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(過去2)リーマスの物語8

(これは『ハリーポッター』シリーズの本と映画鑑賞後の妄想です


その後急速に冬がやってきたせいで、落とし穴の嫌がらせ計画が再度試みられることはなかった。僕は熱を出して寝込んでしまったし、他の3人も待ち伏せや見張りは寒すぎてもうやる気にならなかったらしい。それで。

「今度はもっと手っ取り早くいこうぜ。」

シリウスらしい短絡的な意見に、ジェームスもピーターも喜んで賛成した。

もうやめようよ、こんなこと。エバンスに責められた通り、これは卑怯な嫌がらせだよと、のど元まで上がる言葉を口に出せないでいるうちに、それは不意打ちのようにやってきた。

「リーマス、ピーター、出番だぜ!こっちこっち。」

「なんだよ、シリウス?」

無防備についていくと、ひと気のないニ階の廊下にジェームスが立っていて、ウィンクしながら男子トイレを指差した。

「誰か来たら言ってくれ。今度はしっかり思い知らせてやるぜ。じゃ、見張りヨロシク!」

そう言うのももどかしげにシリウスがジェームスに合流し、ジェームスが透明マントを広げると2人の姿は見えなくなった。そして男子トイレの扉が、音もなく開いて閉じた。

スネイプをつかまえたんだよね?」

「そうだろうね。」

ピーターに受け応えしながら耳を澄ます。漏れ聞こえる争いの音、バタンと扉が叩きつけられて、トイレの水音、ジェームスたちの嘲り笑い。中で何が起こっているか、想像するまでもない。

「スニベリーが泣きべそかいてるぞ!」

シリウスの声が聴こえてくると、我慢できないようにピーターが言った。

「僕も行ってもいい?」

「ああ、いいよ。僕がここで見張ってるから。」

ピーターが男子トイレに駆けこんでいった。僕は一人外に立ち、中の物音に耳を傾けながら、だけど頭の中にはこの間のスネイプの言葉が響いていた。

「両方に味方することはできないぞ、ルーピン。」

あの日スネイプは、僕が彼を気遣わずにいられない気持ちを受けとめて一緒に身を潜めてくれたあと、最後に、どちらの味方につくのかと言い置いた。今僕のしていることが、まさにその言葉への返事になる・・・。

「泣きべそかいてエバンスに言いつければいい。」

ジェームスの声がきこえ、ひと気のない廊下に思わずエバンスの姿を求めてしまう自分に愛想が尽きる思いがした。エバンスにスネイプを助けてもらいたいと、この期に及んで。僕は何をしているんだ?

「ケツも洗ってほしいってか?パンツ下げてさ。やるか、ジェームス?」

ひときわ耳に障るシリウスの言葉に、僕はようやく声をしぼり出した。

「ジェームス、シリウス、誰か来るみたいだ。もう充分だろ?引き上げよう。」

ジェームスの舌打ちとシリウスの嘲り声がして、3人が出てきた。

「あそこの角から誰かこっちを見てたんだ。早く帰ったほうがいいよ。」

中を見ることもできないまま、僕はみんなを促してその場を離れた。廊下に人の気配なんかなかったけど、『いたずら』の成功に満足してはしゃぐ3人は気づいた様子もない。

寮に戻って少し話してから、さりげなくタオルを隠し持って男子トイレに戻ってみた。まさかもうスネイプはいないと思ったけど、それでも僕は今日起こってしまったことを見届けなければいけないと思う。

辺りをうかがいながらそっと男子トイレの扉を開けると、閉じた個室の前に落ちている杖が目に入り、泣きそうになった。スネイプが痛ましくて、自分が情けなくて、心の中でさえ、言葉もない。

杖を拾い、魔法で閉じられていた個室の扉を開けると、髪からも服からも粘ついた水を滴らせ、蒼ざめた顔のスネイプが立っていた。抜け殻のように見える姿の、黒い瞳だけが鋭く僕を睨みつけて。

「臆病者!」

突き飛ばされて壁にぶつかり、向きなおることもできないまま、立ち去るスネイプの気配を追っていた。まとわりつくネバつきと、貶められた屈辱を拭いながら、スネイプは振り返ることなく去っていった。為す術もなく、茫然と、どのぐらいそうしていたんだろう。もたれた壁の冷たさを背中に感じ、大きく息をはいて、それまで息をつめていたんだと気づく。

スネイプに見捨てられてしまった・・・

突然そう思い、一度そう思ってしまうと、その思いは何度も繰り返し心を苛んだ。臆病で卑怯な僕は、スネイプに見限られた。軽蔑されて、見捨てられてしまった。

だけど、やがて、思い至る。

そうじゃない。見捨てたのは、僕だった。僕はスネイプからどちらかを選ぶしかないのだと言われ、ジェームスたちを選んでスネイプを見捨てた。今日僕がしたのは、そういうことだったんだ。


それ以降、ジェームスたちのスネイプへの嫌がらせは加速した。思惑通り、嫌がらせの事実がエバンスに伝わらないようだとわかり、ますます調子づいてしまったらしい。同じような嫌がらせを繰り返した。

やがてスネイプも防衛のためか、数人のスリザリン寮生と一緒にいることが多くなった。ジェームスたちは、スネイプは将来デスイーターになるヤツらとつるんでいる、彼らは皆、邪悪なのだと罵っている。

デスイーター。純血主義を掲げ、闇の魔術を駆使する闇勢力の幹部たち。この闇勢力の台頭という社会情勢が、ホグワーツにも影を及ぼすようになっていた。闇勢力といっても、その実像が明らかなわけではないらしい。ただ、人が突然消えてしまったり、無残な遺体で発見され、その陰に彼らがいるのではないかとささやかれている。漠然とした不安は人々の怯えと敵意を高めて、ホグワーツ内部でも純血主義志向の強いスリザリン寮と、反するグリフィンドール寮との対立が深まっていた。

ジェームスたちはそれでスリザリン寮に対していっそう激しいいたずらを仕掛けるようになったし、スネイプに対する嫌がらせは闇勢力との戦いの前哨戦だと言うようにもなった。だけどスネイプと一緒にいるスリザリン生たちに対して、スネイプにしてきたような嫌がらせをするわけじゃないから、スネイプ憎しの結論を前提に、時代の雰囲気にのっているだけのようにも思える。

もっとも、シリウスに関して言えば、闇勢力が掲げる純血主義に賛同する家族へのいら立ちを、スネイプにぶつけている面はあったのかもしれないけど。

僕自身はと言うと、正直、よくわからなかった。闇勢力が台頭すればたいへんなことになると聞かされたけど、その前からずっと人狼の立場なんてたいへんだったわけで、支配力を持つ者が誰であろうと事態がかわるとは思えなかったから。今現在の社会に虐げられていると感じている者たちが、未知の新しい勢力に期待をかける気持ちがわかる気もした。

僕が闇勢力と闘うとしたら、それはジェームスやシリウスたちと共にありたいからであり、恩のあるダンブルドア先生が闇勢力の台頭はよくないものだと言っているからだ。

こんなふうに、不穏な雰囲気を感じながら葛藤を抱えて時間だけが過ぎ、夏休みに入った。僕の家は今、マグルの世界にある。父さんと母さんは、僕がホグワーツに入った年に生まれた幼い妹を育てるにあたり、危険な社会情勢やいつ人狼の家族と糾弾されるかわからない懸念を逃れて、当面マグルの都会の片隅で暮らすことにした。もともと2人とも混血族だから抵抗もなかったようだ。

僕はマグル世界の生活が初めてだから、いろいろと珍しくて面白い。まず人が多いし、物が多いし、便利な道具や電気製品がいっぱいあった。家の中では母さんが適当に魔法と電気製品を使いこなしていて、僕もいくつか使ってみたけど、電子レンジとかいう調理器具なんて、中に食材を入れてボタンを押せば料理ができるという、まさに魔法の杖みたいな道具だ。

可愛い盛りの妹を囲んで、明るくなった家族と魔法界を離れて過ごしていると、ホグワーツでのあれこれが少し遠い出来事に思われてきた。マグル界では人狼なんてまったく架空の物語と思われているそうで、なんだか僕もこの大勢の人ごみに紛れて暮らせるような気がした。

だけどそれも満月が近付くまでのことだった。僕を気遣いながら何事か相談する父さんと母さんを見て、やっぱり僕はここにいてはいけないと思う。それは寂しくもあったけど、僕が勇気を出して家を離れたことで家族に幸せをもたらせたんだと少しだけ誇らしくも思えた。家族のために、しっかりしなくちゃいけない。

人の多いマグル界に変身時の居場所は見つけられそうもなかったから、ホグワーツの叫びの屋敷を使えるように頼んでみようか、それとも魔法界の深い森に行こうかと考えていると、ジェームスからふくろう便が届いた。ゴドリックの谷にあるポッター家に招いてくれるという。僕のちょっとした毛むくじゃらな問題については、近くに森があるから心配いらないと書き添えてくれてあった。

僕はジェームスの気遣いが嬉しくて、喜んで招きに応じることにした。母さんたちに、友達の家に行くから満月の日の心配はしなくていいんだと言えて、少し大人になれた気分だ。この機会にジェームスにスネイプへの嫌がらせをやめようと言ってみようとも思った。スネイプの姿のないホグワーツを離れた場所なら、ジェームスも少し冷静に考えてくれるかもしれない。

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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

tag : ハリーポッター スネイプ ジェームス

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