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(過去3)1981ハロウィーン/その夜5

(これは『ハリーポッター』の本と映画鑑賞後の妄想です)

ダンブルドア

ポッター家にかけてあった警報魔法が、突然作動した。何者かがあの家の守りを破ったのじゃ。不死鳥のフォークスをゴドリックの谷にやり、その目を通して見た状況は、悲惨なものじゃった。破壊された家、息絶えたジェームスとリリー、襲撃後の惨状の中、一人、泣いている赤子。父親の面差しと母親の瞳を受け継いで、今はその父も母も亡きことを知らずに。

仲間内に裏切り者の存在が疑われる中、こうなる可能性があると考えてはおったが。いたましいことじゃ。目を閉じると在りし日のジェームスとリリーの姿が浮かんだ。勇敢で、華のある、よい夫婦じゃった。未来ある有能な若者がこのように命を落とすとは。

じゃが、今は、生きておる者のことを考えねばならん。まずはこの赤子じゃ。

父と母が死に、ヴォルデモート卿の姿が消えた状況で、この赤ん坊は生き延びた。この子がまさに『予言の子』になったということじゃ。予言は、関わる者の選択により、実現することもあればしないこともある。予言の言葉通り、闇の帝王が自らに比肩する力のある者に印をつけた。この行為により、予言はひとつ実現したということじゃ。消えたヴォルデモート卿は、必ず戻ってくるじゃろう。その時こそ、最後の決戦となる。それまでこの赤子が無事に生き延び、ヴォルデモート卿と闘う勇気と力を持つ者になっておらねば、魔法界は闇の手に落ちてしまうじゃろう。

この赤子の命を、闇陣営の残党の手から守らねばならん。今は消えたヴォルデモートも、力を回復すれば、まずこの赤子を狙うはずじゃ。闘う力も持たん赤子の命がなぜ助かったかは謎じゃが、死の呪文を逃れたとなれば、おそらく手前に倒れておった母の愛の守りじゃろう。その血の守りがもっともはたらく所といえば、母親の血縁。リリーにはペチュニアという妹がおった。姉と同じようにホグワーツに来たいと手紙を寄こしたことがあったの。

ペチュニアに預ければ赤子はマグル界で育つことになるが、それも悪くないじゃろう。朝になりこの出来事が伝われば、魔法界は闇の帝王が死んだと浮かれ、大騒ぎになる。生き延びた赤子は、物心つく前から皆にもてはやされ、また親を亡くした子として甘やかされる。もてはやされて甘やかされたダメな子に育ってしまえば、この子にも、魔法界の将来にも取り返しがつかんことになる。そうじゃ、幼少期はマグルの叔母のもとで普通の子として無事育ち、学齢期になったらホグワーツでわしが見守って立派な若者に導けばよい。

騒ぎになる前に、赤子をあそこから連れ出さねばならんが、、、。ゴドリックの谷に行くのは気が進まんかった。あそこには辛い過去が眠っておる、、、。

ハグリッドに赤子を迎えにゆかせ、叔母の住むプリベット通り4番街に届けさせることにした。赤ん坊にアパレートは無理じゃから、長い道のりになるが、ハグリッドなら命に代えて道中赤ん坊を守るじゃろう。ハグリッドが着く頃に、わしも行き、赤ん坊を預ければよい。

夜が明けると、予想通りのお祭り騒ぎが始まった。予言者新聞が号外で事件を伝えると、『例のあの人』はもういない、『生き延びし子』ハリーポッター!と、魔法界は大騒ぎじゃ。ヴォルデモート卿は死んだわけではない、必ず戻ってくるなどと、水を差すこともあるまい。暗く辛い日々を過ごした後なのじゃから、皆がはしゃくのも無理はないというものじゃ。はめをはずしてマグルに気づかれるようなことをせんといいが。ま、無理じゃろうな。すでに真昼間の日がさしておるというのに、夜行性のふくろうが浮かれて群れをなして飛んでおるくらいじゃから。

昼前には、続報の号外が、裏切り者のシリウス・ブラックが、12人のマグルを巻き込んで、追ってきたピーター・ペティグリューを殺して逮捕されたと伝えた。『忠誠の術』が破られた時から、『秘密の守人』であるシリウスが裏切ったことはわかっておった。万一を考えて、わしが『守人』になってもよいと言ったが、ジェームスは友を疑うことはしないと言って、シリウスに『守人』を頼んだのじゃった。あのシリウスが裏切るとは。ピーターは可哀そうなことをした。

喜びに沸く人々の陰に、貴い命を落とした者があり、それを嘆き悲しみにくれる者もおる。椅子でうなだれたままの男にちらりと目をやり、小さく首を振った。不死鳥の騎士団も、多くの死者を出したのじゃ。マッキノン、ブルウェット、ボーンズ、メドウズ。そして、今日、ジェームス、リリー、ペティグリュー。いまだ行方の分からんままの者もおる。皆、勝ち目の薄い闘いに挑んだ勇敢な者たちじゃった。真の勝利でないにしても、彼らにこそ、今日の喜びを味あわせてやりたかったが。闘いとは非情なものじゃ。

じゃが、これで終わったわけではない。よく言って、痛み分けの中休みのようなもんじゃ。ヴォルデモート卿は死んではおらんし、悪の芽はいつでも育ち、繁殖する。闘いを指揮する者には、感情に流されておる時間はない。来たるべき次の闘いに備えねば、同じ苦戦を強いられることになる。

「うっ、、うっ、、」

椅子でうなだれておったセブルスがまたうめき声をあげた。朝、血相をかえてこの校長室にやって来て、リリーはほんとうに?と尋ねるのにわしがうなづいたら、それきり椅子に崩れ落ち、頭をかかえて座り込んだ。話もできんありさまじゃったが話す内容はわかっておったし、わしも考えることがあって、じゃまにもならんからそのままにして落ち着くのを待っておったのじゃが。予言者新聞の号外を運ぶふくろう便が来たのに興味を示すこともなく、時々うめき声を上げるほかは、なんのかわりもなく、そのままじゃ。

わしは腰を上げ、椅子にぐったりと前かがみになったままのセブルスの前に立った。

見下ろしたその姿は哀れではあるが、忌々しくもある。この男を見ておると、わしの過去の苦い出来事を思い出さずにはおれん。くしくも同じゴドリックの谷で、ゲラート・グリンデルバルドに魅了され、力でマグルを支配する夢を見た。家族を苦しめたマグルを軽蔑しておったゆえの思想じゃったが、その家族のことをかえりみず、夢に向かって旅立とうと試みて、その結果罪なき妹、守るべきアリアナに死をもたらすこととなった。わしはアリアナを愛しておったのに、身勝手さゆえ、かえりみなんだのじゃ。どんなに悔いても、取り返しがつかん。アリアナにも、妹をたいせつにしていた両親にも、謝りたいが、かなわぬことじゃ。死んでしまった者には、許しを請うことも、償うこともできんのじゃ。

どれほどの時が過ぎても薄れることなき悔いと悲しみを、、、この男は同じ姿でわしに突きつける。このように嘆いたところで、何にもならんというのに。まったく、忌々しいことじゃ。

この男はデスイーターじゃった。ヴォルデモート卿に古い縁があるわけでも、脅されたわけでもあるまいに、好きこのんで闇陣営に加わった。人を想う純粋な気持ちは持っておるが、逆に言えばそのような愛を知り、同じ守護霊を出せるほどの幸せな思い出を持ちながら、悪の道を選んだわけじゃ。それを思えば、生まれる前に父親に捨てられ、生むとすぐに死んだ母親の顔も知らず、愛を知らぬまま世を憎み心に巨悪を育てたトムより、ある意味罪深いとさえいえる。

おおかた、ルシウスに誘われでもして舞い上がり、2人で並び立ち、世を支配する夢でも見たのじゃろう。ルシウス・マルフォイの流れるようなブロンドに寄り添って、頬を紅潮させるこの男の姿を思い浮かべると、苦いものがこみ上げる。浮かれてかまえた杖の先で、罪なき愛する者が倒れ伏す。その衝撃と悔いは、いまだわしの中にある。

今は泣き崩れるこの男も、人を殺めたのじゃろう。多くの善良なる者が、勇敢に闘い、無念に散った。この男は向ける杖先の向こうに、人を愛し、愛される、かけがえのない命があるのだと、考えもせんかったのじゃ。予言にリリー・ポッターが関わらなかったならば、この男が闇陣営を裏切ることも、このように悲嘆にくれることもなかったはずじゃ。おのれの身勝手さにも愚かさにも、犯した罪にも気づかぬままじゃったろう。

もううんざりじゃ。心が波立ち、感情的である自分にうんざりした。闇との闘いにおいては、感情など排除せねばならん。一時の感情に流されることなく、使えるものすべてを使わねば、勝ち目はないのじゃから。

この男には苦々しさを感じずにはおれんが、有能ではある。短い間のこととはいえ、ヴォルデモート卿を裏切り、それに気づかれんまま情報を送ってくることができた。疑り深く、開心術に長けたヴォルデモート卿の足元で、二重スパイをやってのけたということじゃ。有能であるゆえに、ことの善し悪しを考えぬ選択をした愚かさがいっそう腹立たしいが、使いようによっては実に役に立つということでもある。

放っておけば当然、アズカバン送りになるじゃろう。なって当然の者じゃし、この男も当然の罰と受け入れるじゃろう。そしてアズカバンで、自分のせいでリリーが死んだと、それだけを思い続ける。それならば、アズカバンでも外におっても同じこと。もしアズカバン行きを逃れさせ、わしの配下に留めれば。

頭を抱え込んでいたセブルスが顔を上げてわしを見た。すでに100年もアズカバンにいたかと思われるような、やつれた面差しで、ようやく口を開く。

「あなたなら、、、きっと、、、彼女を守ってくれると思っていた、、、」

あいかわらず、リリーのことだけか。どんなに悔やんでも、視野の広がらぬ男じゃ。

「ジェームスとリリーは間違った人間を信用したのじゃ。おまえも同じじゃろう、セブルス。ヴォルデモート卿がリリーを見逃すと期待しておったのではないか?」

セブルスが苦しそうに息を切らした。ルシウスの家で襲撃の知らせを聞いても、ヴォルデモートがリリーを見逃すと約束していたことにすがり、わしに事実を確認せんではおれんくてここに駆け込んだのじゃ。

「リリーの子は生き残ったのじゃ。」

セブルスは小さく首を振った。赤子のことなど関係ないと言わんばかりじゃ。なぜこの男はこうなのじゃ。純粋にリリーを想いながら、そのリリーの気持ちに思いを馳せることはないのか?

「リリーの息子は生きておる。その子は彼女の目を持っておるのじゃ、そっくりのな。リリー・エバンスの目の、形も色も覚えておるじゃろう?」

「やめてくれ!」

セブルスが大声をあげた。

「もう、いない、、、死んでしまった、、、」

「罪を悔いておるのか、セブルス?」

「私も、、死にたい、、。」

「じゃがおまえが死んで、誰かの何かの役に立つとでもいうのか?」

取り返しのつかぬ過ちを犯した者は、他に誰か、誰にでも、役に立つよう生きるしかないのじゃ。わしはそうして生きてきた。そうしたからといって罪から逃れられんとしてもじゃ。おまえには直截的に償う道が残されておるというのに、まだ気づかんとは。

「リリー・エバンズを愛していたなら、心から愛していたのなら、おまえが進む道ははっきりしておる。」

セブルスが戸惑うようにわしを見る。この者はわかっておらんのじゃ。悲しみに打ちひしがれて、自分にこの先進む道があるなどと、思えんかったのじゃろう。

「どういう、、ことですか?」

「リリーがどのように、なぜ死んだか、わかっておるな?その死を無駄にせんことじゃ。リリーの息子を守るために、わしを助けるのじゃ。」

「守る必要などありません。ダークロードはいなくなって、、」

「ダークロードは戻ってくる。そしてそのとき、ハリー・ポッターはおそろしい危険に陥るのじゃ。」

セブルスはしばらく黙っておった。わしの言ったことを、ひとつひとつ、ようやく考えておるようじゃ。じゃが、悲しみと悔いで壊れておった頭が戻るには時間がかかるものじゃ。セブルスの荒い呼吸が鎮まり、少しはまともな顔になってきた。

「わかりました、よくわかりました。ですが、けして言わないでください、ダンブルドア!このことは私たちの間だけにとどめると!誓ってください!私には、、、耐えられない。ポッターの息子などを、、。約束してください!」

「約束する、セブルス。君のもっとも善きところを、けっして明かさんとな。」

セブルスの苦悩に満ちた顔を見下ろし、ため息が出た。この期に及んで、死んでしまった男への過去の憎しみにとらわれておるとは。じゃが、たしかに、複雑なことなのじゃろう。もっとも愛した女と、もっとも憎い男との子を守るために生きると決めるのは。愛と憎しみと悔いと、この男の中でどのような葛藤が繰り広げられ、なにが勝るのか、、、。

この男はわしが見守らねばならん。闇の魔術を操る強い魔力を持った若い魔法使いが、複雑な感情を抱え、深い悲しみに打ちひしがれておれば、どのような迷いで再び道を誤るかわからん。強い感情は、力強く歩む支えにもなれば、容易に人を惑わせることもあるものじゃ。

あらためて、闘いの駒としてのセブルスを吟味してみると、使いようによって役に立つというだけでなく、セブルスは予言を動かす重要な歯車かもしれん。実際、望みはせんじゃったろうが、セブルスが予言を盗み聞き、ヴォルデモート卿に伝えたことで予言は動き出した。この者の選択が予言の行方を大きく左右するのであれば、、、。

果たして、信じられる男じゃろうか?幾分生気を取り戻し、純粋にも凶悪にも見える難しげな顔を眺めた。

予言の赤子が生き延びたのも、たしかではないが、この男の為したことの故かもしれん。赤ん坊がリリーの愛の守りに守られて生き延びたのなら、それはセブルスがなりふりかまわずヴォルデモート卿にリリーの命乞いをした故ということになる。助かる命であったからこそ、身を投げ出して愛の守りを為すことができたのじゃ。すでにセブルスが予言の子の命を助けるのに一役買っておったのなら、、、。

セブルスはこの先も、予言の行方に大きく関わるのじゃろう。デスイーターを裁く司法の手から守り、万一にも道を誤らんよう、見守らねばならん。

「セブルス、闇陣営の者たちの処分で、世の中は騒がしくなることじゃろう。しばらくホグワーツにとどまったらどうじゃ?」

セブルスは首をかしげ、ふと何か思案する表情を浮かべた。凶悪さが消え失せたその顔の、遠くを見る視線の先にあるものが、わしにも見えた。これだからこの者は。

「ルシウスか?ルシウスのことなど、おまえが心配するには及ばん。どうにでも逃れるずる賢さは持っておる者じゃ。」

セブルスは小さくうなづいた。わしはホグワーツ内の空き室を使うよう案内してやりながら、新たにこみ上げる忌々しさを抑えておった。まったく、めんどうな男じゃ。リリーへの愛とジェームスへ憎しみだけでもことは面倒なうえに、ルシウスへの思慕か恩義か知らんが抱え込んでおる。ルシウスにのぼせあがって道を誤ったのだとわかっておらんのか。しかも、赤子にも、他の社会の動きにも無関心で目を向けようとせん。この分では、闇陣営の思想に決別できておるのかも疑わしいというものじゃ。じゃが有能であり、予言への関与を考えれば、手放すわけにもいかん。

小部屋に入ると、セブルスはまた崩れるようにベッドに腰をおろし、頭を抱え込んだ。複雑な感情を抱えてはおっても、悲しみと悔いの深さに偽りはないようじゃ。その辛さから目を背けずにおれれば、贖罪を果たすことができるかもしれん。わしにはなかったが、おまえには直接的な贖罪の道が残されておるのじゃから。

やれやれと校長室に戻ると、同じ椅子に、うなだれた男が頭を抱え込んでおった。わしに気づくと、リーマスがやつれ果てた顔を上げた。

「留守中にすみません。部屋に通してもらいました。ダンブルドア、、、ほんとうのことなのですか?ジェームスもピーターも、、、。シリウスがジェームスを裏切ったなんて。」

「リーマス、残念じゃがそうなのじゃ。みな、間違った者を信じてしまったのじゃ。」

「私には、信じられません。あのシリウスが、ジェームスを裏切るなんて。」

「シリウスが『秘密の守人』じゃった。『忠誠の術』が破られたのじゃから、事実が示しておるのじゃ。ピーターの件では、多くの目撃者もおる。」

リーマスこそ哀れじゃ。つらい運命を背負いながら、友を信じ、苦しい戦いを闘い抜いてきたというのに。人々が浮かれ騒ぐ中、このような悲しみに見舞われるとは、まったく理不尽なことじゃ。

「私は、、、。私には彼らがすべてでした。彼らがいなければ私には生きる希望もありません。私のような者こそ死んだってかまわないのに、、、ジェームスやピーターが、、、。それもシリウスの裏切りで、、、」

「リーマス、辛いじゃろうが、ハリーは生きておるのじゃ。ヴォルデモート卿は必ず戻ってくる。その時にはハリーを助けてやってもらわねばならん。それからの、君には頼みたいことがあるのじゃ。ジェームスとリリーのために、してもらいたいことがある。」

「私に?私のような者に、できることがあるのでしょうか?」

「君にしかできんことじゃ。ジェームスとリリーの葬儀を執り行ってくれんかの?」

「ジェームスとリリーの葬儀、、、」

「そうじゃ。ジェームスの両親は亡くなっておる。リリーの家族は、知っておるじゃろうがマグルじゃ。普通の不幸ならまだしも、『生き延びし子』という英雄の両親の葬儀では、マグルの家族には荷が重すぎる。魔法族が大挙して参列しては、気の毒なだけじゃ。」

「ですが、私のような、、、」

「君の他に誰がふさわしいというのじゃ?2人の死を誰よりも悲しみ、見送ってやれるのは、君しかおらんじゃろう、リーマス?騎士団の仲間たちも、助けてくれるはずじゃ。」

「わかりました。心を尽くして準備します。」

「それではしばらく、葬儀が終わるまででも、ここにおってはどうかの?満月はまだ先じゃし、ずいぶんとやつれておるようじゃ。屋敷妖精に食事を運ばせるから、ゆっくりと休むがよい。」

「ありがとうございます、ダンブルドア。それでは葬儀が終わるまで、お世話になります。」

リーマスに部屋を与え、一休みすると、もう夜じゃった。あと一仕事、肝心なことが残っておる。

ペンをとって、手紙をしたためた。赤子のことをしっかりと頼まねばならん。幸いペチュニアは魔法界のことをある程度知っておるから、わしに逆らうことはないじゃろうが。大事な赤子をまちがいなく、無事育ててもらわねばならん。手紙を書き終えて、紫色のローブをはおり、プリベット通りにアパレートした。もう深夜に近いが、マグルの街には街灯がともり、暗い家々を照らしている。人目についてはよろしくないの。灯消しライターを探しながら、なじみの視線を感じて目を上げると、通りの向こうで猫がこっちを見ておった。思った通りじゃ。やっと見つかった灯消しライターで通りの街灯を消し、真っ暗闇で猫の隣に腰かけた。

「こんなとこで会えるとはの、マクゴナガル先生。」

猫に向かって笑いかけた時には、猫はミネルバの姿に戻っておった。エメラルド色のローブを着こんでおる。晴れやかな装いにかかわらず、いつもながらの堅苦しいミネルバは、浮かれた魔法族がはめをはずさんかと懸念しておった。その話がすむと、案の定、皆が知りたがっておること、昨夜の出来事の真相をきいてきた。そのために長いことここでわしを待ち構えておったわけじゃ。レモン・シャーベットを食べながら、尽きることない質問に答えておると、時間になった。

空に現れた小さな点は、みるみる近づいて大きなオートバイの形になった。目の前にとまり、バイクよりさらに大きなハグリッドが、大事そうに赤ん坊を抱えて降りたった。いったいその大きなバイクをどうしたのかときくと、シリウスに借りたと言う。問題はなかったようじゃから、シリウスの話はここではせんことにした。1日中ここで待っておったミネルバも、昨夜から空を飛んでおったハグリッドも、シリウスのニュースは知らんらしい。あとでわかることじゃが、ここで話せばまた長くなってしまうじゃろう。

ハリーは何も知らず、ぐっすりと寝ておった。黒い前髪に隠れた額に、くっきりといなずま形の傷があるのを確認した。思った通りじゃ。闇の帝王みずからが、抗う力のある者に印をつけた。額の傷は、この子に刻まれた運命であり、魔法界の将来がこの子にかかる証でもある。良くも悪くもハリーとヴォルデモートを結び、立ち向かう力にもなれば、危険を招くこともあるじゃろう。

ハグリッドからハリーを受け取り、ペチュニア・ダーズリーの家の垣根を越えて玄関まで行った。毛布にくるまれたハリーをそっと戸口の前に置き、ローブにしのばせていた手紙をはさみこむ。少しの間3人で、頼りなく置かれたまま、何も知らんで寝ておるハリーをじっと見た。親を亡くし、マグルの元に預けられるハリーが可哀そうで、ミネルバもハグリッドも涙ぐんでおる。感情的にはなるまいと思っておったが、無邪気な赤子を目の当たりにすると、この子の身の上と待ち受ける試練を思い、可哀そうでならん。じゃが、これしかないのじゃ。これがこの子にとっても一番よいことなのじゃ。

ハグリッドとミネルバを先に帰し、街灯を元通りに灯した。薄明かりの中、ぼんやりと浮かぶ毛布の中のハリーを思う。くしくもヴォルデモートと同じく、純血とマグルの混血として生まれ、親の記憶もないままにマグルの中で育つことになる。孤独と恨みにとらわれれば、トムのように邪悪を心に育て、闇に堕ちるやもしれん。トムは手遅れで、わしにも救うことはできんかった。この子はどうなるじゃろう?近所に住むスクイブのフィッグばあさんには、気づかれんように見張るよう言いつけてあるが。

じゃがこの子は母親の愛の守りに守られたのじゃ。覚えてはおらんでも、その命は命がけの愛に守られたもの。愛のある子に育つのじゃぞ。それこそが後の試練を乗り越える糧となるはずじゃ。

「幸運を、ハリー。」

言い残してホグワーツに戻った。長い一日じゃった。

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tag : ハリーポッターダンブルドアハリー

(過去3)1981ハロウィーン/その夜4

(これは『ハリーポッター』の本と映画鑑賞後の妄想です。今回は原作の重要なネタばれを含んでいます。)

シリウス

ワームテールの隠れ家を訪ねると、留守だった。万一を考え、外に出るな、様子を見に来ると言ってあったのだが。杖で灯りをともして見回すと、急な隠れ家でわずかな家具しかない部屋に、乱れはない。ベッドのシーツさえちまちまとたたんで置いてある。

これは、、、まさか。

嫌な予感が走る。襲撃の気配もないまま、部屋の主が消えた。まさか、ワームテールが裏切った?あいつが裏切り者だったのか?

ジェームスがあぶない!

部屋を飛び出し、バイクにまたがった。最大出力で空にかけあがる。ゴドリックの谷へ、ジェームスの家に。もっと速く!

ダンブルドアに言われてあの家に『忠誠の術』をかけるとき、俺がジェームスを説得して、最後の最後に『秘密の守人』をワームテールに変えた。ジェームスは俺に頼むと言ったのに、みんなそう思うから、あいつを『守人』にして、俺はオトリになって姿を消すほうがいいと。俺がそう勧めた。うまい方法だと思った。闇のやつらは俺を探す。万一見つかったって、口は割らない。ジェームスを裏切るくらいなら死を選ぶ。それならいっそそれでもいい。守人が死ねば、手掛かりも消えるってことだ。

だが、まさか、ほんとにワームテールが裏切ったのか?あいつは俺たちより魔力も勇気も劣っているが、いつだって頑張ってやり遂げた。才能ある者が簡単に為すことより、平凡な者が努力して成し遂げることのほうが貴いんじゃないかとジェームスと話したことだってある。まじめで努力家のワームテールがジェームスを裏切るとは・・・。

いや、あいつだって友を裏切るくらいなら死ぬはずだ。ジェームスを裏切るはずがない。騙されておびき出されたのか。それなら俺が『守人』を頼んだせいでワームテールは闇陣営に捕まったのか。あいつはいつも俺の後をついてきてた。俺が守ってやらなきゃいけないのに、危険な役割を頼んじまった。

どうか、すべて、嘘であってくれ。ワームテールはちょっと、外の空気でも吸いたくなって、ねずみになって出かけただけかもしれないじゃないか。そうであってくれ。ゴドリックの谷に着いたら、ジェームスが笑って出迎えてくれて、俺のバカな取り越し苦労だったと言う。いつだってパッドフットは考えなしに先走るんだと笑って言ってくれれば。

だがゴドリックの谷について、壊れた家からハグリッドがおろおろとハリーを抱えて出てくるのを見た時、すべてを悟った。絶望に襲われたが、尋ねずにはいられない。

「ハグリッド!ジェームスは?ジェームスは無事か?」

予想通りの答えが返って来た。最悪の答えだ。もう何も、打つ手はない。俺のせいで。俺のせいでジェームスが。

ハグリッドの腕の中で、何も知らないハリーが俺を見た。子供の頃のジェームスにそっくりな赤ん坊。俺のせいでこんなに小さいのに親をなくして。ジェームスの、ただ一人の、忘れ形見。

「ハリーを俺に渡してくれ。俺はハリーの後見人なんだ。俺がめんどうをみる。」

ハグリッドは頑なだった。ダンブルドアはハリーを叔母さんの家に預けると言いなさったと言いはって、ハリーを渡さない。俺が育てて、ジェームスがどんなに素晴らしい男だったか、どんなにハリーを愛していたか伝えてやるっていうのに。だがハグリッドはダンブルドアの言いつけを、死んでも守るやつだ。ハリーを守るのでなければ、俺がすべきは、ワームテールを見つけることだ。もし囚われているなら救い出さなければならない。もし裏切ったなら、いや、秘密が漏れて襲撃されたのだから、あいつは裏切ったんだ。『秘密の守人』が明かさない限り、この家が見つかるはずはないんだから。ワームテール、俺たちを裏切って、ジェームスを売るとは。

ハグリッドにバイクをやって、それでハリーを届けてくれと託した。ワームテールを見つけるのに、バイクはむしろじゃまになる。ハグリッドとハリーを見送り、壊れた家に走った。もう遅すぎるのだが、せめてジェームスをこの目で見るまでは、、、。

探すまでもなく、壊れた家の玄関先に、ジェームスは倒れていた。命と光の象徴のようだったジェームスが、まるで壊れてうち捨てられた人形のように、、、

「ジェームス!」

肩をつかんで揺すぶりながら。

「ジェームス!プロングス!返事をしてくれ。俺だ!俺が来た!もう、大丈夫だから。嘘だよな?嘘だと言ってくれ。ジェームス、、、俺の、、、」

抱え上げ、揺すぶっても力なく揺れるだけの体を抱きしめて、まだ残る温もりが消えないようにと温める。だが、、、少しずつ冷たくなってゆく体に、ジェームスの命も、魂も、もうここにはないと、認めるしかない。すべてはおわってしまった。起こるはずのないことが起こり、俺のせいでジェームスが死んでしまった。俺が『守人』をワームテールにと勧めたせいで。

冷えた体をそっと床に置き、乱れた服を整えてやった。そばに落ちていた眼鏡をかけさせ、整えた髪に手を入れてくしゃっと乱す。こうじゃなくちゃな、おまえはいつも、完璧なんてかっこ悪いって言ってたもんな。いろいろと気にして、かっこつけてたくせに。大好きなリリーと結婚して、かわいい子供もできたのに。こんなに早く、まだ21じゃないか。これからもずっと、何年も何年も、一緒にいられるはずだったじゃないか。

周りを見ても、あるはずの杖が見当たらない。杖を持っていなかったのか、ジェームス。杖も持たずヴォルデモートに立ち向かって。無念だったろうな、ハリーを残して。でもおまえほど勇敢なヤツはいない。おまえみたいなやつは、ほかにいない。

「ジェームス、ハリーは助かったぜ。待ってろ、リリーを見てくるからな。」

ジェームスのもとをいったん離れ、リリーを探した。物が飛び散る家の中を歩き、ニ階の奥の、ひときわ壊れ尽くした部屋の中、そこだけが元の面影を残すベビーベッドの前に、リリーの亡骸があった。腕を大きく広げ、おそらくそうしてハリーをかばった姿そのままに、倒れていた。

「リリー、最期までハリーを守ったんだな。ハリーは無事だぜ。まったく、たいした女だったよ。子供の頃ははねっ返りで気に入らなかったがな、ジェームスが夢中だったから、俺妬いてたんだ。だが似合いの夫婦だった。ジェームスに相応しい、いい嫁さんで・・・。すまん、リリー、俺のせいだ。俺のせいでこんなことになって。」

乱れた髪と服の裾をなおしてやった。見開いたままの目を閉じようと手を伸ばすと、その目がハリーを呼んでいるように思え。

「ハリーはあんたの妹んとこだ。姉妹仲は難しそうだったが、たった一人の身内だからな。何かあれば俺が黙っちゃいないさ。」

リリーの目を閉じ、心の中でもう一度すまんと謝り、ジェームスのもとに戻った。

「ジェームス、リリーも立派だったぞ。最期までハリーをかばって。あっちで2人一緒か?俺は、、俺は。」

あついものがこみあげる。ジェームスと初めて会った時。ブラックの家の中で、ただ一人の異物だった俺に、はじめてできた家族。考え方も気もあって、兄弟みたいだ、一心同体だと言われ、その通りだと答えてた。ほんとに、俺はおまえで、おまえは俺で、何の疑問もなくそう思ってた。それなのに、俺のせいで。俺が殺したも同然だ。

生気の失せた頬を撫で、冷えた唇に口づけをした。ホグワーツの頃にかけまわった林、6年の夏休みに泊めてもらったこと、ジェームスの結婚前、2人で出かけたバイク旅行。思い出も涙も、溢れて出て止まることがない。いつも一緒だった、俺の分身。俺のジェームス。2人で光の中を駆け抜けて、どこまでも一緒のはずだった。俺を残し一人で逝くなんて。おまえを死なせて、俺はこれからどうすれば・・・。

顔を上げて涙を拭った。そうだ、俺にはやることがある。なぜこんなことになったのか、何があったのか、必ず突き止め仇をとる。ワームテールが裏切ったなら、けっして許さない。あいつを見つけ出して、まず問い詰める。何があったのか、なぜこんなことをしたのか、ジェームスを売るくらいなら、なぜ死ななかったのか。

「ジェームス、必ず戻るからな。俺を待っててくれ。」

決意を固めて家を走り出た。ワームテール、いったいどこだ?どこにいる?と思った時。

突然暗がりの植え込みから、ワームテールの姿が湧きあがった。あいつ、ここに来てたのか!ジェームスが殺されるのを、黙って隠れて見ていたのか!

「待て!ワームテール!」

怒りがこみ上げ煮えたぎる。俺が叫ぶと、やつは一目散に走り出した。

「臆病者!俺から逃げ切れると思うのか!」

叫びながら走る。ピーターなんかに振り切られる俺じゃない。手を伸ばして、丸めた背中をつかみかけた、その瞬間にピーターの体が消えた。ディサパレートしやがった!俺も瞬時に続き、姿を現すと同時にその体を抱え込んだ、、、つもりが、宙を切って倒れた。視線の隅を、小さなネズミが走り去ってゆく。

「ワームテール!」

すぐに黒犬に姿を変えてネズミを追った。逃がすものか。ネズミは追いつかれそうになると狭い隙間にもぐりこみ、見失ったかと思うと塀の上に逃げ惑うみじめな姿をさらす。

アパレートを繰り返し、動物になったり人に戻ったり、姿を変えながら、追い詰めては逃げられて、見失っては見つけ出し。こんなにすばしこい奴だったのかと舌を巻き、逃がすわけにはいかないと、目を凝らし、鼻を利かせ、ひたすらに追ううちに、いつの間にか日が上がり、俺はマグルの街を走っていた。

ちらほらとマグルが行き交うその中の、明らかにおかしななりをした一群のわきを駆け抜けたとき、「生き延びし子」「ハリー・ポッター」の声が耳をかすめた。あれはほんとに起こったことなんだ。ハリーは助かったが、ジェームスは死んでしまった。あいつなんか信じたばかりに。俺のせいだ。俺がジェームスを殺したようなもんだ。俺のジェームスを、俺が判断を誤って殺してしまった。悲しみと悔いを噴き上がるにまかせ、ただ目の前のピーターの背を追って、あとわずか。

またディサパレートしたピーターは、後に続いた俺が姿を現すと、こちらを向いて立っていた。こいつ、あきらめたのか。あきらめたんだな。俺から逃げ切れるわけがない。俺が怒りを込めて睨みつけると、やつはじりじりと後ずさり。

「リリーとジェームスを、シリウス!よくもあんなことを!」

泣きながら大声でヤツはわめいた。なにをバカなことを言うんだと頭に血が上り、杖を向けたその瞬間に。

ものすごい轟音が響き、周囲が砕け飛んだ。なんなんだ!何が起こったんだ!

轟音にやられた耳にかすかに人の悲鳴が聞こえ、もうもうと立ちあがる砂塵に目を凝らすと、目の前の道にぽっかりと深い穴があき、周りには瓦礫と血と肉が飛び散っている。いったい何が?やつはどこだ?

あたりを見回し、膨大な瓦礫の中にずっと追い続けたピーターの服と小さな肉片をみつけ、深くえぐれた穴の奥底に壊れた土管の口が開いているのが見えて、、一瞬、苦笑いが浮かんだ。あいつ、ネズミになって逃げたのか。血まみれの服と自分で噛み切った指かなんかを残して。

死んだふりか、ピーター?ジェームスを売り、俺をはめたのか?おまえにこんなことができるとは。あんなやつをを信じてジェームスを死なせちまった、、、俺はなんてバカなんだ。

気がつくと、杖をかまえた魔法使いに取り囲まれていた。

「よくもこんなひどいことを。」

「マグルが10人も巻き込まれたらしい、いや、10人以上だ。向こうにも怪我をした者が、、」

「目撃者の証言をとって、記憶を消せ。はやく、マグルが集まってくる前に!」

魔法使いたちは口々に言いながら、俺に向けた杖をそらさない。俺は呆然として、抵抗する気力もなかったのに、20人もの魔法使いが俺を引きずるように魔法省に連れて行った。そして窓のない暗い部屋に、手錠と足枷をつけて放り込んみ、幽閉呪文を唱えた。一人部屋の隅の壁に寄りかかり、俺は確かにこの罰に値するのだと考えていた。ジェームス、リリー、それに10人ものマグル。皆、俺のせいで命を落とした。俺が、ワームテールを信じたから。俺がやつを疑いもせずに、騙されてはめられるような、バカだったから。

だがワームテール、おまえをこのまま逃がしはしない。ジェームスを売った罪を、必ず償わせる。取り調べが始まれば、もう終わりだぞ。ネズミになって逃げたと説明するのは簡単じゃないが、俺が黒犬に姿をかえて納得させる。

部屋の外で足音が止まった。さあ、ワームテール、おまえの罪を暴いてやると、挑むように立ちあがった。だが、ドアが開くと。

「凶悪殺人犯、シリウス・ブラック!12人のマグルと、魔法使いピーター・ペティグリュー殺害の罪で、アズカバンに収監する。」

なんだと?なぜだ!取り調べは?裁判は?俺じゃない、ピーターだ。ヤツは生きてるんだ!俺は叫び、本気で暴れようとしたが、手錠と足枷に阻まれるうちに失神呪文を放たれて、、、。

気づいた時は、鉄格子のはまった真っ暗な牢獄の中にいた。ここはアズカバンか、、?一度入れば出た者はいないという、海に浮かぶ孤島の牢獄。俺はここで、ずっと?ダメだ!

俺は鉄格子をつかみ、大声でわめいた。

「違う!俺じゃない!話を聞け!きいてくれ!」

めんどくさそうにやってきた官吏が、杖で俺を弾き飛ばした。

「うるさい、この人殺しが。」

他の官吏たちも集まって来た。

「こいつがシリウス・ブラックか?人殺しだけじゃなく、親友だというt『生き延びし子』の父親を裏切って、『例のあの人』に売ったヤツか。見るからに凶暴で、裏切り者の面してらあ。ジェームス・ポッターも、こんなやつを信じるなんてな。」

違う!俺は!俺は、、、死んだってジェームスを裏切ったりしない!

だがもう、俺の言うことに耳を貸す者はいない。官吏たちが去り、静まった暗い牢獄に一人うずくまる。ジェームス、ジェームス、俺はこんなことになっちまった、おまえのもとに戻ると言ってきたのに。おまえに何かあれば、ハリーはまかせろと言ったのに。だが、たしかに、俺にはこの場所がふさわしいのかもしれない。俺のせいでおまえを死なせた。その罪は、何をしても償うことはできない。ああ、だがジェームス、まさかこんなことになるなんて。

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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

tag : ハリーポッターシリウスジェームスピーター

(過去3)1981ハロウィーン/その夜3

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

ピーター (後編)

こうして僕は、『秘密の守人』になった。なった時から、長くはもたないとわかってた。そもそも僕は、相応しくないんだから。

僕は最後に一度、ゴドリックの谷のジェームスの家を訪ねた。ワーミー、よく来てくれたわねと歓迎してくれたリリーと赤ちゃんに心の中であやまり、ジェームスが元気のない僕に何か気付いてくれないかと望みをかけた。秘密の守人はたいへんなんじゃないかって、ほんとはイヤなんじゃないかって、ジェームスが気づいてくれたらよかったのに。

それでも数日は耐えた。『例のあの人』が、赤子の居場所一つ、まだわからぬのかと苛立つのに目を伏せて。内心こわくてたまらなかったけど。だけど、もし報告しないまま、僕が『秘密の守人』だとバレたらどうなるかと考え出すと、もう我慢できなかった。どうせ時間の問題だ。あの方に問い詰められたら、誰だって恐ろしくて黙っていられるはずない。それなら自分から言うほうがいい。どうしようもないんだもの。翌日僕は『例のあの人』に秘密を明かした。あの方は喜んで、ワームテール、よくやった、わが忠実なしもべよと褒めてくれて、僕はほっとした。

そして今、僕は再びこの家を訪れて、ネズミの姿で植え込みに隠れている。『例のあの人』がやってきて、ジェームスたちを殺すのを見届けるために。この機会は無駄にせず、闇陣営での僕の立場を守るために使わせてもらう。寝返ったから、グリフィンドールだから、弱いから、チビだからって、デスイーターたちから軽んじられてばかりなんだもの。なんとか『例のあの人』の寵愛を得たいとまでは言わないけど、側近と認められたい。

植え込みの向こうの道で、雨音が高まった。何かが雨風を切って、こちらにやってくる。僕は植え込みの根元に身を寄せて、ヒタヒタと迫る足音に耳をすます。やがて暗闇に黒い影が浮かび、わき目も振らず玄関に向かっていった。その背の向こうの家の窓の中に、立ち上がり、腕を上げて伸びをする人影がぼんやりと見えた。ジェームス、、、何も知らずに。ごめん。

僕だって、こんなこと望んだわけじゃない。僕のせいじゃないよ。みんなシリウスのせいだ。シリウスと君のせいだ。僕を秘密の守人なんかにするから。僕は嫌だったのに。

バタンと開く扉の音。何かわからないどなり声。バタバタと人が駆けまわる足音。そして。

すべては、一瞬で終わった。

壊れたドアの内側に倒れているのは、、、ジェームスにきまってるけど。あの、光に満ちて、明るく輝いていたジェームスが、わずかな胸の動きすらみせず横たわってる。

あの方に勝てるわけないんだ。逆らったのが間違いなんだ。そうでしょ?

でも、何かが、終わった気がした。もう、二度ともとに戻ることのない、たいせつな何か。胸に走った切り裂けるような痛みは、友の死の悲しみか、失われた輝かしい少年時代への憧憬か。あの頃の僕たち。最強のグリフィンドール4人組。 

感傷に浸ったのは一瞬だ。わかってたことだもの。しかたなかった。僕のせいじゃない。戻れない川を渡った今、戻れない川の向こう岸を見てたってなにもならない。川のこっち側だって、まだ安泰ってわけじゃないんだから。

身を乗り出してまともに雨を受けてたのに気づき、植え込みの根元に戻って身を潜めた。あの方があと一仕事、終えて出てくるのももうすぐだ。そうしたら、僕は人の姿に戻って、機嫌のよいあの方に、我が君、お祝い申し上げますと称賛を送る。僕のはたらきも忘れないようにしてもらわなくちゃ。『例のあの人』におともしてレストレンジ家に戻れたら、デスイーターたちだって僕に一目置くようになる。

あと少し。寒いのも濡れるのも、デスイーターたちにばかにされるのも、あとちょっとの辛抱だ。

そう思って、待っても、待っても、『例のあの人』は出てこなかった。ニ階の奥の方で激しい爆発が起こり、家のあちこちが飛び散るように壊れてから、ずいぶんとたつのに。

何かあったんだろうか、何か予想外のことが起こって?もしかして『例のあの人』は、爆発に紛れて出ていってしまったのか。すでにレストレンジ家に戻っているなら、とんだ手違いだ。僕の最大の手柄を褒めてもらうチャンスなのに。今からでもすぐ戻ったほうがいいかな?でも、あの方が戻っていなかったら?何があったかと、デスイーターから袋叩きだ。決めかねて待つことしかできず、待ちあぐねて家の中を見に行こうと植え込みを離れかけた時、どさっという気配がして巨大な人が現れた。ハグリッド!

ネズミの姿でよかったと、あわてて植え込みの中に飛び込んだ。

「ああ、どうしちまったんだ!どうしたっちゅうんじゃ、家が壊れとる!ジェームスの坊主はいったいどうなった?ああ、こうしちゃおれん、そうだ、赤ん坊だ、ダンブルドアのご命令に従わんと。」

ハグリッドはおたおたと喚いたり、頭を抱え込んだりしながら壊れた家にかけてゆき、すぐにまた現れた。大きな腕に、たいせつそうに何かを抱えて。

「かわいそうに、こんなちっちぇえ子が親を亡くしちまうなんて!こんなでっけえ傷までこしらえて!」

赤ん坊が生き延びた!それなら『例のあの人』はどうなったんだ?予想外の成り行きに呆然とする。わが君に何があったと猛り狂うデスイーターが目に浮かんで、体がガタガタ震えてきた。僕のせいだっていわれる。彼らに見つかれば、無事じゃすまない。心臓がパクパクと音を立てて、、、落ち着かなきゃ。アニメガスの術がとけたらたいへんなことになる。と、さらに心臓が縮みあがる爆音が響いた。聞きなれたシリウスのバイクの音。

「ハグリッド!ジェームスは?ジェームスは無事か?」

「ジェームスの坊主はよ、、、リリーもな、、、残念なことになっちまってな、シリウス。元気を出せ。ちゅっても無理だろうが、ほらよ、ちっちぇえハリーは無事だったでよ。ハリーは生き延びたちゅうことで。ジェームスもリリーもな、それを望んどったわけだで。」

しばらくの沈黙。

「ハグリッド、ハリーを俺に渡してくれ。俺はハリーの後見人なんだ。俺がめんどうをみるから、、」

「いんや、シリウス、それはなんねえ。ダンブルドアは、ハリーは叔母さんの家に預けると言いなさった。」

シリウスが抗議して、しばらく押し問答の末。

「ああ、わかった、ハグリッド。それなら俺のバイクをやるから、それでハリーを連れてってやれよ。ハリーは怖がらないさ、飛ぶのが大好きなんだ。」

「だけんど、シリウス、バイクをいいんか?」

「俺は、いらないから。」

ハグリッドがバイクで空に飛び立ち、シリウスは壊れた家に走って行った。シリウスがバイクを手放したのは、、、僕を追うつもりなんだ。デスイーターだけじゃなくて、シリウスからも狙われる。シリウスはジェームスを売った僕をけっして許さないと震え得あがった。シリウスにつかまったら、騎士団の前に連れ出されて、、いやその前に怒り狂って締めあげる。シリウスが興奮したら何するかわからない。ジェームスしか止められないよ。

進退きわまって、植え込みの根元に縮こまった。闇陣営からも騎士団からも追われてしまう。頼れる人はもういない。ジェームスも、『例のあの人』も。いったい、僕、どうすればいいんだ?だけど、差し迫った問題はシリウスだ。今にもシリウスが家から出てきて僕を見つけたらと思うと、恐ろしい形相さえ目に浮かび・・・。ジェームスみたいに話をきいてくれるわけないし。こわくて動けない。ネズミの姿を知ってるから、一目でも見られたらおしまいだ。モグラなら地にもぐるのに、ネズミじゃあ、、、土管でもあれば逃げ切れるけど。

あたふたと逃げ道を求め、頭はめまぐるしく回る。そうだ、僕が『秘密の守人』と知ってるのは、今となってはシリウスだけだ。なんとかシリウスに罪をかぶせられたら?だって、こうなったのも、シリウスが『秘密の守人』を僕に押し付けたせいだもの。それをシリウスに返せたら、、、他のみんなは、シリウスが『守人』だって思ってるんだから。

切羽詰まって考えるうちに、いいことを思いついた。追跡を免れ、シリウスの口を封じられる方法。これならきっとうまくいく!窮鼠猫を噛むって、自分で思って思わず笑いそうになった。噛むのは犬だけどね、いや、自分か。そして気を引き締めた。うまい方法だけど、かんたんじゃない。命がけの大芝居になる。失敗したら最悪だけど、頭に血の上ったシリウス相手なら、うまくいくと思う。僕がこんなかけに出るなんて、思う人いないもの。やるしかない。やり遂げてみせる。ジェームスもシリウスもいつも言ってた、ピーターならきっとできる、大丈夫だよって。

そう言ってた2人の顔をが浮かんで、泣きそうになった。こんなことになるなんて。でも、、、しょうがない。やらなきゃ僕は、、、。僕のせいじゃないよ。シリウスは裏切ったって僕を責めるだろうけど、少なくとも、僕だけのせいじゃない。そうでしょ、シリウス?

シリウス、僕は君の腰ぎんちゃくだったよね。いつも君の後にくっついてた。君はそれがあたりまえみたいなを顔して、弱虫の僕が君の影に隠れてるって思ってたでしょ?でも違う、それだけじゃないよ。君のこと、好きだったから。君のことより落ち着いたジェームスを信頼してたし、君よりもリーマスに親しみを感じてた。だけど、僕が一番憧れてたのは君だよ。半端ない明るさも、勇気も、高貴さも、外貌も、大胆さも、強さも、、君のみせる並はずれた激しさすべてが、凡庸な僕を惹きつけた。君の考えなしには時々呆れたけど、くよくよ考えずに突っ走れるのはスゴイって思った。狂気じみた怒りや憎しみの表出さえも、そこまでなれる非凡さに感動してた。

みんなが僕のこと、平凡で取り柄のない臆病な子って言ってるの、知ってたよ。そんな子供が描く、空想の中の自分。現実にはそんなふうになれないってわかってる理想の姿が目の前にあった、それが、君、シリウス。ずっと憧れて、君みたいになれないのはわかってたけど、憧れて追いかけて、結局自分の情けなさを思い知るだけだったけどね。でも今少しだけ、僕も凡庸の枠を超えられそうな気がするんだ、君みたいに。ていうより、人の枠をはずれたって感じ?戻れない川を渡るってこういうことだったのかな。あ、こんなふうに考え込むのはシリウスっぽくないよね。君なら理由や結果なんて考えず、狂気めいた勢いに身を任せて突っ走る。今だって、そのつもりでしょ?僕を追っかけ、つかまえてとっちめる、それだけ。君が一緒に走ってくれるなら、言うことない。すごいや、もう、全然こわくないよ。

子供の頃からずっと、君が杖を上げれば一目散に駆けつけ、君が犬に変われば背中に飛び乗って、いつだって僕は君の背を追ってきた。シリウス、今度は君が僕を追いかけるんだ。逃げる僕の背を、逃さないように、僕が君に向き合う最後の時まで追ってきて。その後がどうなるかなんて、元の僕に戻って一人どうするかなんて、今は考えないよ。一度だけだもの。君みたいに、並はずれた僕になる。だから君は僕のあとを追って。最初で最後、この一度だけ。

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tag : ハリーポッターピーターシリウス

(過去3)1981ハロウィーン/その夜2

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

ピーター (前篇)

庭の奥に見える家の窓に、ジャック・オー・ランタンの灯が揺れている。あの中でジェームスたちはハロウィーンの食卓を囲んでいるのかな。ジェームスのこと、楽しかったあの頃のこと、今は考えたくない。仲間4人がいつも一緒で、友情という言葉が光輝いていた頃。ジェームスとシリウスとリーマスと僕。プロングスとパッドフットとムーニーとワームテール。仲間だけの秘密の呼び名。4人集まれば、世界最強だと思ってた。

数日前に訪ねた時に見た、無邪気な赤ん坊の顔を思い出して、胸が痛んだ。美男美女の夫婦に、元気でよく笑う赤ん坊。絵に描いたような、完璧な家族。

でも、もう終わりだよ、ジェームス。もうすぐ『例のあの人』がやって来る。誰かがそんなふうに呼ぶと、君はいつも少し眉をしかめて、挑むようにはっきりとその人の名を口にしたものだけど。

さっきまで僕は、レストレンジの屋敷にいた。隠れ家から呼び出されてレストレンジ家に行くと、数名のデスイーターと『例のあの人』がいた。

「余は今夜、ポッター家を襲撃し、予言の子をかたつける。危険な芽は育たぬうちに摘んでおくに限るであろう。ついてはおまえに今一度、ポッターの隠れ家を確認しろとこの者たちが言うから呼び出した。間違いはないであろうな、ワームテール?」

「わが君、このような裏切り者を信頼なさるとは!調子のいいことを言っているだけです。思いとどまってください。」

「こやつのような臆病な小者が、『秘密の守人』など任せられるはずありません!」

僕が答える前に、周りのデスイーターたちが口々にわめいた。僕が手柄をあげるのが口惜しいんだ。彼らはいつだって僕をばかにしてる。ネズミに変身させて猫をけしかけたこともあった。だけど今度ばかりは。

「わが君、間違いございませんとも。わたしこそが『秘密の守人』。わが君のため、このワームテールが『忠誠の術を』解きまして、、、」

「もうよい、わかった。ポッターはワームテールを親友だといっているのだろう?友情に命を預けるとは、愚かな男よ。余の敵ではないわ。」

それから、それならおともしますと言いたてるデスイーターたちを振り切って、『例のあの人』は一人で出て行った。そのあとを追うように、僕もレストレンジ家を出て、先回りしてここに来ている。

『例のあの人』が仕事を終えて出てきたら、真っ先にかけつけてお祝いを言うんだ。僕のおかげで、忠誠の術が解けたんだから、褒めてくれるだろう。そして皆に対してはっきりと、僕の手柄を認めてもらう。そうすればもう、デスイーターたちも、僕に一目置かずにはいられないはず。『例のあの人』の信頼を得て、側近にだってなれるかもしれない。

夜が深まると、風が出てひどい嵐になった。足元の土はぬかるみ、体が冷えてくる。これじゃほんとにぬれネズミだ。毛足の短いネズミの毛皮じゃ寒くてたまらない。ふと、パッドフットの長い毛に包まれた温かい背中が恋しくなった。あの背中に乗って、頼もしいプロングスや毛むくじゃらのムーニーと繰り出した満月の夜の冒険。楽しかったな。もう二度とあの頃に戻れないと思うと、やっぱり寂しい。

でもそんなこと思ってもしょうがない。こうなったのも、ジェームスとシリウスのせいなんだから。恐ろしい『例のあの人』に逆らおうなんて。それも僕を巻き込んで。

ホグワーツの1年生の頃、彼らと親しくなれたのが、僕はすごく誇らしかった。明るくて頭がよくて、あっという間に誰もが認めるリーダーになったジェームスと、魔法界の王族ブラック家のプリンスで、ちょっと目を合わせるのが恥ずかしいくらいかっこいいシリウス。2人の目立つ人気者が、リーマスとともに僕を親友に選んでくれたことが嬉しくて、有頂天になった。それからずっと、彼らについていきたくて、一生懸命だった。

リーマスが人狼だと知らされた時、こわいのとおぞましいのとで飛びのきそうになったのを、必死でこらえたのだって、彼らに認められたかったからだ。もっとも、親しくしてみれば、リーマスはいつも周りに気を使う温和な性格で、人狼だというだけで偏見をもつのは間違ってる。僕は反省して、偏見を乗り越えさせてくれたジェームスたちを尊敬した。

そのリーマスと満月の夜も一緒にいるためにアニメ―ガスになろうと2人が言い出して、そんなの無理だと思いながら最後までやり遂げられたのも、彼らについていきたかったから。頑張って彼らみたいになりたかったし、彼らも僕を励ましてくれた。大丈夫だよ、ピーター、きっとできる、努力家で粘り強くやり抜く力があるんだと言って。

いつの頃からだろう、その励ましが時々重苦しく感じられるようになったのは。どんなに頑張っても、僕は彼らと違う。僕が人の何倍も努力してやっとできることを、彼らはやすやすとやってのけた。子供の頃は憧れるばかりだったけど、大人になりかけた頃には気づいてた。どんなに頑張っても、どんなに仲が良くても、ジェームスはヒーローで、シリウスはプリンスで、僕はシリウスの腰ぎんちゃくだ。落ち込むことはあったけど、彼らから離れたいなんて思わなかった。たとえ陰でなんと言われても、人に羨まれる強いヒーローの仲間でいたかった。シリウスが黒髪をなびかせて、さあ、行こうぜと杖を上げると、それがどんなバカげたことでも、常識的に考えてハタ迷惑としかいえない計画でも、王子と繰り出す夢のような大冒険になった。

リーマスがいたことも心強かった。自分が鬱屈を感じてみると、リーマスが僕以上に複雑な思いを抱えているのがよくわかった。リーマスは魔力が強いし、年を追い勇敢になったけど、時々陰りをみせるその気持ちが僕にはわかった。ジェームスとシリウスは自ら光を放つ太陽みたいなもので、眩さの影で光をみつめる鬱屈なんて知りはしない。僕は沈むリーマスを労わる時、自分が少しだけヒーローみたいに思えた。

7年生になり卒業が近付いた頃には、ジェームスたちだけに許される、勇気と友情こそすべてという万能感にはつきあいきれないと思い、身の丈に合った堅実な仕事、魔法省への就職を選んだ。就職する気も必要もないジェームスとシリウス、就職に手も届かないリーマス、そして魔法省に職を得た僕。自分が大人になった気がして、これからはそれぞれ違う足場に立って友情を続けていけばいいんだと、ほっとしてもいた。

だけど、ジェームスとシリウスは、僕を放っておいてはくれなかった。彼らだけは、2人だけが特別で、僕は違うと認めない。みんな同じ仲間の親友なんだと言って、僕を『不死鳥の騎士団』に誘い込んだ。あのとき正直に、僕は彼らほどの勇気も魔力もなくて、おそろしい闇陣営と命がけで闘うのなんていやだと言えばよかったのかもしれない。だけどジェームスとシリウスには有無を言わせない強さがある。その力の魅力から離れるなんて無理だった。魔法省の諜報に僕ほど相応しい人はいないとか言われてその気になって、卒業とともに、誇らしささえ感じながら、騎士団の一員になった。

騎士団の活動も、はじめはよかった。僕は自分で思っていた以上に優秀なスパイで、次々と重要な情報を手に入れていった。というのも、ネズミに姿を変えて、こっそりと探ることができたから。魔法省に潜入するデスイーターと目される者の確証をとったり、彼らの企てを盗み聞きしたりできた。騎士団の集会では違法なアニメ―ガスは秘密だったけど、仲間4人で集まった折にそんな話をしたら、ジェームスが黒犬と牡鹿じゃなんの役にも立たないなとか言って、魔法省の廊下で盗み聞きをする大きな黒犬や牡鹿を想像して噴き出した。シリウスなんか黒犬に変身して柱の陰に隠れてみせて、ありえないとみんなで笑い転げたものだった。

だけどそれも長くは続かなかった。魔法省内で闇陣営の力が強まり、どの部署の誰が服従の術であやつられているらしいとか、協力を拒んで痛めつけられたとかという話ばかりになって、やがてみんなうつむいて口を閉ざした。どこに敵が潜んでいるかわからないんだもの。僕も、デスイーターの潜入者から、おまえはグリフィンドール寮の出身かと意味ありげに声をかけられ、すっかりこわくなった。

最後に僕が心から笑ったのは、ジェームスの子、ハリーのお披露目に仲間が集まった時だった。そのときはもう、いろいろとこわくて、騎士団も魔法省もやめようかと悩んでいたんだけど、生後間もない赤ん坊の愛らしさに引き込まれ、つい、みんなと一緒にハリーを守ろうなんて思ってしまった。いつになく感傷的になったリーマスにひきづられたみたいなもんだ。あとで思えばそれが間違いだった。

赤ん坊の姿に意気は上がっても、現実といえば、ジェームスは家にこもって隠れているし、闇陣営の襲撃への応戦でジェームスと同様目立っていたシリウスは姿をくらましてばかりだし、リーマスは人狼集落に潜入して居場所もわからない。あの赤ん坊のために今動いてやれるのは僕しかいないという、バカげたヒーロー意識を起こしたのが破滅を招いた。闇陣営が赤ん坊のいるジェームスの所在をつかんでいるかどうか調べてやろうと思い立ち、久しぶりにネズミの姿になって、魔法省に潜入しているデスイーターの後を追い、見つかってしまった。ひと気のない廊下で、突然向きをかえるなんて予想できるわけない。逃げ損なってしっぽを踏みつけられ、ネズミ退治と向けられた杖に震えあがった瞬間、人の姿に戻ってた。

それから、抵抗もできないまま、『例のあの人』の前に連れていかれた。強面のデスイーターに囲まれて、あの恐ろしい目に睨まれたら何ができるっていうんだ。それまでさんざん耳にした、おそろしく無慈悲で強力な磔の術が僕に向けられるのかと思うとこわくてたまらなくて。騎士団員であることも、魔法省でスパイをしていたことも、あっという間に白状させられた。

その後は殺されるのかと怯え、夢中で『例のあの人』の足元にすがりついた。命だけはお助け下さい、仲間に言われて不本意ながら騎士団に入っただけで、貴方様に逆らうつもりなどなかったんです、何でもしますから助けてくださいと。するとあの方は、手ぐすねひくデスイーターを押しとどめ、予想外に穏やかな声で言ってくれた。不死鳥の騎士団の情報を流すなら、命を助けてやってもよい、余の役に立つのなら、闇陣営の仲間にしてやってもよいのだぞと。僕はありがとうございます、役に立ちますから仲間にしてくださいと叫び、頭を床に擦り付けて感謝した。

なんとか命拾いして、家に帰って考えた。あんな恐ろしい人と闘うなんて、間違ってた。闇陣営は魔法界のあらゆるところに力を伸ばしていて、今はもうすべてはあの方の思うままだ。ジェームスもシリウスも頼りにならない。友達のためなら死ねるって言ってたのに、僕の助けにはならなかった。危険な騎士団に誘い込み、闘いの主戦場のような魔法省で一人スパイをさせただけじゃないか。これからはもう、『例のあの人』に従うしか生きのびる道はないと思った。

それから何度か騎士団の情報を流し、はたらきを認められてデスイーターになった。他のデスイーターたちにはやっかまれたし、スリザリン出身の多い中グリフィンドールの肩身は狭かったけど、『例のあの人』は僕が得る騎士団の内部情報を重宝がってくれた。新人研修だと言って、あの方みずから、闇の魔術を教えてくれたこともある。悪いものだと思ってた闇の魔術も、目の当たりにするとその威力に感服した。武装解除みたいな術どうしでやりあえば、どうしたってその人の持つ魔力やすばしこさで勝負がつくことになるけど、闇の魔術は術自体が威力を持っている。闇の魔術を使えば、たとえば僕がジェームスやシリウスに勝ることもあるんだって思ってびっくりした。もちろん習得するのは簡単じゃないけど。とにかく、こんな強い術を使う、もっともすぐれた闇の魔法使いに逆らうなんて馬鹿げてる。

『例のあの人』から、いろいろと細々したことを命じられるようになって、魔法省も辞めてしまった。魔法省の事務仕事をこなすより、あの方のそばに仕えて認められるほうがいい。その頃には、僕が情報を流したこともあって、騎士団メンバーへの襲撃が度重なり、騎士団は皆危険を避けて身をひそめるようになっていたから、僕の辞職がとやかく言われることもなかった。

でも、闇陣営のスパイになったとはいえ、仲間3人に危険が及ぶようなことはしたくなかった。『例のあの人』に問われても、彼らはすばしこくて動静がつかめないとごまかし、脅されて切羽詰まれば、逃げ足の速いシリウスが少し前に現れた場所を言って逃れた。デスイーターたちから、ほんとに友達か?友達と思ってるのはおまえだけじゃないかと揶揄されながらも、歯を食いしばって耐えたんだ。実際、今だって、リーマスが人狼集落に潜入してることは言ってない。僕なりに精いっぱい、親友たちに尽くしてた。

だけど少し前、『例のあの人』が、デスイーターの幹部会で、ハリーを予言の子だと宣言し、皆にジェームス一家の隠れ家を探し出せと命令を下した。僕は幹部会には出ていなかったけど、『例のあの人』から、直接、友達というなら探し出せるはずだと脅された。この日のために命を助けてやったのだと杖さえ向けられて。僕は驚き、震えあがって、でもジェームスを死に追いやるようなことはしたくなかった。複雑な思いを持つことはあっても、僕の長年の親友だ。僕が僕なりに、一番輝いていた頃の思い出を穢したくないもの。ジェームスを売ることは、人として越えてはいけない、越えればもう何もかもが壊れてしまう一線だとわかってた。

頼りにすらするようになっていた『例のあの人』は、また恐怖の対象に戻り、デスイーターに取り囲まれているのは、苦痛以外のなにものでもなくなった。僕はなんとかその苦境から逃れたくて、いっそジェームスに打ち明けて、かくまって助けてもらえないかとまで考えてた。きっとジェームスなら僕の苦しい事情をわかってくれるって。それなのに。

みんなシリウスのせいだ。考えなしのシリウスが、何も知らないで。思慮深いジェームスやリリーまで同意するなんて。

あの日密かに会いに来て、こともあろうにこの僕に、ジェームス一家を隠す『忠誠の術』の『秘密の守人』になれと言った。僕の顔色をうかがうことさえなく、得々として。

「な、これなら完璧だろ?ジェームスたちが『忠誠の術』で隠されたと知れば、闇陣営は俺が『秘密の守人』だと考える。まさかおまえが『守人』なんて考えるヤツはいないさ。俺は身を潜め、ヤツらは俺を探す。万一見つかったとしても、ジェームスを裏切るくらいなら死を選ぶ。おまえだって同じだろ、ピーター?これでジェームスたちは安全だ。」

僕はいやだよ、『忠誠の術』で隠すなら、僕を隠してよと言いたかった。僕が『守人』に相応しくないと言ったも同然なのに、その同じ口で僕に『守人』になれなんて。ジェームス、ジェームスで、僕のことなんかどうでもいいの?友達だって言ってたのに。唐突に、シリウスの腰ぎんちゃくと言われてたことを思い出した。腰ぎんちゃくの僕なんか、危険な役目を押し付けて、裏切るなら死ねっていうの?僕が危ない時には助けてくれないくせに。何を言う気にもなれなかったけど、それでも最後の頼みの綱を思いついた。

「リーマスは?リーマスなら魔力だって強いし、隠れるのだって、、」

僕に最後まで言わせず、シリウスは顔をしかめて、大きく首を横に振った。

「リーマスは、、、。友達を疑うなんて俺も嫌だけどさ。最近、騎士団の情報が漏れてる気配があるだろ?」

そうか、シリウスはリーマスを裏切り者と疑ってたんだ。同調したジェームスもそうなんだ。あんなに熱く親友だ、友情だって言ってたのに。振り回すだけ振り回して、結局2人とも友達を裏切ってるじゃないか。なんだかバカバカしくなった。友情に胸を熱くしたことも、彼らに憧れて、背伸びばかりしてたことも。

「うん。わかった。いいよ。僕、『守人』になるよ。ジェームスたちを守らなきゃね。」

つくり笑いして言うと、シリウスは単純に喜んだ。

「そうこなくっちゃ、ワームテール!最初は俺を『守人』にすることになってたんだけどさ、このほうがいいって思うだろ?ジェームスも、ピーターなら大丈夫、きっとやり遂げてくれるってさ。敵を欺くにはまず味方から。騎士団の誰にも、ダンブルドアにも秘密だぜ。」

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(過去3)1981ハロウィーン/その夜1

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

リリー  ゴドリックの谷、ポッター邸

居間に飾ったカボチャのランタンに火をともし、食事の準備にとりかかる。今日はハロウィーン。秋の収穫に感謝して、魔法は使わず手をかけて料理することにした。ハリーを身ごもって以来、安全のためにずっと隠れ住む暮らしを余儀なくされているけれど、だからこそ、生活の中の小さな潤いをたいせつにしたいと思ってる。

もっとも、不安はあるけれど、隠れ家暮らしも悪いことばかりじゃない。生まれるまではお腹の中で、生まれてからはこの腕の中で、日ごと育ちゆくハリーといつも一緒にいられるのだもの。この子には私がすべて、この子は私の分身、私の命。成長とともに少しずつ親から離れていってしまうのでしょうけど、そう思えばなおさらに、溶けあうような母と子の緊密な時間がいとおしい。

私が食事の準備をする間はジェームスがハリーを見ていてくれるのだけど。大きな三角帽子をかぶってハロウィーンの仮装をしたハリーは、家の中で箒を乗り回している。家の中のことだから、ぶつかるんじゃないかと気が気じゃない。しかも今日は、箒で飛びながら置いてあるお菓子をつかんで、「トットッ!」と叫んで投げ散らかしてるし。「トリック・オア・トリート」のつもりらしい。まったく、腕白坊主なんだから。

「さあ、夕食ができたわよ。」

飛び回るハリーをジェームスがつかまえて、ようやくテーブルに着いた。ランタンの灯りが揺らぐ部屋で、ジェームスとハリーと私、家族3人穏やかにテーブルを囲めるのは幸せなことだと思う。『予言の子』として、ハリーがヴォルデモートに狙われていることを思えばなおさらに、この平安に感謝したい。もっともそんなことなど知らないハリーは、離乳食のお皿に顔をつけたり、相変わらず「トットッ!」とつかんで投げたりしているから、落ちつけたもんじゃないんだけど。今日覚えた新しい言葉が気に入ったみたい。

「ハリーはほんとに箒が得意だな。立派なクイディッチの選手になりそうだ。」

ジェームスが嬉しそうに言う。

「ほんとね。あなたをしのぐ選手になるかもよ。なんたって」

「歩くより先に箒に乗ってんだから!」

私が言うのにジェームスの声が重なり、2人で噴き出した。これはジェームスの好きなフレーズで、何度きいたかわからない。はいはいしているハリーに箒の包みを開いて見せたら、小さな手でむんずと掴んでそのまま宙に浮き上がってしまった。ジェームスも私もびっくりして、箒に乗るハリー、というより、赤ん坊をぶら下げた箒に、笑い転げたものだった。

「シリウスがハリーの誕生日に箒をくれたおかげで、家じゅうめちゃくちゃだ。文句言ってやんなくちゃ。」

それから、少し沈んだ声にかわる。

「あいつ、今頃どこにいるんだろうな。僕から会いには行けないし・・・。」

少し前、ダンブルドアからヴォルデモートが予言の子としてハリーを狙っていると知らされた。『忠誠の術』で居場所を隠すよう勧められ、今この家には『忠誠の術』がかけてある。その秘密を守る『秘密の守人』は結局ワーミーになってもらったのだけど、パッドフットは『守人』のふりをして姿を隠すことになった。闇陣営につかまらないように、愛車のバイクであちこち動き回るつもりらしい。相談のうえでのことだけど、兄弟みたいに仲のいい親友と会えなくて、ジェームスは寂しいんだと思う。『忠誠の術』をかける前から隠れ暮らしを余儀なくされて、ジェームスは自由に出歩けない苛立ちをパッドフットと会うことで紛らわしていたから。

「寂しいでしょうけど、私たちを守るためだから。」

「まったく、この僕が隠れて守ってもらわなきゃならないなんてな。仲間たちが命がけで戦っているのに、僕ときたらこんなふうに家に隠れて赤ん坊と遊んでるだけだ。もちろん君やハリーと一緒に過ごせるのは嬉しいよ。だけど外では仲間が殺されたり、行方不明になったりしてる。僕も外に出て闘いたいよ。シリウスと僕が加われば、もっとやつらをやっつけられる。ダンブルドアが透明マントを返してくれれば、せめて外の様子を探りに行けるのに。ああ、外に出られたらなあ。リリー、なんか僕はときどき、、、。」

「軟禁されてるみたいに感じるんでしょ?」

うなづいてジェームスは悔しそうに唇を噛んだ。

「ジェームス、歯がゆいでしょうけど我慢してちょうだい。ハリーのためなの。きっともう少しの辛抱よ。」

言いながら、自分でも気休めだとわかってる。もう少しのはずがない。闇陣営は猛威をふるい、騎士団側は仲間内に裏切り者がいるとささやかれ、次々と死者や行方不明者が出ているありさまだもの。しばらく前に密かに集まって記念写真を撮り、それから皆それぞれに身をひそめてしまった。勝利の見込みはなく、先が見えない中で、わずかな希望といえる予言は、ハリーがヴォルデモートを打ち倒す力を持つというものなのだから。この小さなハリーがヴォルデモートを打ち倒すまでに育つには、何年かかるというのかしら。それよりも、この子がやがてヴォルテモートと闘わなければいけないのかと思うと、胸が詰まって苦しくなる。そんな私の思いを知ってか知らずか。

「そうだな、ハリーのためだ。」

ジェームスが自分に言い聞かすようにつぶやいた。

食事を終えて居間のソファに移り、ハリーを抱いて座っていると、ハリーが何度も額に手をやるのに気がついた。よく見ると、髪に隠れて額に小さなこぶがある。さっき箒で飛び回っているうちに、どこかにぶつけたらしい。箒に夢中の間はよかったけれど、今になって痛むのかしら?そっと額に手をあてる。痛みが和らぐようにと、手のひらに願いをこめて。

そして私はセブを思い出した。あれはいつのことだったか、やっと立てるようになって間もない頃、ころんで頭をぶつけて大泣きするハリーの額にそっと手をあてた時、突然セブを思い出したのだった。ホグワーツを卒業してからというもの、闇陣営との戦いや結婚やハリーの誕生に紛れて考えることもなくなっていたのに。傷ついた額に手をあてるというその動作が、あるいは痛みが癒えるよう願うその思いが、子供の頃の記憶を蘇らせたのかしら?

セブの頬に傷跡を見て、痛々しさに思わずそっと手を当てた時のセブの顔が目に浮かんだ。驚いたように黒い目を見開いて、それから少しおどおどとはにかんで、嬉しそうな笑顔になった。まるでそんなことをしてもらったのが初めてだったみたいに。それまで先輩ぶって魔法の話をしていたセブが、頼りない子供に見えて。その後何年も、私はセブにそうしてあげるのが好きだった。セブの痛みは辛いのに、そっとあてた手からセブの痛みが和らいで、じわじわと幸せが広がっていくのが伝わってきて。手のひらでセブとつながってる気がした。母親になった今思えば、あれは母性愛みたいなものだったのかもしれない。

それ以降、何かの折に、セブのことを思い出すようになった。何といっても隠れ家住まいの暮らしでは、ぼんやりと物思う時間だけはたっぷりあるんだもの。今日のように怪我をしたハリーの痛みを癒す時、私を見て瞬時にとろけるハリーの笑顔に笑い返す時、ベッドに置いて離れてゆく私を、目で手で、全身で追い求めるようなハリーを見る時、ふとセブの姿が重なって、切なくなる。いつだってセブにはそんな気配があったと思う。こんな必死な思いを、切っても切れないつながりを、振り切ってしまったのかと。私は間違っていたのかしら?

自分が魔女とは思いもよらず、なぜみんなと違うのか、なぜ違うと責められるのかと不思議に思っていた私の前に、突然現れた魔法使いの男の子。マグルの町で初めて会った、ただ1人の同族の友達。しっかりと手をつないで魔法界に旅立ち、ずっと一緒だと信じていた。その後に起きた様々なことを思うと悲しくて、ため息が出る。

あんなふうに闇の魔術に傾倒し、デスイーター予備軍のグループに入ってマグルを貶めるようになるなんて。何度言っても耳を貸さないからこうなったんだと腹が立つ。デスイーターがどんなひどいことをしているか、闇陣営が力を増す情勢の中で闇の魔術に傾倒することがどんな意味をもつのか、もう子供じゃないんだから、きちんと考えてと口をすっぱくして言ったのに。

でも、今思えば、セブは子供のままだったんだと思う。普通でも男の子は女の子より幼いし、セブみたいに内にこもり、勉強以外の多くを学ぶ人間関係に恵まれない環境にあれば、しかたない面もあったかもしれない。そして私も、自分で思っていたより、ずっと子供だった。考えてほしくてセブを突き放した後、ルシウス・マルフォイとの怪しげな噂にひるんで、真意を伝える機会を逃してしまった。セブが私の知らない大人の世界に行ってしまったように思えて、気後れしてしまった。それでも騎士団に入って闇陣営をやっつければ、セブは帰ってくると楽天的に思ってた。現実は厳しくて、やがて闘いにまみれるうちに時が過ぎて。

ミャウーと足元で猫が小さな鳴き声をあげた。いつの間にかうちの庭に迷い込んで住み着いた黒猫。黒猫なんて不吉だってジェームスは言ったけど、黒猫というだけでうとまれる痩せた姿に胸をつかれて、他に行くところがないのよと家に入れて飼うことにした。隠れ家住まいの寂しさを癒してくれたけど、一度箒のハリーに激突されてから、ハリーが起きてる間は逃げ回ったり隠れたりばかりだったのに。ここのところ私の足元にまとわりついて離れない。おまえも心細いの?私のことを心配しているの?足で鼻先をつつくと、私の顔を見上げ、安心したように足に頭を載せて寝てしまった。そういえば、細身の真っ黒な体に鼻も少し大きくて、なんか、セブっぽい。私にしか懐かなくて、ジェームスと相性が悪くて、箒のハリーに追っかけられるとこなんかも。

こんなにセブのことを思い出すなんて、何かあったのかしら?元気にしてるのかしら?ほんとにデスイーターになってしまったの?あの時私がつき放してしまったから?そうだとしても、私たちの家族にも似た友情にかわりはないはず。きっといつか元に戻れると信じてる。でもこんなふうに最近セブをよく思い出すのは、セブが辛い思いをしてるのかもしれない。もしそうなら、傷ついた頬にそっと手をあて、大丈夫だといってあげたい。思わず腕に力がこもったのか、ハリーがぐずり声をあげた。

「そろそろハリーは寝る時間じゃないか?」

ジェームスに声をかけられて我に帰り、腰を上げると、足元の黒猫ものびをして立ちあがった。ハリーは寝かせられると察知したのか暴れだした。まだベッドにつれていかれるのはイヤみたい。

「じゃあ、先にベッドの準備をしてくるわ。ハリーをお願い。できれば興奮させないでね、もう遅いから。」

「了解。」

答えて受け取ったさきから、ハリーに蹴飛ばされて、こいつ、やったな!とじゃれ始めるジェームスに噴き出した。そういえばジェームスもあの頃は傲慢でどうしようもなかった。大人びた気はしていても、みんな子供だったんだ。ジェームスは、坊ちゃん育ちのわがままが、思春期に増幅して現れてたんだと思う。でもジェームスは成長し、きちんと自分の過ちに目を向けてくれた。反省して改めて、それを私に伝える勇気を持っていた。私が謝罪を受け入れるまで、何度でも投げ出さず向きあう姿がふとかわいく見えて、やがて男らしく頼もしく思えるようになった。その後のジェームスは、魅力的な恋人で、勇敢な闘士で、今は頼もしい父親。心から信頼し、生涯添い遂げると誓った、愛する夫。ジェームスと一緒なら、何があっても、きっと大丈夫って思える。

二階の部屋のベビーベッドを整えて居間に戻ると、ジェームスは杖先から色様々な煙の輪を出してハリーを遊んでやっていた。ハリーは床に立ち、笑い声をあげて、小さな手を伸ばして煙の輪をつかまえようとしている。

「まあ!ハリー、今日はもう十分遊んだでしょ?寝る時間よ。」

そう言うと、ジェームスはかがんでハリーを抱き上げて私に渡し、自分は杖をソファに投げ出して、大きく伸びをした。

「パパのほうがおねむなのね。ハリーもよいこで寝ましょうね。」

ハリーをあやしながら、ジェームスと一緒に居間を出た時。

突然、バタンと、玄関があく音がした。はっとして見合わせたジェームスの顔色が変わる。私もきっと、蒼ざめていたと思う。

リリー、ハリーを連れて逃げろ!さあ、行くんだ!早く!僕が食い止める!」

言う間もなくジェームスは玄関に向かって走り出した。私は階段を駆け上がって部屋に飛び込み、力いっぱいドアを閉める。ベビーベッドにハリーを置いた直後。

「アヴァダ・ケダブラ!」

おそろしい呪文の声が響き渡り・・・

「ジェームス!ジェームス!」

ジェームスが、、、ジェームスが、、、。悲しみと絶望に胸を引き裂かれたまま、そのへんの椅子や箱を、手当たりしだい、ドアの前に積み上げた。泣きたいけど、嘆いている時間はない。ヴォルデモートがやってくる。ハリーを殺しに。逃げ道もなく、どうやってを守ればいいの?ああ、せめて、杖を持っていれば。

ハリーを抱き上げて、しっかりと抱きしめた。こうしてこの子を抱けるのも、これが最後なのかという思いが胸を走り、それだけはダメ、この子の命だけは守ると誓う。ジェームスがしてくれたように、私が楯となってハリーを守る。けれど、けれどその後は?私が死んでしまったら、ハリーはどうなるの・・・

ドアの外で足音がとまり、積み上げたばかりの椅子や箱が音もなく動くのを、なすすべもなく見つめた。ドアが開いてヴォルデモートがあらわれた。その、恐ろしい姿。右手に握られた杖。

私はとっさにハリーをベッドに置き、かばうように両手を広げ、敢然とヴォルデモート前に立ちふさがった。けれど、、、杖もないこの状態で、邪悪な者の前にひとり立てば・・・愛も勇気もなんの力もないのだと思い知る。できるのは、、、

「ハリーだけは、ハリーだけは、どうぞハリーだけは!」

考える間もなく、すがるように叫び、懇願した。今にもあの呪文が唱えられ、すべてが終わってしまうのだと絶望に震える。けれど。

「そこをどけ、バカな女め、さあ、どくのだ。」

一瞬戸惑う。覚悟した呪文は、なぜか放たれなかった。なぜ?私にどけと?私を殺さないというの?ジェームスには死の呪文を投げたのに。消えかけた希望がよみがえり、必死にすがる。

「ハリーはやめて。どうか、お願い、私を殺して。代わりに、私を。」

「これが最後の忠告だぞ、、、」

「ハリーだけは!どうか、お願いです、お慈悲を、、お慈悲を。ハリーはやめて。なんでもするから、、、」

必死にかき口説きながら、どこか冴えた頭の隅で、ヴォルデモートには私を殺す気がないのだと考える。それならハリーも見逃してもらえるのではないか。けれど、ジェームスはすぐに殺したのに、じゃまする私をなぜ殺さずに、どけというの?

「どけというのだ、女、そこをどけ。」

めんどくさそうに繰り返すヴォルデモートの顔に思案する表情が浮かぶのを見た瞬間、疑問の答えがひらめいた。セブだ。セブが私を助けてと頼んだんだ。思いついてすぐにそれは確信にかわった。そして、ああ、あいかわらずセブはなんにもわかってない!助けてほしいのは私じゃない、ハリーなの。ハリーなのよ。私の命より、ハリーを。

目の前でヴォルデモートが、ゆっくりと杖を上げ始めた。おぞましく赤く光る目が私を見る。

・・・ハリーを助けて。お願い、ハリーを。

狙いに向けて、杖先が止まった。腕を広げ、その前に立つ。私が、受ける。この身に代えて、ハリーを。

どうか、ハリーを助けて。ハリー、愛しいハリー、ハリー、、、

「アヴァダ・ケダブラ!」

閃光が走った。

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tag : ハリーポッターリリーハリー

(過去3)1981ハロウィーン/序章2

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です。今回は原作の重要なネタばれを含んでいます。)

その夜は結局、一睡もできぬまま朝を迎えた。密告の決意をかためたことをルシウスに悟られないように、平静を装うのは苦しかった。けれど、リリーの窮地を思うといてもたってもいられない。大切なリリーの命を危険にさらすようなことを、なぜしてしまったのだと自分を呪う。

裏切りの不安と痛みを飲み込み、こみ上げる悔いと焦燥に駆り立てられて、ダンブルドアに知らせる手筈を考えた。デスイーターの僕に会ってくれるのか、会えば話もできずに殺されるのではないか、待ち合わせて出向けば不死鳥の騎士団の面々が待ち構えているのではないかと、次々に不安がよぎる。魔法省の魔法法執行部長のバーティ・クラウチが闇陣営との闘いにおける禁じられた呪文の使用を解禁してから、戦闘は熾烈を極めている。闇陣営側でもスリザリンからの友人のエバンとウィルクスが犠牲になったけれど、最近は騎士団側の死者や重傷者が相次いで、恨みは高まっているはずだ。そんな中、デスイーターが一人のこのこと出向いてゆけば、仇とばかり攻撃するか、捕えるかするにきまっているのではないか。

でも、そんなことにひるんではいられない。とにかく一刻も早くダンブルドアに会って、リリーの保護を頼まなければ、リリーが殺されてしまうかもしれないのだ。ホグワーツを訪ねても門前払いにされかねないし、闇陣営に知られる恐れもある。他によい手段を思いつかないまま、間抜けな気はしたけど、ダンブルドアにふくろう便を出した。どうしても知らせたいことがあるから内密に会ってほしい、人目につかないホグズミード村のはずれの丘で、夕刻以降何時まででも一人で待っているから、必ず来てくださいとしたためた。

夕方に屋敷を出て、指定した場所に向かう。日が落ちると、湿気を含んだ冷たい空気に霧が立ち込めた。会えるかという不安と、会うことの恐れにおののき、寒さに震えながらじっと待つ。突然、風が霧をはらい、ダンブルドアの姿が現れた。緊張と恐怖に圧倒され、杖を落とし、ひざまずく。

「殺さないでください!」

「そんなつもりはない。それで、セブルス、ヴォルデモート卿からなんの伝言じゃ?」

「伝言ではなく、私の意思で来たのです!警告することが、いえ、警告ではなく、お願いがあって来ました。どうか、、、」

「デスイーターがわしにどんな願い事があるというのじゃ?」

勢い込んで言いかけた言葉を、皮肉めいた口調で遮られた。僕に願い事などされる筋合いはないのだと釘を刺された気がして、ひるむ気持ちを奮い立たせる。

「予言です。トレローニーの。」

「ああ、そのことか。ヴォルデモート卿になんと伝えたのじゃ?」

「全てです!聞いたことすべて、そのままに伝えました。それで、、、だからダークロードはそれがリリー・エバンスだと考えています!」

「予言に女は出てきておらん。7月の末に生まれた男の子だと言っておる。」

「おわかりでしょう?リリーの息子だと考えているのです。ダークロードはリリーを倒し、皆殺しに、、、」

「おまえにとってリリーがそれほどたいせつならば、もちろんヴォルデモート卿は彼女を助けてくれるじゃろう。そう頼まんのか?」

「すでに、、、頼みました。」

「おまえは実にむかつくヤツじゃ。」

心底さげすむように言われて、身が縮んだ。

「それではリリーの夫や息子はどうでもいいわけじゃな?お前の望みがかないさえすれば、彼らは死んでもよいというのか。」

そんなこと、考えてもなかった。リリーのことで頭がいっぱいで。ポッターや赤ん坊のことなんて、できれば考えたくもない。だけど、なんとかリリーを助けてもらわなければ。ダンブルドアに断られたら、、、。

「では、家族全員を隠してください。リリーを、3人を安全な場所に。どうか。」

「それで、代わりにおまえは何をしてくれるというのじゃ、セブルス?」

「代わりに?」

一瞬意味がわからずダンブルドアを見上げた。冷やかな目が僕を見返す。だけど、なぜ?リリーはダンブルドアの仲間なのに。伝えさえすれば、ダンブルドアは当然仲間を守ってくれると思っていた。ダークロードを裏切って『予言の子』に関わる重要な情報を密告したのに、それだけではダメだと?いったい代わりに何をすると言えば頼みをきいてもらえるのか、何をしろと言われるのか、、、何かひどく、僕にとって恐ろしい要求をされているのだという感覚はあった。だけど、リリーを救うために必要なことならば。

「何でもします。」

「ようかろう。リリー・エバンスとその家族は、わしが最も安全な方法で隠してやる。」

「ありがとうございます。どうか、リリーを、3人を、必ず。どうか、急いでください。そちらに裏切り者がいる気配があるのす。誰かを締めあげれば居場所がわかると言いかけた者がいましたし、隠れているはずのそちらの陣営の動向が漏れています。どうか用心を。それで、、、私は何をすればよいのでしょうか?」

「ではさっそくじゃが話してもらおうか。そちらの陣営のこと、まずはデスイーターの名前からじゃ。」

「それは、、、私に仲間を売れというのですか?」

セブルス、わかっておらんのか。おまえはもう、わしのものじゃ。わしのスパイになるのじゃ。ルシウスの名を出したくないというなら言う必要はない、わかりきっておるからの。」

それから僕は、闇陣営について知る限りのことを言わされた。デスイーターたちの名前、会議の頻度や場所、標的としている者、魔法省で服従の術にかけられている者、最近のダークロードの動向など、次々に尋ねられ、少しでも言い淀むと厳しく問い詰められた。ダークロードは秘密主義で、僕の知らないこともあったけれど、問われるままに知る限りを答え終わった時には、自分が空っぽになった気がした。予言の子の情報を漏らしただけでなく、僕は仲間を売り、ここ数年信じて歩んできた自分のすべてを明け渡したのだった。言われた通り、僕はもうダンブルドアのもので、ダンブルドアは、ダークロードよりさらに抜け目なく、容赦ない人なのだ。それでも、これでリリーが助かるのならそれでいいのだと帰ろうとすると。

「これからおまえは、わしのスパイとして闇陣営の情報を探り知らせるのじゃ。すぐに伝えてもらわねばならんこともあるじゃろう。ふくろう便のやりとりなど、待ってはおれん。守護霊の伝令は使えるか?」

ダンブルドアに問われて戸惑った。

「デスイーターは守護霊を出すことはありません。」

「言ったじゃろう、おまえはもう、わしのスパイじゃ。今までは出さずとも、これからは出さねばならん。さあ、やってみるのじゃ。」

守護霊の呪文と出し方の知識はあるけど、したことのない術などすぐできるものかと思う。でも、ダンブルドアには従わねばならない。僕は足元の杖を拾い上げ、杖をかまえた。なんとか幸せな思い出を描こうとする。リリーを思い浮かべて。

「エクスペクト・パトローナム!」

唱えたけど、杖先からは何の気配もなかった。

セブルス、恐れるでない!恐怖や悲しみに打ち勝ち、憎しみや欲に汚されぬ、幸せな思い出だけが守護霊を呼べるのじゃ。集中してもう一度。」

厳しい声に押されて、再び杖をかまえた。それから、何度も何度も繰り返し。思い浮かべるリリーの姿はダークロードの死の呪文に揺らぎ、それならばとルシウスを思えば裏切りの痛みに崩れ落ち、気を取り直して子供の頃のリリーの記憶をたどればポッターやブラックへの憎しみがこみ上げた。

はたして僕に一点の陰りもない幸せな思い出などあったのか。リリーを窮地に陥れ、ルシウスを裏切り仲間を売って。僕の運命なのだ。物心ついた頃から不運が付きまとっている。どうあがこうと、親に見捨てられ、世界に拒まれて、暗闇にうづくまるばかりだった子供の頃から抜け出せはしないのだと投げ出しそうになったとき。

「あたし、リリー」・・・幼いリリーの声が浮かんだ。それから、傷ついた額にそっとあてられた小さな手。心配そうに僕をのぞきこむ緑の瞳。そうだ、あの闇の中の孤独な子供は、リリーに出会うことができたのだ。あの公園で過ごした日々を思い出すと、心に温もりが広がるように感じた。僕の魂に灯りがともされた、あの時。幾度となく僕を励まし、人生に立ち向かう勇気をくれた、幼いリリーの笑顔。しっかりとつないだ手。飽くことなく語り合ったホグワーツへの憧れ。

「エクスペクト・パトローナム!」

力強く振った杖の先から、銀色の光の粒が生まれ、一瞬、美しい動物の姿を成して消えた。ダンブルドアは目を瞬かせ、まるでその残像が見えるかのように少しの間空間を見つめた後、大きく息を吐いた。

「ほう、牝鹿か。」

「今のは牝鹿だったのですか?」

「わしには見覚えがあるのでの。セブルス、おまえは身勝手ではあるが、純粋に人を想う気持ちは持っておるようじゃ。」

ダンブルドアの表情から、はじめて、険しさが消えた気がした。ホグワーツの大ホールで時々見たように、眼鏡の奥の目にいたずらめいた色合いを浮かべている。ダンブルドアが軽く杖を上げると、輝く大きな不死鳥が舞い上がった。不死鳥は天空で向きを変え、僕の前に舞い降りて。

セブルス、術の練習に励むのじゃ。」

驚く僕の目の前で、ダンブルドアの声が告げ、不死鳥の姿が消えた。それからダンブルドアは、守護霊の伝令の伝え方をおしえてくれた。

僕は屋敷に帰ってから、一人部屋で、何度も守護霊の練習をした。心許ない影のようだった守護霊は、練習を重ねるにつれ、はっきりと大きな牝鹿の姿を描くようになっていった。試しに、「信じよ」と自分への伝言を託してみると、杖先から出た光の粒は優美な牝鹿の姿になって僕の前に立ち、「信じよ」と告げて消えた。美しい守護霊の発する声が僕のものであることにちょっと噴き出して、それから、この思い出がある限り、僕は過ちを償い、リリーを守るために立ち向かう勇気を持てると信じられる気がした。リリーの思い出がつくる守護霊が、リリーを守ってくれる気がして。それは祈りにも似た思いだった。

ダンブルドアとの密会のあと、僕の世界は一変した。闇陣営の集まりは、少し気詰まりするけど互いに受け入れあった仲間たちと過ごす場所から、緊張し警戒し探りを入れる気の抜けない戦いの場になった。それでも僕はむしろ前より積極的に、彼らの雑談の輪にも加わった。

誰かと話すたびに、僕はこの人を敵に売ったのだと後ろめたく感じ、同時に、いつリリーに害を加えるかわからぬ油断のならぬ相手なのだと警戒する。裏切りがばれぬよう閉心術を使いながら、リリーの居場所について何かつかんではいないかと言葉の端々まで検討し、また、ダンブルドアに伝えるべき情報はないかと探った。

やがてダークロードが姿を現して、とりあえず今この瞬間リリーは無事なのだと安堵に胸をなで下ろす。そんな内心の揺れをダークロードは感じ取ったのか、僕に目を向け、話しかけてきた。

「セブルス、この間は今にも死にそうな顔をして余のところに来たくせに、今日は元気そうだな。何かよいことでもあったか?女を得られると楽しみなのか?」

「わが君、そのようにからかわれてはお恥ずかしい限りですが、待ちきれぬ思いで待っております。」

「若い者というのは愉快なものよ。女ごときでそのように浮き立つとは。長くは待たせぬから楽しみにしておれ。」

「ありがとうございます。すでに何か手がかりでもあったのでしょうか?」

「うまく隠れておるつもりだろうが、あちらの動きなど早晩手に入る。時間はかかるまい。それよりセブルス、魔法省はもはや陥落寸前ゆえ、予言の子がかたつけばあとはダンブルドアの動きを封じるだけだ。女に浮かれてホグワーツに潜入する手筈を怠るでないぞ。」

「心得ております、わが君。学期中とはいえ、クリスマス前後には長期休暇や退職を希望する教授もいると思われますので、、、」

心を伝えようとすると言葉につまるばかりなのに、心にもないことであれば滑らかに口が動く。ダークロードは、褒美を楽しみに任務に励めと言って別のグループに移って行った。何気ない会話のさなかも、僕は細心の注意を払って閉心術を使っていた。開心術に長けたダークロードに対しては、単純に心を隠すのでなく、どうしても知られてはならぬことだけを幾重にも重ねた真実の壁の奥に隠しこむ。もし心をのぞかれても、閉心術を使っていると知られないように。

マルフォイ邸でルシウスと過ごしていると、閉心術を使う気苦労はなかったけれど、心苦しくて叫び出しそうになった。いつもと変わらぬルシウスに、偽りの姿で接することが苦しくて、すべてを打ち明け許しを請いたい衝動に駆られる。ルシウスはといえば、僕を疑わぬばかりか、僕が気になるだろうと言って、誰かから聞きこんだ予言の子に関わる話を伝えてくれたりするのだ。あちら側の裏切り者がデスイーターに加わっているらしい、ポッターに近い者のようだから、おまえの赤毛がおまえの自由になるのももうすぐだ、そうしたら私と赤毛とどちらを選ぶのだなどと、最後は冗談まで言われて、もう泣きたくなった。赤毛はそんなんじゃないとすねた口調で応じ、僕にはあなただけだと甘え、そんなことはわかっているなどと答えられるのは、闇陣営で閉心術を使って警戒しているよりも、ずっと気が滅入ることだった。

ナルシッサには、ルシウスに対してより用心が必要だ。ナルシッサはルシウスよりずっと細やかな心の動きを敏感に察知するし、日頃駆使するわけではないけど、ブラック家の魔力を持ち合わせ、開心術の心得すらあるかもしれないのだから。そしてなにより、可愛い赤ん坊のドラコを抱いたナルシッサの姿は、同じように赤ん坊を抱いているであろうリリーを思い描かせ、僕の心を揺さぶらずにはいない。その心の揺れを恐れて閉心術を使う僕を、嘘も偽りも知らぬ無邪気なドラコの目が見つめて笑いかけてきたりするのだから、たまらなかった。

裏切り者の僕は、マルフォイ家を出るべきだと思う。一方で、ルシウスの持つ情報力や僕への信頼は、リリーの命を陰ながら守るために必要なのだとも思い、こんな考え自体が冒涜だと自分が汚らわしく思えてならない。それでも部屋に戻れば、ルシウスから得た情報を、守護霊の伝令でダンブルドアに知らせた。ポッターの身近に裏切り者がいるなら、ダンブルドアによりいっそうの警戒を促さねばならない。

こうして神経を張り詰めた長い一日が終わる頃には疲れ切っていたけれど、今日1日リリーは無事だったのだと感謝した。僕のこういう1日が、リリーの命の1日なのであり、僕にできるのは、こんな日々を積み重ねてゆくことだけだ。そうしてリリーが無事に過ごしてくれるなら、ほかは些細なことだと思う。僕のせいでリリーが死んでしまうのを防げるのなら、嘘も偽りも緊張も罪悪感も、喜んで受け入れる。

夜ベッドに横たわると、心の深い奥底に閉じ込めていた感情がとどめようもなくあふれ出た。リリーの死への恐れ、そして予言を伝えてしまった悔い。できる限りのことをしているとはいっても、僕がしていることなどたかが知れている。デスイーター会議に出て、彼らの話を聞いて回り、そこにわずかでもリリーの身に関わることがないかと神経を研ぎ澄ます。それだけだ。いつ居場所が分かったと、襲撃を終えたとさえ聞く日が来るかもしれない。そんな話をきいても、その時にはもう、すべて終わりなのだ。食い止める手立てもなく、、、。考えると恐ろしすぎて、ダンブルドアにすがったのだから大丈夫だと自分に言い聞かせた。

ダンブルドアはもう、リリーを安全に隠してくれただろうか?もっとも安全に隠すと言ったのだから、『忠誠の術』を使うのだと思う。人の魂に秘密を封じ込めて守る『忠誠の術』。『秘密の守人』が明かさない限り、居場所はわからない。ダンブルドアその人が『守人』になってくれれば心強いけれど、そうでなければブラックだろうと、その名を浮かべた瞬間に怒りと憎しみがこみ上げた。あんな奴にリリーの命を預けるなんて。だけど、、、僕は生れてはじめて、ブラックを信じたいと思った。ブラックは最悪なヤツだがポッターとの友情は固かったはずだ。もしブラックがその身を盾にしてリリーを守ってくれるなら、あんな奴でも僕はこちらで陰から支える。たとえ僕の愚かな過ちを詫びる機会が得られないとしても、たとえリリーの笑顔がポッターとその子供に向けられるものであっても、リリーが生きてさえいてくれるなら、それ以上は望まない。

思ううちに心が波立つばかりで眠れない。気持ちを鎮めようと、ベッドから起き上がり、守護霊を出してみた。銀色に輝く光の一粒一粒に、リリーの勇気や慈愛が宿っているような気がする。守護霊に願いをかけて、ベッドに戻った。眠らなくちゃ。

リリー、どうか、無事でいて。

明け方近くにようやく訪れた浅い眠りは、死の呪文に倒れるリリーの姿で破られた。乱れた息をしずめ、恐怖に打ち勝つ勇気を願う。恐れと悔いを隠し、嘘と偽りで身を固め、神経を研ぎ澄ます1日が始まるのだ。僕のそんな1日が続く限り、リリーの命の1日が続くと信じて。

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tag : ハリーポッターセブルスダンブルドア

(過去3)1981ハロウィーン/序章1

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です)

「ところで、『予言の子』の身元が確定した。」

デスイーターの幹部会。ダークロードの言葉に、ちょっとしたざわめきが起こった。何の話だっけ?と隣にきいている者もいる。今まで議題に上ったことのない話だから。ダークロードはそんな気配に軽くうなづきかえして話を進める。

「知らぬ者もおるであろう。ダンブルドアに、余を打ち破る力を持つ赤子が7月の末に生まれるという予言が降りていたのだ。ダンブルドアを探っていたセブルスが手に入れた情報だ。そうだったな?」

軽く視線を投げかけられて、僕はうなづきかえした。もうずいぶん前のことだ。たしかドラコが生まれる少し前に、ダンブルドアの後をつけていて盗み聞きしたものだった。報告はしたけれどそれきり話に出ることもなく、ダークロードは予言など気にしないのかと思っていた。実際、そんな不穏な予言など気にする必要もないほど闇陣営の優勢は明らかなのだけど。むしろダークロードに名を上げられた僕を苛立たしげに見る視線のほうが気にかかる。ルシウスのおまけみたいな僕が幹部会に出るのを、快く思っていない人もいるのだ。そんな視線を跳ね返すように目線を上げた時。

「余は密かに調べていたのだ。該当する者が2人いて紛らわしかった。アリスとフランクのロングボトム夫妻に生まれた子ネビルか、リリーとジェームスのポッター夫妻に生まれたハリーという赤子か。」

不意をつかれて一瞬、耳を疑った。まさか!聞いたことが理解できず、理解することを拒み、、でも拒みきれない。ただ、ロングボトムのほうであってほしいと願うしかなく。

「わが君!そのような者はさっさと始末しましょう。」

「わが君、どうぞ私めにご命じください。赤子の首をひねってまいります!」

口々に声を上げるデスイーターを意に介さず、ダークロードはなかばひとり言のように話し続けた。僕はただ、リリーでないように、僕のせいでリリーが狙われるなんて、そんなことあるはずない。それだけは。息を飲み、言葉一つも聞きもらさぬよう全力を傾けた。

「余は慎重に考えたのだ。悪しき芽は育たぬうちに摘まねばならぬ。ネビルか、ハリーか、果たして余に抗う力を持つにふさわしき赤子はどちらかと。」

そしてダークロードはすっと首を上げ、宣言した。

「ハリーだ。ポッター夫妻の息子、ハリー・ポッターこそ予言の子。時宜を逃さず、余、自ら襲撃する。」

私もおともさせてください、私も、私もと叫ぶデスイーターたちを制し。

「襲撃に助けは要らぬ。余に抗うと言うのだから、余が始末をつけるまでのこと。皆はポッター一家の居所を見つけ出せ。近頃、不死鳥の騎士団の者は逃げ隠れがうまいようだが。どうだ、今この場でポッター一家の居場所を言える者はおらぬか?なによりの手柄となるぞ。」

リリーが、、、リリーが、、、僕のせいで。僕はなんということをしてしまったのか、、、。

「ポッターはここ1年ほど、めったに姿を見せません。わが君の威力を恐れて隠れているのでありましょう。」

「ポッターは襲撃に出ていた頃からすばしこいヤツでした。あとを追っても突然消えてしまうのです。」

「わが君、あやつを締め上げては、、、」

「もうよい。誰もわからぬということだな。だがそのように皆が熱心であれば、必ずや近いうちによい報告を聞けると信じておるぞ。」

衝撃と悔いに崩れ落ちそうになるのを留めるのが精いっぱいなのに、ポッター、ポッターと聞きたくもない名が連呼され、傷口が裂け血が噴き出すように憎しみが湧きあがる。なぜリリーはポッターの子など産んだのか、あんなやつの子など産むから、、、ああ、でも今はポッターなんかどうでもいい。すべては僕が予言を知らせたばかりに起きたことなのだ。まさか、リリーがその予言に関わるなんて、考えもしなかった。

うなだれる僕をかまわず時間は進んでゆく。ダークロードがもう一度、きっぱりと宣言して話を終えた。

「ポッター家の所在がわかりしだい、余が、自ら襲撃する。皆はやつらの隠れ家を見つけだせ。」

その後何か、打ち合わせか他の議題か、会議は進んでいたけれど、僕は一歩も進めなかった。ただ、リリーが襲撃されるのだと。僕のせいでリリーが襲撃される、、、その結果など恐ろしくて考えたくもない。リリーのこととわかっていれば、ダークロードに予言の話なんか伝えなかったのに。

ダークロードが腕を上げて解散の合図をし、皆その場を立ち去った。デスイーターたちは手柄を求め、競ってリリーの居場所を探すだろう。誰かを締め上げればいいと言う者もいた。心当たりのある者さえいるのなら、残された時間はわずかしかない。このまま事が進めばリリーは襲撃を受け、ダークロードの手にかかってしまう。それだけは食い止めなければならない。なんとしても。

僕は意を決してダークロードのもとに歩み寄った。足元の覚束なさは隠しようもなかったけれど、かまってはいられない。

「わが君」

「なんだ、セブルス?浮かぬ顔だな。」

僕は崩れるようにその足元にひざまずいた。

「わが君、どうかお願いでございます。リリーを、予言の子の母親の命をお助け下さい。」

「母親の命をとな。理由を申してみよ。」

「はい、申し上げます。リリーは私の幼馴なじみでございました。」

「母親はマグルときいておるぞ。」

「私は幼い頃、マグルの街に住んでいました。母は純血の魔法族ですが、父親がマグルなのです。リリーは、そこで初めて会った魔女でした。もう数年来親交はありませんが、幼い頃はただ一人の友達で、いっしょに魔法の鍛錬をして、、彼女の死は、彼女を見殺しにすることは、とても私にはできません。私自身、助けてもらったこともあり、いつもリリーはやさしくて、、、」

言葉が途切れれば突っぱねられるような気がして、ダークロードのローブの裾にすがらんばかりに必死に話し続けたけど、こみ上げる感情と焦りにしどろもどろになってゆく。いつだって大事なとき僕の口は思うように動かない、、。

「わが君、母親などどうでもかまわぬではありませんか。予言は赤ん坊だけなのでしょう?セブルスの願いをお聞き届けください。予言を知ることができたのもセブルスのはたらきによるもの。手柄の褒美ということにしてやっていただけませんか?」

気がつくとルシウスが僕の隣にいて、落ち着いた声で口添えをしてくれた。

「母親が純血の魔女で、父親がマグルか、、、。セブルス、顔を上げて余を見よ。」

見上げるとダークロードが僕の目を覗き込んできた。鋭い視線が頭の中を這いまわる感触は、開心術だとすぐわかった。逃れるすべはないのだから、ただ目を見開きすべてを曝した。僕の心には何が見えるのだろう。リリーと初めて会った公園か、林の中で語らう景色か、ポッターの嫌がらせに引き裂かれ、みじめに打ちひしがれる姿か、、、

息詰る時間が過ぎて、ダークロードの視線がふっと緩んだ。

「よかろう、セブルス。ルシウスの言うとおり、母親などどうでもよい。おまえの望み通り、女の命は助けてやろう。襲撃の後には、おまえの好きにするがよい。」

鷹揚な言葉に緊張がとけ、力が抜けた。ダークロードの足元ににじり寄り、感謝と服従の口づけをする。

「ありがとうございます。わが君、心よりお礼申し上げます。」

ダークロードが去っても、しばらくは身動きもできずうずくまっていると、ルシウスが肩を抱えて立ち上がらせてくれた。

「セヴィ、さあ、もう大丈夫だ。家に帰って休め。今日は私もこのまま屋敷に戻る。」

「ありがとう、ルシウス。助かった。あなたが口添えしてくれたから。」

「私はいつもお前の味方だ。それにしても、いったいどうしたというのだ?ダークロードの機嫌がよかったからよいようなものの、機嫌を損ねれば反逆と疑いをかけられかねぬことをして。おまえらしくもない。そんなに大事な女なのか?」

答えられるはずもなくうなだれていると。

「グリフィンドールの赤毛か?」

僕は小さくうなづいた。問い詰められるかと思ったけど、ルシウスは何も言わず、肩に回した腕で僕を促し、そのまま屋敷にアパレートした。

マルフォイ邸に着くと、予定より早い帰宅に驚くナルシッサと、その腕に抱えられてはしゃぐドラコを軽くいなし、僕が風邪をひいたのだと言ってルシウスは部屋まで付き添ってくれた。ルシウスが運ばせた温かいお茶と消化のよい食事をとり、ようやくショックが和らいだ。

「落ち着いたか、セヴィ?顔色がよくなった。」

「うん。」

ベッドに並んで腰かけて、ルシウスの肩に頭を預けていると、初めてルシウスに抱かれた頃のような、なんとも甘ったれた子供じみた気分になるのを抑えようがない。何を悩むこともなく、こうして身をゆだねていればいいのだと思いたくなる。そう思っていられたらいいのに。

「今日のおまえには驚いたが、、、まあ、よい。ダークロードが聞き分けよく言うことをきいてくれてよかったではないか。母親の命は助けると言ってくれたのだから、もう心配することはない。安心して休めるだろう?」

「うん、よかったよ。あなたのおかげだ。」

そう言ってルシウスの胸に顔をうずめた瞬間に、対峙するダークロードとリリーの姿が頭をよぎった。

・・・ダメだ。安心なんてできない。ダークロードが赤ん坊を襲おうとすれば、リリーは必ずその前に立ちふさがる。

ポッターたちにいたぶられる僕に気づくと、リリーは必ず駆けつけて僕をかばい、勇敢に彼らの前に立ちはだかった。同じ凛とした態度で、いや、それ以上に、捨て身の覚悟で赤ん坊をかばい、ダークロードに立ち向かうはずだ。たとえどんなに絶望的な状況であろうとも。そしてダークロードは、リリーが邪魔立てしてもなお、僕との約束を守るほどの忍耐を持ち合わせているとは思えなかった。そうなれば、、、

リリーは、、、。あの、迷いなき杖先が、まっすぐにリリーを狙い、、、。頭の中に、あの容赦ない呪文と赤いせん光が走り、息を飲んだ。ダメだ、それだけは。ルシウスに気づかれぬようにと身を固めたけれど、湧きあがる恐れと不安はとどめようがない。世界が揺らぎ、粉々に壊れてゆく。僕のせいでリリーが殺されるなんて。

「やはり疲れているのか?もう寝たほうがよい。」

ルシウスが気遣ってくれて、2人並んでベッドに横になった。いつも僕に安らぎを与えてくれた腕に抱かれても、心が鎮まることはない。

なぜあんなことをしてしまったのだろう。予言をきいて、得意げに報告し、、、。悔いがこみ上げ、打ちのめされた。ほかならぬこの僕が、リリーの窮地を招いたのだ。だけど、、、なんでリリーはポッターなんかの子を産んだのだ?あんな奴の子を生むからこんなことになって。ポッターを思い出すと憎しみが湧きあがり、、、だけど、僕があの予言を告げなければ。予言がリリーに関わると知っていたら、けっして報告なんかしなかった。そうだ、これは罰だ。僕が浮かれて、リリーのことを忘れてたから。いや、忘れてたわけじゃない。強くなって、立派なデスイーターになれば、いつかリリーも僕をみなおして、帰って来てくれると思っていたのだ。愚かにもそう信じ、、、そう思いたかっただけかもしれない。僕は間違っていたのか?この事態を思えば、答えはあきらかだ。僕のせいでリリーが殺される。僕なんか、いなければよかった、、、生まれてきたのが間違いだったんだ、、、僕なんかいなければ、きっとリリーはいつまでも笑って過ごせたのだ。リリーのいない世界なんて、何の価値もない、、、

留まることなく湧き出でる悲しみと憎しみと悔いの連鎖に疲れ果て。

そしてようやく、後悔などしている場合ではないと悟った。僕が嘆き、ぐずぐずと自分を責めている間にも、ダークロードの手がリリーにかかるかもしれない。手遅れになる前に、なんとかリリーを助けなければいけないのだ。僕の命に代えても、リリーを守らなければ。

リリーを襲うダークロードの前に、僕が立ちふさがることを考えてみた。リリーが何度も僕にしてくれたように、今度は僕がリリーをかばう。命がけの償いは一瞬、甘やかな夢に思えたけれど、心の中で首を振った。そんなことしても意味はない。僕ではとてもダークロードにかなわない。死体が一つ増えるだけだ。

それならルシウスに頼んでみようか?ルシウスはリリーを知らないから、今は、ダークロードの口約束で問題は解決だと思ってる。リリーは必ずダークロードに逆らうはずだとすべてを打ち合け、僕と一緒にリリーを守ってほしいと頼んだら?でもそれもすぐに否定した。ルシウスは力もあるし僕にやさしいけど、無意味なことをする人じゃない。いつだって冷静に事態を判断する。僕がどうしてもダークロードに立ち向かうなどと言い出せば、バカを言うなとペトリフィカス・トタルス(石になれ)でも唱えかねない。それに、考えてみれば、仮にルシウスが僕に賛同してくれるとしても、こんな危険に巻き込むべきではない。ルシウスに留まらず、ナルシッサやドラコの身にさえ危険が及ぶのだ。ドラコの無邪気な笑顔を思い浮かべ、僕は大きく首を横に振った。

こんなのはただ、逃げてるだけだとわかってた。事態は僕やルシウスの力を超えている。リリーの命を守ることのできる人がいるとすれば、ただ一人。ダークロードに勝る力を持つ、もっとも偉大な魔法使い、ダンブルドアだけだ。リリーはダンブルドアの仲間なのだから、この危機を知れば、きっと守ってくれるはず。

でもダンブルドアに密告すれば、それは明らかな裏切りになる。ダンブルドアは、闇陣営がもっとも憎み、警戒する敵の首謀者なのだ。裏切りは死で購うのがデスイーターの掟。それに従い、僕は殺されるのだろうか?一瞬浮かんだ命への未練はすぐに消えた。僕の犯した過ちは、死に値する。死んで償えるなら、死ねばいい。だけど、ルシウスを裏切ることにもなるのだと思うと、胸が痛んだ。信じて一緒に歩んできた今までのすべてを裏切ることになる。その未練は断ちがたく、僕もルシウスみたいに、ダークロードの約束を信じて楽天的になれたらいいのにと願った。

隣ではルシウスが安らかな寝息をたてていた。僕が今持つすべてを与えてくれた人。僕を愛し、守り、信じてくれる人。慣れ親しんだ肌の温もりも、力強い心臓の鼓動も、すべてが愛おしく、それは僕の人生に与えられた奇跡のような恵みなのに・・・。

だけど、ごめんなさい、ルシウス。僕はあなたを裏切ることになる。僕のせいでリリーが死ぬのを受け止めることなんてできない。

これから僕はあなたに嘘をつき、あなたの陣営の未来を敵に売る。あなたを想えば耐えがたいことだけど、リリーの命にはかえられない。リリーは僕の魂に命の灯をともしてくれた。あなたを慕い信じることができるもの、リリーのおかげだ。もし僕がこの手で危機に追いやったリリーの命を見捨てれば、その罪は僕を内側から蝕み、食い尽くし、僕は魂の抜け殻となり果てて、あなたを愛する力も失ってしまう。僕を許してほしいとは言わない。僕だってあなたを裏切る自分を許せない。だけど僕にはこの道しかないんだ。

そして。

リリー、こんなふうに君を呼ぶのは久しぶりだよ。僕は君の姿を見失い、愚かな過ちを犯してしまった。ほんとうにバカなことをしたと、自分が呪わしくてならない。君の命を危険にさらすことになるなんて、思ってもみなかったんだ。してしまったことはどうにもできないけど、これから僕は、君の命を守るために全力を尽くすと誓う。どうか、リリー、君を守る力を、僕に与えて。為すべきことを為す勇気を、僕に。

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tag : ハリーポッターセブルスルシウスリリー

お知らせ

先日「妄想のまよい」のエントリで書きましたように、原作の理解に間違いがありました。
できるだけ原作に描かれた事実に矛盾しない範囲で妄想したいと思っていますので、(過去3)の妄想物語3回分を、いったん消去します。

修正後に、順次再アップしていく予定です。

読んでくださった方、拍手してくださった方、すみませんm(__)m

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妄想のまよい

ハリーポッターの原作は大好きなので、
妄想する際も、できるだけ原作に描かれたことと矛盾しないようつとめているのですが、
ハリーが生まれてから、
ジェームスとリリーが殺されてしまったハロウィーンまでの、
出来事の推移がどうも整理できなくて困っています(>_<)

わかる範囲で並べてみると、こんな感じになります。

・(↓の前のいつか 予言をセブが盗み聞き、ヴォルに報告)
・1980年7月31日 ハリー誕生
・1980年10月31日前後 ピーターが闇陣営側に寝返る(第3巻、叫びの屋敷でのシリウスの言葉、1年前から裏切ってた)
・1981年8月頃 ピーターがゴドリックの谷のポッター家に来た(ハリーの誕生日後にシリウスに送ったリリーの手紙)
・1981年10月31日 ハロウィンの襲撃

この中のどこかに、下の2つが入るわけです。

・セブが予言の子がリリーの子だと知り、仰天してダンビにリリーを隠してくれと頼み、以後ダンビ側に寝返る
・忠誠の術でポッター一家が隠される

私としてはなんとなく、
ピーターが寝返った前後に上記の2つが起こったように思っていました。

第3巻でシリウスがピーターにむかって、
1年も前から裏切ってジェームスたちの情報をヴォルに流していた ようなことを言ってます。

わざわざジェームスたちの情報を流すということは、
すでにジェームスたちを予言の子一家としてヴォルが探してた印象を受けます。
ハリーが生まれて3か月後なので、ヴォルがそろそろハリーを予言の子として特定してもおかしくはない時期です。

それから1年もジェームスたちは殺されてないので、
ピーターが裏切ったのと同じ頃にセブも寝返ってリリーの危機をダンビに知らせ、
ポッター一家は忠誠の術で隠されていたから見つからなかったと思ってたんです。

ピーターは少なくともハリー1歳の誕生日頃にはポッター家の居場所を知っていましたが、
この時はシリウスが秘密の守人だったので、
ピーターはポッター一家の居場所を知ってたけど秘密をヴォルに知らせられなった。
が、1981年ハロウィンの少し前に秘密の守人をピーターに変えたから、密告されて襲撃を受けたと。

この推移だとすると、セブはリリーの危機を知ってから、
1年ほども寝返ったダブルスパイとして密かにリリーの無事のために尽くしてたと思っていたのですが。

このへんの妄想話をUPするにあたり、一応、原作を確認してみました。

第3巻、マダム・ロスメルタのお店、『三本の箒』で、
シリウス・ブラックの脱獄逃亡について語られるのをハリーたちが盗み聞きします。
話してたのは、ロスメルタ、マクゴナガル先生、フリットウィック先生、ハグリッド、ファッジ大臣です。

で、彼らの話は、
ダンブルドアがスパイ(たぶん仰天したセブ)からジェームスたちがつけ狙われてるのを知らされて、それを伝え、忠誠の術で隠れるよう勧めた。
ジェームスはシリウスを秘密の守人にすると言い、
ダンブルドアはその少し前から味方の誰かが裏切って情報を流しているのを知ってたから心配していたが、
ジェームスはシリウスなら絶対裏切らないと言って、

と流れ、その後、

ファッジ大臣 And then, barely a week after the Fidelius Charm had been performed -
ロスメルタ  Black betrayed them?
ファッジ大臣 He did indeed.

忠誠の術をかけてわずか1週間たらずで、シリウスが裏切って(ジェームスたちが襲撃を受けた)と言っている。
実際にはシリウスじゃなくてピーターが秘密の守人だったわけですが。

てことは、セブが仰天してダンビのもとにかけつけたのも、
その1週間前の少し前くらい?
ダンビも情報を得てそう長く放置はしてないだろうから。

ということは、ピーターは1年も前からヴォル側に情報を流してて、
少なくとも8月頃(ハリー1歳の誕生日前後)にはゴドリックの谷にリリーたちがいるのを確認してて、
実際にはその前も別にジェームスたちの居所はピーターに隠されてなかったろうに、
自分が秘密の守人になるまではヴォルにおしえなかったってこと、なのかな。

あるいは、リリーがシリウスに宛てたハリーの誕生日祝いのお礼の手紙に、先週ワーミーがうちに来たと書いて送ったのは、
誕生日直後の8月じゃなくて、10月の忠誠の術がかけられた頃だったんでしょうか?
それまでずっとピーターはリリーたちがゴドリックの谷のポッター家にいると知らなかった。
秘密の守人になって居場所が分かり、ヴォルに告げたのか。

それとも、たまたまピーターはジェームスたちのことをよく知ってたからその情報を流してただけで、
ヴォルが予言の子を、ネビルか、ハリーか迷ってて、
1981ハロウィンの少し前になってやっとハリーだって決めて居場所を知りたがったってことかな。

混乱してしまいましたが、とすると、
いずれにしても、セブは仰天してからわずか1、2週間で悲報に接したってこと(;O;)

ピーターの情報で危機に陥るリリーの一家を、
ダンビと連絡取りながら陰で守るセブの活躍、とかを妄想したかったんだけどな。
というか、してたんですが(;O;)

うーむ、いったいどこで勘違いしてしまったのか。
シリウスが秘密の守人になってた期間はなかったんでしょうか?
あったとしても、1、2日ですぐピーターに変わったんでしょうか?
リリーの手紙では、けっこう長いことゴドリックの谷のポッター邸に隠れ住んでいた印象ですが、
忠誠の術がかけられたのは最後の1週間だけってことなんでしょうか?

長い原作で(しかも英語本しか持ってない)、
時々誰かの話や回想に出てくる当時の話を拾いだして確認するのはたいへんで。

どなたか、この件の時間の経緯をすっきり理解(推測)してる方がいたらおしえてください。

というわけで、この時期の妄想、やりなおしかも^^;

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tag : ハリーポッター忠誠の術秘密の守人

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