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セブルスとルシウスの物語(8)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


温室の裏から禁じられた森に続く林。小路からそれた岩陰に着いて、僕は腰を下ろした。ここはほとんど人の来ない秘密の場所。放課後の木漏れ日を見上げて幸せがこみあげる。

やっとホグワーツに帰ってこられたんだ!

昨日の入学式を終えて、今日から2年生の授業が始まった。


「セブ!セブ!」

リリーが手を振りながら、息を切らして走ってきた。

「授業のあとで友達に話しかけられて遅くなっちゃったの。待った?」

「ぜんぜん。僕も今来たとこだよ。」

「ビンズ先生の授業ときたら去年と同じ、教科書を読んでいるだけなの。眠いのを我慢するのに苦労するわ。」

リリーがハンケチで汗を拭いながら言った。僕もローブの袖で汗を拭った。木立の中とはいえ、僕も待ちきれなくて急いで歩いた後だから、少し汗ばんでいる。

「セブったら、夏なのにローブのボタンをきっちりとめて。こうしたら涼しくなるわよ。」

リリーが僕のローブの袖口のボタンをはずして、止める間もなく袖をめくり上げた。

「・・・!」

驚いてリリーが息をのんだ。手首に残る、黒いあざ。内出血のあと。

「なんでもないんだ。」

僕はあわてて袖を戻そうとしたけれど、リリーはそれを押しとどめて、肩まで袖を上げていった。リリーの顔が、泣きそうに歪んでいる。

「なんでもなくはないわ、セブ。腕があざだらけじゃない。血が出てるとこもあるわ。お父さんに叩かれたの?」

僕は小さくうなづいた。こんな自分が情けなくて、いたたまれない。夏休みに帰った家で、父さんは前にも増して荒れていた。僕は目に付かないようにできるだけ小さくなって過ごしていたのだけど、些細なきっかけで、時にはきっかけすらないまま、何度も殴られた。

マグルの酒飲みなんて、杖の一振りでどうにでもできるけど、僕はずっと我慢した。我慢していればホグワーツに戻れるんだから。でも翌日はついに戻れるというその夜も、物乞いでも魔法でも使って酒を持って来いと絡まれた。ホグワーツの生徒は校外で魔法を使ってはいけないんだと言い返したら、この役立たずの化け物がと、腕をつかんで引きずり回された。あとはなんとか顔を傷つけられないように防いだことしか覚えていない。

体中の痛みに気がつくともう明け方で、母さんに出かける準備をするよう促された。ホグワーツに戻る準備などもう何日も前にしてあったから、出発までの間僕は一生懸命治癒呪文をかけて傷をふさいだ。自分では背中の傷はどうしようもなかったけど。母さんは僕の頭を撫でたきり、何もいわずにキングスクロスの駅に送ってくれたのだった。

「ちょっと腕をつかまれただけだよ。」

言いながら袖を下ろすと、リリーがボタンを留めてくれた。

「魔法薬を作ってあげる。痛み止めと内出血を早く治す薬よ。ほら、あそこのマジカルミントを使えば、授業で習ったより効き目のいいものを作れると思うの。この林の植物には不思議な力があるって感じるのよ。スラグホーン先生に実験室を使わせてもらえるように頼んでみるわ。」

「キミが言えばスラグホーン先生は許可してくれるよ。魔法薬学の成績、よかっただろ?」

「うん。あたしには魔法薬のひらめきがあるって褒めてくれた。実は自分でもそう思うの。でもセブもすごいわ。材料植物のよい物を選び、完璧に処理できる。実験を繰り返して工夫を重ねてゆけるのも尊敬してるのよ。」

「じゃあ、僕たち2人、魔法薬学の優等生だね!」

嬉しくなって、、、体の痛みも忘れるほどに、、、僕は笑いながら言った。

「マジカルミントは日が上がらないうちに摘むのがいいんだよ。明日の朝、僕が摘んでおくから。」

「じゃあその後、朝食の前に一緒に調合しましょうね。戻ってスラグホーン先生にお願いしなきゃ。もう行きましょう、セブ。」

僕たちは手をつないで林の小路に戻り、城に向かった。リリーとホグワーツ。ホグワーツとリリー。僕の宝。僕のすべて。ホグワーツでリリーとともに歩く。足取りは軽くなり、自然と頬がほころんだ。夏休みの2ヶ月間ほとんど忘れていた、弾む心。


その時。

突然何かが飛んできて僕の頭に当たった。それはどろりと溶けて、髪に粘りついた。泥の固まりと、中にねばねばと粘つく緑色の粘着玉。手で拭うと接着剤のように指にくっついて離れない。

「ポッター!ブラック!何をするのよ!」

リリーが叫んで杖を上げていた。

「やーい、スニベルス。泣きみそが泣きべそかいたぞ!」

「べったり髪を洗えよ!洗ってもベッタリは直らないけどな。」

誰もいなかった小路の向こうを、グリフィンドールのバカ達が僕を指差して笑いながら逃げていった。ポッターとブラック。入学前のホグワーツ特急から、僕に絡んで嫌がらせをする最低なヤツら。さっきまで気配もなかったのに、、、悔しさに唇を噛んだ。

ヤツらは実にすばしこい。いつも突然現れて奇襲をかけてくる。気をつけているときも急に押し倒されたり、落とし穴に落ちたり、今日みたいに物を投げつけられたりする。

「汚れよ、消えよ!」

リリーが清浄の呪文をかけてくれていた。まとわり着いていたネバつきがとれて、少しすっきりした。

「最低のヤツらね。セブ、大丈夫?夕食の前にシャワーを浴びたほうがいいわ。呪文では表面の汚れが消えるだけだから。」

「うん。そうするよ。」

「それじゃ、明日の朝にね。あたしも一緒にミントを摘みに行くから。」

手を振りながらグリフィンドール塔に向かうリリーを見送って、スリザリン寮に帰った。リリーに言われたとおりシャワーを浴びようと思ったけれど、シャワールームの扉の中から声がする。誰か使っているんだ、、僕はため息をついて自室に戻った。

こんな、あざだらけの体を人に見られたくない。リリーには腕を見られただけだけど、腕だけじゃない。背中もお腹も、脚だって、殴られたり蹴られたりしてできた内出血や傷痕だらけなのだ。こんな体を見られたら、僕が親から虐待を受けるダメな子供だと軽蔑される。そして万一、人に知れたと父さんが知れば、もっと酷く殴られて、最悪、ホグワーツを止めされられるかもしれない。なんとしても隠さなければ。

ローブのボタンをきっちりととめ直して、夕食を済ませた。周りではスリザリンの仲間たちが夏休みの出来事を楽しそうに話していたけれど、僕はききたくもなければ、話すこともなかった。

就寝前は皆シャワーを使うから、シャワーは夜明け前に使うことにした。泥の汚れが残るまま早々にベッドに潜り込むと林での出来事が思い浮かぶ。やさしいリリーを思い、、、それから憎らしいポッターとブラックを思い出して腹がたった。2人ともいつもきれいな服を着て、裕福な家で甘やかされて育ったにきまっている。あんなヤツらとリリーが、今この時も同じグリフィンドール塔にいるなんて。

僕はグリフィンドール塔に囚われたリリー姫を助け出す空想をした。グリフィンドールにたぶらかされた組分け帽子のせいで、リリー姫は間違って野蛮な場所に幽閉されてしまったのだ。豪華な鎧を身に付けた乱暴者のポッターとブラックをなぎ倒し、僕はリリーの手をとって救い出す。リリーはにっこりと笑いかけて僕の手を握ってくれる。

ほんとうの父さんと母さんが僕を迎えに来てくれるのと同じくらい、お気に入りの空想だ。実際には、ポッターたちの嫌がらせから、リリーが僕を助けてくれることが多いけど。今日みたいに。

それから、うずく傷の痛みに耐えながら、もう一つの空想に浸った。ある日マグルの場末のあの家に、お金持ちの夫婦が訪ねてくる。もちろん2人とも立派な魔法使いで、僕のほんとうの父さんと母さんだ。僕は小さな頃にマグルのならず者にさらわれて、2人はずっと探し続けていたのだと言う。寂しかったでしょう、苦労をしたのでしょうと母さんがしっかり抱きしめてくれる・・・

いつから描いていたか忘れてしまうくらい幼い頃からの空想だけど、リリーを知ってから、母さんはリリーを大人にした顔を持つようになった。包み込むような、アーモンド形の緑の瞳がやさしく僕を見つめる。父さんの姿はぼんやりとしているけれど、、、と思っていたのに、いつの間にか薄いブルーの瞳にプラチナブロンドの長い髪が揺れていた。身にまとうローブまでも手触りのよさそうな見覚えのある物になり。

マルフォイ先輩!さすがに子供じみた空想が恥ずかしくなって、僕は毛布に顔を埋めて現実に戻った。明日は早く起きて、シャワーを浴びてミントを摘みに行くんだ。もう寝るよ、と心の中のリリーに声をかけて、僕は眠りに落ちた。

夜明け前にベッドを出てシャワーを浴びると、冷たい水が肌を流れ落ちた。朝はお湯が出ないのだ。少し沁みるとこもあったけど、クリスマス休暇明けの凍りつくシャワーに比べたら、夏の水シャワーはむしろ心地よい。

身支度を整えて急いで城の外に出ると、東の空がわずかに赤らんでいた。走って林に入ると、小路の先にリリーの後ろ姿が見えた。

「リリー!リリー!」

声をあげるとリリーが立ち止まって振り返った。手を振るリリーの向こうに、日の輝きが上る。清らかなホグワーツの朝。夜露を吸ったミントが霊気の力を蓄えているはずだ。僕たちは手をつないで岩陰に向かって走り出した。

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