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(過去2)リーマスの物語19

これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です。

ジェームスたちの結婚式でもたらされた和やかな気配は、まもなく次の襲撃が起こるとともに消えていった。そして僕も、他の騎士団員たちも、それぞれの闘いの日々に戻ることになった。

僕はダンブルドアの指示を受けて、人狼たちの動向を探るために遠出することが多くなった。人々に恐れられる巨人や人狼といった魔法生物が闇陣営についたとなれば、実際に脅威が増す上に社会不安もつのる。それは多くの魔法生物にとっても不幸なことだとダンブルドアは言い、僕自身もそう思う。人狼だからこの任務を遂行するのだと思うと気が滅入るところもあるけれど、同時に使命感も感じている。

僕はこの任務を通じて、はじめて他の人狼たちの生活を垣間見ることになった。考えてみれば、それまで他の人狼に接することはなかったから。

まずは人狼に接触して諜報の足がかりを得ようと、魔法省に登録された住居を訪ねてみると、登録された家にその人狼が住んでいなかったり、家族自体行方がわからないケースも多かった。家族がいても所在は知らないと言われるのがほとんどで、そればかりか、その者とは一切関わりがないと追い払われる有様だ。もちろん僕も正体を明かして訪問したわけじゃないから用心されたのであって、内心は家族を心配している人だっているだろう。僕の家族だって知らない男が僕を探して訪ねてきたら同じように応じるだろうと思ったものの、人狼やその家族の境遇を一つ一つ確認してゆくような体験は、気が滅入るものだった。

それでもようやく、ある森の奥に人狼の集落があるという手掛かりを得た。行ってみると、川沿いの崖に開く大きな洞窟の周りに、掘立小屋のような家が数軒建つ集落があった。人影がないのでとまどっていると、男が一人僕に気づいてやってきた。人狼かと聞かれてうなづくと、こっちに来いと言われ、警戒しながら洞窟の中に入る。

奥行きのある暗い洞窟には、何箇所か石を並べて囲んだ場所があった。囲みの中には木の枝を並べた棚らしきものや、ブランケットが丸めて置いてあったりする。空の酒ビンや新聞紙が乱雑に散らばる所もあった。

「物が置いてある場所は誰かが使っている。その辺を使え。」

男はあごで空いた場所を示して、自分は石に囲まれた一角にすわり、酒を飲み始めた。それきり何も言わないから、僕から話しかけてみた。

「他にも人はいるんですか?」

「今は少ないが、満月が近づけば皆戻ってくる。」

男はそれだけ言うとまた黙ってしまい、しかたないから僕も周りにならって石で囲いをつくり、底冷えのする地面にマントを敷いて寝転がった。情報を探るといっても、こんな無口な男ではどんなふうに探ればよいかと途方に暮れる。この先、闇陣営に関わる者と接することもあるかもしれないから、うかつなことも言えないし。作戦の立てようもなく、とにかくしばらくはおとなしく様子を見て、この集落の人狼たちになじむことだと決めた。

やることもないまま薄暗い洞窟の天井を眺めていると、ここが人狼の居場所なんだと切なさがこみあげてきた。僕は教科書や図書館の本で人狼に関わる記述を探し求め読みあさってきたけれど、人狼がこんなふうに暮らしているなんて書いてある本はなかった。人狼の生態や、どのように危険でどのように防衛すればよいかということばかりで。あるいは人狼が起こした恐ろしい事件とか。魔法使いの視点で書かれたものしかないから仕方ないと思うけど、あらためて人狼の見捨てられた立場を思い知る。

僕だって、ホグワーツに行けなかったらここにいたかもしれない。ホグワーツで友達に会えなかったら、そしてホグワーツから追い出されていれば、ずっとこんなふうに洞窟の天井を眺めて生きてくるしかなかったんだと思えてくる。そしてこれからも、こんなふうに生きていくしかないのかもしれないと思う。ダンブルドアが招いてくれなければ、ジェームスたちが僕を受け入れてくれなければ、スネイプが僕の正体を明かしていれば、ここが僕の居場所だった。夢も希望もなく、友情も恋も知らず、一人酒に気を紛らせて時をやり過ごす。

そんなことを考えていると暗い気分になり、気がつけば外も暗くなってきたのに、男は灯りをつけもしない。ルーモスの呪文を唱えようと、杖をとりだす寸前でやめた。男は杖を持っていないのかもしれないと思いついたから。もしかすると、人狼は杖を持たないのかもしれない。任務を隠してこの集落になじむには、杖は使わないほうがいい。遠出用の準備を詰め込んで魔法で縮めた荷物袋から、ろうそくを取り出して火をつけた。灯りに気づいたのか、酔いつぶれて寝ていた男が体を起こして顔を向けた。薄闇の中、うつろな表情にわずかに笑みが浮かんだように見えた。無口なだけで、悪い人ではないのかもしれない。

男が言っていた通り、満月が近づくにつれ人が戻り、おかしな言い方だけど、集落に活気が出てきた。1人戻る者、2、3人の若者グループ、老人や、一組だけながら男女のカップルもいる。皆一様にみすぼらしかったけれど、普段は町や村に出かけて日々の糧を稼いでいるようだ。スリとか盗みとか、よからぬことをしている者もいるようだけど。隠しだてもせず得意げに言っているから、珍しいことでもないらしい。

無人だった掘立小屋も、それぞれに持ち主が戻り、夜には隙間からロウソクの灯りがもれる。全部で10数名の集落で、長年定住している者もいるようだ。空いたままの洞窟の石の囲みもあったから、一時的にここに寝泊まりして、他に流れていく者もいるんだろう。僕がミドルネームのジョンを名乗って挨拶すると、立ち入ったことを聞くでもなく、素っ気ないうなづきが返された。

そして満月の夜が来た。その夜に自分を含め誰が何をしていたのか、記憶がないからわからないけれど、満月が明けると新入りの僕にも打ち解けてくれるようになった。狼の姿で仲良く一緒に駆け巡りでもしたのか知らないけど、変身後の関節の痛みや疲労を嘆き合えば、仲間意識が芽生えるのも不思議じゃない。

「あんた、新入りじゃったな。ジョンといったか?」

そう言って老人が近づいてきた。何度か彼の掘立て小屋に招かれて話すうちに、この集落の人狼たちのことがいろいろとわかってきた。老人はもう10年近くここにいるということで、暇つぶしに人を招いてあれこれ話しているそうだ。人狼たちの身の上にも詳しかった。

僕が最初に出会った男は、妻と子供と幸せに暮らしていたのだけれど、人狼に咬まれ、周囲の迫害から妻子を守るために家を離れてここに来たそうだ。当初は寂しがり、怒ったり嘆いたり、酒を飲んで暴れたりもしたらしい。やがてあきらめて、時々密かに家族の様子を見に行くのを慰めにしていたのだけれど、妻が再婚して引っ越してしまうと、めっきり無口になった。

若者たちも悲惨だった。若者らしい無知と無謀で度胸を示すといきがって、あえて皆が怖がる森の奥にキャンプを貼った挙句、人狼に出くわした。友達に避けられ、恋人に捨てられ、職を失い、家族にも疎まれて、ここに流れ着いた。先に続くと信じていた将来への希望を断たれた傷は深い。手にすることなく失われた人生をあきらめるには、若過ぎるのだ。それまでは嫌悪し蔑んでいた人狼に、自分がなってしまった現実を受け入れる厳しさに耐えかねて、絶望は恨みに変わる。陽気に盗みの成果を自慢する心の奥底には、恨みと怒りを抱えたままだという。

「皆それぞれに事情は違うが、結局は現実を受け入れるしかない。どうあがこうが、元には戻れんからな。わしから見れば愚かなだけの可哀そうな若者も、他から見ればひとくくりに嫌われ者の人狼ちゅうことじゃ。あんたにも事情はあるじゃろうが、、、若いのに落ち着いておるな。身なりもこぎれいじゃ。」

僕がこぎれいだなんてどんなレベルだと思うけど、たしかに集落の人たちと比べればマシなわけで。つき放したようでいて、人狼の境遇への共感に満ちた老と戸の会話は心地よく、人狼としての思いのたけを打ち明けたい気もしたけど、任務があるからそういうわけにもいかない。訝しがられないよう、差しさわりのない話に留め、早々に矛先をかえたいところだ。話好きな老人の口から、誰に何が伝わるかわからないから。

「僕は人狼になって長いので。あれこれと思い悩んだ頃もありますが、まあ、今はもうあきらめたというか。両親が支えてくれましたし、援助してくれる人もいましたが、いつまでも頼っていられないと思っています。」

「ほう、あんたもしっかりしておるが、よい親御さんに恵まれたな。」

「苦労をかけました。ところで集落の人たちのことですが、カップルもいるようですね?」

「ははは。落ち着いておっても、若者じゃな。カップルが気になるか。あれはな、悲惨じゃが美しい話があるんじゃ。あの2人はもともと恋人どうしで、結婚を間近に控えたある日、女のほうが村外れで運悪く人狼に襲われた。女は噛まれるとたいてい死んでしまうんで人狼の女は少ないが、彼女はかろうじて命を取り留めた。じゃが人狼になったことを嘆いてな、死にたい死にたいという女を、男のほうが励まして付き添い、ついに満月の夜もそばを離れず自ら人狼になったそうじゃ。これをきいては、血気盛んな若者でも、彼女を襲う気にはならんじゃろ?あんたもいい相手に出会えるといいな。ん?もう誰かおるのか?」

一瞬スネイプの顔が浮かび、思わず表情に出てしまったみたいだ。こういう時に出てこられるとほんとに困る。

「僕なんて。そんな人いません。それより、あなたにも事情があるんですよね?落ち着いているのは年齢のせいにしても、それこそ、僕なんかよりずっときちんとした身なりをしていらっしゃいますが。」

「わしか?わしの話は悲惨でも美しくもないわ。わしはもともと変わり者と言われておってな、独り身で人づきあいもなかった。幸い暮らしには困らんだけの資産があったから、歴史やら薬草やら動物やら、興味の向くままに気ままな研究生活を送っておったのだが、年をとって重い病気になってな。病院で不治の病と言われた上にあれこれと強制されるのにうんざりして、自分で薬を煎じようと薬草を探しに森に入ったら道に迷ってしまった。うろうろするうち月が上がって人狼に噛まれたんじゃよ。」

そう言って声高に笑う老人に目を丸くしていると。

「人狼になったと言って笑うのがおかしいかね?わしはもういつお迎えが来てもいい年寄りだったのでな。それが人狼に噛まれて倒れておったのをこの集落の人が見つけて、というよりここにおった誰かが噛んだんじゃろうが、手当てをされておるうちに、怪我はもとより、病気まで回復したわけじゃ。おかげでそれからもう10年も経つのに、この通りなんとか生きておる。もとの家はそのままじゃし、人つきあいがなかったから周囲に人狼と知られることもなく、まあ、あっちとこっちを行き来して、気ままな生活を続けておる。」

なんか、あっけにとられて言葉が出ない。

「人づきあいの悪いわしが、なんでこうしてあんたと長々話しているかと言いたいかね?実はそれが、人狼になって唯一の問題じゃ。狼的な特徴というやつじゃな。人狼に噛まれてレアな肉が好きになるという者が多いが、わしの場合は、狼の群れたがる特徴が現れた。狼は群れで生きる動物じゃろ?一匹でいるのが珍しいから、一匹オオカミという言葉がある。以前は周りに人なぞおらんほうがいい、おればぎくしゃくとして煩いばかりだったのが、噛まれてからは時々無性に人恋しくなってな。ここに来て群れに入り、気に入ったもんをつかまえては話しておるのじゃが、話をきけば気になるもんで、わずらわしくてかなわん。バカな若者のことなんぞ気に掛けたくもないのじゃが。」

老人はいったん言葉を切って眉をしかめ、僕の目をじっとのぞきこんだ。瞬間、かすかにざわめく感覚。目の奥に入り込み、頭をのぞかれるような・・・。これは、開心術だ。この人は開心術を使っている。一気に気持ちが引き締まり、とっさに、目を伏せるかわりに、僕も老人の目を覗き込んだ。今までだって僕が口に出さない言葉を読み取るように会話が進んできた。もうのぞかれてしまっているなら、僕も開心術を使い、彼の思考を探ることを選ぶ。

老人がふっと表情を緩め、視線を外した。僕に読み取れたのは、彼の、群れを守るという意志だけだった。老人は僕の何を見たんだろう。騎士団員として闇陣営と闘うために、スパイとして集落に入り込んだのだと知られてしまっただろうか?

「開心術を心得ているようじゃな。」

「あなたはこの『群れ』のリーダーなんですね?こんなふうに新入りを招いてくれるのも、私があなたの群れにとって危険な者でないか調べるためですか?」

僕の挑むような問いかけに対し、老人は場の緊迫感を緩めるような穏やかな口調で応じた。

「リーダーかどうかはともかく、長老ではある。100歳を超えとるものなぞ他におらんからな。わしはたしかに開心術を使ったが、こう容易に悟られるとはがっかりじゃ。ふん、素養はあったが磨かんかったからな。子供の頃から周りの者たちの言葉と裏腹な内心を感じて人付き合いを避けたから、開心術の必要もなかった。この集落に来てから必要に応じて時々使うようになったが。それにしても、人狼の心に、損なわれず残っておる幸せな記憶を見ることがあろうとは思わなんだ。」

老人は言葉をきって、目を細めて僕を見た。まずいことを知られたわけじゃないようだけど、なんか照れくさい。

「何が見えたっていうんです?」

「ほんの2、3の記憶の欠片じゃよ。拙いわしの開心術で見えたのだから、よほど印象的な出来事だったんじゃろう。あんたの宝じゃな。大事にするがよい。幸せな記憶は、辛い環境にあって支えになるものじゃ。激しい怒りと絶望に打ちのめされた者は後先考えずバカな真似をしかねんが、あんたの人間性は信じてよいと思う。この集落に害を及ぼしはせんじゃろう。」

とりあえず信頼は得られたようでほっとした。油断してはいけないけれど、僕にはほんとに集落の人狼たちに害を及ぼすつもりなどないんだから、老人の敵じゃない。彼が闇陣営についてどんな考えを持っているか探り、闇陣営につくことが集落の人たちにとって不幸につながると納得してもらうためには、この信頼に値する者だと思れなければならない。

「私は幼ない頃に人狼に噛まれてしまい、ずっと辛い思いをしていました。人に受け入れられたくて、人の顔色をうかがってばかりいるうちに、少し開心術ができるようになったんです。幸い、いくつかよい思い出もありますが、人狼の苦労はわかっていますから、この集落に害を及ぼすつもりなどありません。信用してもらえたら、さっきの話に戻りましょうか?」

「そうじゃな、あの若者の話じゃった。あの3人のバカ者たちじゃが、盗みやスリはまあ、暮らしのためだからやむを得んと思っておったが、最近まずいことに手を出しておる気配がある。あんたも若いから、気があってあの者たちと一緒に悪さをせんよう釘を刺しておこうと思っておったのじゃ。」

「もし彼らと親しくなっても、一緒になって悪事などはたらきません。それよりも、彼らを止められたらと思うのですが。いったい彼らは何に手を出したというんですか?」

老人は顔を曇らせて、身を乗り出すように僕に近づき、小声で話し始めた。

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tag : ハリーポッター,人狼

(過去2)リーマスの物語18

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)


そして僕たちはホグワーツを卒業した。

7年前、僕は重すぎる秘密を抱え、一人心を閉ざしてホグワーツ特急に乗った。同じ列車に仲間とともに乗りこんで、未来を語りあいながら旅立つ日を迎えられるなんて思ってもみなかった。振り返れば楽しいことばかりじゃなくて、スネイプのことを想えば胸の痛みさえ感じるけど、僕にはこの仲間たちがいる。僕の正体を知ってなお、支えてくれる真の友達。僕が手にすることができた、ただ一つの宝。

いったん家に戻り、卒業の報告をした後は、シリウスの家に寄せてもらえることになっている。シリウスはブラック家と絶縁したあと、同じように純血重視の一門を飛び出した叔父さんから援助を受けて一人暮らしをすることになり、行くあてがないならうちに来いよと言ってくれた。

仲間たちと別れて家に帰ると、父さんと母さんが卒業を祝ってくれた。少し大きくなった妹も交えて、久しぶりに家族4人のなごやかな夕食をとる。僕はこの先しばらくは友達の家に住みながら、不死鳥の騎士団に入って闇陣営と闘うつもりだと報告した。

夕食が終わると父さんが僕に話があると言って、2人でダイニングルームに残った。

「リーマス、人狼という重荷を背負いながら立派にホグワーツを卒業し、闘いにいどむ勇敢な息子を父さんは誇りに思っているよ。これはおまえが大人になったら話そうと思っていたことだが、闇陣営と闘ってゆく道を選ぶなら、なおさら知っておいてほしい。」

そう言って始めた父さんの話は、衝撃的なものだった。僕が幼い頃人狼に噛まれてしまったのは、密かに活動を始めた頃の闇陣営への協力を拒んだ父さんへの報復だったというのだ。現存する人狼のなかで最も凶暴といわれるフェンリール・グレイパックという男が、ヴォルデモートの意を受けて、満月の夜に幼い僕を狙ったのだった。

僕は人狼であることを理解して以来、人としての意識を失った状態で人間を噛んでしまうことを最も恐れて生きてきた。運の悪さを嘆きつつ、獣の衝動を抑えきれず僕を噛んでしまった誰とも知らぬ人狼に対しては同情すら感じたこともあったのに。僕が咬まれたのは単なる事故ではなく、親の言いつけを守らず外に出てしまった幼児の愚かさ故でもなく、悪意に満ちた企てだったのだ。

僕は地下室や叫びの屋敷で自らを苛むことに耐えた幾度もの夜を思い、人狼ゆえにあきらめた夢や孤独を思った。そして壊された父さんと母さんの生活、奪われた家族のささやかな幸せを思うと、、、許されることではないと怒りがわき上がる。それはなじみのない感情だった。僕の人生には理不尽なことがたくさんあったけど、いつもあきらめて目を背け、身を縮めてやり過ごしてきたから。だけど時には、怒り、立ち向かうべき出来事もある。

「リーマス、私は父親として、おまえを守ることができなかった。心からすまないと思っている。」

「父さんが悪いんじゃない。悪いのは闇陣営だ。僕は不死鳥の騎士団として、父さんの分まで彼らと戦うよ。」

父さんは目を細めて僕を見た。

「お前は頼もしい大人になった。もう私から言うことなどないが、最後に伝える父さんの願いだ。重荷を背負う人生だが、希望を捨てず、信じる道を進んでほしい。おまえならきっと、自分の道を切り開いていけると信じているよ。」

それ以降、闇陣営との闘いの決意は、ダンブルドアへの感謝や、仲間たちの意思に沿うためだけではなく、僕自身のものになった。僕のような不幸な者を生みださない社会、家族の幸せが守られる社会をつくるために僕は闘ってゆく。

まもなく始まった不死鳥の騎士団としての活動は、予想以上に厳しいものだった。騎士団は、敵方の情報を集めて闇勢力の台頭を防ぎ、闇陣営による襲撃があれば駆け付けて、魔法省の闇祓いとともに闘う。襲撃現場の悲惨さに打ちのめされたり、嘲るように闇の印を打ち上げて姿を消すデスイーターに悔しい思いをすることも多い。

それでも、そんな苦戦ばかりの闘いの中で、僕は自分が闘士としてなかなか優秀だと気がついた。疎ましいと思ってきた人狼としての身体的特徴が、こんな場では役に立つ。すぐれた動体視力で敵のわずかな動きを素早く察知して防戦できたし、鋭い嗅覚ですっぽりと頭からフードを被ったデスイーターの正体をつかむこともできた。もちろん、人狼の嗅覚が敵の逮捕につながる証拠になるわけじゃないけど、正体不明な敵の身もとを推測できれば、情報収集の足がかりになる。街中やパブでさりげなく彼らに近づいて会話を盗み聞きし、次の襲撃や彼らの計画を知ることもできるからだ。そこでも僕の並みはずれた聴力が武器となった。

こうして徐々に、僕の活動の中心は諜報、つまりスパイとして敵を探ることになり、やがてダンブルドアの指示により、この闘いに関する人狼たちの動向を探る任務も加わった。

魔法省に勤めるピーターは、初めから情報収集を期待されている。魔法省は闇陣営との主戦場の一つで、省内の誰がどのように暗躍しているか、どんな企てがなされているか、それを察知し対処するには情報がカギとなる。闇祓い局のように明らかに闇陣営と対立する者は警戒されてしまうけど、一般職員のピーターは、目立たないように省内の情勢を探るのに適している。立場を知られては任務に差し障るから、ピーターは襲撃への救援にはあまり加わらない。

ジェームスとシリウス、そしてリリーは、強い魔力を生かして、闇陣営の襲撃に駆け付け対戦することが多くなった。密やかな諜報活動には目立ちすぎるし性格的にも向いているとは思えないけど、敵との対戦になれば、華々しく活躍する姿は味方を勇気づけ、騎士団への支援者を増やすことにつながった。リリーは身を潜めるマグル出身者を助けたり、ジェームスは騎士団の財政面の支援もしているらしい。

こうして僕たちも、他の騎士団のメンバーも、ダンブルドアの指示のもと、それぞれの特性を活かして、全力で闇陣営に挑んでいた。だけど、圧倒的に数で勝り、手段を選ばない闇陣営との闘いは苦戦続きだ。闇祓い以外の抵抗者が現れたことに気づいた闇陣営は、何箇所か同時に襲撃を行うことで僕たちの力を分散させる策に出た。頑張っても後手に回るばかりで、むしろ敵に囲まれて負傷する者も続出し、味方の焦燥感はつのってゆく。

こんな状況に業を煮やした魔法省上層部では、闇勢力に対する強硬派が勢いを増し、強硬派の支持を得たバーティ・クラウチが魔法法執行局長に就任すると、闇勢力との闘いにおいては禁じられた呪文の使用が許されることになった。けれどそれで事態が好転するものでもない。今までどこか余裕を感じさせる、いわばお遊び感覚で術を使っていたようなデスイーターたちも、禁じられた呪文の反撃を受けるとなれば必死になる。憎しみをぶつけあうような激しい闘いに騎士団員は傷つき、世相の暗さに人々は身をすくめ、魔法界は闇に包まれていた。

だけどこんな時代でも、人は恋をし、未来を夢見る。むしろこんな時代だからこそ、身を寄せ合い、先を急ぐのかもしれない。

ジェームスとリリーは、卒業後1年も過ぎないうちに結婚を決めた。卒業してからは学生時代みたいにいつも一緒にいるわけじゃないけど、仲間4人の先頭を切っての結婚に、、、といっても僕はもちろんシリウスやピーターも後に続くあてはなかったけど、、、皆で集まり2人の結婚準備を手伝った。厳しい闘いの合間の、心なごみ、笑いさえ出るひと時だ。

そして迎えた結婚式は、派手なものではなかったけれど、華のあるカップルを祝って多くの人が参列し、温かく和やかな雰囲気の中で行われた。いつになくきちんと整えた髪に礼服を着て照れくさそうに笑うジェームスと、純白のウェディングドレスを身にまとい、白いユリの花を交えた手造りのブーケを持つリリー。幸せそうな新郎新婦の姿は輝きに満ち、光に包まれているように見える。ベストマンを務めるシリウスは珍しく身なりを整えてジェームスの脇に立ち、そうするともとからの美形がきわだって、華を添えた。

僕は親友の幸せを心から祝福し、感動に涙ぐむほどだった。闘いに明けくれる中で、こんな幸福感は久しぶりだ。僕にはこんな日は訪れないだろうけど、こんなふうに親友の晴れやかな門出を祝えるのはなんて幸せなんだろうと思う。

幸せそうに微笑む花嫁の姿を見るうちに、ふとスネイプを思い出した。リリーのこんな笑顔を一番見たいのはスネイプなんじゃないかと思いついたから。まあ、隣に立つ新郎の姿は絶対見たくないだろうけど。

久しぶりに思い出してみると、スネイプへの思慕と仲間への友情に悩んでいたことが、ずいぶん遠い昔にも、昨日のことのようにも感じられた。騎士団員となった頃は、襲撃現場に行くたびに目を凝らし鼻を利かせてスネイプがいないか確認したものだ。いつのまにか闘うだけで精いっぱいになっていたけれど、スネイプがいれば必ず気配は感じたと思うから、襲撃にはいなかったと思う。スネイプはほんとにデスイーターになったんだろうか、どうしているんだろう。

そんなことを考えたせいか、ジェームスの結婚式からまもなく、僕は久しぶりにスネイプの姿を目にした。それは予言者新聞の記事に添えられた写真の中だった。

その記事は、同じ頃に催されたマルフォイ家の結婚式を報じたものだった。マルフォイとブラックという魔法界きっての名門を結ぶ婚姻は大きく取り上げられていて、写真もけっこう大きなもので、その中でスネイプが仏頂面とたぶん僕にしかそう見えないんじゃないかと思える笑顔を繰り返しながら立っていた。スネイプの隣には、ゴージャスな衣装に身を包んだルシウス・マルフォイと美しい花嫁が笑っている。スネイプも学生時代とは見違えるような立派な服を着て、ベストマンをつとめているようだ。

そんなスネイプを見て、僕は複雑な気持ちになった。一言では言い表せないけど、まとめてしまえばいろんな意味で感慨深いってことだろうか。瞬時に圧倒されるほどの懐かしさにおそわれて、それからホグワーツでの様々な出来事が頭をよぎり、切なさや苦しさがこみ上げて、スネイプを従わせるマルフォイへの嫉妬めいた感情が湧きあがったり、それでもスネイプにしっかりと居場所があったんだとほっとしたりして。

ようやく気持ちが落ち着き、スネイプとの間の遠い距離が感じられて少し欝な気分になったとき、シリウスがやってきた。僕は任務で離れる時以外シリウスの家に世話になっているから、積み重ねられた予言者新聞をぱらぱらと見ていたのもシリウスの家のダイニングルームなわけで。記事に気づいたシリウスも、しばらく写真を眺めていた。また前のようにスネイプの悪口が始まるかと身構えていたんだけど。

「新婦は俺の従姉、ナルシッサ。こっちは弟のレギュラスだ。」

写真を指差しながら言ったシリウスの声には苦さが滲んでいた。純血主義の実家と縁を切ったとはいえ、一緒に育った弟と従姉に対して複雑な思いはあるんだろう。血のつながりも子供の頃の思い出も、消えるわけじゃない。

シリウスが、弟は親の言うことを間に受けて育ち、まだ卒業もしていないのにデスイーターになったらしい、馬鹿なヤツだとため息をついた。写真の中のレギュラス・ブラックはまだ幼さの残るおとなしげな顔立ちで、襲撃時に見るデスイーターのフードを重ねてみたけどピンとこない。怪しげなデスイーターのフードの向こうに、こんなあどけない素顔が隠れているんだろうか。そして、こうして一緒に写真に写っているということは、やっぱりスネイプもデスイーターになったんだろうかと思い、僕もため息をついた。

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tag : ハリーポッター,ジェームス,リリー,スネイプ

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