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セブルスとルシウスの物語(6)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


「セックスというのは単純な快楽だけではないよ。実はなかなか複雑なものなんだ。」

幾夜か体を重ねた後、ジャン・ピエールが話し始めた。ピロートークにはふさわしくない真面目な顔で。だがボクは彼とかわす大人びた会話も気に入っていた。

「どういう意味だ?キミはまったく貪欲に快楽を追い求めていたように見えたのだが。」

「僕とキミとの交わりでは概ねそんなものだが。それでも、あとわずかでフランスに帰り、キミとの交わりが絶えることを思うと僕は寂しいよ。」

「キミは帰ってしまうのか。それはボクも寂しいな。」

「そう言われると嬉しいね。つまり僕たちのセックスには感情が絡んでるってことだ。」

「エスコートクラブの魔女たちには感じなかった。」

「そう。彼女たちとの交わりに絡んだのは、感情ではなくて金さ。金を払って快楽を得るもっとも単純なパターンだ。金に困らない僕たちは好きなだけそれを味わえるのだけど、感情が絡むセックスとなると事はそう簡単にはいかない。それだけ味わいも深いのだけどね。」

「たしかに、こうしてキミといるのは、エスコートクラブでのことと違う感じがする。」

「キミがそう思ってくれたなら嬉しいよ。僕なんて、数年前からキミが大人になるのを待っていたんだぜ。」

「告白しているのか?」

「そうとってくれていいよ。キミの高貴な美しい顔がどんな表情を浮かべるかとか、どんな姿態をとらせようかとか、妄想してたんだ。だから念願かなってキミを抱いた時の感慨もひとしおというものさ、わかるだろう?」

「悪趣味なヤツだ」

「そう言うなよ。キミを手放すことを思うと泣きたいばかりさ。まったくキミは素晴らしいから。」

「そう思うなら手放すな。ボクはキミと離れたいなんて思っていない。」

「だけど僕はフランスに帰らなければならない。キミだって夏休みが終わればホグワーツに戻るだろう?」

ボクはジャン・ピエールの体を抱き寄せて、それから2人で交わした会話を思い、こんな時間がもう終わりに近づいていることを許しがたく思った。楽しかったホグワーツの生活がつまらないものに思えてくる。欲しいものが手に入らないなんて、そんなことにボクは慣れていない。

「そんなの、いやだ。」

抱き寄せた腕に力を込めると、ジャン・ピエールはボクに軽いキスをして言った。

「僕だっていやさ。だけど現実的に考えて割り切るんだ。感情が絡むセックスというのは、ある意味カラダも心も相手に与えるということ。だから時に執着を生み、執着が強すぎるとそれに支配されてしまう。セックスには、時に、富や地位と同じように、人を支配する力があるんだよ。キミは何かに支配されるのなんて、いやだろう?」

「もちろんだ。ボクは支配する者であって、される者ではない。」

「それでこそキミらしい。合理的に考えることさえできれば、支配されることなく楽しむことができるよ。そればかりか、利用することもできる。思慕と快楽を与えた相手はもとより、嫉妬や恥辱や恐れのようなネガティブな感情の絡むセックスだって、、、」

「相手を支配する力を得られると?」

「その通りさ。」

「それはわかったが、、、キミのように執着できる相手を失うのはやはり残念だ。」

「嬉しいな、ルシウス。それは僕の告白に対する返礼と受け止めておくよ。離れたって僕らは心を許せる友達さ。キミが僕に執着を感じてくれるのは、僕が感情がらみの初めての相手だから。これからキミは自分でそんな相手を見つけたり育てたりしていけばいいんだ。そんな相手を見つけたら話してくれよ。僕も手紙を書くから。」

ボクはうなづいて、それからジャン・ピエールとのように楽しめる相手を頭の中で探してみた。寂しいと思ったところで、彼が言うとおりボクはまもなくホグワーツに戻るのだから。だが親しい仲間たちを考えても、何かと近付きたがる女子たちを考えても、単純な快楽以上を望めそうな相手は思いつかなかった。

「キミが言うとおり、感情がらみのセックスとなると、ことは簡単ではないな。」

ため息交じりに言うと、ジャンピエールが笑いながら言った。

「キミはほんとに合理的だね。さっそく割り切って僕の代わりを考えてみたんだろう?急ぐことはない。探す過程も楽しいものだぜ。キミはこのことを知ったばかりなのだから、いろいろ試して楽しめばいいのさ。幸いキミは相手の性別かまわず楽しめるようだし。」

「男でも女でもよいのは幸いなことなのか?」

ボクが言うと、ジャンピーエルは探るような目でボクを少し見た。

「、、、キミに話してもよいものかどうか考えていたのだけど。」

饒舌なジャンピエールの口ごもる気配に少しいら立った。ボクを子供扱いしているのか?

「何のことだ?ボクたちはいろいろと話して楽しめる友達なのだろう?」

「ああ、ルシウス。だけどキミの家の事情、父上に関わることだから。いづれ誰かの口から耳に入るだろうから僕が伝えておくのがよいと思うのだけど。」

「そう思うなら話してくれ。ボクも他の者よりキミの口から聞きたい。知らぬところで家の事情をあれこれ言われるのはおもしろくないことだ。」

「キミの父上、マルフォイ氏の性的志向のことなんだけれど。つまり、、、女に興味を持てないらしい。」

「それが問題なのか?女に興味が持てないなら男と寝ていればいい。父上はなんだって自分の思い通りにできる方だ。」

「それはそうなんだけどね、マルフォイの血をひく跡継ぎを得るには問題だったのさ。」

「跡継ぎ?でも、、、ボクがいる。」

話が突然ボク自身のことに及ぶことに気づき、少し狼狽した。亡くなったばかりの母上の幸せとは言えない日々も頭をよぎり、なぜか急に自分が幼い子供のように頼りなく感じられた。そんな表情が現れたのだろうか。ジャンピエールはそっとボクの髪を撫でた。

「少し長い話になるよ。誰が悪いわけでもないけれど、悲しい話なんだ。貴族の家では血を継ぐこと、婚姻により家同士を結ぶことがとても重視される。だから子供が年頃になると結婚の圧力がかかる。僕もそうだけれど、成人するのを待ち構えたように、周りが縁談をせきたてるんだ。マルフォイ家もしかり、キミの父上も20になるかならないかで最初の結婚をした。」

驚いて目を見張るボクにうなづきながら、ジャン・ピエールは話を続ける。

「当時マルフォイ家は今ほどの勢いはなかったけれど、マルフォイ家以上の名家と結ぶ縁談だったそうだよ。けれどその良家から来た花嫁は数カ月もせぬうちに実家に帰ってしまった。マルフォイ氏が夫の役割を果たせないのだと言われた。昔は今以上にゲイに対する偏見が強かったから、それが明らかになれば揶揄や嘲りの対象になった。なんとなく想像はつくね?

お父上はその後長いこと結婚することなく、権力や財を蓄えることに力を注いで、マルフォイ家は名家にのし上がった。男色と陰口を叩かれようが、気にする必要もないほどの富と力を得たわけさ。そうして50も近くなった頃、跡継ぎのことを考えたのだろうね、キミの母上を迎え入れた。古い貴族の家だけれど、落ちぶれて困窮した家の娘さんだったそうだ。まだ年も若く、当時のマルフォイ家の事情など知らぬまま嫁がれたのだろう。そして1年も過ぎぬうちにキミが生まれた。飛ぶ鳥落とす勢いのマルフォイ家に跡継ぎが誕生したことは、貴族界の大きなニュースになったそうだよ。」

「それなら、父上は問題を克服されたということだろう?」

「ああ。けれど当時は陰であれこれ言われたそうだ。怪しげな魔法薬を使ったとか、魔術で一時的に女体を男に変えていたのだとか、中には父親はマルフォイ氏の恋人なのだとか、やっかみ半分にあれこれとね。でも今のキミを見ればわかるように、そんなことは一切なく、お父上は健康で優れた血筋を伝えるために最大の努力をされたのさ。そして言われもない中傷がキミを傷つけないように、完璧な跡継ぎ教育をされた。けれどお母上に対しては、、、もうそれ以上の努力はできなかったのだろうね。若い母親は当然のように、夫に愛され、ともに子を慈しむ温かい家庭を望んだのだろうけど。」
 
疎まれ、壊れて、忘れ去られた人形・・・。事情がわかればなおさらに、生前の母上が哀れに思えた。

「母上は、、いっそ家を出れば幸せになれたかもしれないのに。」

「そうなんだ。マルフォイ氏は、愛し求めることはできなくても、跡継ぎを産んでくれた若い妻にそれなりに報いたいとは思っていたはずだ。家を出るといえば暮らしに困らぬだけの援助はしただろうし、マルフォイ家の奥方として贅沢に遊んで過ごしたいといえば許しただろう。家名を傷つけるほどのスキャンダルを起こさなければ恋人の存在さえ黙認したと思う。

だけど実際には、社交の場に連れて出ると人前でなじられたり、突然泣かれたりして、ほどなく母上が公けの場に出ることは一切なくなってしまったそうだ。現実を受け入れて、キミの言うような合理的な判断ができる強さがある女性ならよかったのだけれどね。あるいは誰かの助けがあれば。けれど貧しい実家に頼ることもできず、孤独に心を病んでしまったのだろう。」

「、、、。話してくれてありがとう、ジャン・ピエール。今日は一人で静かに考えたい。」

気遣うようなジャン・ピエールの目を感じながら、ボクは自室に戻り、幼い頃の思い出をたどった。事情がわかれば不思議に思ったことも合点がゆく。共に子を為した父上と母上は、その後同じ屋敷で互いに関わらぬ別の道を歩んだのだった。父上は得られるものを得ることに力を注ぎ、母上は得られぬものを求めて嘆き、同じだけの交わらぬ年月が過ぎた。

母上がはかない生涯にただ一つ遺したマルフォイの血。偏見を跳ね返し父上が築き上げたの富と力。ボクはそれを受け継いで生きていく。それらを守り、強め、存分に享受して。

それからまもなく、ジャン・ピエールは別れを惜しみ再会を約束してフランスに帰っていった。長い夏休みが終わり、少し大人になってボクはホグワーツに戻った。


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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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