを侮ってはいけないと反省した。レギュラスは魔術に優れた家族に囲まれて育ったのだし、僕よりずっと世渡りを知っていたのだった。

「それはわかってるけど、先輩の心を見たわけじゃないよ。先輩とマルフォイ先輩の仲がいいのは前から知ってるもの。マルフォイ先輩の心はのぞいちゃったけど。あ、先輩、これはマルフォイ先輩には内緒にしてね。」

レギュラスは僕の心を見て嫌われていないと知っているからか、気を許してそんなことまで言う。

「先輩先輩とうるさいな。おまえにとってはみんな先輩だろう?僕のことは名前でいい。一緒にデスイーターになったんだから。」

照れ隠しに言うと。

「じゃあ、セブルス。名前で呼びあうとほんとに仲間って感じがする。嬉しいな、セ・ブ・ル・ス。」

子供だか大人だかわからない薄気味の悪いヤツだと思って見ていると、レギュラスは続けた。

「マルフォイ先輩は心をのぞかれる心配なんてしたことないみたいだからボクにもよく見えたんだけど、ほんとにセブルスのこと好きなんだね。それなのに他の人と・・・」

この間の夜のことだと思い、少し気持ちが沈む。心は閉じているから表情を読んだのか、レギュラスも真面目な顔になった。

「でもセブルスは許すんだ。マルフォイ先輩のこと、好きだから?」

もう少し複雑な気もしたけど、言葉で説明できないからうなづいた。つい正直になってしまうのは、たぶんレギュラスが素直だからだ。ルシウスが僕のことを好きなんだときいて嬉しかったし。レギュラスは僕といっしょになって、うなづきながら続けた。

「好きな人のことなら、許して見守るしかないんだよね。・・・それに、マルフォイ先輩ってなんだか憎めないとこあるものね。自分勝手なんだけど筋が通ってるって言うか。ボクのことなんかブラックだから利用価値があるくらいにしか思ってないんだよ。それでも嫌ってはいないし、仲間にした限り守ろうとは思ってくれてる。だけど・・・」

レギュラスはまだ何か言おうかと迷って口ごもったようだった。

「だけどなんだよ?ルシウスのこと?」

「うん。でもこれはボクが言うべきことじゃないと思う。それよりセブルス、開心術と閉心術の練習をしようよ。」

レギュラスが何を言おうとしたのかは気になったけれど、術の練習にはもっと興味を引かれた。ホグワーツの生徒の頃から心を隠すことはしていたけれど、相手に確認したわけではないからどの程度通用するものなのかはわからない。それにもし開心術を身につけられれば、レギュラスが言わなかったこともわかるわけだ。レギュラスも自分が言うべきではないけれど、心を見て知られるのはよいというつもりなのかもしれない。

それから2人で何度か練習した。もともと素質のある術は上達が早い。僕の閉心術は、閉心術を使っていることが悟られないようにできるほどになった。開心術のほうは思わしくなかった。おしえてくれるレギュラスの腕も頼りないものだから仕方ないけれど。レギュラスの目を覗き込んで開心術を掛けてみても、きれいな魔女の顔がぼんやりと見えるくらいにしかならなかった。どこかで見たことのある顔だとは思ったけれど、レギュラスにきいても曖昧な笑みを浮かべるばかりで答えなかった。

そうこうしているうちに8月も終わり、レギュラスはホグワーツに戻っていった。レギュラスは、ダークロードからの指示で、学生を続けることになったのだった。校長のダンブルドア先生には、ダークロードを抑えうる偉大な魔法使いとして次期魔法大臣の期待が高まり、また密かに魔法省とは別の抵抗組織をつくっているという情報もあるらしい。ホグワーツの中でダンブルドア校長や側近の動向を探るために、レギュラスは今まで通りホグワーツに通い情報を集めるよう命じられたのだ。

ボクに校長先生を探るなんてできるのかなと不安をもらしながらも、ダークロード直々の命令が嬉しかったようだ。レギュラスはホグズミードの外出日には必ず僕に会うことと、情報を得た時や緊急時にはホグズミードにつながる秘密経路を脱け出して連絡すると約束した。ホグワーツにそんな秘密の通路があるのかと驚くと、まだ仲がよかった頃、兄さんに教えてもらったと言う。ブラックたちははそんな道を知っていて悪行を為していたのかと学生の頃の忌々しさがよみがえった。それと同時にリリーを思い出し、一瞬胸を突く悲しみに気を奪われると、レギュラスが不思議そうに僕を見た。

「ダークロード直々の命令なんてすごいじゃないか。頑張れよ。」

気を取り直して励ますと、レギュラスは嬉しそうにうなづいた。

セブルスに会えないのはつまらないけど。次はホグズミードでね。」

レギュラスがホグワーツに戻ると、僕は屋敷で魔法薬作りに励んだり、ルシウスが率いる襲撃に加わる生活に戻った。レギュラスが来なくなると、日中のルシウスの不在がさらに寂しく感じられたけれど、あれこれと考えたところで何も変わらないと自分に言い聞かせた。

そんな日々にも慣れた頃、僕はもう1人のブラックに会うことになった。レギュラスの心の中に見えたあの魔女だった。

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セブルスとルシウスの物語(33)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


襲撃はたびたび行われた。標的は最初に参加したような闇陣営に抵抗する者たちの集まりであったり、服従を拒んだ者への制裁であったり、時には単にマグルやマグルびいきだからと狙うこともあった。デスイーターの圧勝に終わることが多かったけれど、たまに魔法省の闇祓いたちが駆け付けると大混戦になった。

闇祓いというのは、闇の魔術に対する防衛の特訓を受けた魔法省の職員で、さすがに並みの魔法使いとは腕が違う。最近では、魔法省魔法法執行部長のバーテミアス・クラウチが闇陣営への強硬姿勢を打ち出し、闇祓いに禁じられた呪文の使用を許したため、闇祓いとの闘いになると双方負傷者が出る激戦になる。新しい闇祓いを採用して集中的に特訓を施しているという情報もあるらしく、ダークロードやルシウスは闇祓い局の動向に気をとがらせているようだった。

でも僕は内心、闇祓いとの闘いをむしろ心待ちにしていた。一般の魔法使いとの闘いは簡単過ぎて、初めの数回こそ興奮したものの、すぐに物足りなくなった。それに、たいていはデスイーター側の圧勝ですぐ勝負がつくのに、逃げ惑う敵を吊るし上げて楽しむ仲間たちの姿に、ふとポッターたちに痛めつけられた時のやりきれない屈辱感や、『弱い者いじめはカス』というリリーの言葉を思い出し、苦々しさを感じてしまったからだ。さらに、いたぶるだけの闘いは野蛮なばかりで、奥深い闇の魔術を探求する美学のカケラも感じられなかった。手ごわい闇祓いと真剣勝負に臨んでこそ、底知れぬ闇の魔術を極める手掛かりを得られると思う。

だけど、闇祓いとの死闘こそ望むところだとうっかり漏らしたら、ルシウスが激怒した。今のところデスイーター側に死者こそ出ていないが、重傷を負った者はいるし、いつ死者が出るかわからぬ。殺されぬまでも、囚われればアズカバン送りだ、おまえにそんなことは許さぬとすごい剣幕で、それ以来僕はルシウスが率いる襲撃にしか招集されなくなった。そしてルシウスはさっさと勝負を決めて撤退を命じ、闇祓いとの闘いを避ける。

なぜか僕とセットのように扱われるレギュラスも同じことになった。ダークロードとルシウスの間でどんな相談がなされているのかわからないけれど、どうやら純血名家の年若いレギュラスを守るのも僕に期待されているようだ。

襲撃に出かける回数が減って空いた時間を、僕は屋敷で魔法薬の調合や改良の研究に費やした。怪我人も増えたし、治癒以外にも真実薬や変身薬、幻覚を見せて人を操る薬や、打ち上げ会の楽しみを高める覚せい作用のある薬など、僕の魔法薬は闇陣営に喜ばれたのだ。

同じように空き時間の増えたレギュラスは、ダークロードの研究に精を出していた。憧れのダークロードに拝謁を果たして、いっそう熱が上がったらしい。ブラック家はそのためには都合のよい家系で、長年ダークロードの崇拝者でデスイーターの大先輩でもある従姉ベラトリックスに話を聞いたり、家の蔵書はもとより、純血主義魔法族の老人やら研究者やらにつてがあり、ダークロードの軌跡や創作した闇魔術などを調べているようだ。

レギュラスは頻繁にやって来て、目を輝かして新しい発見や推論を僕に語る。ダークロードが卓越した開心術の使い手で、目をあわせなくても嘘を見抜くということも、レギュラスに聞いた。それらをまるで自分のことのように自慢げに話すレギュラスをおかしなヤツだと思いつつ、ダークロードが創り出した魔法の話などには興味をそそられ耳を傾けている。死を克服する秘術までも密かに探求しているふしがあると興奮して話された時には、呆れてしまったけれど。ダークロードも、知らぬところでこんなにも秘密を探られては迷惑だろうと思う。

レギュラスはマルフォイ邸に来る時、いつも屋敷妖精に送り迎えをしてもらっていた。僕たちの腰ほどまでの小柄な体に薄汚れたぼろきれを巻きつけ、目ばかり大きい醜い顔のクリーチャーという妖精を、僕の部屋まで連れてきたこともある。レギュラスが僕を紹介すると、クリーチャーはぶつぶつと何か呟いた。

「クリーチャーはマグルの血の臭いがする汚らわしい混血にあいさつをする。レギュラス坊ちゃまがそうご命じになる。」

内容が聞きとれてむっとすると、レギュラスも焦って言った。

「クリーチャー、スネイプ先輩に失礼なことを言うな!」

すると奇妙な屋敷妖精は突然壁に激しく頭を打ち付け出した。ガンガンと、部屋の調度が揺れるほどの激しさで。

「クリーチャーは悪い妖精。レギュラス坊ちゃまに叱られる。ご主人様に逆らった罰を受ける。」

額から血が滲んでも打ち付けるのをやめないクリーチャーをレギュラスがあわてて止めて、僕には何度も助けてもらっている、大切な先輩なんだ、礼儀正しくしなさいと諭すと、屋敷妖精は僕の前に座り、頭を床に擦り付けた。これが屋敷妖精のあいさつということらしい。

レギュラスはもう成人していて一人でアパレートできるのに、なぜ屋敷妖精に送り迎えを頼むのかと尋ねてみた。

「クリーチャーは家族に尽くすのが誇りなんだ。長年仕えた子供たちが、大人になって出ていってしまったのを寂しがっている。今では一番年下のボクの世話をするのが生き甲斐だから・・・。クリーチャー、いつも送り迎えをしてくれて助かっているよ。」

レギュラスが最後の言葉を屋敷妖精に向けると、妖精は大きすぎる目に涙を浮かべて醜い顔をくしゃくしゃにした。喜びの感涙ということらしい。命じ従うだけの、ルシウスとマルフォイ邸の妖精ドビーとの関係とはずいぶん違うと呆れたけれど、レギュラスの細やかな優しさは微笑ましく思えた。それに免じて妖精の無礼は許すことにした。

「クリーチャー、僕はセブルスだ。大切なレギュラス坊ちゃまは、僕が守ってやる。」

からかうように言うと、妖精は何度も頭を下げながら言った。

セブルス様はレギュラス坊ちゃまを守る。クリーチャーはセブルス様に礼儀を守る。」

「クリーチャー、ありがとう。もう帰っていいよ。」

レギュラスが言うと、パチンと指を鳴らす音がして、屋敷妖精の姿が消えた。


気がつけばレギュラスといる時間ばかりが長くなっていた。レギュラスは夏休みに親の顔ばかり見ていてもつまらないとしょっちゅう訪ねてきたし、ルシウスは何をしているのか外出が増えて日中はほとんど居ない。いつも一緒にいた去年の夏を思うと寂しい気もしたけれど、ルシウスが家にいる夜はたいてい一緒に寝ているのだし、回数が減ったとはいえ襲撃の時にはルシウスの役に立てているのだと思うことにしていた。

そんなふうに夏は過ぎてゆき、休み明けホグワーツに戻ろうか、それとも退学してデスイーター活動に専念しようかという、僕には答えの浮かばないレギュラスの相談にうんざりし始めた頃、闇陣営は大がかりな作戦を実行した。

それは同じ夜に何箇所かで襲撃を行うもので、手を焼くことの多くなった闇祓い対策というべきものだった。最初にマグル界で破壊活動を仕掛けて闇祓いたちを引きつける。闇祓いがマグル界での後始末に追われる間に、魔法界で何件か同時襲撃を行う。闇陣営は闇祓いが駆け付ける心配なく闘えるというものだった。僕が加わったルシウス率いる襲撃でも、久しぶりに仲間たちは負けの決まった敵を飽くことなく弄んでいた。

襲撃後の打ち上げも盛大なパーティになった。各地で襲撃を終えたデスイーターたちが一堂に会したからだ。ダークロードは作戦の成功を高らかに宣言し、皆の健闘と、作戦の立案者であるルシウスを称えた。ルシウスはあちこちのグループに引っ張られて、もみくちゃになっていた。

やがて宴もたけなわになり、皆酒の酔いがまわった頃、エスコートクラブから呼ばれた華やかな魔女や魔法使いが加わり、会場は怪しい熱気を帯びた。灯りが落とされ、仄暗いロウソクからは隠避な香薬の匂いが漂う。といっても、僕が頼まれて作った覚醒作用のある香薬なのだけど。怪しい雰囲気に誘われるように、ホールのあちこちで人影が絡み合い、個室へと消えていった。

今までにも襲撃後の打ち上げ会に出たことはあったけれど、こんな雰囲気は初めてだった。簡単な飲食で終わるか、遅くなる前にルシウスに言われて僕とレギュラスは退室していたのだ。戸惑っていると、少し酔った足取りのルシウスが僕を見つけて近付いて来た。

「セヴィ、もう遅いからおまえは帰るのだ。」

そう言われても、ルシウスはこんな雰囲気のパーティに残るんだろうか?

「だけど・・」

僕が動かずにいると、ルシウスの後ろから声がした。

「やあ、セブルス、久しぶりだね。」

しなだれるようにルシウスの肩に手を回しながら現れたのは、ホグワーツでいつもルシウスと一緒にいて僕をからかっていた、艶めかしい上級生グループの1人だった。

「あなたは、、」

「今夜はルシウスを借りるよ、セブルス。そんな顔しないでさ。ルシウスときたらここ1年ほど君のことばかりで、ちっとも僕らの誘いに乗らなかったんだ。念願かなって君をデスイーターにできたんだから、もういいだろ?」

「セヴィ、気をつけて帰るのだぞ。」

ルシウスも酔っぱらって、しなだれかかる上級生の髪を撫でながら言う。

「僕も残ります。」

そう言うとルシウスは顔をしかめた。

「なんだと?おまえはならぬ。おまえは帰れ。これからは大人の時間だ。レギュラス、セブルスを連れてさっさと屋敷に戻るのだ。泊まってはならぬぞ。セブルスを送り届けたら、自分の家に帰れ。」

言いたい放題言ってルシウスは背を向けた。

「ルシウスもそう言ってるから。ごめんね、ベイビー」

上級生は振り返ってひらひらと手を振りながら、ルシウスと一緒に消えていった。

「先輩、帰ろうよ。」

心細げに言うレギュラスに腕を引っ張られて、僕は会場の家を出た。マルフォイ邸に着くと、レギュラスは押し黙った僕を気遣うように少し一緒にいたけれど、しばらくしてドビーに頼んでクリーチャーを呼び、家に帰っていった。

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セブルスとルシウスの物語(32)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)

僕はホグワーツを卒業してマルフォイ邸に住むようになった。キングスクロス駅でホグワーツ特急を降りて、ほんの少し、ほんとにこのままルシウスの家に行ってそのまま住んでいいのかと迷ったけれど、ホグワーツという家を出てしまったのだから、他に行く所も行きたい場所もない。などと考えたのは言い訳のようなもので、ルシウスに会いたい一心で飛ぶようにウィルトシャーにアパレートした。

ルシウスは温かく迎えてくれて、去年の夏与えられた『僕の部屋』もそのままだった。去年は夏休みの間の客人のようなつもりで滞在させてもらったけど、これからはもうホグワーツに帰る予定もなく、僕はどんな立場でここにいてよいかわからないと言うと、ルシウスは少し考えて、家族のようなものだと思っていればよいと言う。

家族と言われて最初に頭に浮かんだのはスピナーズエンドの両親だったけれど、それがルシウスの言う『家族のようなもの』とは思えないし、ルシウスもそんなつもりで言ったのではないと思う。かといって、ルシウスの家族も見たことがなかった。屋敷の奥のかなり広い一角にお父さんの居住スペースがあるとは聞いたけど。ルシウスには大きな屋敷も立派な家門もあるけれど、マルシベールやレギュラスが話したような、血縁者が親密に寄り添ったり争ったりする人間関係としての家族を感じたことはない。お母さんは早くに亡くなったと言っていたし。

だから結局、ルシウスの言った『家族のようなもの』というのは、ものすごく豪華で住んでいるのが2人だけのホグワーツみたいなものだと想像するしかなかった。そして姿を見せないお父さんを除けば、この広い屋敷に2人だけの家族なのだと思うと、何があってもこの絆を守りたいと願った。


ルシウスからデスイーターとしての初めての任務の話をされたのは、それから数日後のことだった。マルフォイ邸にレギュラスがやって来て、2人でルシウスから説明を受けた。ダークロードに抵抗する魔法使いたちが数人集まるという情報があり、その集会への襲撃に僕たちも加わるとのことだ。襲撃にはダークロードも来て、新人2人の実力を見るとともに、僕たちに自身の術を見せてくれるということらしい。

すでにダークロードの陣営が既存の勢力を圧倒しているのだけれど、それに密かに抵抗する動きも増えている。純血主義の世の実現を妨げる者たちを結集させないように、その芽を摘み取り、見せしめにするための襲撃だ。通常新しいデスイーターはしばらく訓練を受けてから参加するらしい。早くに熱意を示し卒業を待たずに儀式を受けた僕たちは、特別なはからいで先に襲撃に加われることになった。ダークロードや先輩たちの闘いを見るのも勉強になるし、その後で卒業後に訓練を受ける者たちと一緒に練習すればよいと言われた。

「襲撃では私がおまえたちと一緒に先陣を切る。初めての実戦に不安もあるだろうが、ダークロードも先輩たちもいるから心配はない。実力を示せばダークロードにも認められるぞ。いよいよ共に闘うのだ。」

ルシウスは僕たちの肩に手を置いてそう締めくくり、僕はうなづいたけれど、隣でレギュラスは心細げな顔をしていた。少し手慣らししておこうということになって、マルフォイ邸の広大な敷地の一角で3人で術の練習をした。蜘蛛や小動物を相手に、禁じられた呪文もかけてみた。闇陣営の圧倒的な強さを示すために、襲撃では禁じられた呪文を使ってもよいのだそうだ。

3人並んで、息を合わせて術を放つこともやってみた。ホグワーツではあまりよい顔をされなかった闇の魔術を、これからは存分に使えて、それが陣営のためになるのだと思うとわくわくする。レギュラスの術は心もとなかったけれど、ルシウスがまだ新人なのだし、2人がカバーするから気にするなと鷹揚に言って、レギュラスもほっとした顔を見せた。

襲撃は数日中に行われる予定で、情報の漏えいを防ぐために、直前に集合が掛けられるらしい。いつでも行けるように心の準備をしておけと言われた。


2日後の夕刻、集合の指示を受け、結局マルフォイ邸に泊まり込んで術の練習をしていたレギュラスも一緒に、3人でデスイーターのフードをかぶって集合場所に駆け付けた。フードを纏っているから誰だかわからないけれど、他にも数名が集まって、ダークロードを囲んだ。ダークロードは襲撃先の状況やそれぞれの役割を指示し、僕たち3人に先行するよう命じ、他のデスイーターたちには新人をカバーするよう付け加えた。

いよいよ初めての襲撃だ。緊張と興奮で気が逸る。

標的の家に速やかにアパレートし、中の様子を探ると、家の防衛を破って一気に攻め込んだ。薄暗い部屋の中には7、8名の魔法使いがテーブルを囲んで話していたが、急な襲撃に驚きながらも、皆立ち上がり杖を上げる。その杖の狙いが定まらぬうちに、ルシウスを先頭に3人素早く一歩前に出た。打ち合わせ通り、磔の呪文を叫ぶ。

「クルーシオ!」

閃光と共に2人の敵が同時に崩折れ、苦痛の叫びをあげた。僕はこの術を人に向けたのは初めてだったけど、迷わず放った術に狂いはない。レギュラスの狙いはわずかに外れたのか、敵はよろめきながらも武器解除呪文を叫んでいた。レギュラスに向けられたその術を防衛呪文で跳ね返し、すかさず次の攻撃を放つ。

「ワオー!」「やるな、新人!」「さあ、俺たちの出番だ!」

それぞれに雄叫びを上げながら、先輩たちが闘いに加わり、乱戦が始まった。あちらでもこちらでも、呪文の声と閃光が飛び交う。僕はルシウスの合図に合わせて一緒に術を放ったり、近くに居るレギュラスを庇ったりしながら、存分に闘った。手ごわい相手をようやくクルーシオで仕留めた時、ダークロードの声が響いた。

「余の術を見よ!クルーシオ!」

高らかな声に目を向けた瞬間に、杖が振り下ろされた。閃光の走る先で、敵に指示の掛け声をかけていた大きな魔法使いの体が宙に浮かび、すごい勢いで回り始める。同じ術なのに、僕が初めてとはいえ会心の出来だと思ったクルーシオの、何倍もの威力が感じられた。やっぱりダークロードの闇の魔術は、桁外れにすごい。あのように術を操れたら、恐れるものなど何もないと思う。

術を受けた敵の苦悶の叫びが響き渡り、デスイーターからは歓声が湧いた。敵方は総崩れとなり、逃げ惑う者たちをデスイーターたちの術が追う。勝敗はすでに明らかだった。薄暗い部屋のあちこちから、苦痛のうめきと懇願の泣き声が聞こえてきた。ルシウスに促されて、レギュラスとともにダークロードの後ろに下がって見ていると、先輩たちは倒れた敵たちの体を杖で操りテーブルに積み上げた。その山に向かい、ダークロードが冷やかに言い放つ。

「今日はここまでにしてやる。身の程知らずな抵抗の代償が骨身に染みたことであろう。次は命がないものと思え。」

撤退の合図に、仲間たちは外に出た。一人が杖を宙に向けて呪文を唱えると、暗い空に髑髏が蛇を吐く闇の印が浮かんだ。デスイーターによる襲撃の宣言だ。仲間たちは次々と姿を消して、マルフォイ邸にアパレートした。襲撃の後は、成功を祝う打ち上げ会が恒例のようだ。

屋敷の広いホールでフード付きのローブを脱ぎ、興奮冷めやらぬままにルシウスやレギュラスと話していると、ダークロードが近付いて来た。儀式の時には顔を見上げることもできなかったので、間近に見るのは今日が初めてだ。術を放った時には赤い目が光る恐ろしい形相だったけれど、今笑みを浮かべる顔立ちは整っていた。見る角度や表情により、美しくも醜くも見え、高貴でも邪でもあり、笑みの奥に冷やかさが漂う、不思議な外貌だった。

「我が君」

「ルシウス、よい襲撃であった。容易な敵であったとはいえ、新人2人、訓練も受けておらぬのに、よく闘った。余は満足しておる。」

ダークロードは笑い返すルシウスから僕に視線を移した。

セブルス、見事であった。実に見事な闇の魔術の使い手だ。初めての襲撃とは思えぬほどの落ち着きぶり、余は感銘を受けたぞ。ルシウスが褒めていただけのことはある。」

「ありがとうございます、我が君。」

褒められればやっぱり嬉しい。まして世を支配するほどの力を持つ闇の魔法使いに実力を認められたと思えば。

「レギュラス、若き身でよく闘った。ブラックの血に伝わる尊き魔力の素質を磨けば、誰にも勝るデスイーターになることであろう。期待しておるぞ。」

「我が君、まだ至りませんが、頑張って術を磨きます!」

崇拝するダークロードに声を掛けられ、レギュラスも嬉しそうだった。けれど、ローブを脱いだシャツの腕を見ると血が滲んでいる。

「レギュラス、怪我をしたのか?」

「え?」

興奮して、自分でも気づいていなかったようだ。そでを上げてみると大した傷ではないが、まだ血が流れ出ている。簡単に治癒呪文をかけ、ポケットに忍ばせていた水薬をつけてやった。ごく自然にしたことだったけれど。

「見事なのは闇の魔術だけではないようだな、セブルス。治癒の腕も魔法薬の才能も細やかな用心も、我が陣営の役に立つであろう。その優れた能力で、襲撃のほかにも貢献できそうだ。先が楽しみなことよ。」

最後の言葉はルシウスに向けて、ダークロードは機嫌よさそうに笑っていた。ルシウスが僕に笑いかけ、ルシウスに喜んでもらえたと、あらためて喜びが湧く。その時、黒髪の美しい魔女が足早に近付いて来た。フードをつけている間は気づかなかったけれど、襲撃に1人、魔女も参加していたのだ。

「我が君!」

「ベラトリックス」

「これは我が従弟のレギュラスでございます!幼少期より可愛がっておりました。在学中の身で本日の襲撃に加えていただき、これほどの名誉はございません。」

そう言いながら美しい魔女はダークロードににじり寄り、片手ではレギュラスの頭を抱え込んで髪をくしゃくしゃと撫でていた。一瞬たじろいでしまうほどにテンションの高い人で、ルシウスも心なし後ずさりしている。

「ベラ姉様、ダークロードの前で子供扱いして、、」

レギュラスはもごもごと何か言いながら抵抗していたけど、顔は嬉しそうだ。これがレギュラスの言っていた従姉かと見ると、黒い巻き毛に色の濃い瞳、確かにどこか似通ったところがある。

「ベラトリックス、レギュラスは立派だったぞ。これはレギュラスと一緒にデスイーターに加わったセブルスだ。会うのは初めてか?」

派手な美貌の魔女は初めて気づいたように僕の方を見た。そして頭からつま先まで、値踏みするように目を動かす。

セブルススネイプといいます。今年ホグワーツを卒業しました。」

スネイプか。聞いたことのない家名だが、スリザリンでレギュラスと一緒だったのだな?わたしはベラトリックス・ブラック・レストレンジだ。」

言い残してベラトリックスは、ダークロードの腕を引っ張って去っていった。残された3人で、なんとなく顔を見合わせる。

「なんか、すごい姉さんだね、レギュラス。もちろん、すごい美人で・・。」

「驚いたんでしょう、スネイプ先輩。ベラ姉様は性格が激しいから。でも、シシー姉様はもっとずっと大人しくて女らしいんですよ。」

最後の言葉はルシウスに向けられていた。ルシウスも、わかっているというようにうなづいている。僕にはどういうことかわからなかったけど、その話はそれで終わった。とにかくレギュラスにはベラトリックスというデスイーターの激しい従姉と、シシーという女らしい従姉がいて、ブラックの血筋は皆美形だということだ。

しばらくしてマルシベールたちもデスイーターになる儀式を済ませて新人の訓練が始まり、僕とレギュラスもそれに合流した。訓練では、術をおしえてもらったり練習するだけでなく、敵の数が多い時や闘いが劣勢になったときのフォーメーションや、逃走時の避難場所みたいな話もあって興味深かった。訓練に参加しつつ、僕とレギュラスは引き続き襲撃にも加わった。

レギュラスの術の腕はみるみるうちに上達した。やるかやられるかという緊迫した闘いを経験して、魔力の素質が術の強さにつながったようだ。そして僕自身のことを顧みると、父さんに虐待されて恐怖に対峙してきたことや、ポッターやブラックたちと闘い憎しみを募らせたことの全てが、襲撃に活かされているのだった。それをベースに、訓練により魔術が強まってゆくのが実感できる。ホグワーツに入学した頃のような、充実感のある日々が始まった。

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