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セブルスとルシウスの物語(31)

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の、妄想です)


イースター休暇に左腕に闇の印を受けて、心は逸ったけれど、その後任務の命令もなかったから、ホグワーツに戻るとそれまでと変わらぬ日を送った。つまり、授業に出て仲間と話し、それ以外は卒業までの短い間にできるだけ図書館の本を読みあさる。リリーの姿をわびしく眺めたり、ポッターと顔をあわせば戦うのも相変わらずだった。

ただ、肌に刻まれたルシウスと同じ印が絆の証しに思われて、ときどき服の上からそっと触れては喜びを噛みしめる。儀式を受けたことは当面明かさぬようにと言われたから、仲間たちに話すこともできず、もどかしい思いを堪えていた。

変わったことといえば、一緒に儀式を受けたレギュラス・ブラックも喜びを抑えられないらしく、何かにつけて僕に近づいてくるようになった。しかも2人きりになりたがって、僕を放課後の空き教室とか林のほうに引っ張っていく。儀式や闇の印の話をしたくてしょうがないのだ。

初めのうちこそ、あのブラックの弟で、純血名家の坊ちゃん育ちで、クィディッチのシーカーをつとめるほどに運動神経がよくて、人づきあいも無難にこなしていそうなレギュラスと、儀式を共にした以外何の接点があるものかと迷惑に感じたけれど、話しているうちに共通点に気がついた。

僕もレギュラスも、マニアックと形容される部類の人間なのだ。僕が闇の魔術に傾けるのと同様の情熱を、レギュラスはダークロードに注いでいた。この種の情熱は往々にして人に違和感を与え、周囲とちょっとした距離ができてしまう。自分のことはわからなかったけど、レギュラスと話していると、つい周囲が引くその感覚がわかるような気がした。社交性がなくてそれが孤独に拍車をかけた僕の場合と違い、レギュラスは血筋や性格のよさで周囲から浮いているようには見えなかったけど。

僕がダークロードの闇の魔術の力に惹かれていたのに対し、レギュラスはダークロードその人と、ダークロードが説く純血主義やマグル統治の思想に心酔していた。何年もかけて集めたダークロードに関する新聞の切り抜きを得意げに見せて褒め称える。僕はそういうことをあまり知らなかったから、この先デスイーターとして活躍するには必要な知識だとありがたがって聞き、それがレギュラスを喜ばせたようだった。

一方レギュラスは、闇の魔術があまり得意でないと気にしていた。といっても、血統のよい家の子に相応しい優れた魔力は持っている。それに、ブラックという家はそういう家系らしく、闇の魔術に関わる古い品物や蔵書に囲まれて育ち、知識も豊富だ。情報源の限られた僕以上かもしれない。ただそれにもかかわらず、闇の術を掛ける力となると、たしかに何かが足りなかった。充分な魔力も知識もあるはずなのに、実際に術を掛けると弱かったり精度に欠けたりする。だからレギュラスは僕の闇の魔術の強さに憧れるし羨ましいと言うのだった。そう言われて悪い気はしないから、僕も相談に乗ったりコツをおしえてあげたりする。

そんなふうにして、僕とレギュラスの間には、互いに不足を補いあいながら、それぞれ好きな話に没頭できるという、意外に息のあった仲間意識が育っていった。どちらかというとレギュラスが僕に頼る感じが強くて、それは学年の違いによるものだと思っていたのだけれど、家の話をきくうちに、それだけではないこともわかってきた。

レギュラスは同世代だけでも兄と従姉3人がいて、それに両親叔父叔母、祖父母まで加わる大家族の末っ子として育ったらしい。それも裕福な名門貴族の家となれば、親にすら見捨てられて1人で生き延びたような僕にはまったく別世界だけど、可愛がられて手を掛けられたのだろうということくらいは想像がつく。内気なのに人懐こくて、甘ったれたところすらも嫌味にならないのは、賑やかな家で育ったせいではないか。僕でさえ手助けしてやりたいという気になるような雰囲気は実に羨ましいことだ。

だけど闇の魔術に関しては、そんな育ちが裏目に出ているとも思う。みんなから可愛がられていたせいか、レギュラスは根本的なところで他者に優しいところがある。自分は関わりがないと割り切れないから冷酷になれないし、激しい憎悪や恨みを感じるほどの嫌な目にあったことがないんだと思う。闇の魔術は憎しみや怒りとか、恐怖を撥ね退ける時に絞り出すような、強いネガティブなエネルギーに集中することで術が強まる面があるのだけど、そう言ってもレギュラスにはピンとこないようだ。

それに、純血主義思想をあがめてマグルを汚らわしいと口にはしても、僕が父さんやマグルの学校の生徒たちに感じたような実体験に基づくマグルへの嫌悪なんて感じたことがないんじゃないか。マグルといっても、ホグワーツのマグル出自の生徒くらいしか知らないのだから。さらに、純血主義が汚らわしいと軽蔑する魔法使い以外の魔法生物にしたって、自分の家の屋敷妖精と仲良しで可愛がっているくらいだ。要するに純血主義だといっても、レギュラスの場合は言葉の観念に留まっていて、術を強める力に転換するには至らなかった。

何度か練習しても思うように上達せず、レギュラスはため息をついて泣きごとを言った。

「先輩、ボクこんな魔力じゃ、せっかくデスイーターにしてもらえたのに、ダークロードに軽蔑されちゃうよ。」

「そんなに心配するな。魔力自体は強いんだ。みんなより年下なんだから、これから練習すれば闇の魔術も上達するさ。ブラック家の跡継ぎっていうだけでもすごいんだし。純血中の純血じゃないか。」

励ますように言ったのだけど。

「それも荷が重いんだ。まだ若いのにダークロードに認められた、さすが当家の跡継ぎだって母様たちも喜んでくれたのに。これじゃがっかりさせちゃうよ。」

そうやって弱気になったり、家族を喜ばせたいなどと思っている限り上達は望めないと思ったが、名門貴族の跡継ぎの気持ちなどわかるはずもなく、アドバイスも浮かばない。僕が黙っているとレギュラスの嘆きは続いた。

「もともと兄さんが跡継ぎだったんだ。兄さんならなんでも上手くできたのに、自分だけ勝手に家を出るからボクにプレッシャーがかかる。母様たちだって、ほんとはボクより兄さんのほうが優れていると思ってるんだ。兄さんが跡継ぎならよかったって思ってるにきまってる。学校でだって兄さんはみんなに好かれてるもの。」

そんなことはない。魔力だけは強いが、野蛮で卑怯で馬鹿者の兄に比べたら、レギュラスのほうが100倍ましだ。それだけは断言できる。

「レギュラス、君はあんな兄とは比べものにならない。僕は君のほうがずっと好きだ。一緒に儀式を受けた仲なのだから僕も応援する。くじけずに頑張れ。」

泣きべそをかきそうだったレギュラスの顔がぱっと明るくなった。

「ほんと?先輩、ボク頑張るよ。くじけないで練習して、恥ずかしくないデスイーターになる。」

内心先を危ぶみながら、成り行き上、レギュラスの闇の魔術の練習につきあった。クィディッチの試合でシーカーとして戦える負けん気の強さや、兄へのコンプレックスを術の集中力に使うよう励ましたら、少しずつレギュラスの腕も上達した。

そんなふうに過ごすうちに、あっという間に卒業の日が来た。

ルシウスが贈ってくれた新しいローブを着て、ホグワーツ最後の晩餐会に臨む。ごちそうにはしゃぐ下級生や、それを見守る先生たち。そして周りで話しかける寮の仲間たち。グリフィンドールの席にはにこやかに笑うリリーも見える。

そのすべてが懐かしく思われる。大好きなホグワーツ。初めて見つけた僕の家。それも今日が最後だ。

翌朝、スリザリン寮の部屋で荷物をまとめた。ルシウスに贈られて物も増え、けっこうな荷物になった。休みの度に食べ物を隠して持ち帰っていた粗末なバッグを、少し考えて、捨てた。スピナーズエンドに戻ることなど、もう二度とないのだから。

キングスクロスに向かうホグワーツ特急のコンパートメントには、仲間たちと座った。マルシベール、エイブリ―、ロジエール、ウィルクス、それにレギュラスもあたりまえみたいに僕の隣に来ていた。

7年前、ホグワーツに向かう列車に、僕はリリーと一緒に座っていた。寂しかった両親との暮らしと縁を切り、リリーと2人、手を携えて夢と希望に向かうのだと信じていた。そのコンパートメントでポッターに絡まれて・・・。彼らのしつこい嫌がらせの末に、リリーは僕から去ってゆき、今はポッターの隣に座っているのだろうか?あれ以来結局リリーとは話せずじまいで、リリーが僕を見てくれることもなかった。それを思うと寂しさと悔しさでたまらない気持ちになる。

だけど僕はルシウスに会い、仲間もできて、進む道も決まった。マグルの世界で貧しく孤独に育ち、リリーだけを世の繋がりと頼っていた僕が、マルフォイ家やブラック家という純血名門の魔法使いと、ともに歩んでゆく。

入学時に夢見ていたようにはならなかったけど、喜びも悲しみも、ホグワーツにあった。心が温まるような思い出も、辛くて悔しい出来事さえも、僕の人生がそこで確実に刻まれた証だと思える。スピナーズエンドに居た頃の、見えない壁に隔たれて、闇に紛れた透明人間のようだった僕じゃなくて、笑い、怒り、戦った、しっかりとした僕の日々がそこにはあった。

今僕は卒業したけれど、ホグワーツは僕に人生を与えてくれた場所。かけがいのない僕の家だ。

セブルス、何ぼんやりしてんだよ?」

感傷に浸ってついぼんやりしていたらしい。仲間たちが僕を見て笑っていた。

「ちょっと、懐かしくて。」

笑って答えて前を向く。7年前ホグワーツに向かった時と同じように、僕の前には夢や希望が広がっている。ルシウスと一緒に、僕は新しい世界を築いていくんだ。リリーのことは、また先に考えればいい。取り戻す方法がきっとあるに違いない。

僕の思いを乗せて、ホグワーツ特急は走る。ルシウスの元へ。

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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

tag : ハリーポッター セブルス レギュラス

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