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(過去2)リーマスの物語12

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)


ダンブルドア先生には、何も心配せず今まで通り過ごせばよいと言われたけど、そんなことできるわけない。スネイプを食い殺してしまったのではないかという不安が拭われて、それはよかったけど、それであれこれ考え始めると、考えるほどに気が滅入る。

僕は自分の正体に衝撃を受けていた。もちろん自分が人狼だということはもうずっとわかっていたことで、そのことでいろいろ辛い思いもしてきた。だけどそれは変身の苦痛とか、僕の意識がないまま狼が人を襲うかもしれない不安とか、人に忌み嫌われ排斥されることとか、正体を隠しておかなきゃいけない心の重荷とか、どこか自分を可哀そうな被害者に仕立てていたように思う。幼いころ、父さんや母さんが言ってくれたように、悪いのは狼で、僕は咬まれてしまった可哀そうな子供なんだと。

だけど昨日の夜、スネイプを見て突きあげた獣の衝動は、たしかにこの僕のものだった。スネイプを、人を、襲いたくて食いたくてしかたないのは、僕自身だった。変身の最中に獲物を目にしたことで、僕は一瞬だけれども、僕が狼なんだと感じてしまった。それは思い出すだけで吐き気を催すイヤな感触だ。人々が忌み嫌うのも無理はないと思う。僕自身、自分のことが忌わしくてならないのだから。

スネイプのことを考えると、出るのはため息ばかりだった。醜い獣の姿を目の当たりにし、それが自分を食らおうといきり立つのを感じ、どんなに怖かっただろう。スネイプが感じたであろう恐怖や嫌悪を想像すると、胸に絶望的な痛みが走る。1年生のころから密かに親しみを感じ、ジェームスたちの嫌がらせに加わってしまいながらも、ずっとかばいたいと思っていたのに、、、僕は最悪だ。

謝りたいと心から思うけど、襲って食おうとしたことなど、どう詫びればよいものなのか。許されることじゃない。僕は人狼になってしまった運命を受け入れるしかなかったけれど、その哀しみの中でも、人を襲うことだけはしたくないと思っていた。殺してしまったり、僕と同じ人狼の苦痛を人に味あわせることだけはしない。それが僕の人間性の証しだと思って生きてきたのに。スネイプも許してはくれないだろうけど、僕自身も自分を許せなかった。

そしてシリウスのことを考えると、、、。初めに感じたのは悲しみや寂しさだった。人狼である僕を受け入れて、僕に人としての命を与えてくれたといえる仲間たち。僕の最悪な人生でただ一つ、思いがけず手に入れた、かけがえのない宝。その友達が、僕を使ってスネイプを殺そうとした。そう思うと、なんだかシリウスがとても遠い存在に感じられて、寂しさのあまりシリウスと過ごした楽しい日々を、未練がましく思い返した。

僕が人狼だと気づかれた時、僕をしっかりと抱きしめてくれたシリウス。満月の後のけだるげな僕に、肉を食え、野菜食え、元気のもとだと、暑苦しいくらいかまってくれて。それに、パッドフット!危険な人狼を、飼いならされた大きな犬みたいにさえ思ってしまえたのも、シリウスの黒犬のおかげで・・・それは大きな誤りだったわけだけど、だけどそれが与えてくれた幸福感を思うと、こんな出来事の後でさえ胸が熱くなるほどの友情で。

それなのに、バッドフットはムーニーに、スネイプを襲わせようとした・・・

胸に生じた小さな黒点は、あっという間にどす黒い怒りになった。あわてて抑えようとして、でも止まることなく湧きあがる怒りに悲しみが混じる。

僕は自分を呪い、スネイプに申し訳なくて、シリウスに腹が立ち、傷ついた友情が悲しくて、、、袋小路の堂々巡りに行きつく先がある訳もなく・・・人狼であるということは、こういうことだったんだと、絶望のため息をはいた。

夜にはジェームスとシリウスとピーターが医療棟にお見舞いに来てくれたけど、会う気力がなくて、具合が悪いと断ってもらった。考えてみれば、ジェームスだって僕の本質を見たわけだ。プロングスやパッドフットと一緒に駆け回る、たぶんご機嫌なムーニーじゃなくて、人を殺そうとする凶暴な狼の本性を。もう誰にも会いたくない。このまま消えてしまいたい。死んで詫びればスネイプも許してくれるだろうか。

心の傷は深まるばかりなのに、体の傷は順調に回復してしまい、翌日の午後には寮に戻ることになった。寮のベッドで休んでいると、同じ部屋のピーターが授業を終えて戻って来た。

リーマス、怪我はもういいの?心配してたんだよ。昨日はたいへんだったって?」

「ああ。」

いつになく無愛想な僕にピーターは悲しげな顔をして、言葉を続けた。

「シリウスが謝りたいって言ってるよ。ジェームスも一緒。部屋に入ってもらっていい?」

気は進まなかったけど、断る気力もなくてうなづくと、2人が部屋に入ってきた。

リーマス、悪かったな。俺、しつこくつけ回るスニベリーを懲らしめようと思っただけで、おまえがあんなひどいことになるなんて考えてもみなかったんだ。」

シリウスは神妙な顔をして、頭をかきながら言ったけど、それをきいたらなんかすごく腹が立った。スネイプは死んだかもしれないし、そうなれば僕は殺処分になるほどのことだったんだ!

「な、リーマス、シリウスを許してやってくれよ。こいつはほんと考えなしのバカだからさ。」

黙ったままの僕に、気まずい沈黙をとりなすようにジェームスが言って、シリウスの頭を軽く小突く。

「ああ、俺はバカだよ。反省してる。リーマス、ほんと、すまん。許してくれ。」

シリウスが真顔で僕に頭を下げた。その隣でジェームスは少し困ったふうに首をかしげながら、僕を見ている。でも僕はそんな彼らを素直に受け入れられなかった。絶望と怒りが、彼らの真意を意地悪く探る。キラキラと輝く、2人の真剣な瞳。誰もがひざまづき、受け入れずにはいられないと知っているんだろう。いつだって光と称賛に包まれている彼らに、呪われた闇の罠に落ちた僕の気持なんてわかるわけない。

僕は許せなかった。

「ほんとに反省してるなら、スネイプにあやまって。」

それだけ言って、毛布にもぐりこんだ。

少しして、リーマスはまだ具合が悪いんだとかいう囁き声を残して、2人は部屋を出ていった。

リーマス、まだ寝てないよね?」

声をかけられて顔を出すと、ピーターが怯えた目で僕を見ていた。仲間内の諍いにうろたえたのか、それとも人狼と2人だけでいるのが怖いのかとすさんだ気分になる。

「シリウスは考えなしなだけなんだよ。ね、許してあげて。シリウスはリーマスが好きなんだから。友達でケンカなんて、よくないよ。僕たち、真の友情を誓ったよね?友達なら考えなしなことしても許してあげようよ、ね、リーマス・・・」

ピーターは何度もシリウスは考えなしなだけだと繰り返し、一生懸命とりなすのをきいているうちに、僕のいらだちは収まってきた。たしかにシリウスは先のことを緻密に考えるなんてできない性格だし、僕だってスネイプにあやまらなきゃいけないんだし。それに、ジェームスは危機を救ってくれたのに、シリウスへの怒りをジェームスにもぶつけてしまったと思い至り。

結局、僕が小さくうなづくと、ピーターはほっとしたように部屋を出ていった。

ピーターがその後シリウスたちに何を言ったのか知らないけど、翌朝はちょっと気まずさはあるもののいつも通りに4人で大ホールの朝食の席に着いた。食事も会話も弾まないまま、食べるふりをしながらスネイプの様子を盗み見る。スネイプはいつにも増して殻にこもった雰囲気で、顔も上げずにもくもくと食べていた。生きて動くスネイプを見るのはすごく救われた気がしたけど、どうやって謝ったらいいんだろう、2人で話すことなんてできるんだろうかとか考えながら盗み見を続けるうちに、おかしなことに気がついた。なんとなく、周囲のみんなもがたちをチラチラと見ているような。

そのうち、グリフィンドールの誰かが、僕の向かいに座るジェームスに思い切ったように尋ねるのをきいて驚いた。

「ジェームス、スリザリンのスネイプを助けたんだって?」

それをきっかけに、近くに座る生徒も話に加わった。

「いつも毛嫌いしてたのに。命がけで助けたんだって?ほんと?」

ダンブルドア先生はおとといの一件が公けになることはないと言っていたのにと茫然とする間もなく、シリウスの言葉に驚愕した。

「ほんと、ほんと。ジェームスはヒーローだからな。憎い敵でも危機に陥れば、身の危険も顧みずくさっそうと救い出すのが真のヒーローってわけ。」

わぁ、すごいな、さすがジェームスとか周りが反応するのを、ジェームスは得意げに笑ってまあまあと抑えながら、一瞬、ほんの一瞬、チラッとエバンスに視線を走らせた。

それを見た瞬間、僕は思ってしまった。ジェームスは知ってたんじゃないかって。ジェームスは、シリウスがスネイプに暴れ柳の止め方を見せて僕のもとに行かせるのを、前から知ってたんじゃないか?

思いついてすぐに後悔したんだけど、疑念はとどめようもなく膨らんでいった。そもそも、シリウスとジェームスは一心同体ともいえるほどに親密な仲で、特にスネイプへの嫌がらせとなればいつも一緒だ。今回に限ってジェームスが直前まで知らなかったなんて考えられない。それに、そもそも、暴れ柳の止め方を見せてスネイプを誘導するなどという、まわりくどく人を操るようなことを、わりと単純で直情型のシリウスが思いつくだろうか?

それは、、、こんなふうに考えるのはイヤなんだけど、、、頭のまわるジェームスこそ企てそうなことだった。僕たちをつけ回すスネイプに気づいた時に、満月の夕暮れに暴れ柳の止め方をおしえてやればスネイプは叫びの屋敷に行って人狼を見て腰を抜かすだろうなとか、シリウスにさりげなく言ってそそのかす。そして満月が上がる直前のタイミングでスネイプを助け出せば、スネイプを怖がらせたうえに、恩をきせて屈辱を与えられる。そしてその話を密かに流せば、皆からヒーローと称えられ、日頃スネイプいじめを非難するエバンスにも、いざとなればスネイプのことを助けるのだと見直されるかもしれない。

実際エバンスがどう思ったかはわからないけど、それ以外はすべてうまく運んだように見える。ほんとにジェームスが企てたならということだけど・・・。

命がけの救出といっても、ジェームスの命はかかっていなかった。万一のときには牡鹿に姿を変えて逃げればいいだけなんだから。僕たち以外知る人のないアニメガスの牡鹿が目撃されたとしても、ジェームスは何も知らないですむんだとそこまで考えて、疑惑は確信に変わった。それはシリウスの考えなしな行動よりも、ずっと恐ろしい陰湿なことに思われた。ほんとうにジェームスが企てたことなら、ジェームスは僕だけじゃなくシリウスまでも利用して、スネイプや僕の命にかかわることすら気にせずにスネイプを追い詰めようとしたのか?そんな酷いことができるなんて・・・。

突然、ガチャン!と大きな音が響いた。

僕は茫然としてしまい、食べるふりで持っていたフォークを落としてしまった。その音で我に返ると、みんなが僕の方を見ていた。突然の音に驚いて、僕に集まるみんなの目。

思いがけない注目に、僕は身がすくんだ。事件の裏に誰のどんな企みがあったとしても、真実が公けになれば、このたくさんの視線はすべて、人狼への恐怖と嫌悪に変わる。いったんそう思ってしまうと、皆に投げつけられる石の痛みさえ感じ、傷口から流れ出た血が冷えてゆくように体が凍りついた。シリウスはひどいことをしたし、ジェームスが企んだならもっと恐ろしいことだけど、それを正そうと思えば、忌み嫌われ排斥されるのは僕なんだ。

「どうしたの、リーマス?顔色悪いよ。具合が悪いんじゃない?一緒に寮に戻ろうか?」

僕は真っ青になって震えていたようだ。隣のピーターに声をかけられ、僕は気弱にうなづいて席を立った。

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tag : ハリーポッター ジェームス シリウス スネイプ リーマス

(過去2)リーマスの物語11

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)


そんな感じで、5年の初めの数か月、僕は心地よい仲間との一体感に身をまかせていた。浮かれ気分だったと言ってもいい。もちろん監督生として、ジェームスたちの校則違反を見逃しているばかりか、一緒になって満月の夜に外を駆けまわっている罪の意識はあったけれど、心を尽くして寮の年少者の世話をすることで埋め合わせたことにした。それで思いがけず、頼りになる優しい先輩などと下級生に慕われたりして、まんざらでもない。

だけど、物事にはやっぱり限度というものがあるわけで、ある日寮監督のマクゴナガル先生に呼ばれて、いたずらが過ぎるジェームスとシリウスを、監督生としてなんとか諫められないものかと注意された。スリザリン生に対する度を越した悪ふざけという言葉で、スネイプへの態度も指摘された。一緒に呼ばれたエバンスからも非難がましい目を向けられて、僕としてはうなだれるしかない。

アニメガスの冒険で調子づいていたのは僕だけじゃなくて、ますますパワーアップしたジェームスとシリウスは、いたずらも激しくなっていた。魔力もアイデアも抜群な2人だから、誰かのペットのふくろうが鶏に変わってたり、廊下を歩く生徒の靴が突然滑りだして衝突が起こったり、魔法薬学の授業であちこちの鍋から花火が上がるなんていうことはしょっちゅうだ。笑えるものも多いんだけど。

笑えないのは、スネイプに対する嫌がらせだった。僕は監督生の立場を利用して、できるだけ関わらないようにしていたけれど、闘いの顛末はよく聞かされたし、不本意ながら立ち会ってしまうこともある。2人のスネイプへの憎しみは、もはや闇に傾倒していることに留まらず、シリウスは煮詰まった純血主義の家族との諍いのいら立ちまでもスネイプにぶつけている感があるし、ジェームスはスネイプとエバンスの交友が気に入らないと殺気立っている。

スネイプもスリザリン生と行動を共にすることで狙われるのを避けているようだし、やられるばかりでなく闇魔術紛いの新しい術まで駆使して反撃する。それでもやっぱり、複数対1人では、圧倒的にスネイプの分が悪かった。僕の胸の奥底のスネイプの箱には、目をそむけて放り込んだスネイプの惨状がどんどんたまっていって、もう恐ろしくて今さら封印を解く気になれないほどだ。

だけど、先生も手を焼くほどのジェームスとシリウスの振る舞いも、スネイプやスリザリンを除く生徒たちには喝采を浴びていた。それは、2人が圧倒的に人気者だからだと思う。ジェームスはクィディッチのヒーローで勉強も出来て、茶目っけのある陽気な笑顔には笑顔を返さずにいられない明るさがあるし、シリウスは名門貴族の美形だから、近くで見てると粗野と思えることまでも、かっこいいということになるのだった。

不公平なことだとは思うけど、人は往々にして、何をしているかという事よりも、誰がしているかで物ごとを判断する。ジェームスやシリウスがすることなら、いたずらは才能、校則違反は自由や勇気の証と評価されるのだった。割と単純な性格のシリウスはともかく、頭のいいジェームスはそのことを充分にわかっているようで、向けられる称賛の目を意識して、わざと髪をくしゃくしゃにして茶目っけを演出したりしている。

多くの生徒が2人に憧れ、僕も受け入れていたけれど、そんな周囲の雰囲気と、悪意に満ちたしつこい嫌がらせ、そして先生たちさえ手をこまねいていることが、スネイプを追い詰めたのかもしれない。やがてスネイプは僕たちを探る気配を見せるようになった。

ジェームスとシリウスも気がついて、スネイプは僕たちの動向を探って、弱みを見つけて退学させようとしてるんだと決めつけた。そんな卑怯なスネイプのほうこそ、逃げ出したくなるくらい痛めつけてやるんだと息巻くのをきいて、僕はスネイプと僕たちとの関係が、同じ校内にいることが難しいほどの最悪の事態になりつつあると感じはしたんだけれど。

それでも僕は目をそむけ、なかば投げやりに、スネイプのことは胸の奥に放りこんで封印し続けた。状況に目を向ければ、僕自身が選んだ真の友情に背くことになってしまう。言い訳めくけれど、僕にはそれほどに、アニメガスになって満月の夜を共に過ごしてくれる仲間がありがたかった。

いけないことではあるけれど、変身した満月の夜に彼らと外に出るようになってからの心身のさわやかさは、手放しがたいものがある。叫びの屋敷に閉じ込められた狼の鬱憤は、体に残る自傷の跡だけでなく、変身前後数日にわたり、心に重く圧し掛かっていたようだ。それが解放されてみると、日々積み重なるわだかまりも不穏な予感も、外を駆けまわる満月の夜が過ぎるととりあえず一掃されてしまい、なんだか根拠なく楽観的になった。閉じ込められた動物が外を走ってストレスを解消するような、すごく単純な反応なのかもしれない。根本的な解決にはほど遠いわけだけど。

そんなふうに、不穏な気配を感じつつ、さしてそれにとらわれることなく、僕としては珍しいほどに明るい気分で毎日を送っていた。あとで考えれば、僕たち4人とスネイプとの関係は、長年の憎悪が吹きこぼれるほどの危うさをはらみ、それはやがて一番弱い鎖のつなぎ目を見つけて噴き出す機会を待っていたのだった。そして僕こそが、一番弱い、危険な鎖だった。

その満月の日の夕方、仲間たちの、あとで行くからな、また一緒に森を駆けようという意味を込めたウィンクに軽く手を振り返し、僕はいつものように叫びの屋敷に向かった。もう慣れたことではあるし、ここ数カ月は自らを苛むこともなくなったから、以前ほど陰鬱にしずむこともなく、ただ面倒な月例行事をこなすような気持ちで歩く。

医療棟のマダム・ポンフリーに連れられて暴れ柳の下を通り抜け、いつも通り屋敷の外から扉に施錠してもらった。翌朝僕が出られるように、扉は中からも鍵を開け閉めできるけれど、やさしくて責任感の強いマダム・ポンフリーは、入学以来、毎月僕に付き添って来て、施錠を確認してくれる。

それを裏切るみたいで悪いんだけど、この数カ月は夜になるとこっそりジェームスたちが動物の姿でやってきて、狼を外に出してくれるわけで。ほんとはまずいんじゃないかと、まったく思わないわけでもないけど、何回か無事に満月が過ぎてみれば、狼をうまく飼いならせたような気さえした。狼の咆哮が漏れなくなった今、叫びの屋敷って名前もかわったっておかしくないと思ったりして、自分ながらいい気になってる気がする。でもこれもみな、仲間たちのおかげだと思い、じんわりと胸が熱くなった。

屋敷の中でそんなことを考えているうちに、鉄格子のはまった小さな窓の外が暗くなった。僕は服を脱いで部屋の隅にうずくまる。前に比べたらずっとましとは言っても、やっぱり、その瞬間を迎えるのは気が重い。僕が僕でなくなる心許なさ、頭を抱えてやり過ごすしかない恐怖と苦痛。ため息をついてぎゅっとひざを抱き寄せた。もう月が出るころだ。僕がけして見ることのない、大嫌いな満月が。

そのとき。

扉の外に人の気配を感じて、息をのんだ。鋭敏さを増した嗅覚が捉えたのは、、、スネイプのにおい?スネイプがなぜここに?そしてかすかにきしんで扉がわずかに開く。なぜ?

思う間もなく、体の奥から止めようのない不快なざわめきが湧きあがった。吐きそうな怖れと苦痛に身をよじりながら、必死で叫んだ。

「逃げて!早く逃げて!」

叫んだつもりだけど、体はめりめりと音を立ててうごめき、何もかも、僕のすべてをかき消すほどの衝動が突き上げて、もう何がなんだかわからない。叫んだのか、吠えたのか。留まりたいのか、捕えたいのか。

獲物だ!・・・肉だ!・・・走れ!

はやり立つ獣の雄叫びに飲み込まれ、消えゆく意識の片隅に、扉の小さな窓の向こうのスネイプの顔が、驚きと恐怖に歪むのが見えた。



狼は、スネイプの細い体を組み敷いていた。たくましい前足が震える肩を抑え込み、金色に光る眼は怯える獲物の顔に向けられている。獲物の怯えを楽しむかのように舐めまわし、鋭い牙が白いのど元に食らいつく。声にならない断末魔の叫び。ほとばしる血しぶきを浴びながら、腹を、腕を、むさぼるように食いあさる。肉がそぎとられ、骨が砕け、失われてゆく、人の形。やがて顔を上げた狼の口元に、べったりと滴る真っ赤な血・・・

「リーマス、リーマス」

肩をゆすぶられて目を開くと、ぼんやりと、マダム・ポンフリーの顔が見えた。マダム・ポンフリー?ここは?スネイプは?

「リーマス、気がついたのですね。ひどくうなされていましたよ。」

「僕は、、」

もうろうとして、ただ一つの質問だけが繰り返し頭をめぐる。

ボクハ、スネイプヲ、コロシテシマッタノデスカ?

言葉にならない。体の傷のせいか、取り返しのつかない真実を告げられるのがこわいからか。

「リーマス、可哀そうに。ひどい怪我をしたのです。傷だらけで、血だらけで、高熱にうなされて。」

やさしくて、何があっても落ち着いているマダム・ポンフリーが、涙ぐんで僕の頬を撫でてくれた。僕のことを心配して。

ごめんなさい、マダム・ポンフリー。ずっと僕の面倒を見てきてくれたのに、僕はそれに応えられなかった。僕は、その優しさに値しないんです。だって僕は、スネイプを食い殺してしまった。・・・僕が死ねばよかったのに。僕なんて、生きているべきじゃなかった。

ただ見つめるばかりで何も言えない僕に、マダム・ポンフリーは小さく息をついて言った。

「もうすぐダンブルドア先生がおみえになります。あなたが目覚めたらお話があるとおっしゃっていました。」

すぐにダンブルドア先生が医療棟に着き、マダム・ポンフリーは僕の状態を説明して出て行った。

「ミスター・ルーピン、怪我は落ち着いたかの?意識が戻って何よりじゃ。」

「ダンブルドア先生、スネイプは?スネイプはどうなったんですか?」

「ミスター・スネイプは無事じゃ。安心しなさい。」

胸をなでおろして、気が緩んだせいか、涙が出てきて止まらない。僕を見るダンブルドア先生の顔が少し和らいだ。

「ミスター・スネイプは傷一つ負っておらん。驚きはしたようじゃがの。ミスター・ポッターが気がついて、寸前のところで助け出した。それからすぐわしの所に報告に来たのじゃ。」

ジェームスがスネイプを助けたのかと怪訝な思いが顔に出たのか、ダンブルドア先生は昨日の出来事を順を追って話してくれた。それによると。

昨日の夕方、僕が暴れ柳に向かうのを、スネイプは物陰から見ていた。後をつけようとしたけど暴れ柳が暴れてかなわず、そのまま見張っていたらしい。それに気づいたシリウスは、つきまとうスネイプを懲らしめようと、薄暗くなる頃に、暴れ柳の抑え方をわざとスネイプに見せた。そしてスネイプがその通り、暴れ柳の根元のこぶを抑えて通路を抜け、叫びの屋敷に着いたちょうどその時、月が上がり僕の変身が始まってしまった。シリウスの様子から気づいたジェームスが、身の危険を顧みず助けに向かい、寸前のところでスネイプを外に逃がして事なきを得たということだ。

ジェームスから報告を受けたダンブルドア先生は、シリウスに罰を与え、2人とスネイプにこの件に関していっさいの口外を禁じた。

だから僕は何も心配することはないという。人を襲った人狼は、殺処分を含む厳罰に処されることになっているけれど、事件も僕の正体も公になることはないから、僕は何も心配せず傷をなおし、今まで通り学校にいればいいんだと。

「でも先生、あんな目にあったのに、スネイプはそれで納得してくれたんでしょうか?」

「最初は興奮していろいろと言っておったがの。じゃが事が公けになればおまえさんが酷い目にあうことは理解したようじゃし、そんなことはわしが許さんこともわかっておる。きつく言ってあるから約束は守るはずじゃ。心配はいらん。さあ、わしはもう行くからもう休みなさい。マダム・ポンフリーが世話をしてくれるじゃろう。」

そう言ってダンブルドア先生は部屋を出て行った。


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tag : ハリーポッター 暴れ柳

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